大型輸送ヘリCH-47チヌークは、1961年に初飛行した古い機体だ。日本では川崎重工がライセンス生産していて、陸上自衛隊と航空自衛隊で長く使われている。その1機の値段が、2020年度に76億円だったものが、2024年度の概算要求では陸自向けで185億円、空自向けで216億円になった。4年で2.4倍から2.8倍。同じCH-47系列でも、仕様の高度化などが価格に影響している。
財務省が2023年10月の財政制度等審議会に出した資料に、この109億円の値上がりの主な内訳が載っている。為替で12億円、輸入部品の高騰で18億円、ボーイングの仕様変更(コックピットの液晶化など)で33億円、原価計算で上乗せされる経費と利益で20億円、官給品等で17億円。さらにこれとは別に、ライセンス生産の設備や治工具に充てる「初度費」が353億円要求されている。
物価と円安は理由の一部にすぎない。残りは仕様と制度だ。国産兵器やライセンス生産の兵器が高いのはなぜかという問いに、この1機の内訳がほぼ全部答えている。この記事では、それを原価計算方式、初度費、少量生産、ライフサイクルコストの4つに分けて、旧軍ファンで技術好きで株もやる人間の目線で整理していく。
理由1:市場価格がないから「原価に率を掛ける」

普通の商品には市場価格がある。戦闘機や潜水艦にはない。作る会社が1社か2社しかなく、買う相手は防衛省だけで、他に売る先がない。だから防衛省は、企業が積み上げた製造原価に一定の率を掛けて価格を決める。これが「原価計算方式」で、主要な装備品の大半がこの方式で調達されている。
構造はこうだ。まず製造原価があり、中身は直接材料費、加工費(人件費と設備の減価償却)、直接経費(設計・試験費)。この原価に、企業の一般管理費・販売費に相当するGC率を掛け、さらに利益率と利子率を乗せる。防衛省の略語でGCIPと呼ぶ。財務省の資料によれば、2022年度予算ではGC率11.3%、利益率7.2%だったものが、2023年度からGC率15.3%、利益率は5〜10%の幅で企業の品質・コスト・納期の評価に応じて決まる仕組みに変わった。加えて、契約期間の長さに応じた「コスト変動調整率」が平均3%乗る。防衛相が国会で「利益率は最大15%」と答弁したのは、この利益率最大10%とコスト変動調整率最大5%を足した数字だ。
ここで大事なのは、利益が「原価の何%」で決まることだ。原価が上がれば上がるほど、掛け算で乗る利益も増える。財務省はこれを「物価上昇時や円安時には製造原価の上昇がGCIP率を乗じることで増幅される」「企業による自発的な価格低減インセンティブを低下させる要因になりうる」と書いている。防衛省は2023年の制度改正で企業の利益を厚くして撤退を止めようとし、財務省はその仕組みが価格を押し上げると指摘している。両者の綱引きが、この方式の本質だ。
東京新聞が2024年12月に報じた下請けメーカー役員の言葉が生々しい。「10年ほど前は自衛隊関連の仕事が少なくなって大変だった。防衛予算が増額されてから、見積もりが高めでも通るようになった」。防衛装備品は部品メーカーまで含めると戦闘機で1,100社、戦車で1,300社、護衛艦で8,300社が関わる。防衛省は元請けの原価は監査できるが、その下の8,300社の見積もりの中身までは見えない。財務省の資料もこれを「情報の非対称性」と呼び、2023年12月から稼働した「コストデータバンク」で部品単位の価格を蓄積して監査を強めると書いている。
理由2:設計費も治工具も国が払う「初度費制度」

2つ目は初度費だ。
装備品の試作や量産を始めるとき、設計費、試験研究費、専用の治工具、専用機械といった立ち上げの費用は、防衛省が全額を国費で負担する。これが初度費制度で、企業にとっては初期投資のリスクをほぼゼロにする仕組みだが、調達価格の側から見ると、その装備品の値段に上乗せされる固定費になる。チヌークの353億円がそれで、機体1機の値段とは別に、川崎重工が国内で生産するための設備に国が払う。
この仕組みは国産開発でもライセンス生産でも同じで、そして数が少ないほど1機あたりに乗る額が重くなる。防衛省の「早期装備化」でミサイルの推進薬工場を建てる場合も、この初度費が企業の売上に工事の進捗に応じて計上される。工場を建てる費用を国が持つから企業は投資できるが、その費用は装備品の取得費として国民が払う。ここに損得はない。ただ、国産のミサイルや戦闘機の「値段」には、機体の値段ではなく工場の値段が混ざっている、ということは知っておく価値がある。
