戦闘機の性能表を見ていると、レーダーの欄に「AESA」「PESA」「機械式」という言葉が並んでいる。F-35はAESA、F-15Jの改修前は機械式、イージス艦のSPY-1はPESA。でも、何がどう違うのかを一言で説明できる人は、案外少ないと思う。
この三つは、ざっくり言えば「ビームの向け方」と「電波を出す送信機の数」の違いだ。機械式はアンテナそのものを首振りさせてビームを向ける。PESAとAESAは、アンテナは動かさずに、電子の力でビームを曲げる。そしてPESAとAESAの違いは、送信機が一つか、たくさんか、にある。
この記事では、三つの方式を同じ物差しで比べる。AESAの一般的な強みはJ-10Cの解説やF-15J改の解説でも触れてきたので、ここでは「三つを並べたとき、どこが違うのか」に集中する。そして最後に、日本がこの分野でちょっと誇っていい話をしたい。
- 機械式は、アンテナを物理的に動かしてビームを向ける。構造は単純だが、向きを変えるのに時間がかかる
- PESAは、アンテナを固定したまま、一つの送信機の電波の位相をずらしてビームを曲げる
- AESAは、たくさんの小さな送受信器がそれぞれ電波を出し、それを合わせてビームを作る
- 速さ、同時にこなせる仕事の数、壊れにくさ、見つかりにくさで、AESAが最も優れるが、そのぶん高く、熱の処理も難しい
結論|三つを同じ物差しで並べる
まず、三つの方式を表にまとめる。
ひとことで言えば、機械式は「首を振る懐中電灯」、PESAは「一つの電球の光を、たくさんの小窓で曲げる照明」、AESAは「小さなライトを何百個も並べて、明かりの向きを合わせる照明」だ。

機械式レーダー|アンテナごと首を振る
仕組みは「首振り」
いちばん古くからあるのが機械式だ。一つの送信機で作った電波を、皿や平たい板の形のアンテナから出す。ビームの向きを変えたいときは、アンテナそのものをモーターで上下左右に動かす。

写真:Daderot/出典(CC0)・表示用に縮小
戦闘機の機首の中を想像してほしい。丸いアンテナが、首振り扇風機のように左右に動きながら、前方の空を少しずつなめるように探していく。空自のF-15Jが長く使ってきたのも、この方式のレーダーだ。
弱点は「動く速さ」
機械式の弱点は、ビームの向きを変える速さが、アンテナが物理的に動く速さに縛られることだ。広い範囲をひと通り探すのに、数秒から十秒ほどかかる。そのあいだ、ほかの方向は見ていない。
ある目標を追いかけながら、別の方向を探す、といった二つの仕事を同時にこなすのも苦手だ。アンテナは一度に一つの方向しか向けないからだ。
それでも、構造が単純で安く、長年の改良で信頼性も高い。今も多くの機体で使われている。
PESA|一つの送信機の電波を、電子の力で曲げる
アンテナは動かさない
PESAは、Passive Electronically Scanned Array(パッシブ電子走査アレイ)の略だ。アンテナの板に、小さなアンテナの素子をたくさん並べる。そして、一つの大きな送信機で作った電波を、それぞれの素子に分けて配る。
ここで使うのが、位相をずらす仕掛けだ。それぞれの素子から出す電波のタイミングを、ほんのわずかずつずらす。すると、電波の波の山がそろう方向が斜めになり、ビームが曲がる。アンテナの板は一ミリも動かないのに、ビームの向きだけが一瞬で変わるのだ。
速いが、送信機は一つ
PESAは、機械式とは比べものにならない速さでビームの向きを変えられる。ある目標を追いかけながら、合間に別の方向を探す、といった使い方もできる。
ただ、送信機は一つしかない。その送信機が壊れれば、レーダー全体が止まる。また、一つの送信機から多くの素子へ電波を配るあいだに、電波が少しずつ弱くなってしまう。
PESAの代表は、イージス艦のSPY-1レーダーだ。艦橋の四方の壁に張られた八角形の板が、それにあたる。海自のこんごう型、あたご型、まや型も、このSPY-1の系統を使っている。戦闘機では、MiG-31のザスローンが、電子でビームを曲げるレーダーを初めて積んだ戦闘機とされる。
AESA|小さな送受信器を何百個も並べる
素子の一つひとつが送信機
AESAは、Active Electronically Scanned Array(アクティブ電子走査アレイ)の略だ。PESAとの決定的な違いは、素子の一つひとつに、小さな送受信器がついていることにある。

