たいげい型とKSS-IIIは、どちらが強いのか。
この問いに答える前に、一つ確認しておきたい。この二隻は、そもそも同じ試験を受けていない。海自のたいげい型は、敵の潜水艦と水上艦を見つけて沈めるために、世界で最も静かな通常動力潜水艦を目指して設計された。韓国のKSS-III、島山安昌浩級は、艦内に垂直発射管を持ち、弾道ミサイルで北朝鮮の内陸を撃つために設計された。核を持たない国で弾道ミサイル潜水艦を運用しているのは、世界で韓国だけだ。
排水量も全長もほぼ同じ3,000トン級の二隻が、片方は「隠れる艦」として、片方は「撃つ艦」として生まれた。私はこの記事で、その違いを7項目で採点したうえで、なぜ日韓の潜水艦が正反対に進化したのか、そして2030年代に何が起きるのかを書く。同じ日韓の対決を水上艦で見たまや型 vs 世宗大王級と読み比べると、二つの海軍の設計思想が艦種を超えて一貫していることが分かる。たいげい型そのものはたいげい型潜水艦 完全解説に、韓国の全艦は韓国海軍の艦艇一覧に譲る。
結論——7項目の採点表
一言でまとめると、潜水艦としての「本業」、つまり見つからずに相手を見つける能力ではたいげい型が上で、潜水艦を「ミサイルの発射台」として使う能力ではKSS-IIIが上だ。どちらが強いかは、何をさせるかで反転する。以下、項目ごとに見ていく。
基本スペック——ほぼ同じ大きさの、まったく違う艦

写真:海上自衛隊/出典(CC BY 4.0)。掲載用に縮小・圧縮。
| 項目 | たいげい型 | KSS-III Batch-I | KSS-III Batch-II |
|---|---|---|---|
| 就役 | 2022年〜(累計5隻。試験艦1隻を含む) | 2021〜2024年(3隻) | 2027年〜予定 |
| 基準/水中排水量 | 基準3,000トン、水中約4,300トン | 水中約3,750トン | 水中約4,000トン |
| 全長 | 84m | 83.5m | 約89m |
| 動力 | ディーゼル+リチウムイオン電池 | ディーゼル+燃料電池AIP+鉛蓄電池 | ディーゼル+燃料電池AIP+リチウムイオン電池 |
| 魚雷発射管 | 533mm 6門 | 533mm 6門 | 533mm 6門 |
| 垂直発射管 | なし | 6セル | 10セル |
| 乗員 | 約70人 | 約50人 | 約50人 |
| 建造 | 三菱重工、川崎重工 | 大宇造船海洋(現ハンファオーシャン)、現代重工業 | ハンファオーシャン、現代重工業 |
| 1隻の建造費 | 約700〜800億円 | 約1兆ウォン前後(約1,100億円) | 非公開 |
大きさはほぼ同じ。乗員はKSS-IIIが20人少なく、建造費は日本の方が安い。そして最大の違いは、KSS-IIIの司令塔後方に並ぶ垂直発射管だ。たいげい型にはその空間がなく、代わりに電池と静粛化のための構造に船体を使っている。
1. 静粛性——たいげい型が世界の基準になった理由
潜水艦の強さは、突き詰めれば「先に見つけるか、先に見つかるか」で決まる。海自はそうりゅう型以来、機関の防振、船体の吸音材、推進器の設計に投資を重ね、通常動力潜水艦として世界最高水準の静粛性を持つと国内外で評価されている。たいげい型はその延長線上で、新型ソナーと光ファイバー式の曳航ソナーを持ち、探知力でも先代を上回る。世界の潜水艦の序列は通常動力潜水艦ランキングと世界の潜水艦ランキングで扱った。
KSS-IIIは、韓国が初めて自国で設計した3,000トン級で、それ以前の韓国潜水艦はドイツの209型と214型のライセンス建造だった。静粛性についての外部評価は少なく、韓国海軍自身も数値を公表していない。私は「KSS-IIIはうるさい」とは書かない。書けるのは、海自が70年かけて積み上げた静粛化の実績に相当するものを、韓国はまだ持っていない、ということだけだ。
たいげい型の船体を模型で見ると、突起の少ない滑らかな外形と、X舵の配置に静粛化の思想が出ている。KSS-IIIとの最大の違いは、司令塔の後ろに発射管の膨らみがないことだ。
2. 動力と潜航持続——「速く長く」と「遅く長く」
| 項目 | たいげい型(リチウムイオン) | KSS-III Batch-I(燃料電池AIP+鉛蓄電池) |
|---|---|---|
| 低速での潜航持続 | 電池容量に依存。AIP艦より短い | AIPで数週間規模の潜航が可能とされる |
