2026年2月28日、米国とイスラエルが、ついにイランへの大規模軍事攻撃に踏み切った。翌3月1日、イランの国営メディアは最高指導者ハメネイ師の死亡を伝え、中東の地政学は一夜にして塗り替えられた。そして3月2日、イラン革命防衛隊(IRGC)が世界経済の「大動脈」であるホルムズ海峡の閉鎖を宣言した。
幅わずか34キロ。日本の石油タンカーが日々通り抜けるその細い海峡が、今、歴史上初めて本格的に封じられようとしている。
日本はこの事態に、どう向き合うのか。そして自衛隊は中東へ派遣されるのか。
「1日120隻が5隻へ」――日本の命綱が今まさに絞られている
まず、規模感を理解してほしい。
2026年2月28日の攻撃を受け、イラン革命防衛隊(IRGC)はホルムズ海峡付近を航行するすべての船舶に対して通過禁止を通告。それまで1日あたり120隻程度が通航していたホルムズ海峡は実質的に封鎖状態となり、3月6日時点の通航隻数は5隻にとどまっている。
120隻が5隻へ。96%減だ。
2024年にホルムズ海峡を通過した原油量は日量1420万バレル、石油製品が約590万バレルを記録した。これは世界の海上輸送量の25%以上、世界の石油消費量の約20%に相当する。
そして日本にとってこの海峡は、単なる「遠い海の話」ではない。
日本は原油輸入の9割を中東に依存している。石油備蓄は約254日分あるとされているが、中東からの原油・LNG輸入が途絶すると、わが国の石油備蓄等は約260日で払底し、電気・ガス業や製造業を中心に減産圧力が高まり、GDPを3%弱下押しする試算がある。
ガソリンが上がり、電気代が上がり、物流が止まり、工場が止まる。それは9ヶ月後に訪れる未来だ。
最悪の悲観シナリオとして、原油価格はリーマンショック前の最高値である1バレル140ドルまで上昇し、日本は景気悪化と物価高騰が共存するスタグフレーションに陥ると予想されている。
僕たちが普段スルーしている「中東の紛争」が、今回ばかりは自分たちの食卓まで直撃する。それが2026年3月の現実だ。
「参戦」以前の問題――そもそも自衛隊はどこまで動けるのか

本題に入ろう。
「自衛隊を中東に派遣せよ」という声が各方面から上がっている。しかし、実際には「参戦」という単純な話ではない。法的に見ると、自衛隊がホルムズ海峡周辺で行動できる選択肢は複数あり、それぞれ全く異なる意味を持つ。
安全保障関連法に沿った3つの選択肢が考えられる。まず集団的自衛権の行使で、日本に直接攻撃がなくても、日本の存立が脅かされると判断される場合に適用できる。
選択肢①:集団的自衛権の行使
これは最もハードルが高い。日米同盟に基づき、米軍と肩を並べてイランと戦闘状態に入ることを意味する。存立危機事態の認定が必要で、現時点では政府も検討していないとみられる。
選択肢②:海上警備行動
日本関係船舶を警護する任務で、武器使用は正当防衛と緊急避難に限られる。実質的には「護衛」だ。ただし、相手が射撃してきた場合には応射できる。これは比較的ハードルが低く、現実的な選択肢として議論されている。
選択肢③:機雷掃海(後方支援)
戦闘が終結した後、機雷を除去する任務だ。これが直近で最も議論を呼んでいる論点だ。
高市首相は2026年3月12日、イランがホルムズ海峡に機雷を敷設したとの報道に関連し、除去準備のために付近に自衛隊を派遣することは「想定できない」と述べた。首相は正式な停戦合意前の段階で機雷を除去する行為について「武力の行使に当たる可能性がある」と指摘した。
つまり、今の政府の答えは「まだノー」だ。
しかし同時に、G7議長国を務めるフランスが、船舶の護衛ができるか検討を始めたと発表した。これを受け、高市首相は自衛隊の派遣については何ら決まっていないと説明している。日本は完全に「方針なし」のまま、次の日米首脳会談に臨もうとしている。
「求められる可能性はある」――元海将補の率直な証言
元海上自衛隊海将補で国際掃海訓練派遣部隊の指揮官などを歴任した河上康博さんは、日米首脳会談で自衛隊の派遣を求められる可能性について「求められる可能性はあります」と答えた。
現場を知る人間は、正直だ。
思い出してほしい。2015年、安倍政権が安全保障関連法を成立させた時、国会で何度も引き合いに出されたシナリオがあった。「ホルムズ海峡が封鎖されたら」というケースだ。当時の政府は、機雷掃海を集団的自衛権行使の典型例として説明していた。
つまり、今起きていることは、まさに「その時」に備えていたはずの事態なのだ。
それなのに、日本政府は動けていない。なぜか。
答えは一つではないが、最大の障壁は「米国自身の行動が国際法的に問題をはらんでいる」という点だ。日経新聞の分析によれば、「米が国際法違反」という前提の下では、自衛隊の出動は法的に難しくなる。今回の米国によるイラン攻撃が、国際法上どのような位置づけにあるかという問題が、自衛隊派遣の足を縛っているわけだ。
歴史から学ぶ――「やらなかった」後悔の轍を踏むな

