ミネベアミツミの株価は2026年に入ってから激しく動いた。3月に2,518円の安値を付け、6月には5,307円まで買われ、9月には3,400円前後にいる。倍になって、そこから3分の2に戻った。動かしたのはデータセンター向けのベアリングとAIへの期待で、防衛は何の関係もない。
それでも私がこの会社を防衛の記事で取り上げるのは、日本で拳銃を作っている数少ない会社だからだ。警察官の腰にあるニューナンブも、自衛隊が40年近く使った9mm拳銃も、空挺団の指揮官が持つ9mm機関けん銃も、この会社が作った。源流は三八式歩兵銃と十四年式拳銃を設計した南部麒次郎の会社にある。そして今は、F-35や787の操縦系統に使われるMIL規格のベアリングを作り、防衛省向けの航空機の兵装架を群馬の専用工場で作っている。
売上1兆6,644億円の巨大な部品メーカーの中で、防衛はどこにあり、どれくらいの大きさで、株を見るときにどう扱えばいいのか。旧軍ファンで技術好きで株もやる人間の目線で整理していく。
ミネベアミツミとはどんな会社か
ミネベアミツミ(証券コード6479)は長野県御代田町に本社と軽井沢工場を置く精密部品メーカーで、2026年3月期の連結売上高は1兆6,644億円、営業利益1,040億円、純利益990億円。売上は14期連続の増収で、営業利益は初めて1,000億円を超えた。外径30mm以下の小径ボールベアリングで世界シェア6割を持ち、月に2億個以上を外販している。
生い立ちにまず旧軍が絡む。1951年、満州飛行機製造の関係者が引き揚げてきて、東京で日本ミネチュアベアリングを設立した。満州飛行機は関東軍の練習機や隼の生産を担った会社で、その技術者が戦後に選んだのが、軍用航空機の計器やジャイロに欠かせない小さな軸受だった。社名のNMBは今も銃の刻印に残っている。
その後の歩みはM&Aの連続だ。1975年に新中央工業を吸収して銃器と防衛装備品に参入し、2017年にミツミ電機と経営統合して今の社名になり、2019年にユーシン、2024年に日立パワーデバイス、2025年にツバキ・ナカシマのボールねじ事業を取り込んだ。事業は4つに分かれ、ベアリングと航空宇宙部品のプレシジョンテクノロジーズ(売上2,812億円、営業利益622億円)、モーターやセンサーと「特殊機器」のモーター・ライティング&センシング(4,565億円、269億円)、半導体や光デバイスのセミコンダクタ&エレクトロニクス、自動車のドアロックなどのアクセスソリューションズ。防衛に関わる製品は最初の2つのセグメントに散らばっていて、まとまった数字としては開示されていない。
火器:南部麒次郎の系譜を継ぐ「拳銃のミネベア」
日本の実銃メーカーは棲み分けがはっきりしている。小銃の豊和工業、拳銃のミネベアミツミ、機関銃の住友重機械(すでに製造を終えた)、猟銃のミロク。豊和工業については別の記事で書いた。
ミネベアの銃器部門の源流は中央工業という会社で、南部麒次郎が戦前に興し、大倉財閥の傘下で十四年式拳銃や九四式拳銃、九九式短小銃を量産した。戦後に新中央工業と改組され、警察や自衛隊、海上保安庁向けの銃器を作り続け、1975年にミネベアに吸収合併されて大森工場になった。南部の十四年式拳銃についてはこちらの記事で詳しく書いたが、南部の会社が戦後も途切れず、ベアリング屋の中で銃を作り続けている、という事実は旧軍ファンとして押さえておきたい。
作ってきた銃を並べる。
| 製品 | 採用先 | 概要 |
|---|---|---|
| ニューナンブM60 | 警察 | 1961年から約13万丁を製造した回転式拳銃。今も現役 |
| M360J SAKURA | 警察 | S&W製の回転式拳銃を日本警察向けにグリップ等をカスタマイズ |
| 9mm拳銃 | 自衛隊 | スイスSIG P220のライセンス生産。1982年制式、2019年からSFP9へ更新 |
| 9mm機関けん銃 | 自衛隊 | 1999年制式の国産短機関銃。空挺団や水陸機動団の指揮官用、艦艇・潜水艦の搭載火器、空自の基地警備隊 |
