2021年8月15日、カブール。タリバンが市内に入った日の夜、アメリカ空軍のC-17が滑走路に降り、後部扉を開けた。乗ってきたのは人だった。座席はない。床に座り、立ち、子どもを抱えた人々が貨物室を埋め、扉が閉まった。数えたら823人いた。設計上の定員は102人。機長は「積めるだけ積んで飛ぶ」と決めた。この機体が、私がC-17という飛行機を一番よく表していると思う一枚の写真だ。
C-17はアメリカ空軍の大型輸送機で、戦車1両を積んで大西洋を渡り、砂の上の短い滑走路に降りる。着陸したらエンジンを逆噴射してバックで走り、向きを変えて、また離陸する。1993年から飛んでいて、2015年に生産が終わり、それでも2026年2月、空軍は「2075年まで使う」と決めて操縦席を作り直す契約を結んだ。飛び始めてから82年使う計算になる。
日本には、この機体がない。空自のC-2はこの半分以下しか積めない。なぜ日本は「これ」を持たなかったのか、持てなかったのか。この記事では、世界で一番働いている輸送機が何者で、なぜ引退できないのかを、日本の話につなげて書く。
一言でいうと、「戦略と戦術を一機でやる」輸送機
輸送機には二種類ある。大陸を跨いで大量に運ぶ戦略輸送機と、前線の小さな滑走路に降りる戦術輸送機だ。冷戦期のアメリカは巨大なC-5と、小さなC-130でこれを分担していた。C-17はその真ん中を一機で埋めた。C-5並みの荷物を積んで、C-130並みの滑走路に降りる。この「両方できる」ことがC-17の全部だ。
マクドネル・ダグラスが設計し、1991年に初飛行、1993年に配備が始まった。1997年にボーイングがマクドネル・ダグラスを吸収し、以後はボーイングの機体として2015年まで作られた。合計275機。アメリカ空軍が222機、残りをイギリス、オーストラリア、カナダ、インド、カタール、UAE、クウェート、NATOが持つ。
| 項目 | C-17グローブマスターIII |
|---|---|
| 初飛行/配備 | 1991年9月/1993年6月 |
| 製造 | 275機(1993〜2015年、ロングビーチ) |
| 最大積載量 | 約77.5トン |
| 兵員 | 102名(担架36+座席54の患者輸送も可) |
| 最大離陸重量 | 約265トン |
| エンジン | プラット・アンド・ホイットニー F117×4 |
| 必要滑走路 | 着陸約1,000m(未舗装可) |
| 乗員 | 操縦士2名+ロードマスター1名 |
| 運用国 | 米・英・豪・加・印・カタール・UAE・クウェート・NATO |
なぜこの形なのか:C-141の後継が「全部入り」になった理由

写真出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
1970年代末、アメリカ空軍は古くなったC-141の後継を考え始めた。要求は最初から欲張りだった。戦車を運べ、前線に降りろ、空挺降下もやれ、負傷者も運べ、そして乗員は3人で済ませろ。マクドネル・ダグラスはこれを、当時民間機で実績のあったエンジンと、主翼下のエンジン排気をフラップに当てて揚力を増やす方式で解いた。
主翼後縁のフラップにエンジンの排気を当て、低速でも大きな揚力を得る。これで着陸速度を落とし、1,000メートルの滑走路に降りられる。降りたら4基のエンジンを逆噴射する。C-17は逆噴射で後ろに走れる数少ない大型機で、狭い滑走路の端でバックして向きを変える。誘導車も牽引車も要らない。前線の飛行場に地上支援がなくても、自分で動いて自分で帰る。この一点で、C-17は他のどの輸送機とも違う。
貨物室は幅5.5メートル、高さ4メートル。エイブラムス戦車が1両、ブラッドレー歩兵戦闘車なら3両、ヘリコプターはローターを畳んで積む。パレットは18枚。1機で1個中隊の装備を運ぶ。
開発は苦労した。1990年代前半は重量超過と翼の強度不足で計画が止まりかけ、議会が「40機で打ち切る」と決めた時期もある。マクドネル・ダグラスが会社ごと傾いた原因のひとつだ。それが1990年代後半、ボスニアとコソボで「前線に直接降りられる大型機」の価値が証明され、発注が増え続けて275機になった。
実績:カブール、東日本、そして小型原子炉