理由3:数が出ない
3つ目は、いちばん単純で、いちばん重い理由だ。
10式戦車は年に10両前後、P-1哨戒機は年に数機、US-2救難飛行艇は数年に1機。設計費や治工具や工場の固定費は、この機数で割られる。米国のF-35が年150機前後作られるのと比べれば、日本の装備品の生産数は一桁か二桁少ない。同じ設計でも、10機作るのと1,000機作るのでは1機の値段が全く違う。
小火器で見ると分かりやすい。陸自の新小銃20式は2020年度の初回調達で3,283丁が9億3,000万円、1丁あたり約28万円。ミネベアの9mm機関けん銃は1丁44万円で、海外の同種の銃より一桁高いと批判された。銃そのものの性能というより、国内で少数だけ作る工場と人員を維持する費用が1丁ごとに乗る。小銃の豊和工業についてはこちらで書いた。
財務省の資料に並ぶ値上がりの例も、機数の少なさが効いている。10式戦車は前の中期防の平均単価13.3億円から2024年度要求で16.7億円へ26%増、16式機動戦闘車は7.2億円から9.0億円へ25%増、P-1は224億円から326億円へ45%増、たいげい型潜水艦は705億円から951億円へ35%増、C-2輸送機は230億円から297億円へ29%増。防衛省の説明はいずれも「部素材の価格上昇」と「GCIP等の増加」で、仕様変更が加わるものはさらに上がる。10式戦車の中身はこちら、戦闘機の価格比較はこちらで書いた。
数が出ない構造を変える手段が輸出だ。もがみ型護衛艦の豪州輸出は、海自向け12隻に豪州向け11隻が加わることで、ようやく「量産」の入口に立つ。防衛装備移転三原則の5類型撤廃は、この文脈で読むと意味が分かる。輸出の話はもがみ型の豪州輸出と装備移転三原則の記事にまとめてある。
理由4:買った後のほうが高い

4つ目は、取得価格が氷山の一角だということだ。
防衛力整備計画の5年間43兆円のうち、最大の項目は装備品の維持整備・可動確保で約9兆円。戦車や戦闘機を買う「車両・艦船・航空機等」の約6兆円より大きい。装備品は30年使われ、その間に検査、修理、部品交換、改修が続く。構想から廃棄までの費用をライフサイクルコスト(LCC)と呼び、防衛装備庁は一定規模以上の装備品でこれを管理しているが、財務省は「削減の成果は十分ではない」「米国のようにプロジェクトを中止した事例はない」と書いている。
数字を見る。P-1哨戒機のLCCは2015年度の見積もり3.2兆円が2023年度には4.1兆円へ27%増、C-2輸送機は1.9兆円から2.3兆円へ21%増、多用途ヘリUH-2は41%増。P-1は開発から量産、運用まで日本が単独で背負う国産機だから、量産時に価格が下がらず、運用段階で仕様変更が入り、故障が増えれば補用品が増える、という3つの要因を全部受ける。財務省が挙げるLCC増加の理由は、開発時にLCCを算出していない、独自仕様が多く汎用部品を使っていない、運用段階での仕様変更が多い、整備所要が増える、の4つで、要するに国産開発の宿命そのものだ。
この延長線上にイージス・システム搭載艦がある。まや型イージス艦2隻の2015年度時点の建造費は3,243億円だったが、イージス・システム搭載艦2隻の取得費は7,900億円、1隻3,950億円。しかもSPY-7というレーダーを艦に載せるのは世界で初めてで、比較対象がなく、量産効果も働かず、開発・試験・維持のかなりの部分を日本単独で背負う。財務省はLCCが「大きく増加していくおそれ」と警告している。イージス・システム搭載艦の中身はこちらで書いた。
国産・ライセンス・輸入:それぞれ何を買っているのか
高いと分かっていて、なぜ国産やライセンス生産を選ぶのか。財務省の資料が、3つの取得方法の損得を表にしている。
| 取得方法 | 利点 | 欠点 | 例 |
|---|---|---|---|
| 国産開発 | 技術基盤と整備基盤が国内に残る。仕様を自国で決められる | 開発費もLCCも全部日本持ち。数が出ない | P-1、C-2、10式戦車、たいげい型 |
