グローバルホークが鳥取沖で消えた日|36時間飛び続ける「日本の目」RQ-4Bの正体と、たった3機しかない理由

RQ-4B グローバルホーク|36時間、空から見張る
要点

三沢基地所属のRQ-4Bグローバルホーク。空自が3機だけ導入した、あの灰色の、翼ばかり長い機体だ。通信が切れた、以上。パイロットは乗っていないから「機体からの連絡が途絶えた」ではなく、文字通り電波が返ってこなくなった。海上保安庁の巡視船や空自機が海上で機体の一部とみられるものを見つけ、17時20分頃には空自が当該機のものと判断し、「墜落したものと推定」と発表した。空自のトップ、森田雄博航空幕僚長は会見で「あらゆる可能性を含めて捜索中」と言葉を選び、訓練中ではなかったこと、飛行目的は明かさないことだけを認めた。

速報を見て「グローバルホークって何だっけ」と検索した人は多いと思う。私も正直、最初に思ったのは「まずい、あれ補充できるのか」だった。この記事は、その疑問に全部答えるつもりで書く。何者で、何ができて、なぜ1機200億円で、なぜ3機しかなくて、なぜアメリカ空軍が捨てようとした機体を日本が買い、そしてなぜ今アメリカが捨てるのをやめたのか。事故の原因はまだ誰にも分からない。分かっている部分と分かっていない部分を分けて書く。

目次

まず、9月15日に何が起きたのか

確認できた時系列
  • 12時55分以降、RQ-4B 1機との通信に接続不良が発生
  • 12時58分頃、鳥取県沖北約50kmの洋上(公海上空)でレーダーから機影が消失
  • 13時29分、小泉進次郎防衛相が「状況把握と速やかな捜索」「周辺地域の被害確認」「関係自治体への迅速な情報提供」の3点を指示
  • 空自の航空機に加え、海上自衛隊の艦艇・航空機、海上保安庁が捜索
  • 14時19分頃、海保の巡視船が機体の一部とみられるものを発見。14時25分頃には空自のF-15Jも確認
  • 15時12分頃にU-125Aが撮影した画像から、17時20分頃、空自が当該機の一部と判断。「墜落したものと推定」と発表
  • 船舶や陸上への被害情報なし(17時時点)
  • 訓練中ではなかった。飛行目的は非公表
  • 空自のグローバルホークが行方不明になるのは2022年の配備開始以来初めて

木原稔官房長官も同日、レーダーから機影が消失したと認め、捜索を最優先にしていると説明した。

分かっていないことのほうが多い。原因、どの1機だったのか、その時点で何を見ていたのか。機体は墜落したものと推定されたが、原因などの詳細は記事執筆時点(15日夜)で確認中なので、私も断定しない。ただ、鳥取沖の日本海というのは、この機体にとってごく自然な「通り道」ではある。それは後で書く。

グローバルホークとは何者か

広い翼を持つRQ-4Bグローバルホークと地上の整備員
全幅39.9メートル。長い主翼が、高高度での長時間滞空を支える。

一言でいうと、人の乗らないU-2だ。

冷戦の名物偵察機U-2は、高度2万メートル超の成層圏からカメラで敵地を覗く機体だった。ただしパイロットが乗る以上、飛べるのはせいぜい12時間。しかも撃墜されれば乗員が捕まる(1960年のパワーズ事件がまさにそれだ)。じゃあ人を降ろして、もっと長く、もっと遠くまで飛ばせばいい。それがグローバルホークの発想で、1995年にアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)主導の「先進概念技術実証(ACTD)」として始まった。

開発したのはテレダイン・ライアン。無人機の老舗で、ベトナム戦争のファイアビー標的機からの流れをくむ会社だ。試作1号機の初飛行は1998年2月28日、エドワーズ空軍基地。1999年にライアンがノースロップ・グラマンに買収され、以後はノースロップの看板商品になった。2001年4月には無人機として史上初めて太平洋を無着陸横断し、アメリカからオーストラリアまで飛んでみせている。同じ年の秋、アフガニスタン上空に投入され、2003年のイラク戦争でも実戦を経験した。