写真出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
C-17の履歴は、そのまま21世紀のアメリカがどこで何をしたかの記録だ。
2003年のイラク戦争では、北イラクに空挺部隊をまるごと降下させた。2011年の東日本大震災では、トモダチ作戦でC-17が三沢と横田に救援物資を運び込んだ。日本の空にC-17が何機も並んだのはこのときが最初だ。2021年8月のカブール撤退では、2週間で12万4千人を運び出し、冒頭の823人という記録を作った。あの機体は「リーチ871」というコールサインで、今もC-17を語るとき必ず出てくる。
2022年からのウクライナ支援では、ジャベリンやパトリオットをポーランドまで運び続けた。目立たないが、あの戦争を支えている飛行機の一つは、間違いなくこれだ。
そして2026年2月15日、C-17は小型モジュール原子炉を空輸した。前線に電力を届けるための試験で、輸送機が原子炉を運ぶという時代に入った。ダンケルクは船で33万人を救い、カブールは飛行機で12万人を運んだ。80年で撤退の主役は船から輸送機に変わった。
乗る側の話:3人で動かす巨人

写真出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
C-17の乗員は3人だ。操縦士2人と、貨物室を仕切るロードマスター1人。C-5が7人、旧型のC-141が5人だったことを思えば、この少なさは設計の目標そのものだった。操縦席は当時の民間機と同じ画面式で、操縦桿は戦闘機のようなスティック。輸送機の乗員が「戦闘機みたいだ」と言う機体はこれくらいだ。
ロードマスターの仕事が、この機体の心臓になる。積む順番と重心の計算、パレットの固定、空挺降下時の扉の操作、負傷者輸送のときは担架36床と座席54席を貨物室に組み立てる。カブールの823人を決めたのも、機長とロードマスターの現場判断だった。マニュアルにない積み方を、その場で計算して、飛んだ。
空中給油を受ければ航続距離は事実上無限で、アメリカ本土からアフガニスタンまで直行する。乗員は途中で交代し、機内の簡易ベッドで寝る。1機のC-17が1年に飛ぶ時間は民間の旅客機に近く、空軍の全機種の中で一番よく働いている機体だと言われる。生産が終わって10年、それでも稼働率が高いのは、ボーイングが275機をまとめて整備しているからで、これは後で書く。
生産終了と「2075年まで使う」という決断

写真出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
C-17は2015年にロングビーチで最後の1機を出して生産が終わった。理由は、空軍の必要数を満たしたからだ。ところが生産が終わった後で、カブールも、ウクライナ支援も、中東の危機も来た。「もう一度作れ」という声は毎年出るが、ボーイングも空軍も「生産ラインを再開する現実的な道はない」と繰り返している。工場は閉じ、部品会社は散り、技術者は引退した。
だから延命だ。2021年にボーイングは10年で最大238億ドルの整備契約を取り、世界の275機をまとめて面倒を見ている。2026年2月には操縦席の電子機器を全部作り直す契約が加わり、目標年は2075年。Tu-160やB-52と同じで、名機は新型機より長く飛ぶ。
後継は「次世代輸送機」と呼ばれる構想段階の計画で、無人化や空中給油との兼用が議論されているが、機体の形も予算もまだない。C-17の平均機齢は20年を超えていて、2040年代までに何が起きるかで、この計画の速さが決まる。
帝国陸軍ファンとして書いておきたい、輸送機を軽く見た国の末路
ここは私の趣味の話だ。
日本陸軍にも輸送機はあった。一〇〇式輸送機。1942年2月、この機体が空挺部隊をパレンバンの製油所に降ろし、燃料を無傷で手に入れた。日本陸軍の空挺作戦として最大の成功で、輸送機が戦争を動かした数少ない例だ。ところがその後、日本は輸送機を作らなくなった。戦闘機と爆撃機に全部を注ぎ、運ぶ飛行機は民間機の転用で済ませた。
その結果がガダルカナルだ。ガダルカナルの記事で書いたが、島に送り込んだ3万人に食料が届かず、戦闘で死んだ兵より飢えと病気で死んだ兵のほうが多かった。同じ頃、アメリカは太平洋の島々に輸送機と輸送船で物資を積み上げていた。輸送機を持つ国と持たない国の差は、戦闘機の性能差より残酷だった。
戦後、日本の空自はC-1、C-130、そしてC-2を持った。それでも大型戦略輸送機は持たない。キスカ撤退のような「運ぶことで勝つ」作戦は、今の日本にできるだろうか。私はC-17を見るたびに、この国が80年前に何を軽く見たかを思い出す。
日本のC-2は、なぜ「日本のC-17」になれないのか
空自の主力輸送機はC-2だ。川崎重工が作った国産の双発機で、最大積載量は36トン(2.25G条件)。C-17の最大約77.5トンの約46%だ。10式戦車は積めない。16式機動戦闘車ならぎりぎり積める。C-2は「C-17より小さく、C-130より大きい」ところを狙った機体で、これはこれで日本に合っている。日本の輸送は基本的に国内と、せいぜい東南アジアまでだからだ。
ただし2026年の南西諸島を考えると、話は変わる。台湾有事で石垣や宮古に部隊と装備を送り込むとき、C-2は1機で車両数両。戦車は船で運ぶしかない。海上輸送群を陸自が作ったのは、空で運べないものを海で運ぶためだ。アメリカがC-17で1日で運ぶものを、日本は船で3日かけて運ぶ。
日本がC-17を買わなかった理由は三つある。値段が1機300億円を超えること、C-2という国産計画があったこと、そして「戦車を空輸して海外に展開する」という任務が自衛隊にないことだ。三つ目が一番大きい。C-17は「遠くへ大量に運ぶ」ための機体で、日本はそういう軍隊ではなかった。それが2026年に変わりつつあるかどうかは、空自の機体一覧と川崎重工の防衛事業の記事を読みながら考えてほしい。
日本の組織がなぜ「運ぶこと」を後回しにするのか、その癖は80年前から変わっていない。それを一番よく書いているのが今もこの本だ。
投資家目線:作っていない飛行機で、誰が儲けているか
私は防衛株を持っているので、ここも自分の目線で書く。
C-17は生産が終わっているのに、ボーイングにとっては金の生る木だ。238億ドルの整備契約に加えて、2026年だけで操縦席の近代化契約と着陸装置の補修契約が積み上がり、整備契約の累計は80億ドルを超えた。飛行機を売る商売より、飛んでいる飛行機を50年面倒見る商売のほうが安定している。ボーイング株の記事で書いた通り、民間機で傷ついたこの会社を支えているのは、こういう地味な防衛の維持契約だ。
エンジンのF117はプラット・アンド・ホイットニー、つまりRTXが作り、275機分のエンジン整備が続く。操縦席の新しい計算機はカーティス・ライトが受注した。生産が終わった機体の周りに、これだけの仕事がある。日本の投資家が防衛株を見るとき、「何機売れたか」より「何機飛んでいるか」を見るべき理由がここにある。防衛関連銘柄の全体像は防衛関連銘柄の投資ガイドにまとめた。
投資判断は自己責任で。本記事は特定銘柄の売買を勧めるものではなく、私自身の見立ては将来変わる。数字は公表資料と報道をもとにしているが、時点によって変わるので一次資料を確認してほしい。
見に行くなら横田と三沢

