オーストラリアは、海岸線の長さが世界有数で、守るべき海の広さは日本をはるかに上回る。その国の海軍が、いま持っている水上戦闘艦は、駆逐艦3隻とフリゲート7隻。合わせて10隻である。
海上自衛隊の護衛艦は約50隻。比べるのも気の毒な数だ。しかも、この10隻はこれからさらに減る。古いフリゲートが先に退役し、代わりの新しい艦が届くのは2029年以降になるからだ。オーストラリアの専門家は、この状態を「船体の空白の10年」と呼んでいる。
その空白を埋める切り札として選ばれたのが、日本の「もがみ型」の改良型だった。2026年4月18日、オーストラリア政府は三菱重工と最初の3隻の契約を結んだ。戦後の日本にとって、初めての本格的な軍艦の輸出である。
80年あまり前、この国の軍港に特殊潜航艇で忍び込んだ国の軍艦が、今度はこの国の海を守る。歴史というのは、ときどき信じられないような回り方をする。
この記事では、オーストラリア海軍の現役艦艇と、これから入ってくる艦を、2026年9月時点の情報で整理する。
一覧|オーストラリア海軍の主な艦艇
建造中・計画中の艦は次のとおり。
隻数は、オーストラリア国防省の発表と報道をもとに整理した。退役と就役が同時に進んでいるので、細かい数字は数か月で変わる。
水上戦闘艦|10隻しかない主力
ホバート級駆逐艦(3隻)

写真:U.S. Navy / MC2 Jenna Dobson/出典(Public Domain・縮小圧縮)
ホバート、ブリスベン、シドニーの3隻。2017年から2020年にかけて就役した、オーストラリア海軍で唯一のイージス艦である。
設計のもとはスペインのナバンティア社のF100型フリゲートで、満載排水量は約7,000トン。ミサイルの垂直発射装置(VLS)は48セル。日本のイージス艦が90セル以上を積んでいるのと比べると小ぶりだが、艦隊の防空を一手に引き受ける虎の子だ。
この3隻には、いま大きな変化が起きている。2024年12月、2番艦のブリスベンが米国沖でトマホーク巡航ミサイルの試射に成功した。トマホークを撃てる国は、米国、英国に続いてオーストラリアが3番目になった。日本も護衛艦「ちょうかい」が2026年に実射試験をしており、ほぼ同じ時期に同じ道を歩いている。トマホークそのものについてはトマホークの記事を見てほしい。
問題は、この3隻がこれから順番にイージス・システムの大規模な改修に入ることだ。改修中の艦は戦力にならない。ただでさえ少ない10隻が、実質的にはもっと少なくなる。
アンザック級フリゲート(7隻)
オーストラリア海軍の働き頭。ドイツのMEKO200型をもとに、1996年から2006年にかけて8隻が就役した。満載排水量は約3,800トン。
小さな船体に、オーストラリア製のフェーズドアレイ・レーダー「CEAFAR」を載せたのが特徴だ。艦橋の上の六角形の塔がそれで、この国が自前で育てた数少ない一級品の防衛技術である。対艦ミサイルはハープーンから、ノルウェー製の新型ミサイルNSMへの換装が進んでいる。
ただし、艦そのものが古い。1番艦アンザックは2024年5月、就役からちょうど28年で退役した。2番艦アランタも2026年に退役する予定で、クラスは6隻になる。政府は予定していた延命改修を取りやめ、その金を新型フリゲートに回す決断をした。古い艦を直し続けるより、新しい艦を早く手に入れるほうを選んだわけだ。
「10隻から、いったん減って、26隻へ」
2024年2月、オーストラリア政府は海軍の水上戦闘艦隊についての独立した検討結果を公表し、将来の姿を示した。
- ホバート級駆逐艦:3隻
- ハンター級フリゲート:6隻
- 汎用フリゲート(改もがみ型):11隻
- 大型無人水上艦:6隻
- 合計:26隻
いまの倍以上、第二次世界大戦後で最大の艦隊になる。ただし、完成するのは2040年代だ。それまでの間、古い艦は先に消え、新しい艦は後から来る。報道では、短期的には水上戦闘艦が8隻程度まで減る可能性も指摘されている。
改もがみ型|日本製の軍艦が豪州海軍の主力になる

この空白を埋める最初の艦が、改もがみ型である。
