日本海海戦で東郷平八郎が立っていた戦艦三笠の艦橋。そこに据えられていた磁気羅針儀を作った会社が、いまF-15Jのコクピットに「敵レーダーに照射されているぞ」と警報を出す装置を納めている。しかも株価は3年で6倍。
そんな会社、ふつうの株ブログはまず取り上げない。三菱重工や川崎重工の話ばかりで、東京計器(7721)はせいぜい「防衛関連の小型株」として銘柄名がリストに並ぶ程度だ。だが私に言わせれば、日本の防衛産業を「計器」という切り口で見たとき、この会社ほど面白い企業はない。
海軍指定工場から数えて125年。ジャイロコンパスを国産化して100年。そして2026年5月に創立130周年。この記事では、東京計器の防衛事業が何を作っていて、どこから金が入ってきていて、投資家として何を見ればいいのかを、私なりに整理する。
東京計器とは何者か
まず社名の「計器」だが、実はこの言葉自体が東京計器の創業者、和田嘉衡がひねり出した造語である。明治29年に和田計器製作所として創業した当時、英語のMeasuring Instrumentsに対応する日本語がなかったので、和田が「計器」という字を当てた。それが今では一般名詞になっている。日本の精密工業の語彙を一つ作った会社、というだけで私はもう好きになってしまう。
1901年(明治34年)に海軍の指定工場となり、航海用の磁気羅針儀を作り始める。前述の通り、三笠の羅針儀がこの会社の製品で、三笠が記念艦になった際に福岡の宗像大社に奉納され、今も展示されている。ミリオタなら一度は見に行く価値がある。
1918年には米スペリー社と提携してジャイロコンパスの国産化に着手。ここで得たジャイロ技術が、100年後の慣性航法装置につながっているのだから、技術の系譜というのは恐ろしい。ついでに言うと、この時代に光学計器部門を分離して作ったのが日本光学工業、つまり今のニコンである。海軍の測距儀や双眼鏡で名を馳せたニコンの母体は東京計器だった。
戦時中は水平儀や定針儀といった航空計器を国産化し、帝国海軍・陸軍の航空機を支えた。そして1945年の空襲で本社工場は壊滅。戦後しばらくは生き残った工作機械で鉛筆削りや圧力鍋を作って食いつないだ。「文化鍋」の名で三越や松坂屋に並んだというから、軍需から家庭用品への転換を文字通り鍋で乗り切ったわけだ。
その後、スペリーとの関係が深まってトキメック(TOKIMEC)と名乗った時期が長く、2008年に東京計器へ社名を戻している。古い防衛関係者はいまだに「トキメックさん」と呼ぶ。
防衛・通信機器事業の全体像

現在の東京計器は4つの主要セグメントで構成される。船舶港湾機器(ジャイロコンパス、オートパイロット)、油空圧機器(建機や工作機械向け油圧)、流体機器(超音波流量計、ガス系消火設備)、そして防衛・通信機器だ。
2026年3月期の連結売上高は611億8600万円、営業利益は53億6200万円で、2期連続の過去最高益。本社移転や人件費増で当初は減益予想だったのを、防衛・通信機器事業の伸びで吸収して増益に持っていった。会社側の説明を聞いていると、はっきり「防衛が引っ張った」と言っている。
防衛事業の顧客はほぼ防衛省で、航空自衛隊、海上自衛隊、陸上自衛隊のすべてに納入実績がある。会社の公式サイトで製品を眺めると、航空機搭載機器、地上電子機器、艦艇搭載機器、車両搭載機器という4カテゴリに整理されている。その中でも売上の柱であり、他社が容易に真似できないのが「レーダー警戒装置」と「慣性航法装置」の2つだ。順番に見ていく。
レーダー警戒装置|F-15Jの「耳」

レーダー警戒装置、英語でRWR(Radar Warning Receiver)。戦闘機の機体各所に小さなアンテナを埋め込み、敵のレーダー波を受信して「今どの方向から、どんな種類のレーダーに照射されているか」をパイロットに表示・警告する装置だ。
これが地味に見えて、戦闘機の生死を分ける。現代の空戦では、敵の対空ミサイルや戦闘機のレーダーに捕捉された瞬間に回避機動なりチャフ・フレア散布なりを始めないと間に合わない。RWRが鳴らなければ、パイロットは撃たれていることに気づかないまま死ぬ。太平洋戦争で日本の艦隊が米軍のレーダー射撃に沈められたのは、要するに「相手には見えていて、こちらには見えていなかった」からで、RWRはその教訓を航空機の側で具現化した装置と言える。