写真出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
C-17は横田基地に常駐してはいないが、週に何度も降りる。福生の多摩川沿いの土手からは滑走路がよく見え、C-17の大きな尾翼と、着陸してすぐ逆噴射でバックする動きが観察できる。年に一度の横田の友好祭では機内に入れる年もある。三沢と嘉手納にも頻繁に来る。日本でC-17を見るのは、意外に難しくない。
よくある質問
C-17はどれくらい積めるか
最大約77.5トン。エイブラムス戦車1両、または歩兵戦闘車3両、または貨物パレット18枚。兵員なら102名で、カブール撤退では緊急措置として823人を運んだ記録がある。
C-17は何機あるか
275機が作られ、アメリカ空軍が222機、イギリス・オーストラリア・カナダ・インド・カタール・UAE・クウェート・NATOが計53機を運用している。2015年に生産が終わり、新造はない。
C-17はなぜバックで走れるのか
4基のエンジンに逆噴射装置があり、地上でそれを使って後進できる。狭い前線の滑走路で牽引車なしに向きを変えるための設計で、大型機では珍しい能力だ。
C-17の後継はあるか
「次世代輸送機」という構想が2026年時点で議論されているが、機体も予算も決まっていない。当面はC-17を2075年まで近代化して使い続ける。
日本はC-17を持っているか
持っていない。空自の大型輸送機は国産のC-2で、最大積載量は36トン(2.25G条件)。C-17の半分以下で、戦車は空輸できない。日本は東日本大震災のトモダチ作戦で米軍のC-17の支援を受けた。
あわせて読みたい
ここまで読んでくれた人へ。輸送機の記事は戦闘機より読まれないとわかっていて、それでも書いた。運ぶ飛行機の話を書ける場所は少ない。深夜の作業のお供はいつもこれだ。
出典・参考
- ボーイング プレスリリース「Boeing Flight Deck Modernization Keeps C-17A Mission Ready」(2026年2月9日)
- AeroXplorer「Boeing Secures 400 Million Dollar Modernization Deal To Sustain C17 Globemaster III Fleet Until 2075」(2026年2月17日)
- Airforce Technology「Boeing wins contract modification for C-17 Globemaster III sustainment」(2026年4月20日)
- Simple Flying「How Many C-17 Globemasters Were Built?」(2026年2月16日)、同「The Aircraft Set To Replace The Iconic C-17 Globemaster」(2026年6月3日)
- FlightGlobal「Boeing wins multibillion dollar contract to sustain global C-17 Globemaster III fleet」(2021年9月29日)
- ボーイング C-17 製品ページ、米空軍 ファクトシート







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