戦闘機の話をするとき、みんな機体の話をする。F-35は三菱重工の小牧で最終組み立てされ、F-2は三菱重工が作り、P-1とC-2は川崎重工が作った、と。ではその機体を飛ばしているエンジンは誰が作っているのか、と聞かれて即答できる人は少ない。
答えを先に書く。自衛隊の主力ジェット機を支える国内メーカーの中心はIHIだ。F-15JのF100も、F-2のF110も、T-4のF3も、P-1のF7も、IHIが主契約者として作っている。F-35のF135はIHIが組み立てと部品を担い、2023年からは共同開発国以外で初めての整備拠点を東京の瑞穂に持った。次期戦闘機GCAPのエンジンも、英ロールス・ロイス、伊アビオ・エアロとIHIの3社で開発している。会社自身が「日本のジェットエンジン生産の60〜70%を担い、防衛省が使用する航空機のほとんどのエンジンの主契約者」と書いている。
では川崎重工と三菱重工は何をしているのか。川崎重工はCH-47のT55を作り、ヘリのエンジンを担う。三菱重工はOH-1のTS1を開発し、今は民間エンジンとロケットエンジンが本業で、防衛の航空エンジンでは脇役だ。戦前は三菱と中島が発動機の二強で、石川島は橘花のネ20を海軍と作った程度だったことを思えば、戦後の逆転は相当なものだ。
この記事は、その3社の役割分担を機種ごとに整理し、なぜIHIに集まったのか、GCAPで何が変わるのか、投資家はどう見るべきかを、旧軍ファンで技術好きで株もやる人間の目線で書いていく。
戦前の逆転:三菱・中島の二強から、IHIの独占へ
旧軍ファン向けに、まず戦前の話から入る。
戦後、7年間の航空禁止令が解けた後、日本はまず米軍機のエンジンをライセンス生産するところから再出発する。F-86FのJ47、F-104JとF-4EJのJ79、そしてこの流れの主契約者を担ったのが石川島(後の石川島播磨、今のIHI)だった。三菱は機体に、川崎も機体に軸足を置き、エンジンはIHIに集約されていった。中島は財閥解体で富士重工になり、発動機の系譜は事実上絶えた。三菱の名古屋発動機製作所は今の名古屋誘導推進システム製作所で、ミサイルとロケットエンジンと民間エンジンの工場になっている。
つまり戦前の「三菱・中島」が戦後の「IHI」になった。日本の航空エンジンの系譜で、これがいちばん大きな断絶だ。
機種別に見る:誰がどのエンジンを作っているか

自衛隊の主な機体について、エンジンと国内の主契約を並べる。
| 機体 | エンジン | 原設計 | 国内の担当 |
|---|---|---|---|
| F-35A/B | F135 | 米P&W | IHI(部品製造・組立・整備拠点) |
| F-15J/DJ | F100-IHI-220E | 米P&W | IHI(ライセンス生産) |
| F-2 | F110-IHI-129 | 米GE | IHI(ライセンス生産) |
| T-4 練習機 | F3-IHI-30 | 国産 | IHI(開発・生産) |
| P-1 哨戒機 | F7-10 | 国産(防衛省開発) | IHI(生産) |
| SH-60K/UH-60J など | T700 | 米GE | IHI(ライセンス生産) |
| CH-47J/JA | T55 | 米ハネウェル | 川崎重工(ライセンス生産・整備) |
| MCH-101/CH-101 | RTM322 | 英ロールス・ロイス系 | 川崎重工(ライセンス生産) |
| OH-1 | TS1 | 国産 | 三菱重工(開発・生産) |
| 次期戦闘機(GCAP) | 新規開発 | 日英伊共同 | IHI(ロールス・ロイス、アビオ・エアロと3社) |
表を見れば分かるとおり、この表に挙げた固定翼ジェット機ではIHIが国内の担当で、川崎重工と三菱重工が出てくるのはヘリコプターだけだ。しかもヘリでも海自と空自の主力であるSH-60系とUH-60系のT700はIHIが作っている。川崎重工がT55を作るのはCH-47の機体を川崎重工が作っているからで、三菱重工がTS1を作ったのはOH-1という国産ヘリの専用エンジンを防衛省が国産開発したからだ。
