2026年の秋、横須賀から1隻の巡洋艦が去っていった。米海軍のロバート・スモールズ。世界で最初のイージス艦となったタイコンデロガ級の1隻で、日本に配備された最後の巡洋艦だった。
ちょうど同じころ、アメリカ本土やハワイでは、同じ級の巡洋艦シャイローとレイク・エリーが相次いで退役した。27隻作られたタイコンデロガ級で、現役に残るのは5隻。米海軍は2029年までに全艦を退役させる計画だ。
タイコンデロガ級は、イージスという言葉を世界に広めた艦である。海上自衛隊のこんごう型も、アーレイ・バーク級も、オーストラリアやスペインのイージス艦も、すべてこの艦から始まった。この記事では、タイコンデロガ級がどんな艦で、どんな戦いをくぐり、なぜいま退役していくのか、そして後継はどうなるのかを整理する。
- タイコンデロガ級は1983年に1番艦が就役した、世界初のイージス艦。27隻が建造された
- もとは駆逐艦として計画され、イージスの搭載と艦隊の指揮能力から「巡洋艦」に格上げされた
- 122セルのミサイル発射装置を持ち、艦隊防空、弾道ミサイル防衛、トマホークによる対地攻撃までこなしてきた
- 老朽化で退役が進み、2026年10月時点で現役は5隻。横須賀からも巡洋艦がいなくなった。後継をめぐっては、新型の大型水上戦闘艦「トランプ級」の計画も浮上している
タイコンデロガ級とは|基本データ

写真:U.S. Navy photo by Photographer's Mate 2nd Class Johnnie R. Robbins./Wikimedia Commons(Public domain)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建造数 | 27隻(1980年〜1994年に建造) |
| 1番艦就役 | 1983年1月22日(タイコンデロガ) |
| 船体の原型 | スプルーアンス級駆逐艦 |
| 満載排水量 | 約9,600〜1万トン |
| 全長 | 約173m |
| 速力 | 32.5ノット |
| 乗員 | 約330人 |
| 戦闘システム | イージス(SPY-1レーダー) |
| ミサイル発射装置 | Mk41垂直発射装置122セル(6番艦以降) |
| 主な兵器 | SM-2、SM-3、SM-6、トマホーク、ハープーン、5インチ砲2門、近接防御火器 |
| 搭載機 | 哨戒ヘリコプター2機 |
艦の前後に1基ずつ、合わせて122セルのミサイル発射装置を持つ。後継の主力であるアーレイ・バーク級の90〜96セルより多く、1隻あたりのミサイル搭載数ではいまも米海軍の水上艦の中でトップクラスだ。
駆逐艦として生まれ、巡洋艦になった

写真:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Brian Goodwin/Wikimedia Commons(Public domain)
タイコンデロガ級は、もともと駆逐艦として計画された。1970年代に計画が始まったとき、艦の名前は「DDG-47」、つまりミサイル駆逐艦の47番目だった。船体は、すでに量産されていたスプルーアンス級駆逐艦のものをほぼそのまま使っている。
ところが、1番艦の起工直前の1980年、分類が「CG-47」、つまりミサイル巡洋艦に変えられた。理由は、イージスという当時としては破格の戦闘システムと、艦隊全体の防空を指揮する能力を持っていたからだ。船体は駆逐艦、中身と役割は巡洋艦。この「格上げ」は、イージスがいかに特別なシステムだったかを物語っている。
旧海軍好きとしては、ここで「巡洋艦」という言葉の意味の変わり方が面白い。日本海軍の高雄型や最上型のような重巡洋艦は、大きな主砲と魚雷で敵艦と撃ち合う艦だった。タイコンデロガ級の「巡洋艦」は、主砲ではなくレーダーとミサイルで艦隊の空を守り、指揮をとる艦だ。同じ「巡洋艦」でも、求められる役割は80年でまるで別物になった。旧海軍の巡洋艦については高雄型重巡洋艦の解説や最上型重巡洋艦の解説で書いている。
艦名は「戦いの名前」|レイテ・ガルフとフィリピン・シー