東京計器はこのRWRを航空自衛隊のF-15J向けに手がけてきた。日刊工業新聞の報道では、F-15のレーダー警戒装置を担う企業として名指しされている。公式サイトの防衛ページも「無数のマイクロ波の中から危険な周波数だけを瞬時に捉えてパイロットに警報を出す」と、この装置を筆頭に掲げている。
ここで技術ファン向けに一つ補足しておくと、RWRの難しさは「受信」そのものより「識別」にある。空には民間の航空管制レーダーも気象レーダーも艦艇のレーダーも飛び交っていて、その中から脅威となる火器管制レーダーの波形だけを瞬時に判別しなければならない。しかも敵のレーダーは年々更新される。つまりRWRは納めて終わりではなく、脅威ライブラリの更新と改修が延々と続く商売であり、これが東京計器にとっての安定収益源、いわゆる「修理・改修需要」になっている。
慣性航法装置|潜水艦と護衛艦の「目」

もう一つの柱が慣性航法装置(INS)だ。ジャイロと加速度計で自分の動きを積分し続け、外部からの電波なしに現在位置を割り出す。GPSが使えない潜水艦の水中航行や、妨害電波下での艦艇運用には必須の装備で、公式サイトには「標なき海中を航行する潜水艦を安全・確実に導く」と書かれている。
1918年にスペリーからジャイロコンパスの技術を導入して以来、東京計器は100年以上ジャイロを回し続けてきた会社だ。海自の艦艇にジャイロコンパスや慣性航法装置を納めてきた実績があり、艦艇搭載機器のカテゴリには航海信号連接盤や戦術状況表示装置、電子海図表示装置なども並ぶ。潜水艦の艦内で「今どこにいるか」を担保している会社、と言ってもいい。海自の潜水艦がどこに何隻いるかは海上自衛隊の潜水艦一覧にまとめてあるが、あの全艦の航法をこの会社のジャイロが支えていると考えると、地味という言葉の意味が変わってくる。
そして2024年11月、防衛装備庁が「MEMS-HRジャイロスコープ/慣性航法技術の研究」を東京計器と随意契約した。契約額は27億7200万円。HRGは半球共振ジャイロのことで、ワイングラスの縁を指でなぞると音が鳴るあの原理を利用して回転を検出する。従来のリングレーザージャイロや光ファイバージャイロと比べて小型・低消費電力・長寿命にできる可能性があり、それをMEMS(微細加工)で作ろうという野心的な研究だ。
会社側はこの案件を2027年3月期に納入予定の「大型案件」として業績予想に織り込んでおり、中期経営計画を上方修正した理由の一つでもある。研究段階の契約なので即座に量産にはならないが、ここで技術を握れば次世代の潜水艦、ミサイル、無人機の航法装置に食い込める。研究契約の金額自体より、この先の入口を押さえたことに意味がある。
決算説明会の質疑では「護衛艦の輸出計画に伴う慣性航法装置の受注状況」が投資家から問われている。もがみ型改良型の豪州向け3隻について、日経は東京計器の記事の冒頭でこの契約に触れており、艦艇搭載機器のサプライヤーとして輸出案件に絡む可能性が意識されている。数字はまだ見えないが、豪州が11隻体制を目指す計画であることを考えると、艦艇用INSとジャイロの供給元として長い付き合いになりうる案件だ。豪州輸出の契約内容そのものはもがみ型護衛艦の豪州輸出を解説した記事に譲る。
その他の防衛製品|地上レーダーから対ドローンまで

RWRとINSの陰に隠れているが、東京計器の防衛製品は意外と幅広い。
航空機搭載機器では逆探装置、対気諸元計算機、姿勢方位基準装置、加速度計、油圧機器。地上電子機器では捜索用レーダー装置、擬似電波発生装置(訓練でレーダー波を模擬する装置)、地図信号発生器。車両搭載機器では傾斜検知器や方位検出装置で、これは戦車や自走砲が自分の姿勢と向きを知るための部品だ。このあたりは「東京計器」と大きく書かれているわけではないが、陸海空の装備の奥に小さく入り込んでいる。
近年の動きで注目したいのは2つある。
