コングスベルグとは|空自F-35のミサイル「JSM」を作るノルウェーの200年企業──NSM・JSM・NASAMSの製品と顧客、工場、輸出の厳しさまで

コングスベルグ 200年続くノルウェーの防衛企業

2026年3月、航空自衛隊のF-35Aに積むためのミサイル「JSM」の最初の納入が行われた。F-35の機内の兵器倉に収まる対艦・対地ミサイルで、日本が2019年から発注を重ねてきたものだ。

ニュースを見て「JSMってどこのミサイル?」と思った人も多いと思う。アメリカ製だと思われがちだが、作っているのはノルウェーの会社だ。名前はコングスベルグ。首都オスロから西へ車で1時間ほどの、人口3万人に満たない小さな町の名前をそのまま社名にしている。

コングスベルグは、軍艦や沿岸から撃つ対艦ミサイル「NSM」、地上配備の防空システム「NASAMS」など、ニュースでよく見る装備を作っている。ところが、会社そのものについて日本語で説明されることはほとんどない。

この記事は、ミサイルの性能を比べる記事ではない。装備の名前から入ってきた人が「それを作っているのはどんな会社で、誰に売っていて、どこで作っているのか」をつかめるように、製品・顧客・製造体制の関係を整理していく。

この記事のポイント
目次

コングスベルグとは|会社の基本情報

艦上から発射されるNSM。
艦上から発射されるNSM。
写真・素材:U.S. Navy photo by Chief Mass Communication Specialist Shannon Renfroe/Wikimedia Commons(Public domain)
項目 内容
正式名 コングスベルグ・グルッペン(Kongsberg Gruppen ASA)
本社 ノルウェー・コングスベルグ
創業 1814年(コングスベルグ兵器工場として)
大株主 ノルウェー政府(約50.004%)
上場 オスロ証券取引所(銘柄コードKOG)
主な事業 防衛システム、ミサイル・航空構造、海洋観測(ディスカバリー)
2024年の売上高 約489億ノルウェー・クローネ(船舶部門を含む)
2025年末の受注残 約1,570億クローネ(うち約1,300億クローネが分離後の本体に残る)

1ノルウェー・クローネを約14円として単純に換算すると、受注残1,300億クローネは2兆円近くになる。2026年1〜3月期だけで270億クローネの受注を取り、前年同期の倍以上になった。最大の契約は、ポーランド向けの対ドローン防空システムで、160億クローネ規模だった。

大株主がノルウェー政府というのが、この会社を理解するうえで大事なところだ。株の半分強を国が持ち、残りはオスロの市場で売買されている。民間企業でありながら、国の安全保障政策と深く結びついた会社である。

200年の歴史|兵器工場から始まった

コングスベルグの始まりは、ナポレオン戦争の最中の1814年3月にさかのぼる。銀山の町だったコングスベルグに、鉱山の技術を生かした国営の兵器工場が作られた。

19世紀の終わりには、この工場で生まれたクラッグ・ヨルゲンセン小銃が、ノルウェー軍だけでなくアメリカ陸軍にも採用された。小さな国の工場の製品が、大国の軍隊の制式小銃になったわけだ。

そして1970年代には、西側でも早い時期の対艦ミサイル「ペンギン」を実用化する。フィヨルドの入り組んだ海岸線を持つノルウェーにとって、小さな高速艇から撃てる対艦ミサイルは、国を守る切り札だった。このペンギンの後継として生まれたのが、いまのNSMだ。

日本人が知っておきたい「東芝機械ココム違反事件」

コングスベルグの歴史には、日本と深く関わる事件もある。

1980年代、日本の東芝機械が、船のスクリューを精密に削れる工作機械をソ連に輸出した。このとき、機械を動かす数値制御装置を提供したのが、当時のコングスベルグの兵器部門だった。共産圏への戦略物資の輸出を禁じる国際的な取り決め(ココム)に違反するもので、ソ連の潜水艦のスクリュー音が静かになり、西側の対潜作戦を困らせたとして、1987年に大問題になった。

日本では「東芝機械ココム違反事件」として知られるこの一件で、コングスベルグも大きく体制を作り直すことになった。1995年から今の「コングスベルグ・グループ」の名前になっている。

何を作り、誰に売っているのか|製品と顧客の対応表

オランダ軍のNASAMS発射機。
オランダ軍のNASAMS発射機。
写真・素材:Defensie/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

主な防衛製品を、顧客とあわせて整理する。

製品 どんな装備か どこから撃つ・どこに置く 主な顧客・採用国
NSM 対艦(一部は対地も可)の巡航ミサイル 艦艇、沿岸の発射車両 ノルウェー、ポーランド、米海軍・米海兵隊、オーストラリア、ドイツ、オランダ、英国、スペイン、デンマーク、カナダなど
JSM NSMをもとにした航空機用の巡航ミサイル。F-35の機内に収まる 戦闘機(F-35ほか) ノルウェー、日本、オーストラリア、ベルギー、ドイツ、米空軍が選定など
NASAMS 地上配備の中距離防空システム。米レイセオンと共同開発 地上 ノルウェー、米国の首都圏防空、ウクライナなど
プロテクター 車両や艦艇に載せる遠隔操作の銃塔 装甲車、艦艇 米陸軍など多数
対ドローン防空 ドローンを探知・迎撃するシステム 地上 ポーランドなど