技術ファンと銃ファン向けに少し掘る。9mm拳銃はSIG P220そのもので、SIGの設計を日本で作った銃だ。P220はP226の原型で、その系譜はSIG P226の記事で書いた。40年近く自衛隊の制式拳銃だったが、2019年にH&KのSFP9に更新が決まり、こちらは輸入品になった。国産拳銃の時代はそこで一度終わっている。SFP9についてはこちらにまとめてある。
9mm機関けん銃は評判のよくない銃で、私も擁護はしない。イスラエルのUZIに似た構造で、指揮官の自衛用に開発されたが、1丁44万円と海外の同種の銃より一桁高く、命中精度や用途に部隊から疑問が出た。陸上自衛隊の調達は空挺団と第12旅団、西部方面普通科連隊の指揮官への配備で終わり、海上自衛隊と航空自衛隊だけが調達を続けている。2025年の東洋経済の記事では、海自の特別警備隊のOBが「9mm拳銃は2千発程度でフレームに亀裂が入った」と証言している。年に50発しか撃たない一般隊員には見えなかった問題が、毎日数百発撃つ特殊部隊で露見した、という話だ。日本の火器調達の問題として覚えておく価値がある。世界の軍用拳銃の中での位置はこちら、短機関銃の中での位置はこちらで確認できる。
装備品:松井田の専用工場で作る兵装架

火器より大きいのは、実は「特殊機器」と呼ばれる装備品のほうだ。
ミネベアは2012年、防衛・航空宇宙事業の拡充のために群馬県安中市の松井田工場の敷地に延べ床面積約9,000平方メートルの専用工場を建てると発表し、大森工場を2014年に閉鎖して生産を移した。当時の発表文にはこう書いてある。「特機事業部・大森工場において、防衛省向け航空機や艦船用装備品などの特殊機器や、民間航空機用の特殊モーターやアクチュエーター」を生産している、と。航空宇宙向けの需要は「国産ロケット向けや新型航空機向けに堅調」で、住宅地に囲まれた大森では拡張できないから、軽井沢工場の特殊材料の精密加工技術を使える松井田に集約した。
具体的な製品名は、会社は表に出していない。旧新中央工業の時代から続いているのは、航空機に爆弾やミサイルを吊るす兵装架(ボムラック)、ロケット弾の発射機、艦船や潜水艦向けの装備品といったものだ。どの機体に載っているかは非公表で、私も断定しない。ただ、防衛省向けの航空機で「兵装を機体に固定して確実に切り離す」部品を国内で作れる会社は限られていて、ミネベアはそこにいる。国産ロケット向けの製品も同じ工場で作られている。
つまりミネベアの防衛事業は、「銃」で知られているが、実体は「航空機の装備品と精密機械部品」だ。銃は象徴で、装備品が本体。この構図は、後で述べる投資の話にも関わる。
航空宇宙部品:MIL規格のベアリングと米国NHBB

ミネベアミツミの中で防衛にいちばん近く、いちばん大きな数字を持つのが航空宇宙部品だ。
プレシジョンテクノロジーズの中に「航空宇宙」という製品区分があり(2026年に「ロッドエンド・ファスナー」から名称変更)、その売上は2025年3月期591億円、2026年3月期660億円、2027年3月期の計画825億円、2029年3月期930億円と伸びる計画になっている。主力はロッドエンドベアリングとスフェリカルベアリング、航空機用のねじで、航空機の操縦系統やランディングギア、ヘリコプターのローターの付け根といった「動く部分」に使われる。無潤滑で使えるテフロンライナーが特徴で、MIL規格と日米欧の主要航空機メーカーすべての認定を取っている。
拠点は日本と、タイのロッブリ、米国のNHBB(ニューハンプシャー・ボールベアリング)、ドイツのmyonic、インドのMach Aero。NHBBは米国の航空宇宙・防衛向けベアリングの大手で、米国の軍用機の部品供給網の中にいる。2026年の中期計画では、タイの新工場とインドの新棟で供給体制を強化し、価格是正で収益性を上げると書かれている。
この660億円のほとんどは民間機向けだ。ボーイングとエアバスの生産レートが戻れば増え、止まれば減る。防衛向けの割合は開示されていないので、私は「航空宇宙660億円のうち防衛は一部、それも米国側が中心」と見ている。日本の防衛産業の中での位置は日本の防衛産業・軍需企業一覧で確認できる。
数字で見る防衛の位置

| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 2027年3月期計画 |
|---|---|---|---|