| 高速での潜航持続 | 鉛蓄電池の数倍。高速で長く動ける | 鉛蓄電池の限界で短い |
| 充電 | シュノーケル航走で急速充電 | AIPは充電に使えず、鉛蓄電池はシュノーケル充電 |
| 整備 | AIP機関がなく単純 | 燃料電池と液体酸素の扱いが必要 |
ここは互角で、しかも設計思想が最もよく出る項目だ。海自はそうりゅう型の後期艦で、燃料電池ではなくスターリングAIPを廃止し、リチウムイオン電池だけに切り替えた。AIPは低速でしか使えず、日本の潜水艦の任務、つまり広い海域を移動して敵を待ち伏せ、必要なら高速で位置を変える運用には、高速で長く動ける電池の方が合うと判断したからだ。
韓国はAIPを残した。北朝鮮の沿岸近くで長期間じっと潜み、弾道ミサイルの発射態勢を維持する任務なら、低速で数週間潜れるAIPの方が合う。そしてBatch-IIの張英実からは、AIPにリチウムイオン電池を組み合わせる。両方を持てば、低速でも高速でも長く潜れる。この組み合わせは、海自がまだ採用していない構成だ。リチウムイオン電池潜水艦は海自が世界に先駆けて実用化したが、韓国はその技術を2番手で取り込み、AIPと足し合わせた。
3. 武装——魚雷と、弾道ミサイル

写真:U.S. Navy / Analice Baker/出典(パブリックドメイン)
| 項目 | たいげい型 | KSS-III |
|---|---|---|
| 魚雷 | 18式魚雷 | 国産の白鮫、ティグロシャーク |
| 対艦ミサイル | ハープーン(発射管から発射) | 海星(発射管から発射) |
| 対地攻撃 | なし | 玄武-4-4 潜水艦発射弾道ミサイル、射程500km級 |
| 垂直発射管 | なし | Batch-I 6セル、Batch-II 10セル |
KSS-IIIの存在理由は、この垂直発射管にある。2021年9月、韓国は島山安昌浩から潜水艦発射弾道ミサイル玄武-4-4の水中発射に成功し、核保有国以外で初めてSLBMを運用する国になった。北朝鮮がSLBMの開発を進めるなか、韓国は「海中から北朝鮮の指揮中枢を撃てる」能力を、通常弾頭で先に持った。Batch-IIでは発射管が10セルに増え、より大型のミサイルにも対応する。
たいげい型に対地攻撃能力はない。海自の潜水艦は敵の潜水艦と水上艦を沈めることに特化し、陸を撃つ任務を持たない。ただし2022年の安保三文書以降、日本も潜水艦発射型の長距離ミサイルの開発を進めており、2030年代の海自潜水艦は垂直発射管を持つ可能性がある。KSS-IIIが10年先に到達した地点に、たいげい型の後継艦が向かっている。
4. 隻数と運用体制——22隻体制と、9隻の外洋艦
海自は22隻体制を基本とし、実戦部隊の潜水艦と練習・試験用の艦を分けて運用している。たいげい型は2022年から毎年1隻ずつ就役し、2026年3月に5番艦ちょうげいが加わった。1番艦のたいげいは新装備の試験を担う艦に転用され、実戦部隊は2番艦以降で組まれている。海自の潜水艦の配備先と艦名は海上自衛隊の潜水艦一覧に整理してある。
韓国は約20隻の潜水艦を持つが、KSS-IIIは3隻で、残りは214型9隻と209型9隻だ。KSS-III Batch-IIの3隻が2027年から加われば、外洋型の3,000トン級は6隻になる。隻数と外洋型の比率では海自が上回るが、韓国はKSS-IIIをさらに増やす計画で、その先に原潜を置いている。
5. 乗員と自動化——20人の差
KSS-IIIの乗員は約50人、たいげい型は約70人。同じ大きさの艦で20人の差は大きい。韓国は自動化を進めて乗員を減らし、日本は乗員を確保して冗長性と整備能力を艦内に残す設計を選んだ。どちらが正しいかは断定できないが、人口減少で乗員の確保が難しくなる問題は日韓共通で、海自の潜水艦乗りの待遇改善が続く背景にもなっている。たいげい型は海自の潜水艦で初めて女性乗員に対応した区画を持ち、乗員確保の裾野を広げる設計でもある。
6. 輸出——太平洋を渡った韓国、渡らなかった日本
2026年3月、島山安昌浩は鎮海を出港し、グアムとハワイを経て2か月かけてカナダへ渡った。カナダの次期潜水艦計画に韓国のハンファオーシャンがKSS-IIIを提案しており、実艦を太平洋横断で売り込みに行った形だ。競合はドイツの212CD型で、韓国は艦の性能だけでなく、造船所の規模と納期の速さを武器にしている。