正式名称はRQ-4。Rは偵察(Reconnaissance)、Qは無人機(Unmanned)。MQ-9リーパーの「M」は多用途(Multi-role)を表す。リーパーは武装できる点が決定的に違う。MQ-9リーパーは「見て、撃つ」機体。グローバルホークは「見るだけ」の機体で、爆弾もミサイルも一切積まない。積めない、といったほうが正しい。設計思想として攻撃を捨て、その分の重量と電力を全部センサーと燃料に回している。

翼はボーイング737より長い

初めて実物の写真を見た人はたいてい「なんだこの翼」となる。全幅は39.9メートル。ボーイング737-800の主翼(約35.8メートル)より長い。それでいて胴体は14.5メートルしかなく、機首がイルカのように膨らんでいる。あの膨らみの中に衛星通信用の大きなアンテナが入っていて、ここが無人機としての生命線だ。

エンジンはロールス・ロイスAE3007Hターボファン1基。ビジネスジェットのサイテーションXや、リージョナル機エンブラエルERJ-145と同系統のエンジンで、推力は3.4トンほどしかない。それで高度18,000メートル(約6万フィート)まで上がり、時速600キロ弱で30時間以上飛び続ける。旅客機の倍近い高度を、旅客機の半分ちょっとの速度で、丸1日半。ここが「高高度長時間滞空(HALE)」と呼ばれる所以で、要するにグライダーにジェットエンジンを付けたような機体だ。だから翼が長い。

スペックと、それが意味すること

雲の上を飛行するRQ-4Bグローバルホーク
空自が公表する航続時間は約36時間、最大高度は約6万フィート。

数字を並べても仕方ないので、意味のあるものだけ。

項目RQ-4B公表値の対象・補足
全幅 / 全長39.9m / 14.5m737より翼が長い
実用上昇限度約18,000m(6万フィート)旅客機の約1.5〜2倍
航続時間約36時間(空自公表値)米空軍公表は34時間超
航続距離約22,800km(12,300海里)米空軍公表値。地球半周を上回る
最大速度約575km/h(310ノット)空自公表値。速さで逃げる機体ではない
乗員機上0名米空軍の標準構成は地上に操縦員2名・センサー担当1名
武装なし純粋な偵察機
1機あたりの取得費約204億円2021年の量産・配備段階見積り613億円を3機で割った値

何が見えるのか

日本向けのセンサー

EISSは光学・赤外線カメラと合成開口レーダー(SAR)を組み合わせたもの。昼は可視光、夜は赤外線、雲があっても雨でもレーダーで地表の画像を作る。SARは地上の移動目標(車両や船)を検出するモードも持っていて、たとえば北朝鮮の移動式ミサイル発射機が動いたら、それを見つける役目はここだ。米軍のブロック30には、相手のレーダー波や通信電波を拾う信号情報収集(SIGINT)用ペイロードもある。ただし、日本向けの公開調達通知にはASIPの明記がなく、空自機が米軍型と同じ構成だとは確認できない。

高度18,000メートルから斜めに見下ろすと、一度に数百キロ四方を「見る」ことができる。しかも36時間。交代要員さえいれば、地上の操縦チームを入れ替えながら、同じ空域に1日半居座れる。有人機なら燃料の前に人間の集中力がもたない。北朝鮮のミサイル発射の兆候を「待つ」仕事に、これほど向いた機体はない。

どうやって飛ばしているのか

複数の画面を確認する地上管制の担当者
機体に乗員はいなくても、地上では操縦・センサー運用を担当する人が支えている。

地上には2種類の操縦所がある。離着陸を担当するLRE(Launch and Recovery Element)と、飛行中の任務を担当するMCE(Mission Control Element)だ。三沢の滑走路から上げるのはLRE、そこから先、日本海のどこかで36時間見張るのはMCEの仕事で、両者は別の部屋、極端な話、別の国にいてもいい。米空軍はカリフォルニアの基地から中東上空の機体を操っていた。機体と地上の間は衛星回線でつながり、センサーが撮った画像もほぼリアルタイムで地上へ降りてくる。