| 全社 売上高 | 1兆5,228億円 | 1兆6,644億円 | 1兆6,900億円 |
| 全社 営業利益 | 944億円 | 1,040億円 | 1,200億円 |
| プレシジョンテクノロジーズ 売上高 | 2,557億円 | 2,812億円 | 3,130億円 |
| うち航空宇宙 売上高 | 591億円 | 660億円 | 825億円 |
| 特殊機器(火器・装備品) | 非開示 | 非開示 | 非開示 |
見てのとおり、防衛の数字は出てこない。航空宇宙660億円は全社の4%で、その中の防衛はさらに一部。火器と装備品を足しても、全社の1%に届くかどうかだと私は見ている。日本の防衛企業を受注残で比べた記事をこちらに置いてあるが、ミネベアミツミは防衛省との直接契約額が小さく、その表には出てこない。
収益の見方:この株は防衛でも銃でも動かない
株価の水準を確認しておく。2026年9月中旬で3,400円前後、予想PERは15倍、PBRは1.5倍、予想配当利回りは1.8%、時価総額は1兆4,000億円台。年初来高値は6月25日の5,307円、安値は3月23日の2,518円で、3か月で倍になってからの調整局面にある。
動かしているのはデータセンターだ。AIサーバーの冷却ファンに使う小径ベアリングが月産4,000万個規模で増え、2026年4〜6月の第1四半期は売上4,266億円で16%増、営業利益263億円で51%増と第1四半期として過去最高になった。8月の決算でも「データセンター向け部品好調」が見出しになった。逆に足を引っ張っているのはアクセスソリューションズの減益と、車載市場の伸び悩みだ。中期計画は2028年度に売上1兆9,000億円、営業利益1,680億円で、そこまでに5,000億円のキャッシュを作り、2,700億円を設備投資、800億円を配当、1,500億円をM&Aに振ると言っている。
防衛は、この会社の株価の変数に入っていない。防衛費が増えても、9mm機関けん銃の調達は陸自で終わっているし、9mm拳銃はSFP9に替わった。伸びる可能性があるのは兵装架などの装備品と、米国NHBB経由の軍用機部品だが、どちらも開示されない規模だ。「隠れた防衛関連銘柄」として名前が挙がることはあるが、私は防衛の文脈でこの株を買う理由はないと思っている。買うなら、ベアリングとデータセンターと半導体の会社として買うべきだ。
見るべき指標を絞るなら次の5つだ。
- ベアリングの月間外販数量(2025年3月期は月平均2億3,700万個)とデータセンター向けの比率
- 航空宇宙の売上が計画の825億円に乗るか(ボーイング・エアバスの生産レート次第)
- プレシジョンテクノロジーズの営業利益率(2026年3月期22.1%)が維持できるか
- アクセスソリューションズの構造改革の進捗
- M&A枠1,500億円の使い道
為替と防衛株全般の関係はこちらで整理した。
防衛関連銘柄の全体像は防衛関連銘柄 完全投資ガイドで、時価総額の小さい銘柄群は防衛関連の中小型株10社で書いた。火器で防衛に触れたいなら、売上の2割強が防衛の豊和工業のほうが素直で、その比較は豊和工業の記事で読める。
なお、ここに書いたことは私個人の整理であって、特定の銘柄の売買を勧めるものではない。数字は執筆時点の開示と報道に基づくもので、その後の決算や株価で変わる。最終的な判断は各自の責任でお願いしたい。
自衛隊ファンの視点:国産拳銃が終わった意味

最後に投資とは別の話をする。
2019年に自衛隊の拳銃がSFP9に替わったとき、日本は拳銃の国産を事実上やめた。9mm拳銃はライセンス生産だったから、もともと「設計は外国、製造は日本」だったのだが、それでも国内に拳銃を作るラインがあることには意味があった。SFP9は輸入で、国内で作る計画はない。9mm機関けん銃も陸自の調達は終わった。南部麒次郎から数えて100年続いた「日本で拳銃を作る」系譜は、ミネベアの松井田で細く残っているだけだ。
私はこれを嘆く立場ではない。拳銃は消耗品ではなく、数万丁を一度揃えれば何十年も使う。数年に一度しか発注のない銃を国産で維持するコストは、国産の小銃や弾薬を維持するコストとは重さが違う。ミネベアが火器の看板を下ろさずに、装備品と航空宇宙部品に軸足を移していったのは、企業として正しい判断だったと思う。
