LRASMとは|長距離対艦ミサイルの誘導・射程・B-2搭載を解説

海面近くを飛行するLRASM級長距離対艦ミサイル
海面近くを飛行するLRASM級長距離対艦ミサイル
低被探知形状と自律誘導を組み合わせたLRASMの飛行形態

LRASMとは、強力な防空網と電子戦能力を持つ艦隊を、航空機から長距離で攻撃するために開発された米国製の対艦巡航ミサイルである。正式名称はLong Range Anti-Ship Missile、制式番号はAGM-158C。日本語では長距離対艦ミサイルと訳される。

LRASMを単に「射程の長いハープーン」と理解すると、本質を見誤る。狙いは遠くまで飛ぶことだけではない。GPSやデータリンクが妨害されても、搭載センサーで目標海域を捜索し、艦隊の中から攻撃対象を識別して突入する能力に重点が置かれている。

この記事の要点

2026年6月には、米空軍がステルス爆撃機B-2スピリットからLRASMを実射し、退役艦USSジュノーを標的とする撃沈演習を実施した。B-1BやF/A-18E/Fに続き、B-2が対艦攻撃へ加わった意味は大きい。探知されにくい爆撃機が、探知されにくい長距離ミサイルを放つからだ。

この記事では、LRASMの誘導方式、射程をめぐる約370km超と約900kmという数字の違い、B-2搭載の戦略的意味、ハープーンやトマホークとの違い、強みと限界まで整理する。

この論点を広く比較するなら、「日本が保有するミサイル全種類を完全解説!極超音速ミサイルから弾道ミサイル防衛まで」もあわせて確認したい。

目次

LRASMとは何か

LRASMは、米国防高等研究計画局DARPA、米海軍航空システム軍団NAVAIR、米空軍が共同で育てた空中発射型の長距離対艦ミサイルである。メーカーはロッキード・マーティンで、AGM-158B JASSM-ERの機体を基礎に、洋上目標を捜索・識別するセンサーと対艦攻撃用ソフトウェアを組み込んだ。[1][2]

開発は2009年に始まり、2013年までDARPAの実証計画として進められた。2014年には米海軍の正式計画へ移り、B-1Bでは2018年に初期運用能力を獲得した。米海軍はLRASMを、攻撃的対水上戦闘OASuWにおける空中発射能力の空白を埋める兵器と位置付けている。[2][3]

項目内容
正式名称AGM-158C Long Range Anti-Ship Missile
種類空中発射型・長距離対艦巡航ミサイル
開発DARPA、米海軍、米空軍
製造ロッキード・マーティン
基礎設計AGM-158B JASSM-ER系列
飛翔速度高亜音速
公開射程メーカー公表は200海里超、約370km超
弾頭約1,000ポンド級の貫徹・爆風破片弾頭
誘導慣性航法、耐妨害GPS、受動RF、赤外線センサー
主な運用機B-1B、F/A-18E/F
統合・試験中B-2、F-35系列など

LRASMが必要になった理由

AGM-84ハープーンは1970年代から使われてきたが、長距離防空と電子戦を組み合わせた現代艦隊へ攻撃するには、発射母機の生残性と妨害下の目標追尾が問題になる。

長距離対艦攻撃は発射より命中が難しい。艦艇は移動するため、発射時の座標へ飛ぶだけでは外れる。衛星や哨戒機から位置更新を受けるのが理想だが、実戦では通信妨害や衛星攻撃が起こり得る。

NAVAIRとDARPAは、LRASMが情報・監視・偵察プラットフォーム、ネットワーク、GPSへの依存を減らし、精度が十分でない初期情報からも搭載センサーで目標を絞り込むと説明する。[2][3] 外部情報を完全に不要にするわけではないが、発射後も監視機が付き添わなければ成立しない兵器から離れようとした点が重要だ。

私はLRASMの価値を、飛距離よりもこの部分に見る。海戦では、遠くまで飛ぶミサイルより、情報網が傷ついたあとも正しい艦を探せるミサイルの方が怖い。LRASMは海面を飛ぶ一本の槍ではない。敵艦隊の電波、配置、誤認の余地まで計算して初めて形になる「飛ぶ判断装置」である。