機体と対にして読むなら、F-15Jについてはこちら、F-2はこちら、F-35はこちら、空自の全機体は航空自衛隊の機体一覧にまとめてある。
IHI:ライセンス生産からGCAPまで

IHIの防衛エンジンには3つの層がある。
1つ目はライセンス生産だ。F-15JのF100とF-2のF110は、米国の設計を日本で作る。単に組み立てるのではなく、部品の多くを国内で作り、整備も国内でできる。この「国内で作れて直せる」ことが、戦闘機を何十年も飛ばすうえで決定的に効く。
2つ目は国産開発だ。T-4のF3は日本が独自に開発して量産した2番目のジェットエンジン(1番目は練習機T-1のJ3)で、P-1のF7-10は防衛省が開発した高バイパス比ターボファンをIHIが量産している。国産ジェットエンジン4基を積むP-1は、世界的にも珍しい哨戒機だ。そしてこの国産の系譜が、実証エンジンXF5を経て、2018年に納入された戦闘機用プロトタイプXF9-1へつながった。XF9は推力15トン級で、日本が戦闘機のエンジンを自前で設計できることを証明した。
3つ目がF135とGCAPだ。F-35のエンジンF135について、IHIは2017年に瑞穂工場の専用工場を稼働させて組み立てと部品製造を担い、2023年6月には共同開発国以外で初めての整備拠点(リージョナル・デポ)として整備を始めた。F135の整備拠点は米国、ノルウェー、オランダ、豪州、日本の5か国にしかなく、アジア太平洋は豪州と日本の2つで受け持つ。日本だけでなく、この地域に展開する米軍のF-35や他国のF-35が瑞穂で直される可能性がある。F-35の機体側の整備拠点についてはこちらで書いた。
そしてGCAP。2022年12月に日英伊の共同開発が決まり、エンジンはIHI、ロールス・ロイス、アビオ・エアロの3社が担うことになった。日本側はXF9で得た技術を持ち込み、英国側はFCASの基盤研究を持ち込む。3社は2025年9月に機体側の合弁会社エッジウィングとの直接連携の協力協定を結び、英国レディングに共同開発拠点を開いた。2026年7月の発表では、実証エンジンの設計が最終承認に向けた段階に入り、100件を超えるサブスケール試験を終え、地上試験に向けた準備が進んでいる。ロールス・ロイスの担当者は「単に推力を生み出すエンジンではなく、次世代のセンサーや兵器が求める電力と熱負荷に対応できる空飛ぶ発電所」だと言っている。GCAPそのものについてはこちら、関連企業の一覧はこちら、ロールス・ロイスの株についてはこちらで書いた。
拠点も押さえておく。瑞穂(東京)がエンジンの組立と試運転、相馬(福島)と呉第二(広島)が部品製造。IHIの防衛事業全体は別の記事で書いたので、潜水艦や固体ロケットまで含めた全体像はそちらを読んでほしい。
川崎重工:ヘリのエンジンと、機体側の主契約
川崎重工のエンジン事業は明石工場にあり、民間ではロールス・ロイスのTrentシリーズやPW1100G-JMの国際共同開発に参画し、防衛ではヘリコプター用のターボシャフトエンジンを担う。
代表がCH-47J/JAのT55だ。米ハネウェルとの技術提携で1986年からライセンス製造と整備を続けている。陸自と空自のCH-47は大型輸送ヘリの主力で、災害派遣でも最前線に出る機体だから、そのエンジンを国内で作れて直せることには意味がある。海自の掃海・輸送ヘリMCH-101と南極輸送支援のCH-101については、機体もエンジン(RTM322)も川崎重工がライセンス製造した。
ただし川崎重工の本領は機体側にある。P-1とC-2の主契約企業で、T-4の主契約も川崎重工だった。P-1のエンジンはIHIのF7、T-4のエンジンはIHIのF3。川崎重工が機体を設計し、IHIがエンジンを載せる、という組み合わせが自衛隊の固定翼機では標準になっている。川崎重工の防衛事業全体はこちらで書いた。
三菱重工:TS1と、エンジンでは脇役という現実