ただ、南部麒次郎の会社が満州飛行機の技術者の会社に吸収されて、その会社がいまAIサーバーのファンの軸受で最高益を出している、という流れは、日本の軍需産業が戦後にどう形を変えたかの縮図そのものだ。銃は残り、会社は変わり、技術は軸受と兵装架に移った。私はこの会社を、防衛株というより「南部の系譜を軸受に変えた会社」として眺めている。
よくある質問
ミネベアミツミの防衛事業は売上の何割か
会社は防衛向けの売上を開示していない。航空宇宙部品は2026年3月期に660億円で全社の4%だが、大半は民間機向け。火器と航空機・艦船用の装備品を合わせた「特殊機器」も非開示で、私の見立てでは防衛全体で全社の1%に届くかどうかという規模だ。
ミネベアはまだ自衛隊の拳銃を作っているのか
自衛隊の9mm拳銃(SIG P220のライセンス品)は2019年からH&K製SFP9への更新が始まり、新規調達は輸入品になった。9mm機関けん銃は陸上自衛隊の調達が終わり、海上自衛隊と航空自衛隊が調達を続けている。警察向けのニューナンブM60は現役で、S&W製M360Jの日本向けカスタマイズも担当している。
ミネベアミツミの防衛向け製品はどこで作られているのか
火器と航空機・艦船用の装備品は群馬県安中市の松井田工場で、2012年に建設が決まった防衛・航空宇宙向けの専用工場に集約されている。それ以前は東京・大田区の大森工場(旧新中央工業)で、2014年に閉鎖された。航空宇宙用ベアリングは日本のほかタイ、米国のNHBB、ドイツ、インドで作られている。
ミネベアミツミは防衛株として買いか
株価はデータセンター向けベアリングと半導体、車載で動き、防衛は変数に入っていない。2026年の株価が3か月で倍になった理由もAIとデータセンターだ。防衛の文脈で買う理由は薄く、火器で防衛に触れたいなら豊和工業のほうが直接的だ。ここは断定できないし、各自で判断してほしい。
ミネベアと南部麒次郎の関係は
南部麒次郎が戦前に興した中央工業が、戦後に新中央工業となり、1975年にミネベアに吸収合併された。ニューナンブM60は新中央工業が開発した拳銃で、ミネベアが生産を引き継いだ。ミネベア製の銃に入るNMBの刻印は南部ではなくNippon Miniature Bearingの略だが、系譜としては南部の会社の後身にあたる。
まとめ
ミネベアミツミは満州飛行機の技術者が興したベアリング会社で、南部麒次郎の系譜を継ぐ新中央工業を吸収して銃器と防衛装備品に参入した。作ってきたのは警察のニューナンブ、自衛隊の9mm拳銃と9mm機関けん銃、航空機の兵装架、そしてMIL規格の航空宇宙ベアリング。防衛向けの売上は非開示で、全社1兆6,644億円の中で1%前後にとどまる。株価はデータセンター向けベアリングで動き、防衛でも銃でも動かない。国産拳銃の時代はSFP9で終わり、南部の系譜は軸受と装備品に姿を変えた。それがこの会社の防衛事業の現在地だ。
出典
- ミネベアミツミ「2026年3月期 決算説明会資料」2026年5月12日
- ミネベアミツミ「2025年3月期 決算説明会 説明要旨」2025年5月
- ミネベアミツミ「2026年3月期 決算サマリー(セグメント別)」
- ミネベア「松井田工場に防衛・航空宇宙向け専用工場を建設」プレスリリース 2012年6月
- ミネベアミツミ 製品サイト「ロッドエンド&スフェリカルベアリング」「ブッシング」(MIL規格・認定の記述)
- オートメーション新聞「ミネベアミツミ、14期連続増収 中期業績予想は28年度1.9兆円へ」2026年5月
- 日本経済新聞「ミネベアミツミ5年ぶり最高益 4〜6月営業、データセンター向け部品好調」2026年8月
- 東洋経済オンライン「拡大する防衛費を防衛省・自衛隊が適切に使えていない可能性」2025年10月(9mm拳銃・機関けん銃に関する記述)
- Wikipedia「新中央工業」「9mm機関けん銃」「ミネベアミツミ」(沿革・採用部隊の整理)
- 日本経済新聞 銘柄情報 ミネベアミツミ(6479)株価指標(2026年9月時点)







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