2024年1月4日、石川県輪島市の大川浜。地震で道路が土砂に埋まり、陸から重機が入れない被災地の浜に、海上自衛隊のホバークラフトが乗り上げた。エアクッション艇LCAC。後ろの扉が開き、油圧ショベルが砂浜に降りた。それを沖で吐き出した母艦が、輸送艦おおすみだった。
この光景を見て私が思ったのは、「この艦は27年間、ずっとこのために準備していたのだな」ということだ。もともとは離島に戦車と隊員を運び込むための艦で、それを「災害派遣にも使える」と言い訳のように付け足していた。ところが実際には、イラクにも、スマトラにも、フィリピンにも、東日本にも、熊本にも、能登にも出ていった。戦争には一度も行っていないのに、どの護衛艦より多くの現場を見た艦かもしれない。
そのおおすみは2026年3月で艦齢28年になった。後継の話がようやく動き始めている。この記事では、海自が「強襲揚陸艦ではない」と言い続けてきたこの艦が何者で、何をしてきて、これからどうなるかを書く。
一言でいうと、日本が初めて持った「本物の揚陸艦」

出典:海上自衛隊ホームページ
おおすみ型は海上自衛隊の輸送艦で、おおすみ、しもきた、くにさきの3隻がある。基準排水量8,900トン、全長178メートル。いずも型やひゅうが型ができる前は海自で一番大きな艦で、1998年に就役したとき、あの平らな全通甲板は「日本が空母を作った」と騒がれた。
仕事は、陸上自衛隊の部隊を海の向こうに運んで、港がない場所に上陸させることだ。完全武装の隊員330名と戦車10両を積み、艦尾のウェルドックからLCACを2隻出して浜に乗り上げる。飛行甲板からはヘリコプターが飛ぶ。ほかの国ではドック型輸送揚陸艦と呼ぶ艦種だが、海自の艦種記号は「戦車揚陸艦」のLSTのままで、これは「上陸作戦の艦を持っている」と言いにくかった時代の名残だ。全艦が呉の第1輸送隊に集められている。
| 項目 | おおすみ型 |
|---|---|
| 就役 | おおすみ1998年、しもきた2002年、くにさき2003年 |
| 基準排水量 | 8,900トン |
| 全長/全幅 | 178m/25.8m |
| 速力 | 22ノット |
| 乗員 | 約135名(+陸自隊員約330名) |
| 搭載 | LCAC×2、戦車10両または車両多数、ヘリ発着甲板 |
| 兵装 | 高性能20mm機関砲×2 |
| 建造費 | 1隻約272億円 |
| 所属 | 呉・第1輸送隊 |
なぜこの形なのか:3,500トンで始まって8,900トンになった
この艦の設計には、90年代の日本の空気がそのまま出ている。
もともとは古い輸送艦あつみ型の代わりに、3,500トンの小さな艦を作る計画だった。ところが1991年の湾岸戦争と、その後のPKOで「自衛隊を海外に運ぶ船がない」ことが問題になり、計画は膨らんだ。カンボジアに行くとき、自衛隊は民間フェリーを借りている。それでは格好がつかない。結果として8,900トン、全通甲板、ウェルドック付きという、当時の日本には過剰なほどの艦になった。
ただし、ここで海自は一線を引いた。ヘリコプターの格納庫を付けなかった。整備も給油もできない甲板は「ヘリが降りられる駐車場」でしかなく、これで「強襲揚陸艦ではない」と言い張れる。武装も20ミリ機関砲2門だけ。攻撃的な艦ではないという建前を、設計で担保した。私はこの妥協が今も尾を引いていると思っていて、それは後で書く。
初代のおおすみは、1961年にアメリカから借りた戦艦上陸用の古いLSTだった。名前は大隅半島から来ている。2代目はその名前を継いで、まったく別の艦になった。
LCACとオスプレイ:後から付け足した「本気」

出典:海上自衛隊ホームページ
この艦の価値は、積んでいる船と、降りてくる飛行機で決まる。