| ライセンス生産 | 整備基盤を国内に持てる。技術向上が期待できる | ライセンスフィーに加え初度費とGCIPが乗り、割高 | CH-47、AH-64D、UH-60J、PAC-3 |
| 輸入・FMS | 早く手に入る。他国の調達事例と比べられる | 国内整備の範囲に制約がある場合、可動率に悪影響のおそれ | オスプレイ、トマホーク、SM-6、E-2D |
財務省は「あえて割高な取得方法であるライセンス生産を採用する場合には、費用対効果も含めた相応の理由が求められる」と書く。私は財務省の立場も分かるが、自衛隊ファンとしては欠点の欄の「国内整備の範囲に制約がある場合」の重さを強調しておきたい。有事に部品が来なければ、飛べない飛行機と動かない艦が並ぶ。国産とライセンスの割高分は、「自分で直せる権利」の値段だ。ただしその権利にいくら払うかは、装備品ごとに違っていいし、違うべきだ。
防衛予算に占める国内向け支出の割合は2023年度予算で76%。FMSを含む海外調達が4分の1を占め、円安のたびに膨らむ。トマホークの導入はこちらで書いた。
高くても撤退する:国産兵器の本当の問題

ここまで読むと、企業は利益率15%で守られ、初度費は国が払い、原価が上がれば利益も増える、いい商売に見える。ところが現実には、過去20年で100社以上が防衛事業から撤退した。ダイキンでは白リン発煙弾の製造撤退が報じられ、コマツは装輪装甲車から、住友重機械は機関銃から手を引いた。
理由は簡単で、儲からないからだ。防衛装備庁の資料によれば、大企業の防需率(全社売上に占める防衛事業の割合)は10%未満に集中している。会社全体から見れば防衛は小さく、それでいて機密管理や専用設備、年に数機の生産のために人と工場を維持しなければならない。利益率が原価の8%では、民間の仕事に人を回したほうがましだ、という判断が続いた。2023年の利益率引き上げと防衛生産基盤強化法は、その流れを止めるための処方箋で、財務省がそれを「価格上昇バイアス」と呼ぶのは、処方箋の副作用を指摘しているにすぎない。
つまり「国産兵器はなぜ高いか」の答えは、「高くしないと作ってくれる会社がなくなるから」でもある。防衛産業の供給網がなぜ脆いかはこちら、ダイキンの白リン発煙弾の製造撤退についてはこちらで書いた。日本の防衛産業の顔ぶれは日本の防衛産業・軍需企業一覧で確認できる。
投資家の視点:この仕組みで誰が儲かるか
株を見る目に切り替える。
原価計算方式と利益率最大15%は、防衛省と直接契約する主契約企業にとって明確な追い風だ。原価が上がれば利益が増え、品質と納期で評価されれば利益率が上がり、初度費で工場を建てるリスクは国が持つ。2023年度の防衛装備品の契約額は三菱重工が1.6兆円で前年の4.5倍、川崎重工が3,886億円で倍増した。防衛費GDP比2%時代の受益企業はこちらの記事でランキングにしてある。
ただし投資家が見落としがちな点が2つある。1つは、この利益率は「原価に対する率」なので、売上が伸びる年に利益率が上がり、減る年に下がる計算方式だということ。防衛企業の利益率を横並びで比べるとき、その年の物量で歪んでいることを知らないと読み違える。もう1つは、財務省が原価の監査とコストデータバンクを武器に価格を下げにきていることだ。過大請求の摘発は過去に何度も起きていて、NECは1999年に318億円を防衛庁に返還した。利益率が厚くなった分、監査は厳しくなる。防衛関連銘柄の全体像は防衛関連銘柄 完全投資ガイドで、防衛企業の受注残の比較はこちらで書いた。
旧軍ファンの視点:「見える」から高く見える
最後に、少し違う角度から。
戦前の日本は、戦艦も戦闘機も海軍工廠と陸軍造兵廠という国営工場で作るか、三菱や中島のような民間に発注していた。工廠の中で作る限り、価格は帳簿上の数字にすぎず、「高い」という議論そのものが成り立ちにくかった。戦後、自衛隊の装備品はすべて民間企業から買うことになり、原価計算方式で価格が数字として立つようになった。その瞬間から、国産兵器は「高い」と言われる運命を背負った。
私はこれを、悪いことだとは思わない。値段が見えるから、財務省が109億円の内訳を出せて、防衛省が仕様変更の33億円を説明しなければならず、企業は原価を監査される。工廠時代にはなかった透明性だ。高いと言われながら、その高さの中身を一つずつ点検できる。国産兵器の値段をめぐる議論は、防衛産業の健全さを測る体温計のようなものだと私は思っている。
