2026年2月5日、横浜市磯子で1隻の艦が起工された。基準排水量1万2,000トン、全長190メートル、1隻あたりの取得費約3,920億円。海上自衛隊のイージス・システム搭載艦(ASEV)の2番艦だ。日本の弾道ミサイル防衛の中核になる艦で、1番艦は三菱重工の長崎、2番艦はジャパン マリンユナイテッド(JMU)の磯子が建造する。
このJMUという会社、防衛の話題に出てくる頻度のわりに、正体を知られていない。理由は単純で、上場していないからだ。三菱重工や川崎重工なら証券コードで語れるが、JMUは株が買えない。だから防衛株の記事に名前が出ず、いずも型もASEVも掃海艦も砕氷艦も作っている会社なのに、投資家の視界に入りにくい。
この記事では、そのJMUがどんな艦を作り、どこで直し、誰の会社で、株が買えないならどう付き合うのかを、旧軍ファンで技術好きで株もやる人間の目線で書いていく。
JMUとはどんな会社か
ジャパン マリンユナイテッド株式会社は横浜に本社を置く造船会社で、2013年にユニバーサル造船とアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドが経営統合して生まれた。ユニバーサル造船は日本鋼管(今のJFE)と日立造船の造船部門、アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドはIHIと住友重機械の艦艇部門が合流したもので、つまりJMUの中には日本鋼管、日立造船、IHI、住友重機械という4つの重工の船の血が流れている。「日本造船業の再編の象徴」と言われる所以だ。
2026年3月期の売上高は3,980億円で前期比22%増、純利益は321億円で61%増。売上も利益も過去最高で、円安と有価証券売却益が効いた。前期の純利益199億円も過去最高だったので、2年連続の更新になる。受注残は2025年3月期時点で7,200億円超と積み上がっている。
資本の話が大事だ。長らくJFEホールディングスとIHIが35%ずつ、今治造船が30%を持つ3社の合弁だったが、2025年6月に今治造船がJFEとIHIから15%ずつ買い取ることで合意し、競争法の審査を経て2026年1月5日付で今治造船の出資比率が60%になった。JMUは今治造船の連結子会社になり、JFEとIHIはそれぞれ20%を持つ少数株主になった。今治造船とJMUを合わせると国内建造量の半分を超え、中韓の造船大手に対抗する日本の一枚岩、というのが再編の建前だ。
旧軍ファン向けに系譜を足しておく。4社のうち住友重機械の艦艇部門は旧浦賀船渠で、帝国海軍の駆逐艦を数多く建造した浦賀の系譜を引く。日本鋼管の鶴見は浅野造船所が起源で、戦後は掃海艇のFRP化を担った。石川島播磨は戦後の護衛艦建造で三菱、川崎と並ぶ主力で、ひゅうが型までを横浜で作った。そして日立造船の舞鶴は舞鶴海軍工廠そのものだ。つまりJMUの艦船事業は、浦賀と舞鶴という帝国海軍の二つの拠点と、戦後の横浜の護衛艦建造を一つの会社に束ねたものになる。海自の艦艇を作る会社の中で、これほど旧海軍の系譜を濃く抱えた造船所は他にない。
事業は4つに分かれる。商船、艦船、海洋・エンジニアリング、そして船の修理と改造を担うライフサイクル事業。会社は艦船事業について「砕氷・掃海の分野でシェア100%を維持」と書いている。日本の砕氷艦と掃海艦艇は、この会社しか作っていない。
JMUが作ってきた艦、作っている艦

艦船事業の拠点は横浜の磯子工場と鶴見工場だ。磯子は旧石川島播磨の工場で大型艦、鶴見は旧日本鋼管の工場でFRP製の掃海艦艇を担当する。
| 艦種 | 艦名・計画 | 建造拠点 | 状況 |
|---|---|---|---|
| ヘリコプター搭載護衛艦 | いずも、かが | 磯子 | 2015年・2017年就役、F-35B運用へ改修中 |
| ヘリコプター搭載護衛艦 | ひゅうが、いせ | 横浜(前身のIHIMU) | 2009年・2011年就役 |
| イージス・システム搭載艦 | 2番艦 | 磯子 | 2026年2月起工、2027年度進水、2028年度末引渡し予定 |
| 新型FFM | 1〜2番艦のうち1隻、3〜5番艦のうち1隻 | 磯子 | 三菱重工が主契約、JMUが下請けとして建造 |