LCACはアメリカ製のホバークラフトで、戦車1両を載せて時速70キロ以上で浜に乗り上げる。おおすみ型に2隻ずつ、海自で6隻持っている。港がなくても、砂浜があれば戦車を降ろせる。能登で重機を運んだのも、東日本大震災で気仙沼に物資を届けたのもこれだ。ただし6隻とも1990年代の機体で老朽化が進み、後継のあてがまだ決まっていない。
そして2013年、アメリカ海兵隊のオスプレイがしもきたの甲板に降りた。日米共同のドーン・ブリッツ演習で、これがきっかけで海自はおおすみ型を改修することにした。2017年から2020年にかけて、オスプレイの熱と重さに耐える甲板の補強と、水陸両用車AAV7を積むためのウェルドックの手直しをやった。陸自がオスプレイとAAV7を買い、水陸機動団を作り、それを運ぶ艦としておおすみ型が引っ張り出された。設計から20年たって、この艦はようやく本来の「上陸作戦の艦」として使われ始めた。
艦内はどうなっているか:フェリーと病院と兵舎を一隻に
外から見ると平らな甲板の艦だが、中は三層構造だと思ってもらえばいい。
一番下が車両甲板で、艦の長さのほとんどを占める大きなガレージだ。戦車も装甲車もトラックもここに並べ、艦尾のウェルドックに海水を入れてLCACを浮かべ、艦尾の扉から出す。車両甲板と飛行甲板は前後2基の大型エレベーターでつながっていて、車両をそのまま甲板に上げて、ヘリで吊ることもできる。
その上に陸自隊員用の居住区がある。330名分の三段ベッドが区画ごとに分かれていて、海自の乗員135名とは別の場所で寝起きする。海自と陸自が同じ船で何週間も暮らすのはこの艦くらいで、食堂で陸自の隊員が海自の飯を食べているのが、この艦の日常だ。
そして医療区画。手術室と集中治療の設備があり、災害派遣ではこれが被災地の臨時病院になる。風呂も大きい。熊本地震で「入浴支援」と報じられたのは、艦内の浴場を被災者に開放したからだ。燃料を満載すれば地球を半周できる航続力があるので、インド洋の向こうまで自力で行ける。輸送艦というより、動く基地に近い。
実績:戦争に行かず、現場ばかり見てきた

出典:海上自衛隊ホームページ
おおすみ型の履歴を並べると、この30年の日本がどこで何をしたかがわかる。
2004年、くにさきはイラク復興支援の陸自部隊の車両をクウェートまで運んだ。同じ年の年末、スマトラ沖地震ではくにさきがインドネシアまで行って、ヘリとLCACで被災地に物資を届けた。海自の艦がインド洋の向こうで人道支援をやった最初の大規模な例だ。2011年の東日本大震災では3隻とも出動し、LCACが港の壊れた三陸の浜に上がった。2013年のフィリピン台風では、おおすみが陸自の部隊と一緒にレイテ島まで行った。2016年の熊本地震では入浴支援、2024年の能登では冒頭の重機搬入。
つまりこの艦は、就役してから一度も戦争に行っていない。その代わり、日本の災害派遣と国際緊急援助の主役であり続けた。海自の中でこれほど「国民の目に触れる仕事」をしてきた艦はない。
正直に書いておくと、暗い記録もある。2014年1月、おおすみは広島県沖で釣り船と衝突し、2人が亡くなった。海難審判では釣り船側の操船が主因とされたが、艦が民間船とすれ違う海で大きな艦を動かす難しさを、海自全体が改めて突きつけられた事故だった。
水陸機動団の「足」としての限界
ここからは私の見立てを書く。
2018年に陸上自衛隊は水陸機動団を作った。日本版海兵隊と呼ばれる部隊で、離島を奪還するのが仕事だ。自衛隊の精鋭部隊の中でも新しい部隊で、佐世保にいる。この部隊を運ぶのがおおすみ型だ。
ところが3隻で運べるのは、全部合わせても隊員約990名(1隻330名として)と戦車1個中隊。水陸機動団は約3,000名いる。しかも3隻のうち1隻はいつも整備で動けないから、実際に使えるのは2隻。上陸作戦の艦としては、正直、足りない。アメリカ海兵隊の遠征打撃群は強襲揚陸艦1隻とドック型揚陸艦2隻で1個大隊を運ぶ。海自にはその強襲揚陸艦がない。いずも型は空母化に向かい、ヘリを運ぶ艦にはなっても隊員を上陸させる艦にはならない。