2025年8月、オーストラリア政府は次期汎用フリゲートに、ドイツの案を退けて日本の案を選んだ。そして2026年4月18日、最初の3隻について、日本政府および三菱重工との契約が結ばれた。調印の席では、マールズ副首相兼国防相と小泉防衛大臣が「もがみ覚書」に署名している。オーストラリア政府は、この計画に今後10年間で最大200億豪ドルを投じるとしている。
計画の骨格はこうだ。
- 全部で11隻
- 最初の3隻は日本で建造し、1番艦は2029年に引き渡し
- 残りは西オーストラリア州のヘンダーソン造船所で建造する方向
- VLSは32セル。乗員は約90人
決め手になったのは、乗員の少なさと、納期だったと言われている。アンザック級は1隻に約180人が乗るが、改もがみ型はその半分で動く。オーストラリア海軍は日本の自衛隊と同じく人手不足に苦しんでいて、艦を増やしたくても乗せる人がいない。90人で動く4,800トン級のフリゲートは、喉から手が出るほど欲しかったはずだ。そして2029年に間に合わせられる造船所は、もがみ型を年2隻のペースで量産している日本にしかなかった。
2026年には、護衛艦「くまの」が多国間演習に参加するためオーストラリアへ向かう航海に、オーストラリア海軍の隊員が同乗して訓練を受けた。すでに、人の行き来は始まっている。
契約の詳しい中身と日本側の企業についてはもがみ型の豪州輸出の記事に、艦そのものの性能はもがみ型護衛艦の解説にまとめた。レーダーや通信で関わるNECの記事も参考になる。
ハンター級フリゲート(6隻計画)
もう1つの新型艦が、対潜水艦戦を専門にするハンター級だ。イギリスの26型フリゲートをもとに、アデレードで建造が進んでいる。
こちらは難産である。イギリスの設計に、オーストラリア製のレーダーと米国製のイージス・システムを載せるという欲張った仕様にした結果、艦は1万トン近くまで大きくなり、費用は膨らみ、計画は遅れた。当初9隻の予定だったのが6隻に減らされ、1番艦の就役は2030年代前半になる見込みだ。
よその国の設計に、あれもこれもと注文をつけて泥沼にはまる。軍艦の調達でよくある失敗で、オーストラリアはこれを何度か繰り返してきた。改もがみ型で「日本の設計をなるべくいじらない」方針が強調されているのは、その反省からである。
潜水艦|コリンズ級と、AUKUSの原子力潜水艦
コリンズ級(6隻)

写真:U.S. Navy / CPO Ryan Litzenberger/出典(Public Domain・縮小圧縮)
1996年から2003年にかけて就役した通常動力の潜水艦。スウェーデンの設計をもとにアデレードで建造された。水中排水量は約3,400トンで、通常動力型としては世界最大級。広い海を長く走るための大きさである。
就役した当初は騒音や戦闘システムの不具合で散々に叩かれたが、長年の改良でいまでは評価を持ち直している。ただし、いちばん古い艦はもう30年選手だ。原子力潜水艦が届くまでのつなぎとして、延命改修をして2040年代まで使う計画になっている。
ちなみに、このコリンズ級の後継をめぐっては、2016年に日本のそうりゅう型が候補になり、フランスに敗れた。そのフランス案も2021年に破棄され、オーストラリアは原子力潜水艦へ舵を切った。日本にとっては苦い記憶で、今回のフリゲートの受注は、10年越しの雪辱でもある。
AUKUS|原子力潜水艦への道
2021年9月、オーストラリア、イギリス、米国の3か国は、AUKUSと呼ばれる安全保障の枠組みを発表した。柱は、オーストラリアに原子力潜水艦を持たせることだ。
道筋は3段階になっている。
- 2027年ごろから、米英の原子力潜水艦が西オーストラリアの基地に交代で展開する
- 2030年代前半から、米国のバージニア級を3隻(最大5隻)購入する
- 英国と共同設計する新型艦SSN-AUKUSをアデレードで建造し、2040年代初頭に豪州建造の初号艦の引き渡しを目指す
総費用は2055年までに最大3,680億豪ドルと見積もられている。国の規模を考えれば、途方もない買い物だ。米国の造船所は自国向けの建造だけで手いっぱいで、本当にオーストラリアに回す余裕があるのか、という疑問の声も絶えない。
