静岡県の浜松基地には、世界でここにしかいない飛行機がいる。旅客機のボーイング767の背中に、直径9mほどの巨大な円盤を載せた、航空自衛隊のE-767早期警戒管制機だ。
E-767は、世界で4機しか作られていない。使っているのも日本だけ。アメリカ空軍のE-3早期警戒管制機(AWACS)と同じレーダーと管制システムを、767の機体に載せた、いわば「日本専用のAWACS」である。
この飛行機が生まれたきっかけは、1976年のある事件だった。ソ連の戦闘機MiG-25が日本のレーダー網をすり抜けて、函館空港に強行着陸したのだ。低く飛んでくる飛行機を、地上のレーダーでは見つけられない。その痛い教訓から、日本は「空からレーダーで見張る」飛行機をそろえていくことになる。
この記事では、E-767がどんな飛行機で、何をしているのか、もう一つの早期警戒機E-2Dとはどう違うのか、そして2030年代に迫る後継問題までを整理する。
- E-767はボーイング767にE-3 AWACSのレーダーと管制システムを載せた早期警戒管制機。航空自衛隊が4機だけ保有し、浜松基地に配備している
- 役割は空の見張りだけでなく、味方の戦闘機を指揮・誘導する「空の管制塔」。E-2Dより大きく、長く飛び、多くの管制官を乗せられる
- E-2Dは小型で、ステルス機を見つけやすい新しいレーダーを持つ早期警戒機。2機種は役割を分け合っている
- 原型のE-3はアメリカで老朽化が進み、後継のE-7をめぐって迷走した。E-767の後継も2035年ごろが一つの目安とされる
E-767とは|基本データ

写真:ken H from Yokohama, Kanagawa-ken, Japan/Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式な分類 | 早期警戒管制機(AWACS) |
| 機体 | ボーイング767-200ER |
| レーダー | AN/APY-2(背中の円盤=ロートドーム内) |
| 保有数 | 4機(航空自衛隊のみ) |
| 配備 | 浜松基地(警戒航空団) |
| 初飛行 | 1994年(円盤なしの状態) |
| 引き渡し | 1998年3月に2機、1999年1月に2機 |
| 運用開始 | 2000年5月 |
| 全長・全幅 | 約48.5m・約47.6m |
| 最大離陸重量 | 約175トン |
| 乗員 | 操縦2人+任務要員十数人 |
| 1機の値段 | 当時の予算で約540億〜570億円 |
背中の円盤は「ロートドーム」と呼ばれ、中にレーダーのアンテナが入っている。飛んでいるあいだ、10秒ほどで1回転しながら、全方位の空と海を見張る。
なぜE-767が生まれたのか|ベレンコ中尉事件と「見えない空」
1976年9月6日、ソ連の防空軍のベレンコ中尉が操縦するMiG-25が、北海道の函館空港に突然着陸した。亡命が目的だった。
日本にとって衝撃だったのは、亡命そのものより、この戦闘機を日本のレーダーがほとんど捕まえられなかったことだ。MiG-25は海面近くを低く飛んできた。地上のレーダーは地球の丸みのせいで、遠くの低い高さは見えない。山の陰にも弱い。空自の戦闘機が上がったものの、見つけられないまま函館に降りられてしまった。
この事件をきっかけに、日本は空からレーダーで見張る飛行機の導入を急いだ。本当はアメリカ空軍のE-3が欲しかったが、アメリカ自身が足りていない。そこでまず、アメリカ海軍の艦上機であるE-2Cを導入し、1980年代から三沢基地で運用を始めた。
その後、本格的なAWACSとしてE-3の導入を改めて考えたとき、問題が起きた。E-3の機体であるボーイング707の生産が、1991年に終わってしまったのだ。そこでボーイングが提案したのが、同じレーダーとシステムを、まだ生産中だった767に載せる案だった。767は707より床面積が5割ほど広く、機内の容積は2倍近くある。管制官の席や機材をゆったり積める。こうして、日本だけのAWACS、E-767が生まれた。