一つは2025年7月、京都のスタートアップ、メトロウェザーとの資本業務提携で、防衛向けドップラー・ライダーの開発と生産体制を加速するという内容だ。ドップラー・ライダーはレーザーで風や微小な物体の動きを検出する装置で、決算説明会でも「防衛省側からの感触」が質疑に上がっている。もう一つは2026年7月に日経が報じた、ドローン無力化技術での協業だ。東京計器は元々マイクロ波の増幅器や発振器を作る技術を持っており、ウクライナ以降の戦場でドローン対策が最優先課題になっている流れに乗ろうとしている。
さらに通信機器事業として、移動体衛星通信用のアンテナスタビライザーや宇宙関連機器も伸びている。船やヘリの上で衛星アンテナの向きを安定させる技術は、要するにジャイロ技術の応用で、ここでも100年間回してきたジャイロが効いている。
受注と業績|数字で見る東京計器の防衛
投資家として一番知りたいのはここだろう。
2026年3月期は売上高611億8600万円、営業利益53億6200万円、純利益40億500万円。純利益はアナリスト予想の平均を上回った。2027年3月期の会社予想は売上高683億円、営業利益64億円、純利益50億円で、いずれも過去最高更新を狙う計画になっている。営業利益は3期連続の最高益更新見込みだ。
受注残高は、2026年3月期中間期末で全社618億8500万円と過去最高。このうち防衛・通信機器事業が450億300万円を占め、前年同期比で1割増えている。年商600億円強の会社が、防衛・通信だけで450億円の受注残を抱えているわけで、向こう2年ほどは仕事に困らない計算になる。他の防衛企業と受注残を並べて比べたい人は日本の防衛企業・受注残ランキングを見てほしい。売上規模に対する受注残の比率で見ると、東京計器は大手よりも「詰まっている」部類に入る。
ただし、会社自身が正直に言っている注意点がある。2026年3月期の防衛・通信機器事業の受注高は、前期に大型開発案件を複数受注した反動と、航空機搭載機器の修理需要が一服したことで減少した。さらに2023年度から2027年度までの防衛力整備計画の契約ベース予算は、前半に厚く後半にかけて減る配分になっている。つまり「受注残は過去最高だが、新規受注の勢いは前年ほどではない」というのが2026年時点の正確な姿だ。
もう一つ、この会社特有の季節性がある。防衛事業は納入が第4四半期に集中するため、第1四半期は毎年営業赤字になる。2027年3月期の第1四半期も営業損失で、前年同期比で改善はしたものの赤字だ。今期は開発案件が第4四半期に集中する見込みで、業績は第4四半期偏重になると会社が予告している。四半期決算の数字だけ見て「赤字転落」と騒ぐのはこの銘柄では素人のやることで、通期の進捗で見る必要がある。
設備投資も防衛に寄せている。2026年3月期の設備投資は本社移転分を除いて約52億円、その約7割が防衛・通信機器事業向けで、新規受注案件を実行するためのクリーンルーム追加や生産設備の取得に充てられた。2027年3月期も約40億円の設備投資のうち約半分が防衛・通信だ。那須工場に防衛関連の管理棟を建てるなど、防衛の生産能力を明確に増やしにいっている。
7721株を投資家目線で見る
ここからは投資家としての視点で書くが、最初に断っておく。私は東京計器株の売買を推奨する立場にないし、以下は公開情報に基づく私見であって、投資判断は自己責任でお願いしたい。
日経の記事タイトルが「株価3年で6倍」と付けた通り、7721は2023年頃から防衛関連の中型株として急騰した銘柄だ。2026年8月10日時点の株価は7340円前後、時価総額は約1250億円、予想PERは24倍、実績PBRは2.65倍。年間配当は2027年3月期予想で48円、前期比8円の増配だが、株価が上がりすぎて配当利回りは0.65%程度に留まる。
2026年3月時点ではPER40倍と言われていたので、それと比べれば利益成長で割高感はだいぶ薄まった。とはいえ精密機器メーカーとしてはまだ安い部類ではない。「防衛予算の伸びが2027年度で一服したら、その先の成長ストーリーをどう描くのか」が問われる局面に入っている。
私が注目している論点を挙げておく。
一つ目は防衛予算の後半減速をどう乗り切るかだ。前述の通り、現行の防衛力整備計画は後半の契約額が減る。会社は次の整備計画に向けて、MEMS-HRG、ドップラー・ライダー、対ドローン、宇宙といった新規案件で穴を埋める構えだが、これらは研究段階のものが多く、量産受注に化けるかどうかはまだ分からない。
