1発2000円でドローンを撃墜!「ドラゴンファイア」「アイアン・ビーム」「ヘリオス」世界のレーザー兵器を徹底比較【2025年最新】

「1回の照射コストは約10ポンド(約2000円)」

この数字を見て、僕は思わず目を疑った。ミサイル1発で数万〜数百万円が当たり前の現代戦において、たった2000円で敵のドローンを焼き落とせるというのだ。しかも弾切れがない。電力さえあれば、理論上は無限に撃ち続けられる。

2025年、世界の軍事バランスを根底から覆しかねない「低コスト革命」が、静かに、しかし確実に進行している。

イギリスの「ドラゴンファイア」、イスラエルの「アイアン・ビーム」、アメリカの「ヘリオス」——この3つのレーザー兵器が、現代戦の「コスト問題」に終止符を打とうとしている。

今回は、SF映画の世界がついに現実となった「低コスト時代のレーザー兵器」について、各国のシステムを徹底比較しながら解説していく。


目次

なぜ今、レーザー兵器が必要なのか?——「コストの逆転現象」という悪夢

本題に入る前に、なぜ世界中の軍隊がレーザー兵器の開発に血眼になっているのか、その背景を押さえておこう。

答えは単純だ。「安いドローンを、高いミサイルで撃ち落とすのはバカバカしい」からだ。

ドローン時代の「不都合な真実」

ウクライナ戦争やイスラエルとハマス・ヒズボラの戦闘で、私たちは嫌というほど思い知らされた。数万円で買える民生用ドローンが、数億円の戦車を破壊する。数百万円の自爆ドローンが、軍艦に突っ込んでくる。

そして、それを迎撃するために何が使われているか?

アメリカ海軍の対空ミサイル「SM-2」は1発約210万ドル(約3億円)。携帯型対空ミサイル「スティンガー」でさえ1発48万ドル(約7000万円)だ。

イスラエルの「アイアンドーム」は1発約5万ドル(約750万円)で、しかも1つの目標に対して2発同時発射するのが標準だ。

つまり、1500万円のミサイルを2発撃って、10万円のドローンを落としている計算になる。

この「コストの逆転現象」は、長期戦になればなるほど防御側の首を絞めていく。どれだけミサイルの在庫があっても、いつか弾切れになる。そして、ドローンを飛ばす側は「撃ち尽くさせる」ことを狙ってくる。

レーザー兵器が解決する3つの問題

レーザー兵器は、この悪夢のような状況を一変させる可能性を秘めている。

  1. 圧倒的な低コスト:1発数ドル〜十数ドル(数百円〜2000円程度)
  2. 弾切れがない:電力がある限り、無限に照射可能
  3. 光速攻撃:タイムラグなしで目標に到達

特に「弾切れがない」という点は、戦術的に極めて重大だ。アイアンドームのランチャーは20発の迎撃弾を搭載しているが、それを撃ち尽くせば再装填に数十分かかる。その間、空白の時間が生じる。

レーザーなら、その心配がない。送電網に繋がっていれば、文字通り「無限の弾倉」を手に入れたようなものだ。

では、実際に各国が開発しているレーザー兵器を見ていこう。


【イギリス】ドラゴンファイア——欧州初の本格艦載レーザー

2025年11月20日、イギリス国防省は衝撃的な発表を行った。艦艇搭載用レーザー兵器「ドラゴンファイア」を2027年から海軍に納入する、総額3億1600万ポンド(約648億円)の契約を締結したのだ。

当初は2032年の配備予定だったが、なんと5年も前倒しされた。それほど緊急性が高いということだろう。

ドラゴンファイアの基本スペック

ドラゴンファイアは、MBDAを主体に、レオナルド、キネティックなどの欧州軍需企業が共同開発した「レーザー指向性エネルギー兵器(LDEW)」だ。

最大の特徴は、その圧倒的な精度とコストパフォーマンス。

「1km離れた場所から1ポンド硬貨に命中させる」というのがイギリス国防省の公式発表だ。1ポンド硬貨の直径は約22mm。つまり、1km先の500円玉サイズの的を確実に射抜けるということになる。

そして、1回の照射コストは約10ポンド(約2000円)。

従来のミサイルシステムが1発あたり数十万ポンドを要することを考えれば、コストは数万分の1に圧縮される計算だ。

時速650kmのドローン撃墜に成功

2024年1月、スコットランドのヘブリディーズ諸島射撃場で行われた試験では、時速650kmで飛行する高速ドローンの撃墜に成功した。

時速650kmといえば、F1カーの最高速度の約2倍。一般的な軍用ドローンの速度を大きく上回る。イギリス国防省は「この速度の目標を追跡し、捕捉し、撃墜した英国初の試みだ」と胸を張った。