一つの大きな送信機の電波を配るのではなく、何百、何千という小さな送受信器が、それぞれ自分で電波を出し、自分で受け取る。その出すタイミングをコンピューターがそろえて、全体で一本のビームを作る。
私はこれを、合唱にたとえるとしっくりくると思っている。PESAは、一人の歌手の声を、たくさんのスピーカーから流して向きを変えるやり方だ。歌手が倒れたら、音は止まる。AESAは、何百人もの合唱団がそれぞれ声を出し、指揮者が声を合わせるやり方だ。何人かが声をからしても、歌は続く。
AESAの四つの強み
AESAの強みは、大きく四つある。
一つ目は、壊れにくさだ。何百個もの送受信器のうち、いくつかが壊れても、レーダー全体は少し性能が落ちるだけで動き続ける。合唱団の何人かが休んでも、歌が止まらないのと同じだ。
二つ目は、仕事を分けられることだ。板の素子をいくつかのグループに分け、あるグループで目標を追い、別のグループで周りを探す、といったことができる。一つのレーダーで、何人分もの仕事を同時にこなせる。
三つ目は、気づかれにくさだ。電波の周波数や出し方を細かく変えられるので、相手の警戒装置に「レーダーで狙われている」と気づかれにくい。
四つ目は、電波を出す以外の使い方だ。強い電波を狙った方向に集中できるので、相手のレーダーを妨害する装置のような使い方も研究されている。
AESAの弱み|高い、熱い、正面しか見えない
もちろん弱みもある。何百個もの送受信器を作るので、値段が高い。そして、それぞれが電波を出すぶん熱を持つので、冷やすための仕組みが欠かせない。
もう一つ、意外な弱みがある。板を固定しているので、真正面から大きく横にずれた方向は見にくいのだ。電子でビームを曲げられるといっても、板に対して斜めすぎる方向には限界がある。
この弱みへの答えが面白い。スウェーデンのグリペンEや、ユーロファイターの新しいレーダーは、AESAの板そのものを斜めに傾ける仕掛けを持っている。電子で曲げる最新のレーダーに、あえて機械式の「首振り」を足したわけだ。古い方式を捨てずに組み合わせる、この発想が私は好きだ。
イージス艦が四つの面に板を張っているのも、同じ理由だ。一枚の板では、真後ろまでは見えない。だから四方に板を並べて、全周を見張っている。
三つの方式を時代で並べる
三つの方式は、おおむね時代とともに移り変わってきた。
| 時代 | 主な方式 | 代表例 |
|---|---|---|
| 第二次世界大戦〜1970年代 | 機械式 | 大戦中の各国のレーダー、F-4、F-15の初期型 |
| 1970年代〜 | PESAの登場 | イージス艦のSPY-1、B-1B、MiG-31 |
| 2000年代〜 | AESAの実用化 | F-2、F-22、F-35 |
| 2010年代〜 | AESAの広がりと改修 | F-15の改修、F-16V、ラファールの新型、イージス・システム搭載艦 |
今まさに、世界の戦闘機や軍艦は、機械式やPESAからAESAへの切り替えの途中にある。
日本のレーダー|八木アンテナの悔しさと、F-2の先見性
アンテナの発明者は日本人だった
日本とレーダーの関係を語るなら、まず八木アンテナの話をしないわけにはいかない。1920年代、東北帝国大学の八木秀次と宇田新太郎が、電波を特定の方向に強く出せるアンテナを考え出した。いまもテレビのアンテナとして屋根の上に立っている、あの形だ。