ここで今回の事故と直結する話をする

なぜ「通信途絶」がそのまま「行方不明」になるのか

地上管制と通信衛星、機体を結ぶ衛星回線の概念図
地上と機体の通信を簡略化した図。通信の接続不良と墜落の原因は、区別して確認する必要がある。

有人機なら通信が切れてもパイロットが飛ばして帰ってくる。無人機は違う。衛星回線が切れると、機体は自分ひとりで判断するしかない。

グローバルホークにはそのための「ロストリンク」時の行動があらかじめ書き込まれている。回線が切れたら、決められた高度・経路で指定の地点まで自律飛行し、着陸まで持っていく。GPSと慣性航法で自分の位置は分かるから、理屈の上では回線が切れても帰ってこられる。実際、無人機の運用ではロストリンク自体は珍しくない。

通信途絶と機体の状況

過去の損失事故を見ると、機体側の要因は幾つかある。米空軍のグローバルホークは20年以上の運用で複数の墜落事故を起こしていて、公表された調査報告では機械的トラブル、飛行制御系の異常、電源系の不具合などが原因に挙がってきた。2019年6月には米海軍の派生型RQ-4A(BAMS-D)がホルムズ海峡付近でイランの地対空ミサイルに撃墜されて、無人機1機に1億ドル超の値札が付いていることが世界的に知れ渡った。これは相手が撃った例なので今回とは別の話だが、「高高度で遅い機体は、狙われれば逃げられない」という弱点も同時に露呈した。

鳥取沖の件について、今言えるのはここまでだ。原因究明は空自の航空事故調査に委ねるしかない。ただ、ひとつだけ引っかかるのは、この機体の設計がもう四半世紀前だという点。試作初飛行が1998年、空自機は2018年に発注され、2022年から日本へ到着した機体だ。基本設計の古さと、機体そのものの経年は分けて考える必要がある。

日本が3機を手に入れるまでの、長い長い話

ここからが本題かもしれない。なぜ空自のグローバルホークは3機しかないのか。

話は2014年に遡る。防衛省が滞空型無人機の導入方針を固め、2015年度予算から取得が始まった。目的は防衛省の説明を借りれば「広域における常時監視能力の強化」。当時から想定していた相手は北朝鮮の弾道ミサイルと、東シナ海・日本海で活発化する中国・ロシアの軍事活動だ。

ところが2017年、いきなり導入中止が検討される。理由は値上がりだった。3機と地上装置で約510億円と見積もっていたのが、アメリカ側から「約630億円になる」と通告された。米空軍向けの製造がすでに終わっていて、日本向けに取り付けるレーダーの主要部品の在庫がなく、メーカーが代替品を開発する費用が乗った、という説明だったと報じられている。約23%増。しかも初号機の納入も2020年3月から2021年7月へずれ込む。当時はイージス・アショア(のちに中止)の導入も控えていて、防衛省内で「これ本当に要るのか」という空気になったのは無理もない。

結局、導入は続行された。2018年6月に防衛装備庁が米空軍省と取得契約を結び、同年11月に米国防総省がノースロップ・グラマンへ空自向け3機を総額約4億9,000万ドルで発注した。有償軍事援助(FMS)方式だ。

日本への導入

1機200億円、生涯で1,000億円

格納庫で点検を受けるRQ-4Bと整備員
取得費に加え、部品・整備・教育訓練など、長期の運用を支える費用がかかる。

防衛装備庁が2021年に公開した見積りでは、3機の量産・配備段階が613億円、ライフサイクルコストが3,253億円。3機で割ると1機あたり約204億円、約1,084億円となる。運用・維持段階の2,637億円を、見積りの前提である3機・20年間で均せば、1機1年あたり約44億円だ。毎年44億円を定額で支出するという意味ではない。

比較のためにいうと、同じ一覧で海自のP-1哨戒機は調達単価221億円。有人の4発ジェット哨戒機と、無人の偵察機がほぼ同じ値段だ。これを高いと見るか、安いと見るか。私は当初「高い」と思っていた。ただ、P-1は十数人の乗員を乗せて飛ぶ有人機で、グローバルホークは乗員ゼロで36時間飛ぶ。飛行1回あたりの監視時間で割ると、話は変わってくる。人手不足が最大の敵になっている今の自衛隊にとって、「隊員を消耗せずに1日半見張れる」というのは金額では測りにくい価値だ。政府が無人装備の拡充を防衛力強化の柱に据えている理由もそこにある。