さらに注目すべきは、航空機の金属装甲を溶解させることにも成功したという報告だ。これは、単なる小型ドローンだけでなく、より大型の脅威にも対処できる可能性を示唆している。

搭載予定艦と今後の展望

最初の搭載艦として予定されているのは、イギリス海軍の45型駆逐艦(デアリング級)だ。

45型駆逐艦は、イギリス海軍の主力防空艦で、強力なサンプソン・レーダーとアスター対空ミサイルを装備している。ここにドラゴンファイアが加われば、ミサイルとレーザーの「二段構え」で敵の航空脅威を迎撃できるようになる。

高価値目標にはミサイル、低価値のドローンにはレーザー——この使い分けが、今後の艦艇防空の標準になっていくかもしれない。


【イスラエル】アイアン・ビーム——世界初の実戦使用を達成

「世界で初めてレーザー迎撃システムが運用段階に到達した」

2025年9月17日、イスラエル国防省のアミル・バラム事務次官はこう宣言した。

そしてその4ヶ月前、2025年5月28日——アイアン・ビームは歴史を作った。

レバノンのヒズボラが発射した複数の無人航空機を、レーザーで迎撃することに成功したのだ。これは、高出力レーザー兵器が実戦において効果的に使用された世界初の事例とされている。

「戦争のルールを変える」システム

アイアン・ビームは、イスラエルの軍需大手ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズとエルビット・システムズが開発した地上配備型の高出力レーザー防空システムだ。

出力は約100キロワット級。射程は最大7kmで、ドローン、ロケット弾、迫撃砲弾、さらには一部のミサイルまで迎撃可能だ。

照射時間はわずか約4秒。目標に高エネルギーのレーザービームを当て続け、熱で外殻を焼き切るか、内部の電子機器を破壊して無力化する。

そして、1発あたりの迎撃コストは約3.5〜5ドル(約500〜750円)。

イスラエルのベネット元首相は2022年の時点で「1回あたりわずか2ドル」と発言していたこともある。いずれにせよ、アイアンドームの迎撃弾(1発約5万ドル)と比較すれば、コストは1万分の1以下だ。

なぜイスラエルが「最初」になれたのか

イスラエルがレーザー兵器の実用化で世界をリードできた理由は、皮肉にも「切実な必要性」にある。

2023年10月のハマスによる奇襲攻撃以降、イスラエルは多方面から絶え間ない飛翔体攻撃を受けている。ハマス、ヒズボラ、フーシ派、そしてイラン本国からも。

アイアンドームは確かに優秀なシステムだが、数万発の飛翔体を相手にしていれば、いつかは弾薬が枯渇する。実際、一時的に防空処理能力を超える状況も発生した。

この危機感が、アイアン・ビームの開発を加速させた。

もう一つ、見逃せないのがイスラエルの気候だ。レーザー兵器は雨や霧、煙といった悪天候に弱いという欠点があるが、乾燥した中東の気候は、レーザー兵器にとって理想的な運用環境なのだ。

アイアンドームとの連携——多層防空の完成

アイアン・ビームは、既存のアイアンドームを「置き換える」ものではない。「補完する」ものだ。

イスラエルの多層防空システムは以下のように構成されている。

  • アロー2/アロー3:弾道ミサイル対処(長距離)
  • ダビッド・スリング:中距離ミサイル対処
  • アイアンドーム:短距離ロケット・ドローン対処
  • アイアン・ビーム:近距離・低コスト脅威対処(新規)

アイアン・ビームは、アイアンドームでは「近すぎて迎撃できない」ような至近距離の脅威や、「コスト的にもったいない」ような安価なドローンを担当する。

これで、イスラエルの防空網は「5層」になった。まさに鉄壁だ。


【アメリカ】ヘリオス——イージス艦に搭載された「太陽神の槍」

「プレブルは米海軍の駆逐艦の中で唯一、高出力レーザー兵器を搭載している」

2024年10月、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「プレブル」(DDG-88)が、カリフォルニア州サンディエゴから日本の横須賀に配置転換された。

そう、レーザー兵器を搭載した米海軍艦が、今まさに日本にいるのだ。

ヘリオスとは何か

「ヘリオス(HELIOS)」は「High Energy Laser with Integrated Optical-dazzler and Surveillance」の頭文字を取った名称だ。日本語にすれば「光学眩惑・監視機能統合型高エネルギーレーザー」といったところか。

開発元はロッキード・マーチン。2018年に米海軍と最初の契約を締結し、約1億5000万ドル(約230億円)をかけて開発された。

出力は60キロワット級で、最大120キロワットまで増強可能。射程は最大8km。ドローン、小型高速艇、そして一部報道によれば対艦ミサイルや巡航ミサイルの迎撃も可能だという。