この表から、会社の稼ぎ方が見えてくる。

要点

次に、アメリカの大手と組んでいることだ。NASAMSはレイセオンと共同開発し、NSMもアメリカ向けではレイセオンが製造や販売を担ってきた。JSMはロッキード・マーチンとF-35への組み込みで手を組んでいる。小さな国の会社が、アメリカの巨大な市場に入るために、現地の大手と組む。これがコングスベルグのやり方だ。

防空のNASAMSも、コングスベルグの看板のひとつだ。もともと戦闘機用だったアメリカ製の空対空ミサイルを、地上の発射機から撃てるようにした仕組みで、ノルウェーとアメリカのレイセオンが組んで作った。ミサイル自体はアメリカ製でも、指揮統制の部分や発射機はコングスベルグの担当で、システム全体として売れるたびに、コングスベルグにも仕事が回ってくる。アメリカの首都ワシントン周辺の防空にも使われ、ロシアの侵攻を受けたウクライナにも送られて、実戦で巡航ミサイルやドローンの迎撃に使われた。実戦の実績が、さらなる注文を呼ぶ循環が生まれている。

そしてもう一つ、NATOの国々を中心に、同じ製品を何か国にも売っていることだ。NSMの採用国は10か国を大きく超え、ヨーロッパの海軍の対艦ミサイルの標準になりつつある。顧客が増えるほど、量産の効率が上がり、部品や訓練も共通にできる。

どこで作っているのか|ノルウェー、アメリカ、オーストラリア

NSM・JSM・NASAMSの用途を並べる。
NSM・JSM・NASAMSの用途を並べる。

注文が増えれば、作る場所が足りなくなる。コングスベルグはいま、製造拠点を国の内外に広げている。

拠点 内容
ノルウェー・コングスベルグ 2024年に新しいミサイル工場を開設。NSMとJSMの年間生産を大幅に増やした。周辺の工業団地を拡張し、1,200人規模の熟練工が働く計画
米国・バージニア州 2024年9月、約1億ドルを投じてJSMとNSMの組み立て・改修・修理の拠点を作ると発表。約180人の雇用を見込む
オーストラリア・ニューカッスル近郊 2025年4月にNSM・JSMの工場の建設が始まり、2027年からの製造を見込む

ノルウェーの新工場は、政府とEUの弾薬増産の支援を受けて建てられた。ロシアのウクライナ侵攻以降、ヨーロッパでは「弾が足りない」ことが大きな問題になり、ミサイルの生産力そのものが安全保障の一部とみなされるようになった。

アメリカとオーストラリアに工場を置くのは、大口の顧客の「自分の国で作りたい」という要望に応えるためでもある。有事に海の向こうから運んでくるのでは間に合わない。顧客の国の中で組み立て、整備できるようにすることが、売り込みの条件になってきている。

ちなみにコングスベルグは、フィンランドの防衛企業パトリアの株も49.9%持っていて、北欧の防衛産業の中で大きな存在感を持っている。

日本との関係|空自F-35AのJSM

日本とコングスベルグの関係でいちばん大きいのが、航空自衛隊のF-35Aに積むJSMだ。

日本は2019年3月にJSMの最初の契約を結び、その後も2019年11月、2020年12月、2024年11月、2025年12月と発注を重ねてきた。そして2026年3月に最初の納入が行われた。ただし、実際にF-35Aから撃てるようにするには、機体側のソフトの改修が必要とされていて、運用開始はもう少し先になる。

JSMは、日本が「スタンド・オフ・ミサイル」と呼ぶ、敵の対空ミサイルの届かない遠くから撃てるミサイルのひとつだ。日本は国産の12式地対艦誘導弾の能力向上型や、アメリカのトマホークなども導入しようとしていて、JSMはその中で、F-35から撃つものを受け持つ。種類ごとの違いは日本のスタンド・オフ・ミサイル比較に、国産の対艦ミサイルは12式地対艦誘導弾の解説にまとめている。空自のF-35については航空自衛隊のF-35A/B解説を見てほしい。

40年前、コングスベルグの技術は日本の企業を通じてソ連に流れ、日米関係を揺るがせた。いまは、そのコングスベルグのミサイルが、日本の最新戦闘機の兵器倉に収まろうとしている。会社の歴史を知ると、なかなか味わい深い巡り合わせだと思う。