もうひとつ、あまり語られない苦労がある。この機体は米軍仕様のまま日本に来た。マニュアルも訓練も英語。同じ三沢にいるF-35と同じで、整備員も操縦者も語学の壁と格闘しながら立ち上げた部隊だ。海洋国防アカデミーの記事にそのあたりが少し出ていて、アメリカから派遣された技術者と一緒に運用している様子が伝わってくる。

偵察航空隊が置かれた三沢基地の位置づけは、空自基地一覧の記事で書いた。日米のF-35とF-16と、無人偵察機が同居する、日本で最も密度の濃い航空基地だ。

三沢の3機は、ふだん何を見ているのか

飛行目的は公表されない。だが、この機体の性格と日本の地理を重ねれば、およその輪郭は見える。

三沢から北西へ飛べば日本海。そこを北上すればロシアの沿海州とウラジオストク、西へ振れば北朝鮮の東海岸が視界に入る。北朝鮮のミサイル発射は東海岸の元山や新浦周辺から日本海へ向けて行われることが多く、発射の兆候を高高度から見張るには日本海の公海上空に居座るのが最も効率がいい。鳥取沖というのは、その日本海パトロールの南端側にあたる。今回の機体が何をしていたのかは分からないが、少なくとも「なぜそんなところに」と驚くような場所ではない。

日本周辺の警戒監視

集めた情報は空自の作戦情報部門を経て防衛省の情報本部へ上がる。日本の情報機関の全体像は別記事にまとめたが、グローバルホークは、その情報の入口のひとつだ。

有事だけではない。2024年1月の能登半島地震では、空自のグローバルホークが被災地上空から画像を収集したと報じられた。道路が寸断されて地上から入れない半島の全体像を、高度18,000メートルから一度に撮る。災害大国の日本で、この使い方はもっと注目されていい。

そして今日、3機のうち1機が失われた可能性が高い。機数だけなら3分の1だ。ただし、監視能力の低下幅は稼働率や他の装備による補完にも左右される。「1機が任務、1機が整備、1機が予備」という回し方を考えても、2機になればローテーションの余裕は乏しくなる。

アメリカは捨てようとし、日本は買い、そしてアメリカが撤回した

ここが、この機体をめぐる話で一番面白いところだと思う

2022年、米空軍はグローバルホークをすべて2027会計年度までに退役させる方針を固めた。旧型のブロック20、30はすでに退役済みで、残る最新型ブロック40も、と。理由は「中国やロシアのような同等の相手に対しては生存性が低い」から。要は高くて遅くて、S-400のような高性能な防空ミサイルの前では的でしかない。より生存性の高いシステム(名指しはされないが、ステルス無人偵察機RQ-180の存在が公然の秘密になっている)や宇宙からの監視に投資を回したい、という理屈だった。

つまり日本は、アメリカ空軍が「もう要らない」と言いだした機体を、その直前に発注していたことになる。しかもブロック30。米空軍がブロック30を2022年から退役させ始めたので、この型を運用するのは日本(3機)と韓国(4機)だけになった。部品は共食いになる、維持費は上がる、という懸念が2020年頃には日本でも韓国でも噴出した。韓国は保守サポート費用が当初の4倍に膨らんだと伝えられている。

ところが、ここから話がひっくり返る

まずアメリカ議会が退役を止めた。国防授権法を反映した米連邦法は、2030年9月30日までグローバルホークの退役を制限し、最低10機の在庫を維持するよう定めている。事故などで任務遂行不能となり、経済的に修復できない機体には例外がある。ウクライナ戦争と中東で、黒海やペルシャ湾を丸1日見張れる機体の需要が減るどころか増えたからだ。NATOは同型のRQ-4Dフェニックスを5機、シチリア島シゴネラ基地で運用していて、2026年にはノルウェー、フィンランド、アイスランド周辺まで進出させている。