写真:Toshi Aoki – JP Spotters/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
ところが、このアンテナを戦争で使いこなしたのは、日本ではなく連合国だった。日本軍がシンガポールでイギリスのレーダーの資料を手に入れたとき、そこに書かれていた「YAGI」という言葉の意味が分からなかった、という有名な逸話がある。自分の国の発明を、敵の資料で知らされたわけだ。帝国海軍がレーダーで後れを取り、夜戦で苦しんだ話は、ブーゲンビル島沖海戦などで何度も書いてきた。私は、この八木アンテナの話ほど悔しい技術史を知らない。
F-2は量産AESAの先頭集団を走った
その日本が、半世紀後にレーダーの最先端に立つ。航空自衛隊のF-2が積んだ国産のJ/APG-1は、量産型のAESAレーダーとして、部隊で使われる軍用機に載った最初期の一つとされる。2000年代の初め、アメリカのF-22の配備よりも早く、日本の戦闘機がAESAを実用化していたのだ。
F-2は、開発のときにアメリカとの共同開発をめぐって揉め、高い値段も批判された戦闘機だ。それでも、AESAという方式に早くから目をつけ、国産で実用化した判断は、今振り返れば先見の明だったと私は思う。八木アンテナの悔しさを、半世紀かけて取り返した、と言ったら言いすぎだろうか。J/APG-1は、その後、AAM-4Bミサイルと組み合わせるためのJ/APG-2へと改良されている。F-2そのものについてはF-2戦闘機の解説が詳しい。
F-15とイージス艦もAESAへ
そして今、空自と海自の主力も、AESAへの切り替えを進めている。F-15Jは、改修でレーダーを機械式からAESAのAPG-82に積み替える。最初の20機の改修の完了は、当初の2027年度末から2029年度末へずれ込んだと報じられている。改修機と新造のF-15EXの違いはF-15JSIとF-15EXの違いで書いた。
海でも同じだ。まや型までのイージス艦はPESAのSPY-1系統だが、新しく造るイージス・システム搭載艦は、AESAのSPY-7を積む。2026年3月にはアメリカでSPY-7の目標探知の試験が行われ、1番艦は2027年度末、2番艦は2028年度末の就役が予定されている。日本のイージス艦は、PESAからAESAへの世代交代の入り口に立っているわけだ。今のイージス艦については海自のイージス艦の解説にまとめている。
投資家目線|AESAは「部品の数」で稼ぐ
AESAは、何百、何千という送受信器を一つひとつ作って並べる。つまり、半導体の部品をたくさん使うレーダーだ。戦闘機や軍艦の数が同じでも、レーダーがAESAに変わるだけで、部品の需要は大きく増える。
日本でこの分野の中心にいるのが三菱電機で、F-2のJ/APG-1も手がけた。レーダーと電子機器を作る日本企業の顔ぶれは日本のレーダー・電子戦企業一覧に、三菱電機の防衛事業と株としての見方は三菱電機の防衛事業の解説にまとめている。
※この記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではない。株価や業績は変動し、元本割れの可能性もある。投資判断は自己責任で。
本と模型でレーダーを見る
レーダーの仕組みを、図を見ながらもう少し深く知りたいなら、この本が入りやすい。機械式からAESAまでの流れも追える。
量産AESAの先頭集団を走ったF-2は、模型で手元に置いておきたい一機だ。機首の中に、あのJ/APG-1が収まっていると思うと、見え方が変わる。
PESAのSPY-1の八角形の板を見るなら、イージス艦の模型がいい。艦橋の四方に張られた板が、全周を見張るための工夫だと分かる。
よくある質問
AESAとPESAの違いを一言で言うと?
送信機の数の違いだ。PESAは一つの送信機の電波を多くの素子に配ってビームを曲げ、AESAは素子の一つひとつに小さな送受信器がついている。どちらもアンテナは動かさずに、電子の力でビームを曲げる。
機械式レーダーはもう古いの?
新しい戦闘機や軍艦ではAESAが主流になりつつあるが、機械式は安く、信頼性も高いので、今も多くの機体で使われている。古い機体を改修してAESAに積み替える例も多い。
AESAは最強なの?
速さ、同時にこなせる仕事、壊れにくさ、気づかれにくさで、三つの中では最も優れる。ただし値段が高く、熱の処理が難しく、板の正面から大きく外れた方向は見にくい。だから板を傾ける仕掛けを足したり、複数の面に板を張ったりしている。
レーダーをだますチャフは、AESAにも効くの?
効きにくくなっている。チャフは止まった繊維の雲で、多くのレーダーは目標の速さの違いで見分けられるからだ。チャフの仕組みはチャフとフレアの違いで書いた。
早期警戒機の回転するお皿もレーダー?
そうだ。E-767などの背中の円盤は、回転するドームの中にレーダーが入っていて、回りながら全周を見張る。機械的に回すことで、全周を見ているわけだ。E-767についてはE-767の解説で書いた。
まとめ|「首を振る」から「声を合わせる」へ
機械式、PESA、AESAの違いは、ビームの向け方と送信機の数にある。機械式はアンテナを動かし、PESAは一つの送信機の電波を電子で曲げ、AESAは何百もの小さな送受信器が声を合わせてビームを作る。速さ、同時にこなせる仕事、壊れにくさ、気づかれにくさで、時代とともにAESAへ移ってきた。
そして日本は、レーダーのアンテナの発明者を持ちながら戦争ではレーダーで後れを取り、半世紀後には量産AESAの先頭集団を走るF-2を生んだ。いま、F-15Jもイージス艦も、AESAへの世代交代の途中にある。次に戦闘機の性能表で「AESA」の文字を見かけたら、その機首の中で、何百もの小さな送受信器が声を合わせているところを想像してみてほしい。戦闘機全体の比較は世界最強戦闘機ランキングでも整理している。
最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。







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