日本は、2016年にそうりゅう型をオーストラリアに提案して敗れて以来、潜水艦の輸出に乗り出していない。カナダの計画にも参加していない。たいげい型が世界最高水準の通常動力潜水艦だとしても、輸出市場では存在しない艦だ。私はこれを海自の艦の弱点とは思わないが、日本の造船業の弱点だとは思っている。輸出がなければ建造ペースは国内需要に縛られ、造船所の規模も技術者の数も広がらない。韓国はKSS-IIIで、その逆をやっている。日韓の造船と輸出の全体像は海上自衛隊 vs 韓国海軍で扱った。
7. 原潜への道——承認を取った韓国、議論する日本
2025年10月、トランプ大統領は韓国の原子力潜水艦建造を承認した。建造場所と核燃料の扱いで米韓の説明にずれがあり、実現には10年前後かかると見られているが、韓国はKSS-IIIの延長線上に原潜を置き、米国の承認という最も高い壁を先に越えた。日本は原潜保有を議論する段階で、たいげい型の後継も通常動力を前提にしている。原潜の仕組みと日本の論点は原子力潜水艦とはと日本の原潜保有は実現するのかに書いた。
この項目は、2026年時点では韓国が明確に先を行く。ただし原潜は静粛性で通常動力に劣る場合が多く、韓国が原潜を持てば「隠れる艦」の役割はむしろ通常動力のKSS-IIIに残る。日韓の潜水艦が2030年代にどう並ぶかは、原潜の実現より、韓国が静粛性で海自に追いつくかどうかで決まると私は見ている。
運用の歴史——70年の海自と、30年の韓国

写真:海上自衛隊/出典(CC BY 4.0・縮小圧縮)
海自の潜水艦部隊は1955年、米国から貸与された旧ガトー級のくろしおに始まる。以来70年、おやしお、うずしお、ゆうしお、はるしお、おやしお、そうりゅう、たいげいと、途切れることなく国産潜水艦を建造し、一度も他国の設計に頼らなかった。冷戦期にはソ連太平洋艦隊の原潜を三海峡で待ち伏せる任務を担い、米海軍からも通常動力潜水艦の運用では最高水準と評価されてきた。日本の潜水艦の系譜は日本の潜水艦の歴史にまとめてある。
韓国の潜水艦部隊は1993年、ドイツ製209型の張保皐に始まる。30年で209型9隻、214型9隻を運用し、その経験をもとにKSS-IIIで初めて自国設計に踏み切った。1990年代の米韓演習で209型が米空母を「撃沈」判定に持ち込んだ逸話は、韓国海軍が潜水艦に力を入れる原点として語られる。2015年には潜水艦司令部を新設し、全潜水艦を一元指揮する体制を整えた。
70年と30年。この差は静粛化の技術だけでなく、乗員の養成、整備の体系、戦術の蓄積に現れる。KSS-IIIがどれほど新しくても、それを運用する組織の年齢は海自の半分以下だ。私はこの差を、スペック表には出ないが、実際の海中では最も重い差だと思っている。
なぜ正反対に進化したのか——地理と任務
日本の潜水艦は、宗谷・津軽・対馬の三海峡と南西諸島で、太平洋に出ようとする中国とロシアの艦を待ち伏せる艦だ。広い海域を静かに移動し、見つからずに見つける。この任務に、垂直発射管は要らない。韓国の潜水艦は、数十km先に北朝鮮がある海で、報復と抑止の手段として弾道ミサイルを運ぶ艦だ。この任務に、世界一の静粛性より発射管が要る。
同じ3,000トン級の船体で、日本は静粛化と電池に、韓国は発射管とAIPに空間を使った。まや型と世宗大王級が同じイージスで「迎撃する艦」と「撃つ艦」に分かれたのと、まったく同じ構図だ。日韓の海軍は、艦種が変わっても同じ答えを出し続けている。
投資家の視点——電池と造船所

たいげい型のリチウムイオン電池はGSユアサ製で、潜水艦用大型電池の実用化は同社の技術的な看板になった。建造は三菱重工と川崎重工が交互に担い、川崎重工の防衛事業では潜水艦がP-1・C-2と並ぶ柱だ。韓国側はハンファオーシャンとHD現代重工業が建造し、Batch-IIの電池はサムスンSDIが供給する。日韓の潜水艦比較は、そのまま両国の電池産業と造船業の比較でもある。念のため書いておくと、この段落は特定銘柄の購入を勧めるものではなく、投資判断は各自の責任で行う必要がある。
まとめ——隠れる艦と、撃つ艦
たいげい型は、見つからずに見つけるという潜水艦の本業で世界最高水準にあり、KSS-IIIは、潜水艦から弾道ミサイルを撃つという核保有国以外では唯一の能力を持つ。静粛性と隻数で日本、打撃力と輸出と原潜への道で韓国。同じ大きさの船体に、二つの国は正反対の答えを詰めた。