次に2026年5月末、米空軍はグローバルホークの運用拠点をグアムから横田基地へ恒久的に移した。公表は6月15日だった。太平洋方面の常続的な偵察のためだ。空自の三沢と米空軍の横田、それに米海軍が2025年から嘉手納に無期限配備しているMQ-4Cトライトン(グローバルホークの海洋監視型)。日本列島にグローバルホーク一族が集結しつつある。

そして2026年8月17日、米空軍はノースロップ・グラマンとの間で、2028年から2033年6月まで続く近代化・改修・維持の随意契約を準備していると公示した。「退役を待つ機体」の整理ではない。「これからも使う機体」の契約準備だ。後継機の名前はどこにも出てこない。

私はこの経緯を、2017年の「導入中止検討」と並べて眺めるのが好きだ。あのとき日本がやめていたら、今ごろ日本海を1日半見張れる機体は1機もなく、アメリカに「頼む」しかなかった。結果的に、3機の判断は正しかったと思う。ただし、その3機が「原型の初飛行から四半世紀を経た機体」であることは変わらない。今回失った1機を同じ機体で補充できるのか、私には分からない。同型の新造機を追加調達する計画は、今回確認した公表資料には見当たらない。補充するなら、米軍の退役機を回してもらうか、トライトンに乗り換えるか、あるいは安保3文書で検討中の「別の早期警戒無人機」に飛ぶか。ここは年内の3文書改定で答えが出るはずで、防衛産業ウォッチャーとしては目を離せない。

無人機の世界そのものは、有人機と組んで飛ぶ随伴無人機へ移りつつある。GCAPの随伴無人機MQ-28ゴーストバットがその方向だ。グローバルホークはその一世代前、「無人機は単独で長く飛ぶもの」という時代の完成形といっていい。

帝国海軍の偵察機は「速さ」で逃げた。グローバルホークは「高さ」で居座る

ミリタリーブログなので、少しだけ脱線する

偵察思想の変化

グローバルホークは正反対だ。時速575キロ、戦闘機の3分の1の速さで、逃げる気はまったくない。代わりに高度18,000メートルという「一般の旅客機より高い空域」に上がって、36時間そこにいる。速さで一瞬を切り取る偵察から、高さと持久力で「ずっと見ている」偵察へ。帝国海軍が最後まで手に入れられなかったのは、まさにこの「常時監視」だった。ミッドウェーで索敵機の発進が遅れ、敵空母の発見が遅れたあの朝を思うと、36時間居座れる目がひとつあるだけで戦史は変わったのではないか、などとつい考えてしまう。

ただし、グローバルホークにも彩雲と同じ弱点がある。制空権のないところでは生きられない。イランに撃たれたRQ-4Aがそれを証明した。米空軍が退役を言いだしたのもそこだ。日本海で北朝鮮を見張る分には問題ないが、いざ有事の東シナ海で中国の防空網に近づけるかというと、答えは限りなくノーに近い。この機体は「平時の目」であって「戦時の目」ではない。その限界込みで使う装備だ。

投資家の目で見る「無人機シフト」

このブログの読者には防衛株を見ている人も多いので、そちらの話も少し。

まずメーカー。グローバルホークもトライトンもB-21レイダーもノースロップ・グラマンだ。米空軍の退役見直しと2033年までを見込む維持契約の準備、米海軍のトライトン、オーストラリアのトライトン導入、NATOのRQ-4D。つまり「捨てられかけた機体」が、同社にとっては息の長い維持需要につながる見通しになった。ノースロップ・グラマン株の記事B-21レイダーの記事を読んでもらえれば分かるが、同社の強みは「他社が作れないものを長期で維持する」ビジネスにある。グローバルホークはその典型で、米空軍自身が「システムのデータをメーカーしか持っていないので他社に発注できない」と公示している。