タイコンデロガ級の艦名には、ほとんどがアメリカの歴史に残る戦いの名前が付けられている。1番艦のタイコンデロガは独立戦争の砦の名前で、ほかにもゲティスバーグ、シャイロー、アンティータムといった南北戦争の戦い、バンカー・ヒルなどの独立戦争の戦いが並ぶ。
旧海軍好きとしては、少し胸がざわつく名前も混ざっている。レイテ・ガルフ(レイテ沖海戦)とフィリピン・シー(フィリピン海海戦、日本で言うマリアナ沖海戦)だ。どちらも、日本海軍が空母や戦艦の多くを失い、事実上の壊滅に追い込まれた戦いである。アメリカにとっては誇るべき勝利の名前で、それを最新鋭の艦に付ける。勝った側と負けた側で、同じ戦いの名前の重さがまるで違うことを、こういうところで思い知らされる。
当時の戦いについては、レイテ沖海戦の解説とマリアナ沖海戦の解説に書いた。
イージスとは何がすごかったのか

写真:Camera Operator: PH2 CHARLES E. HILL , USN/Wikimedia Commons(Public domain)
イージスの最大の特徴は、平らな板のようなレーダー(SPY-1)を艦橋の4面に貼り付け、回転させずに全方位を同時に見張れることだ。それまでの艦のレーダーは、アンテナをぐるぐる回して周りを見ていたので、1回転するまで同じ方向を見られなかった。イージスは、何十、何百という目標を同時に追いかけ、その中から脅威の大きいものを選んで、複数のミサイルを同時に誘導できる。
この能力が求められたのは、冷戦のさなか、ソ連の爆撃機が大量の対艦ミサイルを一斉に撃ち込んでくる「飽和攻撃」に備えるためだった。空母を守るには、何十発ものミサイルを同時に相手にできる艦が要る。その答えがタイコンデロガ級だった。
最初の5隻は、ミサイルを1発ずつ腕のような装置で取り出す古いタイプの発射機を使っていたが、6番艦のバンカー・ヒルからは、甲板の下に縦に並べたセルから次々に撃ち出す垂直発射装置に変わった。これで、搭載数も発射の速さも一気に増えた。
日本の海上自衛隊が1993年に就役させた最初のイージス艦こんごうは、アメリカのアーレイ・バーク級をもとにしながら、艦隊を指揮するための設備を加えて艦橋を大きくした。役割としては、タイコンデロガ級の「指揮をとるイージス艦」の考え方も取り入れた艦と言える。弾道ミサイルを宇宙空間で迎え撃つSM-3も、タイコンデロガ級のレイク・エリーなどでの試験を経て、日本のイージス艦に載ることになった。SM-3についてはSM-3の解説に書いた。
イージスの技術が日本の艦にどう受け継がれたかは、日本のイージス艦の解説に書いた。世界のイージス艦の比較は世界最強イージス艦ランキングを見てほしい。
タイコンデロガ級の戦歴

写真:U.S. Navy photo/Wikimedia Commons(Public domain)
湾岸戦争からイラク戦争まで
タイコンデロガ級は、1991年の湾岸戦争で多数のトマホークを撃ち込み、2003年のイラク戦争でも対地攻撃に加わった。空母打撃群の防空艦でありながら、陸地をたたく打撃力も持つ。この二役が、冷戦後の巡洋艦の新しい仕事になった。
1988年、旅客機の撃墜
一方で、この艦級には重い歴史もある。1988年7月3日、ペルシャ湾でイランの小型艇と交戦していた巡洋艦ヴィンセンスが、上空を飛んでいたイラン航空655便を軍用機と誤認して撃墜した。乗っていた290人全員が亡くなった。
最新鋭のイージス艦でも、緊迫した戦闘の中では、民間機と軍用機の見分けを誤ることがある。この事件は、どれほど優れたシステムでも、最後に判断するのは人間であることを、痛ましい形で示した。
2008年、人工衛星を撃ち落とす
巡洋艦レイク・エリーは、弾道ミサイル防衛の試験艦として活躍した。2008年2月には、制御を失って落ちてくるアメリカの偵察衛星を、SM-3ミサイルで撃ち落としている。艦艇から撃ったミサイルで、宇宙を飛ぶ人工衛星を破壊した例として知られる。
紅海での戦いと、味方撃ち