LRASMの誘導方式

LRASMの誘導には機密部分が多いが、米国防総省の運用試験評価局DOT&E、NAVAIR、DARPA、BAEシステムズの公開情報から大まかな流れは分かる。

発射前に目標海域と任務情報を入力する

発射母機は、衛星、哨戒機、艦艇、電子情報などから得た情報を基に、LRASMへ目標区域と任務データを与える。正確な現在位置が不明でも、「この海域にいる高価値目標を攻撃する」という手掛かりから出発し、飛翔中に候補を絞り込める設計である。

中間飛翔は慣性航法と耐妨害GPS

DOT&EはLRASMについて、慣性航法装置、妨害に強いGPS、無線周波数センサー、赤外線センサーを組み合わせると説明している。[4] 慣性航法は外部電波なしでも飛べるが、時間とともに誤差が蓄積する。GPSは誤差を補正できる一方、敵のジャミングや欺瞞信号にさらされる。

LRASMはGPSが常に正常であることを前提にせず、慣性航法と搭載センサーで任務を継続する。具体的な飛行高度や経路は公表されていない。

受動RFセンサーで艦隊の電波を探る

中核の一つが、BAEシステムズ製の受動RFセンサーである。敵艦が発する捜索レーダー、射撃指揮レーダー、通信などを利用し、目標群の位置や性格を推定する。

受動式は、ミサイル自身が強い電波を出さずに済む。敵がレーダーを使えば手掛かりとなり、沈黙すれば艦隊防空の監視能力が落ちる。防御側は「レーダーを切れば安全」とはならない。

ただし電波だけで艦名までは断定できない。囮、民間船、護衛艦、主目標が混在する海域では、別のセンサーと脅威ライブラリを組み合わせる。改良型C-3では、その更新が計画されている。[5]

赤外線センサーで終末識別する

終末段階では赤外線センサーが艦艇の形状や熱的特徴を捉え、候補の中から攻撃対象を絞り込む。DOT&Eは、発射後に搭載センサーが目標を位置付け、識別し、終末誘導を行う構成を示している。[4]

単純に最も近い反射物へ突入するのではなく、艦隊の編成、電波、赤外線像、任務データを突き合わせ、高価値目標を選別する思想である。詳細な識別アルゴリズムと、ミサイル間の情報共有方法は機密だ。

自律型だが人間の任務設定を離れるわけではない

LRASMはAIミサイル、自律型ミサイルとも呼ばれる。しかし公開情報が示す中心は、半自律的な航法、探索、識別、終末誘導である。人間が任務と目標区域を設定して発射し、通信が途切れた後も搭載センサーで処理を続ける。

したがって、遠方の海を自由に徘徊し、政治的判断まで含めて攻撃対象を決める兵器と説明するのは行き過ぎだ。自律性の目的は、妨害下でも人間が与えた任務を完遂することにある。

LRASMの射程は何kmか

LRASMの射程には、約320km超、約370km超、約500km、約900kmと複数の数字が流通する。結論から言えば、現行型の正確な最大射程は公表されていない。「900kmで確定」も「370kmしか飛ばない」も断定できない。

公式に確認できるのは200海里超

ロッキード・マーティンの公開資料は、LRASMの射程を200海里超としている。200海里は約370kmなので、公式に確認できる最低線は約370kmを上回る水準である。[6]

日本の防衛研究所は過去の公開情報を基に320km超と整理した。[7] 数字が違うのは資料の時期、型式、換算、公開方針が異なるためと考えられる。いずれも最大射程の上限ではなく、「少なくともこれ以上」という表現だ。

約900kmは日本側資料にも登場した推定値

衆議院調査局の2022年資料には、2017年に導入を決めたJSMを約500km、JASSMとLRASMを約900kmとする脚注がある。ただし、これは米国メーカーの公称値ではなく、当時の新聞報道を出典とした政策資料である。[8]

LRASMはJASSM-ERを基礎にするため、約900km級という推定には理由がある。ただし対艦型は捜索、迂回、低空飛行、終末機動にも燃料を使い、固定目標用と同条件では比べられない。