日本側はどうか。グローバルホーク自体に日本企業の関与はほぼない。ただ、今回の事故が示したのは「高価な大型無人機を少数持つ」モデルの脆さで、日本の防衛政策はすでにその先へ動いている。安保3文書の改定骨格には長距離攻撃型無人機、迎撃用無人機、早期警戒無人機が並び、自衛隊の無人アセットを多層化するSHIELD構想も走っている。大型1機200億円ではなく、中小型を数で持つ方向だ。国内で無人機を手がける企業は日本の防衛ドローン企業一覧にまとめてあるので、銘柄探しはそちらから。

ここで念のため。この記事は投資助言ではない。防衛関連株はニュースで急騰・急落を繰り返す典型的なテーマ株で、今日のような事故のニュース一本でも上下する。買うか売るか、いつ動くかは自分で判断してほしい。防衛株全体の見取り図は防衛関連銘柄の完全ガイドにある。

防衛産業を読む

今回の事故が突きつける3つの問い

最後に、事故の続報を待ちながら私が考えていることを3つ

ひとつ。3機という数は、最初から余裕がなかった。機数だけなら1機失えば3分の1。常時監視のためのローテーションは2機では余裕が乏しい。「少数精鋭の高級装備」で常続的な監視を担う設計そのものに無理がなかったか。

ふたつ。補充できるのか。同型機の追加調達は見通せず、米空軍のブロック30は退役済み。同じ機体をもう1機、というのは相当難しい。トライトンに切り替えるのか、それとも別の無人機に振るのか。年内の安保3文書改定と、2027年度予算の編成過程で、防衛省の答えが見えるはずだ。

みっつ。無人機は落ちる。搭乗員の犠牲は出ないが、200億円の機体と、それが集めるはずだった情報は失われる。自衛隊はこれから無人機を大量に持つ。落ちたときにどう説明し、どう原因を公表し、どう次に生かすか。今回はその最初の試金石になる。

なお、この機体を運用する航空自衛隊は2026年度中に「航空宇宙自衛隊」へ改称される。宇宙からの監視と、成層圏からの監視と、地上のレーダー。日本の「目」の再編は始まったばかりで、グローバルホークの3機(あるいは2機)は、その過渡期を象徴する装備になった。

事故原因の続報が出たら、この記事に追記する。

よくある質問

グローバルホークは何のための機体か

爆弾もミサイルも積まない、純粋な偵察機だ。高度約18,000メートルから光学・赤外線カメラと合成開口レーダーで地上・海上を監視し、米軍のブロック30は電波情報も収集するが、空自機で同じ構成かは公開資料から確認できない。1回の飛行で30時間以上滞空できるので、北朝鮮のミサイル発射の兆候を「待つ」ような任務に向く。

空自は何機持っていて、どこにあるのか

導入したのは3機で、所属は青森県の三沢基地、運用部隊は偵察航空隊だ。2022年3月に初号機が到着し、2023年6月に3機体制が完成した。2026年9月15日、空自はうち1機が墜落したものと推定されると発表した。

1機いくらか

防衛装備庁の2021年の3機分の見積りを1機あたりに換算すると、取得費は約204億円、ライフサイクルコストは約1,084億円。運用・維持費を3機・20年間で均した値は約44億円/機・年で、現在の毎年の支出額ではない。3機と地上装置の導入費は当初510億円の見積もりから約630億円へ膨らみ、2017年には導入中止も検討された。

米空軍が退役させると聞いたが

2022年に2027会計年度までの全機退役方針が出たが、議会が2030年9月末まで原則として退役を制限した。2026年5月末には運用拠点をグアムから横田基地へ移し、8月には2033年まで続く維持・近代化契約の準備を公示している。当面は退役しない。

トライトンとの違いは

MQ-4Cトライトンはグローバルホークをベースに米海軍が開発した海洋監視型で、機体構造を強化して低高度への降下を繰り返せるようにし、海面監視用のレーダーを積む。米海軍が2025年から沖縄の嘉手納基地に無期限で配備している。日本のRQ-4Bは空軍型ブロック30の改良型だ。

長距離飛行と同じくらい長い記事になった。通勤中に耳で防衛や軍事史を追いたい人には、Audibleが向いている。

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出典・参考

※本記事の事故関連の記述は2026年9月15日夜時点の公表情報に基づく。機体は墜落したものと推定されており、原因の詳細は空自の調査結果を待って追記する。

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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