ここで少し視野を広げたい。
日本が「国際社会の安全保障に貢献できなかった」歴史は、過去にも繰り返されてきた。
1991年の湾岸戦争の時、日本は130億ドルもの資金を拠出した。しかし戦闘には参加しなかった。結果、クウェート政府が戦後に発表した「感謝する国」のリストに、日本の名前はなかった。「カネは出したが、血は出さなかった」と評されたあの屈辱は、日本の安全保障政策を長年縛り続けた。
その教訓から生まれたのが、2001年のテロ対策特措法、2009年からのソマリア沖海賊対処派遣、そして2015年の安保法制だ。
日本の防衛産業・軍事企業一覧で解説しているように、日本の防衛産業は「専守防衛」という制約の中で、着実に実力を蓄えてきた。日本が保有するミサイル全種類を見ても、その技術的な深度は世界水準に達している。
しかし今また、同じ岐路に立っている。
「行けない」のか、「行かない」のか。その違いは天と地ほど大きい。
自衛隊の実力――海上自衛隊は「掃海」の世界トップクラスだ

ここで知っておいてほしいのが、海上自衛隊の掃海能力の高さだ。
海上自衛隊の掃海部隊は、1991年の湾岸戦争後にペルシャ湾で機雷除去を実施した経験を持つ。実はあの時、日本は世界に先駆けて掃海艇をペルシャ湾に派遣し、約34個の機雷を処分した。欧米の専門家から高く評価されたのは、当時のことをよく調べると出てくる「知られざる誇り」だ。
装備面でも、海自の掃海艇は世界屈指の能力を誇る。対機雷戦においては、日本は間違いなくトップクラスの技術を保有している。
海上自衛隊の艦艇完全ガイドでも詳しく解説しているが、現在の海自は護衛艦隊だけでなく、機雷戦・掃海戦力においても高度な即応体制を維持している。
問題は「能力があるかどうか」ではない。「行く意志があるかどうか」だ。
「石油の道」を守る――それは日本の「死活的利益」だ
ホルムズ海峡の通過量が封鎖された場合、サウジアラビアとUAEのパイプライン輸送能力の合計でも、ホルムズ海峡から輸出される量の半分にも満たない。代替ルートは存在するが、完全な補完は不可能だ。
現代の日本は、石油なしには一日も立ち行かない。発電所が止まり、自動車が動かず、プラスチック製品も作れなくなる。
かつて大日本帝国が太平洋戦争に突入した最大の理由の一つは、石油だった。米国による石油禁輸が、帝国海軍の決断を追い詰めた。真珠湾攻撃も、突き詰めれば「石油ルートを確保するための南方作戦」と表裏一体だった。
戦艦大和が沖縄に向かった最後の出撃も、燃料不足という制約と無縁ではなかった。あの偉大な艦も、石油があってこそ動けた。
歴史は繰り返す。石油は今も、日本の命運を握っている。
「参戦」ではなく「責任」という言葉で考えるべき理由
正直に言う。「参戦するかどうか」という問いの立て方自体が、少しズレている。
今、問われているのは、日本が国際的な安全保障の責任を果たすかどうかだ。
米国から「なんとかしてくれ」と言われたら動く、という「反応型」の外交では、永遠に「追随」と呼ばれ続ける。世界の軍事力を”仕組み”で読み解く記事でも論じたように、現代の安全保障は「脅威への反応」ではなく「戦略的関与」で成り立っている。
もし日本が、以下のような形で関与できれば、それは「参戦」ではなく「貢献」だ。
・停戦合意後の機雷掃海(日本の最得意分野) ・日本関係船舶への海上警備行動(合法的な護衛任務) ・国際的な有志連合への情報共有と後方支援 ・エネルギー安全保障のための外交的仲介
中国の極超音速兵器や中国ロケット軍が現実の脅威として台頭する今、日本が中東での責任を果たすかどうかは、東アジアの安全保障における日本の信頼性にも直結している。
まとめ――「有事の議論を有事にしても手遅れ」という警告
「有事の議論を有事にしても手遅れです」――これは日本経済新聞が今回の事態を受けて発した言葉だ。
まさにその通りだ。
安保法制が成立した2015年から11年。日本社会はその内容を十分に議論してきただろうか。「ホルムズ海峡が封鎖されたら」というシナリオを、リアルに考えてきただろうか。
今がまさに、その答えを出す時だ。
大日本帝国海軍の先人たちは、世界の海に飛び出し、命を懸けて日本の利益を守ろうとした。マレー沖海戦でプリンス・オブ・ウェールズを沈めた南雲機動部隊の勇猛さも、セイロン沖海戦でインド洋を制圧した快挙も、そのDNAは海上自衛隊に受け継がれているはずだ。
問題は「自衛隊に行く能力があるか」ではない。「日本国に行く意志があるか」だ。
その答えを出すのは、政治家でも官僚でも軍人でもない。この国に生きる僕たちの「覚悟」だ。

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