日本の防衛産業を株で語るとき、東芝はいつも変な位置にいる。
陸上自衛隊の短距離地対空ミサイル、いわゆる短SAMを作っているのは東芝だ。中SAMのレーダーも東芝。航空自衛隊が日本の空を24時間見張っている固定式の警戒管制レーダーの一部も東芝。対ドローンシステムでは国内の先頭を走っている。防衛レーダーと防空システムに限れば、三菱電機と並ぶ二巨頭の一角と言っていい。
ところが東芝の株は買えない。2023年12月に上場廃止になり、今は投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が率いる連合の傘下にある。防衛費倍増で三菱重工や三菱電機の株価が跳ね、東京計器や日本アビオニクスが数倍になった相場で、東芝の防衛事業の価値を市場で買う手段がない。再上場は最短で2028年度とされている。
この記事では、東芝の防衛事業が何を作っていて、なぜ「株が買えない」状態になっているのか、そして再上場を待つ投資家が何を見ておくべきかを、私なりに整理する。
東芝の防衛事業はどこにあるのか
まず組織の話をしておかないと混乱する。
東芝グループの防衛事業は、株式会社東芝(川崎市幸区)の「防衛・電波システム事業部」が担っている。製造の主力は同社の小向事業所(川崎市幸区)で、設計や製造の一部は東芝電波テクノロジーという子会社が受け持つ。2025年2月には防衛事業拡大に向けてレーダー事業の組織再編が報じられており、防衛を成長領域として明確に位置づけ直している最中だ。
公式サイトの製品分類を見ると、レーダーシステム、防空システム、指揮統制システム、情報処理システム、電波探知システム、対ドローンセキュリティシステムの6つが並ぶ。要するに「電波を出して敵を見つけ、見つけた敵をミサイルで落とし、その一連の流れを指揮する」という防空の一式を、東芝は一社で提供できる。この「レーダーからミサイルまで一貫」というのが東芝の防衛事業の性格で、三菱電機と最も競合し、最も補完し合う関係にある。
もう一つ触れておくと、東芝の防衛部門は民生の航空管制も同じ事業部でやっている。日本の上空を飛ぶ1日5000機の航空機を監視するレーダーや着陸支援システムを全国に納めていて、サミットや災害時に使われる移動式着陸誘導装置も東芝製だ。軍用レーダーと民間航空管制レーダーは技術的に兄弟であり、この両輪があるからこそ防衛予算の波に多少耐えられる構造になっている。
からくり儀右衛門から電探へ|東芝と軍需の系譜
東芝の起点は1875年、田中久重が東京・新橋に開いた田中製造所にある。久重は「からくり儀右衛門」の異名で知られる幕末の発明家で、佐賀藩でアームストロング砲や蒸気船の製造に関わった人物だ。田中製造所は電信機や水雷の製造で海軍とつながり、後に芝浦製作所となって重電の名門に育つ。一方、1890年に藤岡市助が興した白熱舎は東京電気となり、電球と真空管を作った。この芝浦製作所と東京電気が1939年に合併して東京芝浦電気、つまり東芝が生まれる。
真空管を作る会社と海軍向けの機械を作る会社が合併した1939年という年は、日本が電波探信儀、いわゆる電探の開発に本腰を入れ始めた時期と重なる。東京芝浦電気は戦時中、陸海軍の電探の開発と生産に関わった企業の一つだった。ただし日本の電探は英米に決定的に遅れ、マリアナでもレイテでも、こちらが相手を見つける前に相手がこちらを見つけていた。戦後の東芝がレーダーに執着し続けてきた背景には、その敗北の記憶があると私は見ている。
1950年代に防衛庁が発足すると、東芝は国産の対空レーダーと地対空ミサイルの開発で早くから中心に座った。冷蔵庫や洗濯機やテレビの東芝が、同時に日本の防空の電波を作り続けてきたのは、この系譜があるからだ。
短SAM|陸自の防空を40年支える東芝の主契約