| 掃海艦 | あわじ型 | 鶴見 | FRP船体、国内唯一 |
| 砕氷艦 | しらせ | 舞鶴(当時ユニバーサル造船) | 2009年就役 |
| 補給艦・その他 | おうみ(日立造船舞鶴時代)ほか | 舞鶴 | 舞鶴は2021年に新造を終了 |
海上自衛隊で最も大きな艦、いずもとかがを作ったのはJMUの磯子だ。全長248メートルの空母型護衛艦で、いま両艦はF-35Bを運用できるように艦首を四角く改め、甲板を耐熱化する改修を受けている。いずも型そのものについてはこちらの記事で詳しく書いた。
そしてASEVだ。2020年に陸上配備型のイージス・アショアが撤回され、その代替として海上に2隻の艦を浮かべることになった。SPY-7という4面のレーダーを載せ、弾道ミサイル警戒に専従する。乗員は約240人で従来のイージス艦より2割以上省力化される。防衛省は2024年8月に1番艦を三菱重工と、9月に2番艦をJMUと契約した。1番艦は2025年7月に長崎で起工され、2番艦は2026年2月に磯子で起工された。2隻を別の造船所で並行して建造するのは、早期戦力化とリスク分散のためだ。2隻の総コストは2021年の試算9,000億円から2025年には1兆9,000億円へ膨らんだと東洋経済が報じており、日本の防衛装備の中でも最も高価な買い物になっている。ASEVの中身はこちらで、既存のイージス艦との違いはこちらで書いた。
新型FFMの位置づけも押さえておきたい。もがみ型の能力向上型で、基準排水量4,800トン、VLSは16セルから32セルへ倍増し、FFGに近い艦になる。防衛省は2023年8月、2024年度以降の新型FFMについて主契約者を三菱重工、下請負者をJMUと決めた。契約は三菱重工が結び、1〜2番艦(約796億円)のうち1隻、3〜5番艦(1,286億円)のうち1隻をJMUの磯子が建造する。豪州が次期フリゲートに新型FFMを選んで三菱重工の長崎が輸出分3隻を優先する中で、海自向けの一部をJMUが受け持つ構図だ。もがみ型の輸出についてはこちらにまとめてある。
掃海艦の話は、防衛の議論でいちばん見落とされる。日本の商船が通るホルムズ海峡やマラッカ海峡に機雷が撒かれた時、それを処理する掃海部隊の艦を作れるのは、鶴見のFRP船体技術を持つJMUだけだ。磁気に反応する機雷への対策として、あわじ型は磁気を帯びにくいFRP船体を採用している。木造からFRPへ移行した日本の掃海艦艇の系譜を一社が引き受けている。ホルムズ海峡の機雷と日本の石油の関係はこちらで書いた。
海上保安庁の巡視船もJMUの重要な顧客で、大型巡視船の多くを磯子と鶴見で建造してきた。防衛省向けと海保向けを合わせた「官公庁船」が、JMUの艦船事業の実体だ。
艦艇修理:呉と舞鶴に残ったもの

JMUの防衛事業で見落とされがちなのが修理と改造だ。
JMUの呉事業所は、旧呉海軍工廠の跡地にある。戦艦大和を建造した造船船渠がそのまま残っていて、戦後は播磨造船、石川島播磨、IHI、そしてJMUと受け継がれた。舞鶴事業所は旧舞鶴海軍工廠の跡地で、飯野産業、日立造船、ユニバーサル造船を経てJMUになった。海軍工廠は艦を作る場所であると同時に直す場所で、その機能は今も残っている。呉も舞鶴も2021年に新造船の建造を終えたが、修理と改造の拠点としては続いていて、呉の海自基地と舞鶴の海自基地のすぐそばで、護衛艦や潜水艦の定期修理を引き受けている。大和についてはこちらで書いたが、大和を作ったドックで今は護衛艦が直されている、というのは旧軍ファンとして知っておいてよい事実だと思う。
修理がなぜ大事かというと、艦は建造されてから30年以上使われ、その間に何度も入渠するからだ。新造の受注は数年に1隻でも、修理は毎年ある。海自の護衛艦約50隻、潜水艦20数隻が順番に検査と修理を受けるとき、それを引き受けられる造船所は三菱重工、川崎重工、JMU、三菱重工マリタイムシステムズなど限られていて、しかも呉と舞鶴という基地のそばにドックを持つのはJMUだ。ライフサイクル事業という名前は商船向けの言葉だが、防衛でも同じことが起きている。海自の艦艇の全体像は海上自衛隊の艦艇一覧で確認できる。
数字で見るJMUの防衛事業