旧軍好きとしては、ここで少し複雑な気持ちになる。電波を使った探知の分野で、日本はかつて世界の先頭を走っていたからだ。1920年代に日本の八木秀次らが発明した「八木アンテナ」は、のちに英米のレーダーに使われた。ところが当の日本軍は、レーダーの重要性に気づくのが遅れ、太平洋戦争ではレーダーを使うアメリカ海軍に夜戦でも苦しめられた。空から見張る目の大切さを、日本はずいぶん高い授業料を払って学んだことになる。レーダーが戦争を変えた話は第二次世界大戦の結末を変えた発明ランキングやベラ湾夜戦の解説で書いている。
E-767の任務|見張るだけではない「空の管制塔」

出典:航空自衛隊
E-767の仕事は、大きく分けて2つある。
1つ目は見張りだ。高度9,000m以上の高い空から、レーダーで何百kmも先までを見渡す。地上のレーダーでは見えない、低く飛ぶ航空機や巡航ミサイルも見つけられる。日本に近づいてくる外国の軍用機を、まだ遠くにいるうちに見つけるのが、平時の大きな役目だ。
2つ目が管制、つまり味方の指揮・誘導だ。ここが「早期警戒機」ではなく「早期警戒管制機」と呼ばれる理由である。機内には何人もの管制官が座っていて、見つけた相手の位置や動きを読み取り、どの戦闘機をどこへ向かわせるかを指示する。空自のF-15JやF-35Aが外国機に向かってスクランブル(緊急発進)するときも、戦いになれば空中戦を組み立てるときも、E-767はその頭脳の役を担う。
日本の周りの空は、年々にぎやかになっている。中国やロシアの軍用機に対する空自のスクランブルは、毎年数百回にのぼる。2025年6月には、中国の空母2隻が初めて同時に太平洋側で活動し、艦載機の発着艦を繰り返した。海の上で動く空母とその艦載機を見張るには、地上のレーダーだけでは届かない。空から見張るE-767やE-2Dの出番は、むしろ増えている。中国の空母の動きは中国空母3隻体制の解説で書いた。
いわば、E-767は「空の上を飛ぶ管制塔と作戦室」だ。地上の司令部やレーダーサイトが攻撃で使えなくなっても、E-767がいれば空の戦いを続けられる。
E-767が管制する空自の戦闘機については日本の戦闘機一覧、近代化が進むF-15JについてはF-15J改の解説で書いた。
機内はどうなっている?

出典:航空自衛隊
E-767の機内は、普通の旅客機とはまるで違う。客席の代わりに、レーダーの画面と通信機を備えた管制用の席が並び、任務要員がそれぞれの担当の空域や目標を受け持つ。後ろのほうには、長時間の任務に備えた休憩用の席や、簡単な食事を用意できる設備もあるとされる。
10時間近く飛び続けることもある任務では、乗員の疲れとの戦いにもなる。767という大きな機体を選んだ理由の一つは、こうした「長く、大人数で働ける空間」を確保するためでもあった。
なぜ4機しかないのか
4機という数は、決して多くない。1機が整備に入り、1機が訓練や待機に回れば、実際に任務に出せるのは1〜2機になる。24時間ずっと空に上げておこうとすれば、機体も乗員もすぐに足りなくなる。
それでも4機で止まったのは、何より値段が高かったからだ。1機500億円を超える飛行機を、何機もそろえるのは簡単ではない。そこで航空自衛隊は、大型で高価なE-767を「指揮所」として少数持ち、身軽で数をそろえやすいE-2Cや、その後継のE-2Dを見張りの主力として組み合わせる形を選んだ。平時の警戒監視の多くはE-2系が担い、大規模な空の戦いになればE-767が全体を指揮する。この役割分担は、限られた予算の中で考え抜かれたものだと思う。
E-767とE-2Dの違い|大きな管制塔と、身軽な見張り役

写真:US Navy/Wikimedia Commons(Public domain)
航空自衛隊には、E-767のほかにもう一つ、背中に円盤を載せた飛行機がある。E-2Dアドバンスドホークアイだ。どちらも「空飛ぶレーダー」だが、中身はかなり違う。