私は一つの表現にまとめるなら、「公式には約370km超、最大射程は非公表約900kmは有力な推定値として流通する」と書く。射程を隠すこと自体が、相手に防空圏と退避線を正確に計算させない効果を持つからだ。

C-3では射程延伸を計画

LRASM C-3では、射程拡大、見通し線外通信、目標ライブラリ更新が計画されている。DOT&Eの2025年度報告書は、C-3の早期運用能力を2026会計年度第4四半期に予定するとした。[5] ロッキード・マーティンも、C-3を射程と技術能力を強化する新型と説明する。

ただし2026年7月時点で、公開資料から正式な運用開始を確認できたわけではない。予定と達成を混同せず、現行のLRASM 1.1と開発中のC-3を分ける必要がある。

弾頭と破壊力

LRASMは約1,000ポンド、約454kg級の貫徹・爆風破片弾頭を搭載する。[9] 高亜音速のため、超音速対艦ミサイルのように運動エネルギーを前面に出す兵器ではないが、弾頭はハープーンより大きい。

狙いは船体内部へ損害を与え、機関、電源、戦闘指揮所、センサー、弾薬庫を破壊することだ。大型艦を一発で必ず沈めるとは言えないが、一発の命中でも任務遂行能力を奪うミッションキルを起こし得る。

現代艦艇には区画防御があるため、実戦では複数発を異なる方位から到達させ、迎撃弾や近接防御火器の処理能力を超えさせる攻撃が重視される。

飛行翼型ステルス爆撃機から投下されるLRASM級ミサイル
爆撃機の航続力とLRASMの射程を組み合わせた広域打撃

B-2へのLRASM搭載で何が変わったのか

2026年6月、B-2がフィリピン海で実射

米太平洋空軍は2026年6月29日、演習ヴァリアント・シールド2026でB-2がLRASMを実射したと発表した。ミサイルは6月22日にミズーリ州ホワイトマン空軍基地で搭載され、6月27日にフィリピン海のマリアナ諸島北方で発射された。標的は退役したドック型揚陸艦USSジュノーで、水上、航空、水中の戦力が協同攻撃に参加した。[10]

公開写真にはB-2の兵器倉へAGM-158Cを搭載する様子と、飛行中にミサイルが分離する瞬間が写る。米空軍は、この実射をB-2が海上目標を長距離から危険にさらせる能力の実証と位置付けた。

ただし、一回の演習成功と全部隊の完全な作戦能力は同義ではない。B-2が実戦で搭載できるLRASMの最大数、全機への統合状況、任務計画の所要時間は公表されていない。確認できるのは「B-2から発射し、海上目標へ作用させた」という事実である。

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母機とミサイルの二重ステルス

B-2はレーダー、赤外線、音響、電磁波、視覚上の兆候を減らすステルス爆撃機で、無給油航続距離は約9,600km、兵器搭載量は約27tとされる。[11] LRASMも低被探知性を重視した形状を持つ。

私はB-2搭載の価値を、単なる機種追加ではなく、母機と弾体を重ねた二重の生残性にあると見る。B-2は通常機より自由な方位から発射点へ近づき、LRASMを放って離脱できる可能性が高い。防御側はミサイルの来襲方向だけでなく、発射母機の位置も推定しにくくなる。

世界規模の対艦打撃を可能にする

B-2は空中給油を組み合わせ、米本土から遠距離任務を実施してきた。LRASMを搭載すれば、前方基地や空母だけに依存せず、遠方海域の高価値艦艇を攻撃する手段が増える。

爆撃機だけで海戦は成立せず、目標の発見と追尾には衛星、潜水艦、哨戒機などが要る。それでも射手を分散すれば、一つの基地や空母を封じるだけでは対艦攻撃を止めにくい。

2026年の演習ではB-2、F-15E、海上・水中戦力が連携した。これはLRASM単体の展示ではなく、複数領域から一隻へ攻撃を重ねる訓練だった。B-2は海軍の外から艦隊戦へ参加する、長距離かつ低被探知性の高い射手になったのである。