正直に書くと、JMUは艦船事業の売上を分けて開示していない。非上場で、決算の開示も日本海事新聞や日経の報道を通じてしか外からは見えない。分かっている数字を並べる。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 約3,260億円(22%増からの逆算) | 3,980億円(過去最高) |
| 純利益 | 199億円(当時の過去最高) | 321億円(過去最高) |
| 受注残高 | 7,200億円超 | — |
| 出資構成 | JFE 35%・IHI 35%・今治造船 30% | 今治造船 60%・JFE 20%・IHI 20%(2026年1月〜) |
この売上の大半は商船だ。ばら積み船やコンテナ船、タンカーの市況が良く、円安で受注の採算が改善したのが最高益の中身で、防衛が押し上げたわけではない。ただ、防衛の部分は今後数年で確実に大きくなる。ASEV 2番艦の取得費約3,920億円のうち船体建造分がJMUに入り、新型FFMを2隻建造し、いずも型の改修と修理が続く。ASEVは2028年度末引渡しだから、2027年から2029年にかけて磯子の売上は防衛で膨らむ。日本の防衛企業を受注残で比べた記事をこちらに置いてあるが、JMUは非上場のため受注残の内訳が取れず、その表には載せられなかった。造船各社の位置は造船重工株ランキングで見比べてほしい。
収益の見方:株が買えない防衛企業をどう見るか
ここが本題だ。JMUは非上場なので、直接は買えない。同じ「株が買えない防衛企業」の話は東芝でも書いた。→ 東芝の防衛事業とは|「株が買えない防衛企業」を解説
JMUに間接的に投資する経路は3つある。
1つ目はIHI(7013)。JMUの株を20%持っていて、持分法でJMUの利益の2割が取り込まれる。IHI自身も航空エンジンとロケットで防衛の本業を持つ会社なので、防衛株としての性格が二重になる。2025年6月にJMU株の一部を今治造船へ売ると発表した日、IHI株は急伸した。資本効率の改善が評価されたのだが、見方を変えれば、IHIはJMUの持分を減らす方向にいる。IHIの防衛事業はこちらで書いた。
2つ目はJFEホールディングス(5411)。同じく20%を持つが、こちらは鉄鋼会社であって防衛株ではない。JMUの利益が持分法で入ってくるとはいえ、株価は鉄鋼市況で動く。防衛の文脈で買う銘柄ではない。
3つ目は今治造船だが、これも非上場だ。つまりJMUの60%を持つ親会社も株が買えない。日本最大の造船グループの艦艇部門が、上場市場のどこにも直接は現れない。
投資家としての私の整理はこうだ。JMUの防衛事業に賭けたいなら、IHIを通じて2割だけ触れる、というのが実質的な選択肢で、それ以外は間接的すぎる。逆に言えば、ASEVや新型FFMの受注がニュースになっても、それで動く上場株は主契約の三菱重工であって、JMU側の恩恵は市場に反映されにくい。防衛関連銘柄として艦艇に投資したいなら、三菱重工(7011)と川崎重工(7012)、そして三菱重工の艦艇子会社の親であることを含めた三菱重工の評価を見るのが素直だ。三菱重工の分析はこちら、防衛関連銘柄の全体像は防衛関連銘柄 完全投資ガイドで整理した。
もう一つ、今治造船の子会社化が防衛事業にどう効くかは、まだ分からない。今治造船は量産型の商船で世界と戦ってきた会社で、艦艇の経験はない。JMUの艦船部門は磯子と鶴見の技術者集団が支えていて、親会社が変わっても現場は変わらないはずだが、防衛省との契約の名義や、艦艇部門への投資の優先順位は親会社の判断になる。造船の再編が防衛の生産基盤にどう影響するかは、防衛産業のサプライチェーンの記事で書いた論点そのものだ。産業全体の中でのJMUの位置は日本の防衛産業・軍需企業一覧で確認できる。
なお、ここに書いたことは私個人の整理であって、特定の銘柄の売買を勧めるものではない。数字は執筆時点の開示と報道に基づくもので、その後の決算や株価で変わる。最終的な判断は各自の責任でお願いしたい。
自衛隊ファンの視点:2つの造船所を持つ意味

最後に投資とは別の話をする。
ASEVを三菱重工とJMUに1隻ずつ振り分け、新型FFMも三菱重工の下でJMUが一部を建造する。防衛省がこうした二重の建造体制を組むのは、艦艇を作れる造船所を国内に2つ以上残すためだ。長崎が何かの理由で止まっても磯子が動く。逆もある。米海軍は駆逐艦をバス鉄工所とインガルスの2社に分けて発注し続けてきたが、それと同じ考え方が日本にも根づき始めた。