三菱重工の防衛航空エンジンは、事実上TS1だけだ。防衛省がOH-1観測ヘリ用に国産開発した900馬力級のターボシャフトエンジンで、三菱重工が設計・製造の主契約者として1991年に開発を始め、1996年に初飛行、1998年に量産初号機を出荷した。作っているのは小牧の名古屋誘導推進システム製作所で、ここは戦前の名古屋発動機製作所の流れを汲む。金星と火星を作った工場が、今はOH-1のエンジンとPAC-3とH3ロケットのLE-9を作っている。
それ以外の三菱重工の航空エンジンは民間だ。Trent1000やTrent XWB、PW4000の共同開発に参画し、子会社の三菱重工航空エンジンが小牧で民間エンジンの整備を月10台規模へ広げている。F-35の最終組み立てを小牧南でやっているのは三菱重工だが、そこに載るF135はIHIが組み立てる。GCAPでも三菱重工の担当は機体で、エンジンではない。
三菱重工を「戦闘機の会社」と思っている人にとって、エンジンでは脇役だという事実は意外かもしれない。だが日本の防衛産業はそういう分業になっている。機体の三菱・川崎、エンジンのIHI、電子装備の三菱電機。三菱重工の防衛事業全体はこちらで、日本の防衛産業の顔ぶれは日本の防衛産業・軍需企業一覧で確認できる。
投資家の視点:エンジンで買えるのはIHIだけ
株を見る目に切り替える。
軍用航空エンジンに投資したいなら、上場企業で意味のある選択肢はIHI(7013)しかない。川崎重工(7012)のエンジンはヘリのT55と民間の共同開発分で、全社の中では小さい。三菱重工(7011)のエンジンは民間とロケットが中心で、防衛航空エンジンはTS1だけだ。どちらもエンジンで株価が動く会社ではない。
IHIは違う。航空・宇宙・防衛セグメントが会社の稼ぎ頭で、2026年3月期の純利益は前期比43%増の1,609億円と2期連続の最高益、2027年3月期は営業利益2,500億円の見通しに上方修正され、さらに最高益を更新する見込みだ。防衛事業は「堅調に拡大し増収」が続き、受注高の上方修正でも防衛で200億円の引き上げがあった。民間エンジンのアフターマーケット(スペアパーツと整備)が利益の本体で、防衛はその横で伸びている構図になる。
ただし注意点が2つ。1つはPW1100G-JMエンジンの追加検査プログラムで、IHIが参画するこの民間エンジンの不具合対応で巨額の費用を計上した過去があり、為替の影響が今も残っている。もう1つは、GCAPのエンジンが利益に化けるのは2035年の配備以降で、それまでは開発費が先に出る、という時間軸だ。防衛費の増額でIHIのエンジン事業が伸びるのは事実だが、今の株価を支えているのは民間機のエンジン整備であって、GCAPではない。IHIの株価と防衛事業の関係はIHIの防衛事業の記事で、防衛関連銘柄の全体像は防衛関連銘柄 完全投資ガイドで書いた。
技術ファンの視点:なぜ戦闘機のエンジンは作れる国が少ないのか

最後に技術の話をする。
戦闘機用のエンジンを自前で設計して量産できる国は、米国、英国、フランス、ロシア、中国などに限られる。日本はXF9-1の試作・実証まで進めている。機体を作れる国はもっと多いのに、エンジンはこれだけ少ない。理由はタービン入口温度にある。推力を上げるには燃焼ガスを高温にする必要があり、現代の戦闘機エンジンではその温度が1,800度を超える。タービン翼の金属の融点より高い。だから翼の内部に冷却空気の通路を掘り、表面に耐熱コーティングを施し、単結晶のニッケル超合金で翼を作る。この材料と冷却と製造の三つ揃いが、一朝一夕には手に入らない。
日本がXF9でそれを実証できたのは、F3とF7で国産ジェットエンジンを途切れさせずに作り続け、F100とF110のライセンス生産で米国の設計を分解して学び、材料メーカーが単結晶合金を供給できたからだ。エンジンの技術は、一度止めると10年で失われ、取り戻すのに20年かかると言われる。IHIに集約されたことの弊害は競争がないことだが、利点は途切れなかったことだ。