よくある質問
国産兵器が高い最大の理由は何か
数が出ないことだ。10式戦車は年に10両前後、P-1は年に数機で、設計費や工場の固定費がその機数で割られる。加えて市場価格がないため原価に経費と利益の率を掛ける「原価計算方式」で価格が決まり、原価が上がると価格が増幅される。設計費や治工具を国が全額負担する初度費制度も、取得費に上乗せされる。
防衛装備品の利益率はどれくらいか
2023年度以降、企業の品質・コスト・納期の評価に応じて利益率が5〜10%の幅で決まり、契約期間に応じたコスト変動調整率が最大5%乗る。合計で最大15%。それ以前は利益率7〜8%程度が目安だった。国内の防衛産業から100社以上が撤退した流れを止めるための引き上げで、財務省はこれが価格を押し上げる要因になると指摘している。
ライセンス生産とFMSはどちらが安いか
FMSや輸入のほうが安くなる場合がある。ライセンス生産はライセンスフィーに加えて初度費とGCIPが乗るため割高になる。ただし国内で修理できる範囲は装備や契約によって異なり、海外での修理が必要な場合は可動率に影響するおそれがあると財務省の資料も指摘している。チヌークの場合、2020年度の76億円が2024年度要求で185〜216億円になり、そのうち20億円が原価計算の経費と利益、353億円が別途の初度費だった。
ライフサイクルコストとは何か
装備品の構想から研究開発、量産、運用・維持、廃棄までにかかる費用の総額。取得価格より維持費のほうが大きいことが多く、5年間43兆円の防衛力整備計画でも維持整備・可動確保の約9兆円が最大の項目になっている。P-1のLCCは2023年度時点で4.1兆円と、2015年度の見積もりから27%増えた。
国産兵器の価格は今後下がるのか
輸出で数が増えれば下がる可能性がある。もがみ型護衛艦の豪州輸出はその最初の例で、装備移転三原則の緩和もこの文脈にある。一方で財務省はコストデータバンクによる原価監査の強化を求めており、企業の利益率と価格の両方に圧力がかかる。物価と円安の影響はそれとは別に続く。
まとめ
国産兵器やライセンス生産の兵器が高いのは、市場価格がないため原価に経費と利益の率を掛けて価格を決める原価計算方式、設計費や治工具を国が負担する初度費制度、年に数機・数両という少量生産、そして取得後に膨らむライフサイクルコストの4つが重なるからだ。チヌークの価格上昇には、為替と輸入部品、仕様変更、経費と利益の増幅が重なり、これとは別に初度費も要求されていた。高い代わりに国内で作れて直せる、という権利にいくら払うかが、装備品ごとの本当の論点になる。そしてその値段が数字として見えること自体が、工廠の時代にはなかった健全さだと私は思う。
出典
- 財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会 資料1「防衛」2023年10月27日(原価計算方式のイメージ、CH-47の価格上昇内訳、装備品の単価上昇例、LCC、取得方法の比較、イージス・システム搭載艦のLCC分析)
- 財務省 予算執行調査「防衛装備品の調達価格に係るレート」2024年(加工費率の説明)
- 防衛装備庁「防衛生産・技術基盤の維持・強化について」2024年10月(防需率10%未満、利益率制度の改善)
- 日本経済新聞「防衛装備品、利益率最大15%に上乗せ 浜田靖一防衛相」2023年1月30日
- 日本経済新聞「防衛装備の利益率、最高15%に 防衛省 従来は8%目安」2023年10月
- 東京新聞「兵器向け部品の値段『見積り高めでも通る』」2024年12月9日(1,100社・1,300社・8,300社、契約額の記述)
- 経済界「防衛産業はビジネスチャンス。装備庁の改革で利益率は最大15%」2024年5月号
- 東洋経済オンライン「拡大する防衛費を防衛省・自衛隊が適切に使えていない可能性」2025年10月(9mm機関けん銃の単価)
- 防衛省 令和2年度予算資料(20式小銃の初回調達数量・金額)







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