その2つ目の造船所が、大和を作った呉のドックと舞鶴の工廠跡を持ち、いずもとかがを作り、掃海艦と砕氷艦を独占し、これからASEVと新型FFMを作る。株が買えないからといって、この会社を防衛産業の地図から外すわけにはいかない。私はJMUを、日本の艦艇建造の「もう一方の手」として眺めている。
よくある質問
JMUはどの護衛艦を作っているのか
いずも型(いずも、かが)を磯子で建造したほか、前身のIHIマリンユナイテッドがひゅうが型を建造した。現在はイージス・システム搭載艦の2番艦を磯子で建造中で、新型FFMも三菱重工の下請けとして1〜5番艦のうち2隻を担当する。掃海艦のあわじ型や砕氷艦しらせもJMU系列の建造で、砕氷・掃海はシェア100%だと会社は説明している。
JMUの株は買えるのか
買えない。JMUは非上場で、2026年1月から今治造船が60%、JFEホールディングスとIHIが20%ずつを持つ。今治造船も非上場なので、上場企業を通じて間接的に触れるならIHI(7013)かJFE(5411)だが、いずれも持分は2割にとどまる。
今治造船の子会社になって防衛事業はどうなるのか
2026年1月5日付で今治造船の出資比率が60%になった。商船では設計・調達の一体化が進むが、艦船事業への影響は現時点で公表されていない。防衛省との契約や磯子・鶴見の建造体制は継続している。
JMUの艦艇修理はどこで行われているのか
呉事業所(旧呉海軍工廠)と舞鶴事業所(旧舞鶴海軍工廠)が中心で、いずれも2021年に新造船の建造を終えた後も修理・改造の拠点として海自艦艇の定期修理を引き受けている。横浜の磯子・鶴見でも改修を行う。
イージス・システム搭載艦2番艦はいつ就役するのか
2026年2月5日に磯子で起工され、2027年度に進水、2028年度末に海上自衛隊へ引き渡される予定。1番艦は三菱重工長崎で2025年7月に起工され、2027年度末の就役を目指している。
まとめ
JMUは日本鋼管、日立造船、IHI、住友重機械の造船部門が合流した造船会社で、2026年1月から今治造船の子会社になった。防衛事業ではいずも型を作り、イージス・システム搭載艦の2番艦と新型FFMを磯子で建造し、掃海艦と砕氷艦を独占し、大和を建造した呉のドックと舞鶴の工廠跡で海自艦艇を修理している。売上3,980億円と純利益321億円の最高益は商船が作った数字で、防衛の売上は非開示だが、ASEVと新型FFMで2027年以降に膨らむ。株は買えず、IHIを通じて2割だけ触れられる。上場市場に姿を見せない、日本の艦艇建造の「もう一方の手」。それがこの会社だ。
出典
- 日本海事新聞「JMU、2年連続 最高益更新。3月期、純利益321億円」2026年5月8日
- 海事プレス「25年度は売上・利益とも過去最高 JMU、純利益61%増の321億円」2026年5月11日
- 日本経済新聞「今治造船、1月5日付でJMU子会社化」2025年12月25日
- 日本経済新聞「IHI株価が高い 今治造船にJMU株一部売却」2025年6月27日
- 防衛装備庁 契約情報(イージス・システム搭載艦1番艦 2024年8月23日 三菱重工、2番艦 2024年9月18日 JMU)
- Yahoo!ニュース 高橋浩祐「海自向けイージス・システム搭載艦2番艦の起工日判明 JMU磯子工場で建造開始」2026年3月
- Yahoo!ニュース 高橋浩祐「三菱重工、『もがみ』能力向上型の新型FFM3隻を受注 契約額1286億円」2026年4月
- Yahoo!ニュース 高橋浩祐「海自の新型FFM、1・2番艦はいまだ起工せず」2026年9月
- 東洋経済オンライン「三菱重・JMUの新イージス搭載艦、2隻の総コストは21年試算0.9兆円から25年1.9兆円に膨張」2025年10月
- ジャパン マリンユナイテッド 公式サイト(事業紹介:砕氷・掃海のシェア100%)
- ダイヤモンド・オンライン「『造船ニッポン』復活へ!今治造船のジャパンマリンユナイテッド子会社化」2025年7月







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