B-2の少数性は限界でもある

B-2は保有数が少なく、運用費も高い。日常的に多数の小型艦を攻撃する用途より、空母、大型揚陸艦、指揮艦、防空中枢となる大型艦など、失えば作戦全体へ影響する目標に向く。

B-2の総搭載量からLRASMの搭載数を割り算で求める記事もあるが、実用搭載数は専用ランチャー、兵器倉、重心、電気系統、分離安全性、認証で決まる。米軍が公開していない以上、「最大何発」と断言すべきではない。

LRASM級対艦ミサイルを機外搭載する艦上戦闘機
空母航空団から長距離対艦攻撃を行う搭載形態

LRASMを運用・試験する航空機

B-1Bランサー

B-1BはLRASMを最初に実用化した米空軍機で、2018年に早期運用能力を獲得した。[9] 大きな搭載量と長い航続距離を生かし、多数のスタンドオフ兵器を遠方へ運ぶ射手になれる。一方、B-2ほど低被探知性は高くないため、敵防空圏から距離を取る必要がある。

F/A-18E/Fスーパーホーネット

F/A-18E/Fは空母からLRASMを運用する。DOT&Eの2025年度報告書によれば、2025年3月には7発を一斉発射し、移動する海上目標を攻撃する試験が行われた。[5] 単発の命中確認から、複数発による実戦的攻撃へ評価が進んでいる。

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B-2スピリットとF-35系列

B-2は2026年6月の実射で海上攻撃能力を公に示した。F-35については、2025年にF-35Bで搭載飛行試験が行われ、2026年にはF-35C統合試験の第1段階完了が発表された。[12] ただし、F-35で実戦運用が始まったとは確認されていない。

LRASMはF-35の内部兵器倉に収まらず、外部搭載では低被探知性が低下する。それでもセンサー融合を使い、自ら射手にもなれる。

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LRASMの強み

LRASMが重視する能力

第一の強みは電子戦環境への耐性だ。GPSや外部ISRへの依存を減らし、慣性航法、受動RF赤外線センサーを組み合わせる。一つの情報源が崩れても補える。

第二は、長射程と低被探知性による母機の生残性だ。LRASMは高亜音速で、速度自体は突出しない。その代わり、形状、低空飛行、経路、受動センサーによって発見を遅らせる。発射母機が敵艦の長距離防空圏へ深く入らずに済めば、航空機と熟練搭乗員を繰り返し使える。

第三は、高価値目標の選別を狙う点である。艦隊の中に空母、防空艦、補給艦、民間船、囮が混在しても、複数センサーと目標ライブラリで攻撃対象を絞る。ただし実戦的識別能力は機密であり、「必ず空母だけを見分ける」とは言えない。

第四は、複数方向からの飽和攻撃へ組み込みやすいことだ。B-1B、F/A-18E/F、B-2が異なる方位から発射すれば、防御側は迎撃弾数、同時交戦数、レーダー死角、電子戦装置の処理能力を同時に試される。

私の見立てでは、LRASMの怖さは一発のカタログ性能より、航空機の行動半径と組み合わせて攻撃方向を増やせる点にある。優秀な防空艦でも処理能力は無限ではない。LRASMはその限界を探り、艦隊全体へ計算を強いる兵器だ。

LRASMの弱点と限界

評価時に注意したい限界

高亜音速なので、長距離目標への到達には時間がかかる。発射を早期に察知されれば、戦闘機による外側での迎撃、艦隊の分散、レーダー運用の変更を受ける可能性がある。低被探知性で発見を遅らせる設計だが、継続追尾されれば速度の不足は防御側へ時間を与える。

目標識別も難題だ。悪天候、海面反射、煙、民間船、電波管制、囮、損傷艦の熱像変化がセンサーへ影響する。C-3で目標・脅威ライブラリを更新する計画は、この問題が一度の開発では終わらないことを示す。[5]

在庫と価格も作戦規模を制限する。大型で高度なセンサーを持つLRASMは、安価な短距離ミサイルのように大量消費しにくい。高価でも空母や大型艦を無力化できれば費用対効果は成立するが、長期戦では弾薬在庫と生産速度が制約になる。