東芝の防衛製品で最も名が通っているのが短距離地対空誘導弾、短SAMだ。
1981年に制式化された81式短距離地対空誘導弾は、東芝が主契約者となって開発した純国産の地対空ミサイルで、陸自の師団や旅団に配備されて低空から侵入する航空機やヘリコプターを撃ち落とす役目を担ってきた。その後継が11式短距離地対空誘導弾で、これも東芝が主契約。発射機と射撃統制装置とレーダーを車両に載せたシステムで、レーダーとミサイルの両方を自社で押さえている点が特徴だ。さらに携帯式の91式や車載式の93式近距離地対空誘導弾にも東芝が関わっている。
つまり陸自の防空は、遠くから順に中SAM、短SAM、近SAMの三層で構成されていて、そのうち短SAMと近SAMを東芝が握っている。防空の「内側二層」を一社が40年以上担い続けているわけで、これは陸自の運用体系そのものに東芝が組み込まれているということだ。日本が保有するミサイルの全体像は別記事で整理しているので、短SAMがどこに位置するかはそちらで確認してほしい。
技術ファン向けに一つ。地対空ミサイルの難しさはミサイル本体より、目標を捕捉して弾を誘導し続けるレーダーと射撃統制にある。低空を高速で飛ぶ目標を地上のクラッター、つまり地面や建物からの反射波の中から拾い出すのは、上空の目標を見るより格段に難しい。東芝が短SAMで蓄積してきたのは、まさにこの低空目標処理の技術であり、これが後述する対ドローンにそのまま応用されている。
中SAMのレーダー|三菱電機・三菱重工との三社体制
陸自の中距離防空を担う03式中距離地対空誘導弾、中SAMは三社の分業で作られている。システム全体の取りまとめが三菱電機、誘導弾が三菱重工、そしてレーダーが東芝だ。
中SAMのレーダーはアクティブフェーズドアレイ方式で、イージス艦と同じく複数の目標を同時に追尾して迎撃できる。改善型では低高度目標向けに窒化ガリウム素子を使った補助レーダーが追加され、巡航ミサイル対処能力が大きく上がった。米国ホワイトサンズでの実射試験では超音速標的を含む全弾迎撃に成功したと報じられている。そして2026年度からは、改善型に弾道ミサイル対処能力を順次付与していく計画が動いている。2026年3月には高射教導隊に新しい高射中隊が新編され、与那国島への配備計画も報じられた。
投資家として見ておきたいのは、中SAMが単価の高い装備だということだ。令和6年度の中央調達では一式370億円と伝えられている。防衛力整備計画で統合防空ミサイル防衛の強化が最優先課題の一つになった以上、中SAM改善型の配備と能力向上の開発が続く限り、東芝のレーダー部門には安定した仕事が流れ続ける。日本のミサイル防衛全体の構図はPAC-3・SM-3・イージス艦を解説した記事を参照してほしい。
警戒管制レーダー|日本の空を見張る固定サイト

空自の防空は、全国のレーダーサイトが24時間空を監視し、その情報をジャッジシステムで統合して要撃機を上げる、という仕組みで成り立っている。このレーダーサイトの固定式警戒管制レーダーを、三菱電機と東芝が分け合って納めてきた。
東芝が手がけてきた代表格が固定式三次元レーダーのJ/FPS-4で、その前のJ/FPS-1も東芝製だ。防衛装備庁は次期警戒管制レーダーの開発も進めており、ここでも東芝と三菱電機が主要な担い手になる。
私はこの領域を「防衛産業で最も地味で最も重い仕事」だと思っている。戦闘機やミサイルと違ってレーダーサイトは写真映えしないし、ニュースにもならない。だが日本の防空はレーダーサイトが敵機を見つけるところから始まる。太平洋戦争で日本は電探の開発で決定的に遅れ、艦隊も本土防空もそのツケを払った。その東京芝浦電気が、戦後は空の監視網を作る側に回った。戦争を変えた発明の筆頭にレーダーを挙げる私としては、東芝のFPSシリーズにはそういう歴史の重みを感じてしまう。
対ドローン|東芝が国内で先行する新領域
ウクライナ以降、世界の防衛産業で最も需要が急伸しているのが対ドローンだ。東芝はここで国内の先頭を走っている。
東芝の対ドローンセキュリティシステムは、電波探知でドローンの操縦電波を捉え、レーダーで位置を追い、必要に応じて電波妨害で無力化する構成になっている。短SAMで培った低空目標の探知技術と、電波探知システムの技術がそのまま生きる領域で、東芝としては新規参入というより既存技術の応用だ。DSEI JapanやSEECATといった国内展示会だけでなく、2024年には世界最大級の防衛展示会ユーロサトリに出展して海外にも売り込みをかけている。
そして2026年7月31日、東芝はドローンメーカーのProdroneと、防衛分野における国産迎撃ドローンの技術連携を始めると発表した。電波で無力化するだけでなく、ドローンでドローンを物理的に落とす方向に踏み込んだ形だ。安価な自爆ドローンを高価なミサイルで撃ち落とすのは割に合わないという、ウクライナと中東で証明された問題に対する日本なりの答えになる。
対ドローンは防衛省だけでなく、原発や空港、重要インフラの警備という民需にも広がる。日本の防衛ドローン企業の全体像は一覧記事にまとめているので、東芝がどこに位置するかはそちらで見てほしい。
増産投資|横浜に79億円の新棟、国が32億円を負担