2023年から2025年にかけては、紅海でイエメンのフーシ派が撃ってくるミサイルや無人機を、タイコンデロガ級の巡洋艦が何度も迎え撃った。一方、2024年12月には、巡洋艦ゲティスバーグが味方のF/A-18Fを敵と誤認して撃墜する事故も起きている(乗員2人は脱出して無事)。その後の調査では、巡洋艦と空母打撃群全体との一体の訓練が足りなかったと指摘された。
空母打撃群の中での巡洋艦の役割は、空母打撃群とはで詳しく書いた。
なぜ退役するのか|老朽化と、失敗した近代化

写真:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class James R. Evans/Wikimedia Commons(Public domain)
タイコンデロガ級が退役する一番の理由は、古さだ。最も新しい艦でも就役から30年以上たち、船体のひび割れや設備の老朽化が深刻になっていた。
米海軍は、2015年ごろから巡洋艦の寿命を延ばすための大規模な近代化に取り組み、約37億ドルを投じた。ところが、工事の遅れや予算の膨張が重なり、アメリカ政府の監査機関は2024年12月、この近代化計画が当初の目的をほとんど果たせなかったと報告している。近代化するはずだった11隻のうち、実際に部隊に戻せる見込みは3隻だけになった。
古い艦を直すのに、新しい艦を作るのと変わらないほどのお金と時間がかかる。それなら、退役させて新しい艦に予算を回したほうがいい。米海軍はそう判断し、2029年までに全艦を退役させる計画を進めている。2026年9月には、ハワイのシャイローとサンディエゴのレイク・エリーが退役し、現役は5隻になった。
横須賀と巡洋艦|日本からいなくなった「空の盾」
日本にとって、タイコンデロガ級は長く身近な艦だった。横須賀には、空母を守る巡洋艦が常に配備されてきたからだ。
シャイローは2006年から17年間、横須賀を母港にしていたが、2023年にハワイへ移った。アンティータムも2024年1月に横須賀を離れた。そして最後に残ったのが、ロバート・スモールズだ。
ロバート・スモールズは、2015年に「チャンセラーズビル」という名前で横須賀にやってきた。チャンセラーズビルは南北戦争で南軍が勝った戦いの名前で、南軍にちなむ名前を見直す流れの中で、2023年に名前が変えられた。新しい名前のロバート・スモールズは、1862年に奴隷の身から南軍の船を乗っ取って北軍側へ逃れ、のちに連邦議会議員になった人物だ。
ロバート・スモールズは2026年8月、横須賀の空母ジョージ・ワシントンに付き添って中東まで出かけた。そして2026年の秋、退役に向けてサンディエゴへ移るため、横須賀を去った。代わりに、駆逐艦マスティンが横須賀に入る。横須賀に米海軍の巡洋艦がいない時代が、ここから始まる。
後継はどうなる?|駆逐艦か、「戦艦」か
タイコンデロガ級の後継は、ここ数年で何度も方針が揺れている。
当面、巡洋艦の穴を埋めるのは、最新のアーレイ・バーク級フライトIIIだ(アーレイ・バーク級についてはアーレイ・バーク級の解説を参照)。新しいSPY-6レーダーを積み、防空・弾道ミサイル防衛の能力は、古い巡洋艦をはっきり上回る。ただし、ミサイルのセル数は巡洋艦より少ない。
その先の本命とされてきたのが、次世代駆逐艦DDG(X)だ。ところが2025年12月、トランプ政権が新しい大型水上戦闘艦「BBG(X)」、通称「トランプ級」の計画を発表した。満載排水量3万5,000トンを超える巨艦で、ミサイルや砲、レーザーなどを積む「誘導ミサイル戦艦」とされる。米議会予算局の試算では、1番艦だけで170億〜190億ドル近く、15〜25隻をそろえるには数十兆円規模の費用がかかる。2027会計年度の予算要求では、設計のための予算が初めて計上された。一方で、この計画のあおりでDDG(X)が中断されるとも報じられている。
数字で見ると、問題の大きさがよく分かる。垂直発射装置を積んだタイコンデロガ級は22隻で、1隻122セル。全部合わせると2,600セルを超えるミサイル発射筒が、艦隊から消えていく計算になる。アーレイ・バーク級のフライトIIIを1隻増やしても96セル。巡洋艦1隻の穴を埋めるのに、駆逐艦が1隻半近く要る。中国海軍が大型の駆逐艦を次々に就役させる中で、この「ミサイルの数」の目減りは、米海軍にとって頭の痛い問題になっている。