だから陸自は自分で船を持つことにした。2025年に発足した自衛隊海上輸送群で、中型と小型の輸送船を陸自の隊員が動かして南西諸島に物資を運ぶ。海自の輸送艦だけでは南西諸島の島々を賄えないと、陸自自身が判断した結果だ。台湾有事で南西諸島に部隊と補給を送り込むとき、おおすみ型と海上輸送群と民間フェリーを全部使ってようやく回る、というのが今の日本の現実だと思う。
帝国海軍ファンとして書いておきたい、「陸軍が船を持った」歴史
ここは私の趣味の話だ。
日本で最初に「上陸専用の艦」を作ったのは、海軍ではなく陸軍だった。1934年に完成した神州丸は、船内に上陸用舟艇の大発を並べ、艦尾から次々に海へ滑り出させる。しかも飛行機を積んでカタパルトで飛ばす構想まであった。世界で最初の揚陸艦と言っていい艦で、アメリカ海軍がドック型揚陸艦を作るのは10年後だ。陸軍は海軍を信用していなかったから、自分で船を作った。上海にも仏印にもマレーにも、神州丸が兵を運んだ。
そして2025年、陸上自衛隊がまた自分の船を持った。海上輸送群だ。理由は80年前と違って「海自の輸送艦が足りない」からだが、陸の部隊が自分の船で兵と物資を運ぶという形は、神州丸の時代に戻ったとも言える。
海軍側で言えば、日本海軍は太平洋戦争で輸送を軽視して負けた。一等輸送艦を作ったのは1944年、もう手遅れだった。戦後の海自が輸送艦に力を入れなかったのも、その延長線にあると私は思っている。おおすみ型が28年たっても3隻のままで、後継が決まらないのは、日本の海軍が「運ぶこと」をどう見てきたかの結果だ。日本の艦艇の系譜は日本の戦艦・空母一覧にまとめてある。
韓国の独島級、フランスのミストラル級と比べると

出典:海上自衛隊ホームページ
隣の韓国は、独島級という1万4千トン級の強襲揚陸艦を2隻持っている。ヘリの格納庫があり、上陸用舟艇もヘリも自艦で整備できる。海自のおおすみ型より一回り大きく、「揚陸艦」と堂々と名乗っている。韓国海軍の艦艇一覧と海自と韓国海軍の比較記事で書いたが、上陸能力では海自は韓国に負けている。
フランスのミストラル級は2万1千トンで、ヘリ16機と病院を積み、「動く司令部」として世界中に出ていく。おおすみ型を作ったとき、海自が本当に欲しかったのはこの形だったのだろうと思う。しかし90年代の日本ではヘリ格納庫すら付けられなかった。強襲揚陸艦とは何かという話は、そのミストラル級の記事で詳しく書いた。
後継艦はどうなるか
2026年、おおすみは艦齢28年、一番新しいくにさきでも23年になった。防衛省はいずも型の改修に合わせて2026年度に艦艇の調査研究を行うことにしていて、そこにはおおすみ型の後継が含まれると見られている。
私の予想を書いておく。後継艦はヘリ格納庫を持つ本格的な多目的輸送艦になり、排水量は2万トンを超える。オスプレイとAAV7、それに次の水陸両用車を運び、災害派遣では病院と給水と入浴の拠点になる。ただし「強襲揚陸艦」という名前は絶対に付けない。海自は「多機能輸送艦」あたりの名前で押し通すはずだ。名前が何であれ、中身は28年前に付けられなかったヘリ格納庫を、ようやく付ける艦になる。海自の艦艇全体の中でこの艦がどこにいるかは海自の艦艇一覧を読んでほしい。
海自の全艦種と輸送艦の位置づけを一冊で押さえたい人は、毎年出る増刊号が一番早い。
投資家目線:おおすみ型の後継で儲かるのは誰か
私は防衛株を持っているので、ここも自分の目線で書く。
おおすみ型3隻は三井造船の玉野工場で作られた。その玉野の艦艇部門は2021年に三菱重工に移り、今は三菱重工マリタイムシステムズになっている。つまり後継艦の建造を争うのは、三菱重工とジャパンマリンユナイテッドの2社だ。もがみ型や新型護衛艦の受注で三菱重工が優位に立っている流れを見ると、後継輸送艦も同じ構図になる可能性が高い。ただし2万トン級の艦を作れるドックは限られていて、いずも型を作った横浜のジャパンマリンユナイテッドも候補に残る。