| 項目 | E-767 | E-2D |
|---|---|---|
| 分類 | 早期警戒管制機(AWACS) | 早期警戒機 |
| 元になった機体 | 旅客機(ボーイング767) | 米海軍の艦上機 |
| エンジン | ジェット2基 | プロペラ(ターボプロップ)2基 |
| 大きさ | 全長約48.5m | 全長約17.6m |
| 乗員 | 操縦2人+任務要員十数人 | 5人 |
| 飛べる時間 | 長い(10時間前後) | 比較的短い |
| レーダーの得意分野 | 広い範囲の監視と多数の目標の管制 | ステルス機など見つけにくい目標の探知 |
| 空自の配備 | 浜松(4機) | 三沢・那覇など(E-2Cから更新中) |
E-767の強みは、大きさと持久力だ。高く、長く飛び続けられ、多くの管制官を乗せて、たくさんの目標と味方機を同時にさばける。大規模な空の戦いの「指揮所」として欠かせない。
E-2Dの強みは、身軽さとレーダーの新しさだ。プロペラ機で小さく、短い滑走路でも使える。積んでいるレーダーは、ステルス機のような見つけにくい相手を探すのに向いた周波数を使う新しいタイプで、E-767より新しい世代の目を持っている。南西諸島の那覇に配備されているのも、この使い勝手の良さがあるからだ。
ざっくり言えば、E-767は「大きな管制塔」、E-2Dは「身軽な見張り役」。2機種で役割を分け合いながら、日本の空を24時間見張っている。E-2DについてはE-2Dアドバンスドホークアイの解説、米空母の上での使われ方は空母打撃群とはに書いた。世界の早期警戒機の比較は早期警戒機ランキングTOP10を見てほしい。
E-767の部隊|浜松の警戒航空団

出典:航空自衛隊
E-767を運用しているのは、航空自衛隊の警戒航空団だ。E-767は浜松基地の飛行隊に、E-2Dは三沢と那覇の飛行隊に配備されている。重いE-767を受け入れるため、浜松基地は滑走路を補強している。
警戒航空団は、2026年3月の改編で、これまでの見張りの任務に加えて、偵察や電子戦のデータ集めまで担うようになった。高高度を飛ぶ無人偵察機RQ-4Bの部隊や、電子戦の部隊もこの航空団の下に入っている。空自の「目と耳」を一手に担う部隊になりつつあると言っていい。
空自の部隊の全体像は航空自衛隊の部隊一覧、基地の場所は航空自衛隊の基地一覧にまとめている。
浜松基地は、航空祭でE-767の姿を間近に見られる貴重な場所でもある。飛行展示や地上展示の内容は年によって変わるので、行く前に公式の案内を確かめておきたい。基地のある浜松は、うなぎや餃子でも有名だ。遠征するなら宿は早めに押さえておくのがおすすめだ。
能力向上|E-3と同じ改修を続けてきた
E-767は、原型のE-3と同じように、レーダーや計算機の改修を重ねてきた。2006年には、レーダーの処理能力を高める改修の契約がボーイングと結ばれ、2012年までに4機すべての改修が終わった。その後も、任務用のコンピューターを新しくする改修が続けられている。
ただ、ここに一つの弱点がある。E-767の改修は、アメリカ空軍のE-3の改修に足並みをそろえて進めてきた。E-3と同じシステムを積んでいる以上、E-3の改修が止まれば、E-767だけを最新の水準に保つのは難しくなる。
後継問題|E-3の迷走と「2035年」
そのE-3が、いまアメリカで大きく揺れている。
E-3の機体は1970年代から80年代に作られたボーイング707で、部品の入手が難しくなり、稼働率は大きく下がっていると報じられている。アメリカ空軍は後継として、ボーイング737をもとにした新しい早期警戒管制機E-7を選んだ。E-7は円盤を回すのではなく、背中に板のような固定式のレーダーを載せた、新しい世代の機体だ。