数字で見える東芝の防衛への本気度は、この投資に表れている。
2024年12月、東芝インフラシステムズは東芝の横浜事業所内に、防衛事業の電波試験棟と製造棟、そして防衛装備品の車両保管倉庫を新設すると発表した。建設費用は約79億円で、2026年4月に稼働した。従来の製造拠点である小向事業所が手狭になったためで、レーダーの試験と防衛装備品の製造能力を大きく増やす狙いだ。
注目すべきは、このうち約32億円を防衛装備庁が負担していることだ。2023年に施行された防衛生産基盤強化法を活用し、製造工程の効率化に必要な設備を国の費用で入れる契約を結んだ。企業が撤退しないよう国が設備投資を肩代わりする仕組みで、東芝はその最初期の大型案件の一つになった。防衛産業のサプライチェーン強靱化の文脈で言えば、東芝は「国が守ると決めた企業」の側に入っている。
公式サイトの記述を読むと、東芝はレーダーの心臓部であるマイクロ波半導体モジュールを自社開発しており、AIや量子技術を使った信号処理ソフトも内製している。そして「大規模な増産へ対応するための量産体制強化」を明言している。防衛レーダーの国内供給力を、三菱電機と東芝の二社で支える構図がこの先も続く。
投資家目線で見る東芝|買えない防衛株をどう考えるか
先に断っておく。私は東芝や関連企業の株の売買を推奨する立場にないし、以下は公開情報に基づく私見であって、投資判断は自己責任でお願いしたい。
東芝は2023年12月、JIPが率いる企業連合による約2兆円のTOBを経て上場廃止になった。2015年の不正会計、原子力事業の巨額損失、アクティビスト株主との長年の対立を経て、非公開化して立て直す道を選んだ。つまり今、東芝の防衛事業を市場で買う方法は存在しない。
その東芝が2026年5月に発表した2026年3月期決算は、純利益が前期の約7倍の1兆9673億円で過去最高だった。旧半導体子会社キオクシアの株式売却益が大きいので本業の実力とは別に見る必要があるが、財務の正常化が一気に進んだことは間違いない。そして2026年3月には、再上場の時期を最短で2028年度と想定し、非公開化の際に発行した高配当の優先株を買い戻して約7500億円の銀行借り入れに一本化する計画が報じられた。
ここから投資家として考えられることを3つ書いておく。
一つ目は、再上場時に防衛がどう評価されるかだ。東芝の売上は3兆円を超え、防衛はその中の一部門にすぎない。だがエネルギー、インフラ、デバイスという東芝の主力領域の中で、防衛は「国が需要を保証し、国が設備投資まで負担する」唯一の事業であり、再上場の目論見書では成長ストーリーの一角に据えられるはずだ。2028年度まで防衛予算の拡大が続いていれば、東芝は「防衛レーダー国内二強の一角」として値付けされることになる。
三つ目はリスクだ。東芝は非上場企業なので、防衛事業の受注高も利益率も開示されない。再上場までの2年間、この事業がどれだけ稼いでいるかを外部から検証する手段はほとんどない。加えて東芝は4000人規模の人員削減と本社の川崎移転を進めており、防衛部門が構造改革の中でどう扱われるかは、公表資料だけでは読み切れない。横浜の新棟と組織再編は「伸ばす側」のシグナルだが、それを鵜呑みにするのも危うい。
防衛関連株全体の見方は防衛関連銘柄の完全投資ガイドにまとめている。東芝については「2028年度の再上場を待ちながら、それまでは三菱電機の防衛部門の動向で代理観測する」というのが、私の現時点での整理だ。
三菱電機・NEC・日本アビオニクスとの棲み分け

日本の防衛電子機器の地図で、東芝はこう位置づけられる。
三菱電機は艦艇のレーダーと戦闘機のレーダー、そして中SAMの取りまとめと空自の警戒管制レーダーの主力。東芝は陸自の短SAMと近SAM、中SAMのレーダー、空自の警戒管制レーダーの一部、対ドローン。NECは通信とネットワークとC4I。日本アビオニクスは指揮所の情報処理と表示装置。
このうち東芝と三菱電機は、警戒管制レーダーと防空ミサイルで直接競合しながら、中SAMでは同じチームを組む。競合であり協業相手でもある関係は、日本の防衛産業ではよくある形だが、東芝と三菱電機ほど濃い例は少ない。どちらか一社が抜けると日本の防空レーダーの供給が半分になる、という意味で、防衛省はこの二社を両方とも維持する必要がある。横浜の新棟に国が金を出したのはそういう判断だ。
全体像を俯瞰したい人は日本のレーダー・電子戦企業一覧と日本の防衛産業・軍需企業一覧から入ってほしい。
まとめ
東芝の防衛事業は、陸自の短SAMと近SAMを40年担い、中SAMのレーダーを作り、空自の警戒管制レーダーの一角を支え、対ドローンで国内を先行する、防空に特化した電波の会社だ。防衛生産基盤強化法で国が設備投資を負担した最初期の大型案件でもあり、防衛省が「守る」と決めた企業の側にいる。
だが株は買えない。2023年の上場廃止から、再上場は最短で2028年度。それまで東芝の防衛事業の価値は市場の外にある。東芝の再上場が実現したとき、この会社の防衛部門にどんな値がつくのかは、日本の防衛産業の評価そのものを映す鏡になると私は思っている。
ミリタリーファンとしては、次に陸自の駐屯地祭で短SAMの発射機を見たら、あの車両の上のレーダーと下のミサイルが同じ会社の製品だということを思い出してほしい。冷蔵庫と洗濯機を手放した東芝が、手放さなかったものの一つがそれだ。
投資に関する免責事項:本記事は公開情報に基づく個人的な分析であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。株式投資には元本割れのリスクがある。投資判断は必ず自身の責任で行ってほしい。







コメント