3つの機能を1台に統合

ヘリオスの特徴は、3つの機能を1つのシステムに統合している点だ。

  1. 攻撃機能:高出力レーザーで目標を「焼き尽くす」
  2. ダズラー機能:低出力レーザーで敵センサーを「眩惑」
  3. ISR機能:長距離の情報収集・警戒監視・偵察

特に2番目の「ダズラー(目眩まし)」機能は興味深い。敵のドローンを破壊せずに、搭載カメラやセンサーを無力化できるのだ。これにより、民間ドローンを誤射するリスクを減らしつつ、偵察活動を阻止できる。

イージスシステムとの連携

ヘリオスは、アーレイ・バーク級駆逐艦のイージス戦闘システムと連動している。

これは非常に重要なポイントだ。イージスシステムは世界最高水準の統合防空システムであり、艦隊防空の中核を担っている。そこにレーザー兵器が組み込まれるということは、従来のミサイル防衛とシームレスに連携した運用が可能になるということだ。

2024年度(9月30日まで)に32回の発射試験が実施され、ドローン撃墜に成功したことが米国防総省の報告書で明らかになっている。

「CIWS」の後継として

プレブルでは、ヘリオスは従来の近接防空システム(CIWS)——あの有名なファランクス20mm機関砲——を代替する形で搭載されている。

ファランクスは20〜30秒間の連続射撃で弾切れになるし、RAM(回転弾体ミサイル)も21発という制限がある。

それに対し、ヘリオスは「事実上無制限の発射能力」を持つ。艦の発電システムが生きている限り、撃ち続けられるのだ。

ロッキード・マーチンは「少なくとも1基以上のヘリオスをアーレイ・バーク級駆逐艦に提供する契約を結んでおり、システムの出力を150キロワットまで高める計画」だと発表している。

今後、より多くの米海軍艦にレーザー兵器が搭載されていくことは間違いない。


【徹底比較】3大レーザー兵器システムの違い

ここで、3つのシステムを横並びで比較してみよう。

項目ドラゴンファイア(英)アイアン・ビーム(以)ヘリオス(米)
開発元MBDA・レオナルド・キネティックラファエル・エルビットロッキード・マーチン
出力非公開(50kW級と推定)約100kW60〜120kW
射程非公開(数km以上)最大7km最大8km
1発コスト約10ポンド(約2000円)約3.5〜5ドル(約500〜750円)非公開(数ドル程度と推定)
搭載先45型駆逐艦地上車両(将来的に艦艇も)アーレイ・バーク級駆逐艦
配備時期2027年予定2025年末運用開始2024年(プレブルに搭載済み)
実戦使用なし2025年5月に世界初達成試験のみ

コスト比較

最も注目すべきはコストだ。

  • アイアン・ビーム:約500〜750円/発
  • ドラゴンファイア:約2000円/発
  • ヘリオス:推定数百円〜数千円/発

いずれも、従来のミサイルと比較すれば「タダ同然」と言っていい。アイアンドームの迎撃弾(1発約750万円)と比較すれば、1万分の1以下のコストだ。

運用コンセプトの違い

3システムは、それぞれ異なる運用コンセプトを持っている。

ドラゴンファイアは「艦隊防空の低コスト層」として、45型駆逐艦の既存防空システムを補完する。高価値目標にはアスターミサイル、低価値のドローンにはレーザーという使い分けだ。