そしてGCAPのエンジンは、推力だけでなく発電量で語られている。次世代機のレーダーや電子戦装備、将来の指向性エネルギー兵器は大量の電力を食い、その熱を捨てなければならない。エンジンを発電所として設計する、という発想は、橘花のネ20から80年たった日本の航空エンジンが、ようやく「作れる」段階から「定義する」段階に入ったことを示している。私はこの3社の分業を、日本の航空産業が戦後に選んだ「一社に集めて絶やさない」という戦略の帰結として眺めている。
よくある質問
自衛隊の戦闘機のエンジンはどこが作っているのか
F-15JのF100とF-2のF110はIHIがライセンス生産し、F-35のF135はIHIが部品製造と組立を担い、瑞穂工場で整備している。次期戦闘機GCAPのエンジンはIHI、ロールス・ロイス、アビオ・エアロの3社が共同開発中だ。ここに挙げた主力ジェット機では、IHIが国内の製造・組立・整備を担っている。
川崎重工と三菱重工は軍用エンジンを作っていないのか
川崎重工はCH-47のT55とMCH-101系のRTM322をライセンス製造している。三菱重工はOH-1用のTS1を国産開発した主契約者だ。いずれもヘリコプター用のターボシャフトエンジンで、固定翼ジェット機のエンジンは担当していない。両社の本領は機体側にある。
P-1のエンジンは国産なのか
P-1のF7-10は防衛省が日本で独自に開発した高バイパス比ターボファンエンジンで、IHIが量産している。哨戒機に国産ジェットエンジンを4発搭載して運用している例は世界的にも珍しい。
GCAPのエンジンはいつ完成するのか
IHI、ロールス・ロイス、アビオ・エアロの3社が実証エンジンを開発中で、2026年7月時点で設計が最終承認に向けた段階に入り、地上試験の準備が進んでいる。GCAPの機体は2035年の配備を目指しており、量産エンジンの完成はそれに合わせて進む。
軍用航空エンジンに投資するならどの銘柄か
上場企業で軍用航空エンジンが業績に意味を持つのはIHI(7013)だけで、川崎重工と三菱重工はエンジンの比重が小さい。ただしIHIの利益の本体は民間エンジンのアフターマーケットで、防衛はその横で伸びている。ここは断定できないし、各自で判断してほしい。
まとめ
日本の軍用航空エンジンはIHIに集約されている。F-15JのF100、F-2のF110、T-4のF3、P-1のF7、F-35のF135でIHIが国内の製造・組立・整備を担い、GCAPの次世代エンジンでは英伊の企業と共同開発を進めている。川崎重工はCH-47のT55などヘリのエンジンを、三菱重工はOH-1のTS1を担うが、両社の本領は機体側にある。戦前の三菱・中島の二強が戦後にIHI一社へ置き換わったのは、ライセンス生産の主契約を石川島が担い続けた結果で、その集約が国産エンジンの系譜を途切れさせなかった。投資家として軍用エンジンを買うならIHI一択だが、その株価を支えているのは民間エンジンの整備である、という点は忘れないほうがいい。
出典
- IHI 製品情報「航空エンジン」(F110・F3・F7-10・T700、国内ジェットエンジン生産の60〜70%の記述)
- IHI「GCAPコンソーシアム、エンジン実証機の地上試験に向け前進」2026年7月21日
- IHI「GCAPエンジンコンソーシアム、初飛行に向けてパートナーシップを拡大」2025年9月10日
- IHI「F-35戦闘機搭載エンジンの整備事業を開始」2023年6月29日
- 日刊工業新聞「IHI、『F-35』エンジン専用の瑞穂工場稼働」2017年3月
- 川崎重工 製品情報「T55ターボシャフトエンジン」「ヘリコプター」
- 三菱重工 製品情報「ターボシャフト TS1エンジン」、名古屋誘導推進システム製作所「沿革」
- 日本経済新聞「IHIの純利益・受注高が上振れ 26年3月期、航空エンジン部品が好調」2025年11月
- IHI「2026年度(2027年3月期)第1四半期決算説明資料」2026年8月5日
- Aviation Wire「IHI、次期戦闘機のエンジン参画 日英伊が共同開発」2022年12月







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