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そしてLRASMは不可視でも迎撃不能でもない。高性能レーダー、赤外線捜索追尾、早期警戒機、戦闘機、艦対空ミサイル、近接防御火器、電子戦を多層化すれば迎撃機会は生まれる。攻撃側も囮、電子攻撃、潜水艦、他形式のミサイルを組み合わせて初めて性能を最大化できる。

ハープーン・トマホーク・SM-6との違い

兵器主な特徴LRASMとの違い
AGM-84ハープーン実績豊富な亜音速対艦ミサイル一般に短射程で設計が古いが、多様な発射母体を持つ
トマホークBlock V艦艇・潜水艦発射の長距離巡航ミサイル海上発射が中心。LRASMは航空機から高脅威艦を攻撃
SM-6防空、ミサイル対処、対艦攻撃を兼ねる高速兵器速度と多用途性に強み。LRASMは低被探知性と大型弾頭を重視
JSMF-35などに統合される比較的小型の対艦・対地兵器小型で搭載自由度が高い。LRASMは高価値目標向け
JASSM-ER固定地上目標用の長距離巡航ミサイルLRASMの基礎だが、艦艇の探索・識別機能を持たない

トマホークとLRASMは、発射母体を分けて攻撃軸を増やせる。SM-6は高速、LRASMは低被探知性、航続、目標識別、弾頭重量に強みがある。優劣ではなく、早く到達する槍と、見つかりにくく深く刺さる槍の使い分けである。

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日本はLRASMを導入しているのか

日本は2017年、F-15JへJASSMとLRASMを搭載する構想を進めた。しかし改修費の高騰を受け、防衛省は2021年にLRASMをF-15能力向上事業から外す説明があったことを認めた。[8][13] 2026年7月時点で、自衛隊の保有・運用は公表されていない。

現在はF-15能力向上機へのJASSM-ER、F-35用JSM、トマホーク、12式地対艦誘導弾能力向上型などを組み合わせる方針である。LRASMを採用しなかったから日本の対艦能力が弱いとは限らない。どの発射機から、どの目標へ、何発を同時到達させられるかで評価すべきだ。

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よくある質問

LRASMの射程は900kmなのか

正確な最大射程は非公表である。メーカー公式は200海里超、約370km超。一方、日本の衆議院調査局資料には新聞報道を基に約900kmとの記述がある。約900kmは有力な推定値だが、米軍またはメーカーの確定公称値ではない。

LRASMはAIが勝手に目標を選ぶのか

搭載センサーと目標ライブラリを使い、通信が途切れた後も探索・識別を続ける半自律能力を持つ。ただし人間が任務と目標区域を設定して発射する。政治的判断を独自に行う兵器と説明するのは正確ではない。

B-2はLRASMを何発搭載できるのか

米軍は2026年6月にB-2からの実射を公表したが、実用上の最大搭載数は公表していない。総搭載量をミサイル重量で割るだけでは、ランチャー、兵器倉、電気系統、重心、分離安全性を反映できない。

LRASMは艦艇から発射できるのか

過去に艦上発射試験は行われたが、現在公に運用されている中心は空中発射型である。米海軍の水上艦・潜水艦向け長距離対艦攻撃では、トマホークBlock Vなど別の兵器も整備されている。

LRASMは空母を一発で沈められるのか

必ず沈むとは言えない。約1,000ポンド級弾頭は重大な損傷を与え得るが、大型艦には区画防御がある。現実的には複数発や他兵器との同時攻撃で、飛行甲板、機関、指揮通信、センサーを破壊し、戦闘継続を不可能にすることを狙う。

LRASMは迎撃不可能なのか

迎撃不可能ではない。低被探知性、低空飛行、受動センサーは迎撃を難しくするが、早期警戒機、戦闘機、艦対空ミサイル、近接防御、電子戦を組み合わせれば撃墜機会はある。問題は複数方向から多数が来たときに全弾を処理できるかである。