ところが、アメリカ国防総省は2025年、E-7の導入をやめ、人工衛星などで代わりを務める方針を打ち出した。議会はこれに反発し、2026会計年度の予算でE-7に10億ドル以上をつけた。
そして2026年、流れが再び変わる。イランとの戦いの中で、サウジアラビアの基地にいたE-3が、イラン側の攻撃で大きな損傷を受けたと報じられたのだ。数の限られたAWACSが失われることの重さが、はっきり突きつけられた。2026年5月、ヘグセス国防長官は議会で、E-7には戦場での役割があると述べ、方針を転換した。空軍は、試作機2機に加えて5機を追加で買う計画を示している。
日本のE-767も、他人事ではない。後継機について政府の正式な発表はまだないが、業界の資料では2035年ごろが一つの目安とされているとの報道もある。2035年は、F-2戦闘機の退役が始まり、日英伊で開発する次期戦闘機GCAPが登場する予定の年でもある。空自にとって、戦闘機と「空の目」の世代交代が重なる大きな節目になりそうだ。次期戦闘機については次期戦闘機GCAPの解説に書いた。
イランとの戦いで空の作戦がどう動いたかはエピック・フューリー作戦の完全解説にまとめている。
模型と航空祭で楽しむE-767
E-767は、空自機のファンの間でも人気の高い機体だ。E-767そのもののキットは本格的なものが少ないが、E-767が指揮する空自の主力戦闘機F-15Jなら、タミヤの1/32という大きなキットで迫力を味わえる。
空自の機体全体をまとめて知りたい人は航空自衛隊の機体一覧【2026】もどうぞ。
よくある質問
E-767は何機ある?
4機だ。1998年と1999年に2機ずつ引き渡され、すべて航空自衛隊の浜松基地にいる。日本以外にE-767を使っている国はない。
E-767とAWACSの違いは?
E-767もAWACS(早期警戒管制機)の一種だ。アメリカ空軍などのAWACSであるE-3と同じレーダーと管制システムを、ボーイング767の機体に載せたものがE-767である。
E-767とE-2Dはどっちが優秀?
役割が違う。E-767は大きく長く飛べ、多くの管制官で大規模な空の戦いを指揮できる。E-2Dは小型で身軽、ステルス機を見つけるのに向いた新しいレーダーを持つ。航空自衛隊は2機種を組み合わせて使っている。
E-767の背中の円盤は何?
「ロートドーム」と呼ばれるレーダーのカバーで、中にアンテナが入っている。飛行中に回転しながら、全方位を見張る。
E-767の後継は決まっている?
2026年10月時点で、政府の正式な発表はない。原型のE-3の後継として、アメリカではE-7の導入をめぐって方針が揺れた。日本のE-767の後継も、2035年ごろが一つの目安とされているとの報道がある。
まとめ|ベレンコ事件の教訓が生んだ、日本だけの「空の目」
E-767は、1976年のベレンコ中尉事件で突きつけられた「低く飛ぶ相手が見えない」という弱点を埋めるために生まれた、日本だけの早期警戒管制機だ。767の大きな機体に、E-3と同じレーダーと管制システムを載せ、空の見張りと味方の指揮を一手に担う。
ただ、原型のE-3は老朽化し、アメリカでは後継のE-7をめぐって方針が二転三転した。イランでの戦いは、こうした飛行機が戦場でどれほど大事で、しかも狙われやすいかを示した。E-767の後継をどうするかは、2035年に向けた空自の大きな宿題になる。80年前、レーダーで後れを取った国が、いまどんな「空の目」を選ぶのか。注目して見ていきたい。
最後まで読んでくれてありがとう。
出典・参考資料
表紙の写真素材:
写真:ken H from Yokohama, Kanagawa-ken, Japan/Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0)。背景・レイアウト・文字を編集。加工版:CC BY-SA 2.0







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