もうひとつ、LCACの後継だ。アメリカは新型のSSCに置き換えつつあり、日本もいずれ買う。輸入品なので日本企業の出番は整備だけだが、ここは商社が絡む。防衛関連銘柄の全体像は防衛関連銘柄の投資ガイドにまとめた。
投資判断は自己責任で。本記事は特定銘柄の売買を勧めるものではなく、私自身の見立ては将来変わる。数字は公表資料と報道をもとにしているが、時点によって変わるので一次資料を確認してほしい。
見に行くなら呉

出典:海上自衛隊ホームページ
おおすみ型は3隻とも呉が母港だ。呉の「アレイからすこじま」の遊歩道からは潜水艦と護衛艦が間近に見え、対岸に輸送艦が停泊していることも多い。大和ミュージアムと海自の資料館「てつのくじら館」を回って、一日で明治から令和までの日本の海軍を見られる街だ。呉の艦艇公開の日に当たれば、おおすみ型の車両甲板とウェルドックの中まで歩ける。海自の基地一覧も参考にしてほしい。
よくある質問
おおすみ型輸送艦は何隻あるか
3隻だ。おおすみ(1998年)、しもきた(2002年)、くにさき(2003年)。全艦が呉の第1輸送隊に所属している。
おおすみ型は強襲揚陸艦なのか
海自は強襲揚陸艦とは呼んでいない。ヘリコプターの格納庫と整備設備がなく、武装も自衛用の機関砲だけなので、他国の分類ではドック型輸送揚陸艦に近い。ただしLCACとオスプレイとAAV7を運用できるので、上陸作戦の艦としての機能は持っている。
おおすみ型にオスプレイは降りられるか
降りられる。2013年に米海兵隊のオスプレイが着艦し、2017年から2020年の改修で甲板を補強した。陸自のオスプレイも運用できる。
おおすみ型は何人運べるか
陸自の隊員なら完全武装で約330名と戦車10両。災害時など民間人なら約1,000名を収容できるとされる。3隻合わせても隊員約990名(1隻330名として)で、水陸機動団の全力を一度には運べない。
おおすみ型の後継艦は決まっているか
2026年時点で正式には決まっていない。防衛省が2026年度に艦艇の調査研究を行う予定で、ヘリ格納庫を持つ大型の多目的輸送艦になるとの見方が多い。
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- 強襲揚陸艦とは|空母との違い・LHA/LHD・日本の保有状況【2026年版】
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- いずも型護衛艦完全解説
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- フランス海軍の艦艇一覧【2026年版】
ここまで読んでくれた人へ。輸送艦の記事は派手さがなくて書くのに骨が折れるが、能登の浜の写真を見返すたびに「この艦の記事は書いておかないと」と思っていた。深夜の作業のお供はいつもこれだ。
出典・参考
- 海上自衛隊 公式サイト「輸送艦『おおすみ』型」
- 乗りものニュース「『空母改造いずも型』の”次”はどうなる?」(2026年1月13日)
- 朝雲デジタル「輸送艦”おおすみ”型」(2026年1月19日)
- 航空新聞社「世界で活躍する輸送艦『おおすみ』内部公開」
- 千葉日報・共同通信「海から輸送艦で重機搬入 能登地震」(2024年1月4日)
- 防衛白書 令和6年版「令和6年能登半島地震への対応」
- 海洋国防アカデミー「強襲揚陸艦?海上自衛隊の『おおすみ型』輸送艦の性能とは」







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