アイアン・ビームは「多層防空の最終層」として、アイアンドームでは対処しきれない脅威をカバーする。地上配備型なので、重要施設や都市の防空に特化している。

ヘリオスは「イージス艦の万能防御ツール」として、攻撃・眩惑・監視の3機能を統合。艦隊防空から情報収集まで、幅広い任務をこなす。

レーザー兵器の「弱点」——万能ではない現実

ここまでレーザー兵器の利点を強調してきたが、もちろん弱点もある。公平を期すために、その限界についても触れておこう。

1. 天候に弱い

レーザーは光である以上、雨、霧、煙、砂塵などによって減衰する。曇天でも性能が落ちる場合がある。

イスラエルの乾燥した気候はレーザー兵器に最適だが、イギリスや北欧のような多雨地域、あるいは砂嵐の多い中東の砂漠地帯では、運用に制約が生じる可能性がある。

2. 直線上の目標しか狙えない

レーザーは当然ながら直進する。地平線の向こう側の目標は狙えないし、山や建物に隠れた敵にも届かない。

ミサイルなら放物線を描いて飛んでいくが、レーザーにはそれができない。

3. 照射時間が必要

レーザー兵器は「瞬殺」ではない。目標を破壊するには、数秒間レーザーを当て続ける必要がある。

移動する目標に対しては、その間ずっと正確に追尾し続けなければならない。高速で機動する目標や、多数の目標が同時に来た場合は対処が難しくなる。

4. 冷却と電力の問題

高出力レーザーは大量の熱を発生する。連続使用するためには大型の冷却システムが必要だ。

また、艦艇や車両に搭載する場合、十分な電力供給が課題となる。現代の軍艦は電力に余裕がないことが多く、レーザー兵器のために発電能力を増強する必要が出てくる。

5. 一度に一つの目標しか攻撃できない

ミサイルなら複数を同時発射して複数目標を攻撃できるが、レーザーは原則として1基につき1目標だ。

「飽和攻撃」——多数のドローンやミサイルで同時に攻め立てる戦術——に対しては、レーザー兵器だけでは対処しきれない可能性がある。


日本への示唆——自衛隊のレーザー兵器開発は?

さて、ここまで英・米・イスラエルのレーザー兵器を見てきたが、我が国・日本はどうなのか。

結論から言えば、日本も着々と準備を進めている。

防衛装備庁の高出力レーザー開発

防衛装備庁は、電気駆動型高出力レーザーシステムの研究を進めており、出力100キロワット級を達成している。

2025年5月には、車載型高出力レーザー実証システムの試験映像が公開された。陸上自衛隊の8輪駆動「重装輪車両」に搭載されたシステムで、飛行するドローンにレーザーを照射し、炎が上がって墜落する様子が映っている。回収されたドローンのボディやカメラは完全に溶解していたという。

将来的には、ミサイル対処用(高出力)、迫撃砲弾・小型無人機対処用(中出力)、小型無人機対処用(低出力)の3種類のレーザー装置の装備化が目指されている。

搭載プラットフォームとしては、陸上自衛隊の車両だけでなく、海上自衛隊の護衛艦も想定されている。

試験艦「あすか」での取り組み

海上自衛隊の試験艦「あすか」は、新型装備の試験を専門に行う艦艇だ。現在はレールガン(電磁砲)の洋上射撃試験で注目を集めているが、将来的には艦載型レーザー兵器の試験も行われる可能性がある。

なお、2025年5月の防衛装備品国際見本市「DSEI Japan 2025」では、三菱重工や川崎重工がドローン撃墜用の高出力レーザー装置のコンセプトを出展しており、日本の防衛産業もレーザー兵器市場への参入を狙っている。

日本の防衛産業に興味がある方は、以下の記事も参考にしてほしい。

→ 関連記事:日本の防衛産業・軍事企業一覧【2025年最新】主要メーカーと得意分野・代表装備を完全網羅

→ 関連記事:三菱重工の防衛産業:軍事部門の割合から防衛装備庁連携、輸出まで

→ 関連記事:川崎重工の防衛事業を徹底解説:潜水艦からヘリ、航空機まで

横須賀に「ヘリオス」がいるということ

前述の通り、レーザー兵器「ヘリオス」を搭載した米駆逐艦「プレブル」は、2024年10月から横須賀に配備されている。

これは単なる偶然ではない。インド太平洋地域の安全保障環境において、米海軍が最も能力の高い艦船を前方配置する必要があるからだ。

中国の極超音速兵器やドローン戦力の脅威を考えれば、日本周辺海域でレーザー兵器の実戦運用を想定した配置であることは間違いない。

中国の軍事力について詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてほしい。

→ 関連記事:中国人民解放軍の軍事力とは?陸海空の主要装備と戦力をわかりやすく解説【2025年版】

→ 関連記事:中国の極超音速兵器は本当に止められないのか?DF-17から部分軌道爆撃まで、その脅威と日本の対策を徹底解説


まとめ——「コストの逆転」を再逆転させる革命

レーザー兵器の登場は、現代戦における「コストの逆転現象」を再び逆転させる可能性を秘めている。

安いドローンで高いミサイルを消耗させる——この「貧者の戦略」は、レーザー兵器によって無効化されるかもしれない。

もちろん、レーザー兵器は万能ではない。天候の影響、照射時間の問題、飽和攻撃への脆弱性など、課題は山積している。

しかし、技術は日進月歩だ。出力は増大し、照射時間は短縮され、冷却システムは小型化されていく。10年後、20年後には、今とはまったく異なる「レーザー防空の時代」が到来しているかもしれない。

2027年のイギリス海軍、2025年末のイスラエル軍、そして今この瞬間の横須賀に停泊する米駆逐艦——レーザー兵器の時代は、もう始まっている。

私たち日本人にとっても、これは決して「対岸の火事」ではない。

周辺国の軍事バランスが変化すれば、日本の安全保障環境も変化する。自衛隊がどのようなレーザー兵器を、いつ、どこに配備するのか。

これからも注目していきたい。


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