輸出の厳しさ|マレーシアのNSMが届かなかった

コングスベルグの製品を買うときに、顧客が気にしなければならないことがある。ノルウェー政府の輸出管理が厳しいことだ。

要点

マレーシアは、戦闘艦の計画に重大な影響が出ると強く反発し、支払った代金の返還を求め、法的措置も検討した。7月には、ノルウェーからの新たな防衛装備品の調達を止めると表明している。

この一件は、防衛装備を買うということが、製品だけでなく、作った国の政治も一緒に買うことだと示している。どれほど優れたミサイルでも、売る国の判断ひとつで届かなくなることがある。日本のように同盟国の枠組みの中にいる国にとってはそれほど心配のいらない話だが、コングスベルグという会社を見るうえでは、見落とせない特徴だ。

2026年の変化|船の会社から、防衛の会社へ

2026年の船舶事業分離で、KONGSBERGとKongsberg Maritimeを分けて見る必要がある。
2026年の船舶事業分離で、KONGSBERGとKongsberg Maritimeを分けて見る必要がある。

コングスベルグは2026年に、大きく姿を変えた。

もともとコングスベルグには、商船の航行システムや船の自動化装置などを作る「コングスベルグ・マリタイム」という大きな部門があった。これを2026年4月23日にオスロの市場で別会社として上場させ、切り離したのだ。株主には、手持ちの株1株につき新会社の株が1株ずつ渡された。

残ったコングスベルグは、防衛システム、ミサイル・航空構造、海洋の観測や探査の機器を主な事業とする会社になった。民間の船の景気に左右される部門を切り離し、受注が積み上がる防衛を軸にする。投資家から見れば、より「防衛株らしい」会社になったと言える。

投資家目線|コングスベルグ株の見方

コングスベルグはオスロ証券取引所に上場していて、ヨーロッパの防衛株の中でも、ここ数年で大きく注目された銘柄のひとつだ。ノルウェー政府が大株主で、経営が安定している一方、国の方針の影響を強く受ける。マレーシアの件のように、政府の輸出管理の判断が業績に響くこともある。

日本の証券会社でノルウェーの株を扱っているかは会社によって違うので、興味がある人は各社で確かめてほしい。ヨーロッパの防衛株の全体像は、ラインメタル株やBAEシステムズ株の記事、そして防衛関連銘柄の完全投資ガイドが参考になると思う。世界の防衛企業の中での位置づけは世界の防衛産業ランキングでも整理している。

※この記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではない。株価や業績は変動し、元本割れの可能性もある。投資判断は自己責任で。

防衛関連の銘柄をまず日本株や米国株から見てみたいなら、両方を扱える証券口座をひとつ持っておくと便利だ。

なぜいま、ヨーロッパの防衛企業にこれほど注文が集まっているのか。地政学の側から押さえておきたい人には、この本がちょうどいい。

よくある質問

コングスベルグはどこの国の会社?

ノルウェーの会社だ。本社はノルウェー南部のコングスベルグという町にあり、ノルウェー政府が株の半分強を持っている。

NSMとJSMの違いは?

NSMは艦艇や沿岸の発射車両から撃つ対艦ミサイル、JSMはNSMをもとにした航空機用のミサイルだ。JSMはF-35の機内の兵器倉に収まるように形が作り替えられている。どちらもコングスベルグが開発した。

自衛隊はコングスベルグの製品を使っている?

航空自衛隊がF-35A用にJSMを導入している。2019年から発注を重ね、2026年3月に最初の納入が行われた。

コングスベルグとレイセオンの関係は?

防空システムのNASAMSを共同開発したパートナーで、アメリカ向けのNSMでもレイセオンが製造や販売を担ってきた。小国の企業が米国市場に入るための重要な提携相手だ。

コングスベルグ・マリタイムとは?

コングスベルグの船舶機器の部門で、2026年4月に別会社として上場し、グループから切り離された。残ったコングスベルグは防衛を中心とする会社になった。

まとめ|コングスベルグは「小国の兵器工場」から「NATOの弾薬庫」へ

コングスベルグは、ノルウェーの小さな町の兵器工場から始まり、200年かけて、NATOの国々にミサイルと防空システムを売る会社になった。NSMとJSMという兄弟のミサイルを、艦艇・沿岸・航空機の3つの発射方法に広げ、アメリカの大手と組み、顧客の国の中にまで工場を建てる。2026年には船舶部門を切り離し、より防衛に集中する会社になった。

一方で、国が大株主であることは、強みであると同時に、輸出の判断に政治が色濃く出るということでもある。空自のF-35に積まれるJSMのラベルの向こうには、そんな会社の姿がある。日本が持つミサイルの全体像は日本のミサイル全種類の解説にまとめている。

最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。

出典・参考資料

表紙の写真素材:
写真・素材:U.S. Navy photo by Chief Mass Communication Specialist Shannon Renfroe/Wikimedia Commons(Public domain)。背景・レイアウト・文字を編集。

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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