二つ目は2026年7月に報じられた、防衛装備品工場の「国有民営」化に向けた法改正の動きだ。この報道で東京計器株は大幅続伸した。国が工場や設備を保有して民間が運営する形になれば、設備投資の負担が軽くなり、撤退リスクの高い中堅企業ほど恩恵が大きい。制度設計次第だが、東京計器のような「防衛依存度が高くて自己資本が厚くない中堅」には追い風になりうる。
三つ目はリスク側で、中東情勢による輸送遅延を会社自身が計画に織り込んでいること、Q4偏重で年度末に何かあると一気に業績がブレること、そして防衛の原価率が改善している今の状態が続くかどうかだ。2026年3月期の増益は原価率改善の寄与が大きく、これが一時的なものなら来期の利益率は下がる。
ROEは9.3%で株主資本コストの8.2%を上回っており、資本コストを意識した経営を掲げている。累進配当を目指すと明言しているのも、長期で持つ投資家には安心材料だろう。
防衛関連株全体の見方は防衛関連銘柄の完全投資ガイドに、東京計器と同じ規模感の銘柄は防衛関連の中小型株10社にまとめている。東京計器はあくまで「防衛御三家の下に広がる中堅の一角」として位置づけて考えるのが妥当だ。
もう一つ、長期で持つなら会社が掲げる「東京計器ビジョン2030」も頭に入れておきたい。売上高1000億円以上、営業利益100億円以上という目標で、2026年3月期の実績からすると売上で1.6倍、利益で2倍近い。防衛だけでここまで伸ばすのは無理で、宇宙、水素、エッジAI、鉄道機器といった成長ドライバーを本気で育てられるかにかかっている。防衛で稼いだ利益をそちらに投じている最中なので、研究開発費の増加で短期の利益率が圧迫される局面はこの先も出てくるはずだ。
三菱電機・NEC・OKIとの棲み分け

「レーダーなら三菱電機じゃないのか」と思った人もいるだろう。その通りで、艦艇の火器管制レーダーや航空機の捜索レーダー、地上の警戒管制レーダーといった「電波を出す側」の大物は三菱電機の防衛事業が押さえている。NECは通信とC4I、OKIは水中音響、つまりソナーだ。
企業規模もまるで違う。三菱電機は連結売上高が5兆円を超える巨大企業で、防衛は数ある事業の一つに過ぎない。東京計器は連結でも600億円強で、防衛・通信が全社の利益を左右する。防衛予算が増えたときの株価の感応度が段違いに大きい理由はここにあるし、逆に防衛予算が削られたときの傷も深い。
東京計器の領域はその隙間にある。「電波を受けて警告する側」のRWRと逆探装置、「電波なしで自分の位置を知る」慣性航法装置、そしてそれらを支えるジャイロと加速度計。大手が手を出しにくいニッチを、100年単位の技術蓄積で固めているのが強みだ。防衛計測の分野ではほぼ独占的な地位を持つと評されるのはこのためで、これは受注の安定性という意味で投資家にとっても重要な特徴になる。
日本のレーダー・電子戦企業の全体像は日本のレーダー・電子戦企業一覧で整理しているので、東京計器がどこに位置するかを俯瞰したい人はそちらを見てほしい。防衛産業全体の地図が欲しい人は日本の防衛産業・軍需企業一覧から入るのが早い。
まとめ
東京計器の防衛事業は、派手さはないが芯が太い。
三笠の羅針儀から始まって、スペリーのジャイロを国産化し、戦後は鍋で食いつなぎ、今はF-15JのRWRと潜水艦のINSで飯を食っている。2026年3月期は防衛が全社を引っ張って過去最高益を叩き出し、受注残は450億円。2027年3月期はMEMS-HRGなど大型案件の納入で3期連続の最高益を狙う。
ミリタリーファンとしては、次にF-15Jの写真を見たら機首や垂直尾翼のあたりにあるRWRアンテナを探してほしい。あの小さな出っ張りの中に、明治の海軍指定工場から続く130年の計器技術が詰まっている。
投資に関する免責事項:本記事は公開情報に基づく個人的な分析であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。株式投資には元本割れのリスクがある。投資判断は必ず自身の責任で行ってほしい。







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