まとめ

LRASMとは、JASSM-ERを基礎に、移動する艦艇を長距離から探索・識別・攻撃する能力を加えたAGM-158C長距離対艦ミサイルである。高亜音速、低被探知性、約1,000ポンド級弾頭、慣性航法、耐妨害GPS、受動RF赤外線センサーを組み合わせ、妨害下でも任務を続けることを狙う。

射程の正確な上限は非公表だ。メーカー公式は約370km超で、日本では約900kmという推定も流通する。前者は確認可能な公式最低線、後者はJASSM-ER系列の潜在力などから導かれた推定値と見るべきである。

2026年6月のB-2実射は、B-1Bの搭載量、F/A-18E/Fの空母運用、B-2のステルス性と大陸間航続力を組み合わせ、米軍が異なる距離と方位から海上目標を攻撃する態勢を広げていることを示した。

記事全体を貫くテーマは、LRASMの強さが射程や速度だけでは決まらないという点にある。妨害下で情報をつなぎ、艦隊から狙うべき対象を見分け、母機を生還させながら複数方向の攻撃を成立させる。LRASMは、ミサイルそのものより「敵艦へ到達するまで判断を失わない仕組み」に価値がある兵器なのである。

主な参考資料

  • <a href="https://www.darpa.mil/research/programs/long-range-anti-ship-missile">DARPA「Long Range Anti-Ship Missile」</a>
  • <a href="https://www.darpa.mil/news/2013/anti-ship-missile-prototype">darpa.mil</a>
  • <a href="https://www.darpa.mil/news/2015/lrasm-prototype-flight-tests">darpa.mil</a>
  • <a href="https://www.dote.osd.mil/Portals/97/pub/reports/FY2025/Other/2025Annual-Report.pdf">米国防総省DOT&amp;E「FY2025 Annual Report」</a>
  • <a href="https://www.lockheedmartin.com/en-us/products/long-range-anti-ship-missile/lrasm-media-kit.html">Lockheed Martin「LRASM Media Kit」</a>
  • <a href="https://www.lockheedmartin.com/content/dam/lockheed-martin/mfc/pc/long-range-anti-ship-missile/22-14207-ADSW_LRASM_Product_Card_Updates.pdf">Lockheed Martin「LRASM Product Card」</a>
  • <a href="https://www.lockheedmartin.com/en-us/news/features/2026/Enhancing-Capability-and-Integration-First-Phase-LRASM-F-35C-Flight-Science-Program-Complete.html">lockheedmartin.com</a>
  • <a href="https://www.8af.af.mil/News/Article-Display/Article/1558690/ellsworth-named-eoc-basing-location-for-lrasm/">米空軍公式</a>
  • <a href="https://www.pacaf.af.mil/News/Article-Display/Article/4529308/us-airmen-and-sailors-conduct-b-2-lrasm-live-fire-sinking-exercise/">米太平洋空軍「B-2 LRASM Live-Fire Sinking Exercise」</a>
  • <a href="https://www.af.mil/About-Us/Fact-Sheets/Display/Article/104482/b-2-spirit/">米空軍「B-2 Spirit Fact Sheet」</a>
  • <a href="https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2021/0810a.html">防衛省「防衛大臣記者会見」2021年8月10日</a>
  • <a href="https://www.lockheedmartin.com/en-us/news/features/2024/lockheed-martins-jassm-and-lrasm-ramps-up-production.html">Lockheed Martin「LRASM production expansion」</a>

参考資料・主な出典

DARPA「Long Range Anti-Ship Missile」|資料を確認

darpa.mil|資料を確認

darpa.mil|資料を確認

米国防総省DOT&E「FY2025 Annual Report」|資料を確認

Lockheed Martin「LRASM Media Kit」|資料を確認

Lockheed Martin「LRASM Product Card」|資料を確認

lockheedmartin.com|資料を確認

米空軍公式|資料を確認

米太平洋空軍「B-2 LRASM Live-Fire Sinking Exercise」|資料を確認

米空軍「B-2 Spirit Fact Sheet」|資料を確認

防衛省「防衛大臣記者会見」2021年8月10日|資料を確認

Lockheed Martin「LRASM production expansion」|資料を確認

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