私の見立てはこうだ。2026年時点で「潜水艦として強い」のはたいげい型で、「潜水艦にできることが多い」のはKSS-IIIだ。そして2030年代、日本は潜水艦に長距離ミサイルを足し、韓国は静粛性と原潜を足そうとしている。まや型と世宗大王級がそうだったように、二隻は互いの答えを取り込みながら、少しずつ似てくる。
潜水艦の仕組みや各国の潜水艦戦力を通勤中に耳で学びたい人には、Audibleに軍事・地政学の書籍が揃っている。
よくある質問
たいげい型とKSS-IIIはどちらが強いのか?
敵を見つけて沈める潜水艦本来の能力ではたいげい型が上。潜水艦から弾道ミサイルを撃つ打撃力ではKSS-IIIが上。同じ3,000トン級だが設計目的が違う。
KSS-IIIは本当に弾道ミサイルを撃てるのか?
撃てる。2021年9月に島山安昌浩から玄武-4-4の水中発射に成功し、核保有国以外で初めてSLBMを運用する国になった。垂直発射管はBatch-Iで6セル、Batch-IIで10セル。
たいげい型に垂直発射管はないのか?
ない。対潜・対艦に特化した設計で、対地攻撃能力を持たない。ただし日本も潜水艦発射型の長距離ミサイルを開発中で、将来の艦で搭載される可能性がある。
リチウムイオン電池とAIPはどちらが優れているのか?
用途次第。リチウムイオンは高速で長く潜れ、AIPは低速で長く潜れる。海自はリチウムイオン一本に絞り、韓国はBatch-IIから両方を組み合わせる。
日韓の潜水艦の隻数は?
海自は22隻体制を基本とし、試験潜水艦たいげいは実戦部隊の内訳とは分けて扱う。韓国は約20隻で、KSS-III 3隻・214型9隻・209型9隻。
韓国は原子力潜水艦を持てるのか?
2025年10月に米大統領が建造を承認したが、建造場所と核燃料の扱いで米韓の説明が食い違い、実現には10年前後かかると見られている。
出典・参考
- 海上自衛隊 たいげい型潜水艦(防衛省公式) https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ss/taigei/
- 防衛省 令和7年版防衛白書(潜水艦22隻体制、スタンド・オフ防衛能力) https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2025/
- Naval News「Hanwha Ocean Launches First KSS-III Batch-II Submarine」2025年10月22日 https://www.navalnews.com/naval-news/2025/10/hanwha-ocean-launches-first-kss-iii-batch-ii-submarine/
- Hanwha「Republic of Korea Navy KSS-III submarine arrives in Canada」2026年 https://www.hanwha.com/newsroom/news/press-releases/republic-of-korea-navy-kss-iii-submarine-built-by-hanwha-ocean-arrives-in-canada-after-over-14000-km-voyage.do
- 笹川平和財団IINA「韓国の原子力潜水艦導入は実現できるのか」 https://www.spf.org/iina/articles/sanghoe_lee_05.html
- CNN「トランプ氏、韓国の原子力潜水艦建造を『承認』」2025年10月30日 https://www.cnn.co.jp/world/35239856.html
- Dosan Ahn Changho-class submarine(Wikipedia英語版、諸元と垂直発射管の照合) https://en.wikipedia.org/wiki/Dosan_Ahn_Changho-class_submarine
- Taigei-class submarine(Wikipedia英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/Taigei-class_submarine
- 海上自衛隊「試験潜水艦たいげい」:https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/sse/taigei/







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