つまり、「巡洋艦の後継は何か」という問いには、2026年時点で誰もはっきり答えられない状況だ。巡洋艦の122セルという大きな「ミサイル庫」をどう埋めるのか。米海軍の水上艦の将来像は、まだ霧の中にある。
ちなみに日本も、イージス・アショアの代わりに、基準排水量で約1万2,000トンという「イージス・システム搭載艦」2隻を建造している。タイコンデロガ級より大きなイージス艦を、日本が持つことになるわけだ。詳しくはイージス・システム搭載艦の解説に書いた。
投資家目線|巡洋艦を作った造船所のいま
タイコンデロガ級27隻のうち19隻を作ったのは、ミシシッピ州のインガルス造船所だ。いまはハンティントン・インガルス・インダストリーズ(HII)の一部で、アーレイ・バーク級や強襲揚陸艦を作り続けている。残りの8隻を作ったバス鉄工所は、ジェネラル・ダイナミクスの傘下だ。新しい大型艦の計画がどう転ぶかは、こうした造船会社の将来にも直結する。
HIIについてはハンティントン・インガルス(HII)株の解説で詳しく書いた。
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模型でイージス艦の系譜をたどる
タイコンデロガ級から始まったイージス艦の系譜は、模型で並べると分かりやすい。後継の主力となったアーレイ・バーク級と、その日本版とも言えるこんごう型を並べてみるといい。
旧海軍の「巡洋艦」と比べたいなら、高雄型の重巡洋艦も面白い。同じ巡洋艦でも、艦の形がまるで違うことに驚くはずだ。
よくある質問
タイコンデロガ級は何隻ある?
27隻が建造され、2026年10月時点で現役は5隻だ。米海軍は2029年までに全艦を退役させる計画である。
タイコンデロガ級とアーレイ・バーク級の違いは?
どちらもイージス艦だが、タイコンデロガ級は122セルとミサイルの数が多く、艦隊の防空を指揮する能力を持つ巡洋艦。アーレイ・バーク級は一回り小さい駆逐艦で、数を多く作れるように設計された。いまはアーレイ・バーク級が米海軍の主力になっている。
なぜ駆逐艦の船体なのに巡洋艦なの?
もともと駆逐艦として計画されたが、イージスという強力な戦闘システムと艦隊の指揮能力を持つことから、建造前に巡洋艦に分類が変えられた。
横須賀に巡洋艦はいる?
2026年10月時点で、いなくなった。最後に残っていたロバート・スモールズが、退役に向けてサンディエゴへ移った。代わりに駆逐艦マスティンが横須賀に配備される。
タイコンデロガ級の後継は?
当面はアーレイ・バーク級のフライトIIIが穴を埋める。その先については、次世代駆逐艦DDG(X)と、トランプ政権が打ち出した大型艦BBG(X)の計画があり、2026年時点で方針は固まっていない。
まとめ|「イージスの父」が去っていく
タイコンデロガ級は、世界で初めてイージスを積んだ艦として、40年以上にわたって米海軍の艦隊の空を守ってきた。駆逐艦として生まれ、イージスの力で巡洋艦に格上げされ、ミサイル防衛や人工衛星の撃墜まで担った。一方で、旅客機の撃墜や味方機の誤射という、イージスの限界を示す出来事も経験した。
老朽化と近代化の失敗で、その歴史は2029年に幕を閉じる。横須賀からは、ひと足先に巡洋艦の姿が消えた。後を継ぐのが駆逐艦なのか、巨大な「戦艦」なのか。イージスの父が去っていくいま、米海軍の水上艦は大きな分かれ道に立っている。
アメリカ海軍の艦艇全体はアメリカ海軍の艦艇一覧【2026年版】で整理している。
最後まで読んでくれてありがとう。
出典・参考資料
表紙の写真素材:
写真:U.S. Navy photo by Photographer's Mate 2nd Class Johnnie R. Robbins./Wikimedia Commons(Public domain)。背景・レイアウト・文字を編集。







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