それでも原子力にこだわる理由は、地図を見れば分かる。オーストラリアの基地から南シナ海までは数千キロある。通常動力の潜水艦では、現場に着くまでに何週間もかかり、着いたころには燃料も食料も心もとない。原子力なら、速く行けて、長くいられる。原子力潜水艦とは何かは原子力潜水艦の解説に書いた。
ゴーストシャーク|無人の潜水艦
もう1つ、見逃せないのが無人潜水艦だ。米国の新興企業アンドゥリルのオーストラリア法人と海軍が共同開発した「ゴーストシャーク」は、バスほどの大きさの超大型無人潜水機で、2025年9月に17億豪ドル規模の量産契約が結ばれた。
有人の原子力潜水艦は高くて、遅い。届くのは2030年代だ。その間を、安くて早く数が揃う無人機で埋める。空の世界でも、オーストラリアは無人戦闘機MQ-28ゴーストバットを開発している。人口2,700万人の国が広い海と空を守るには、無人化しか道がない。日本がSHIELD構想で目指しているものと、発想は同じである。
揚陸艦・補給艦・哨戒艦
キャンベラ級強襲揚陸艦(2隻)

写真:U.S. Navy / MC3 Jason Tarleton/出典(Public Domain・縮小圧縮)
キャンベラとアデレード。満載排水量約2万7,500トンで、オーストラリア海軍の歴史で最大の艦だ。スペインのフアン・カルロス1世をもとにした設計で、艦首には戦闘機を発艦させるためのスキージャンプ台までついている。ただし、オーストラリアはF-35Bを持っておらず、この台は使われていない。
実際の使い道は、ヘリコプターと上陸用舟艇で部隊を運ぶことと、災害救援だ。南太平洋の島国でサイクロンや火山の噴火があると、真っ先に駆けつけるのがこの艦である。艦種の基本は強襲揚陸艦の解説で、日本のいずも型との違いを考えながら読むと面白い。
チャールズ、サプライ級
ドック型揚陸艦のチャールズは、イギリス海軍補助艦隊のベイ級を2011年に中古で買ったもの。サプライ級補給艦の2隻(サプライ、ストルワート)は2021年に就役した新しい艦で、艦隊が遠くまで出ていくための足になる。
アラフラ級哨戒艦(6隻計画)
全長80メートル、約1,640トンの哨戒艦。密漁や密航の取り締まりが主な仕事だ。1番艦アラフラは2025年6月、予定より3年半遅れて就役し、2番艦エアは2026年5月30日に就役した。
当初は12隻を造る計画だったが、2024年の検討で半分の6隻に減らされた。理由は辛辣で、取り締まりに使うには贅沢すぎ、戦闘に使うには武装も生存性も足りない、というものだった。残りの4隻は西オーストラリアで建造中である。日本が哨戒艦を造りはじめたのと同じ時期の話で、他山の石になる。
日本とオーストラリアの海軍、110年の因縁
ここからは歴史好きの寄り道だ。
オーストラリア海軍と日本海軍の付き合いは、実は味方として始まっている。1914年、第一次世界大戦でヨーロッパへ向かうオーストラリアとニュージーランドの兵士を乗せた大船団を、インド洋で護衛したのは、日英同盟にもとづいて派遣された日本の巡洋戦艦「伊吹」だった。
それから28年後、両国は敵になる。1942年2月、日本の空母機動部隊がダーウィンを空襲した。5月末には、特殊潜航艇がシドニー湾に侵入し、魚雷が宿泊艦クッタブルを沈めて21人が亡くなった。8月の第一次ソロモン海戦では、三川軍一中将の艦隊が夜戦で連合軍の巡洋艦隊を壊滅させ、重巡キャンベラが失われた。その前の3月には、軽巡パースがバタビア沖で日本艦隊と戦って沈んでいる。
いまのオーストラリア海軍を見ると、この記憶がそのまま残っている。最大の艦の名はキャンベラ。アンザック級の最後の1隻はパース。そしてシドニーの艦隊基地の名前は、クッタブルという。
1つ、書いておきたい話がある。シドニー湾で戦死した特殊潜航艇の乗員たちを、オーストラリア海軍は海軍葬の礼をもって弔った。戦争の真っ最中に、自分の港を襲った敵をである。批判の声も上がったが、現地の司令官は、この勇気は一国だけのものではない、と述べたと伝えられる。遺骨はのちに日本へ送り返された。
その海軍が、80年あまりたって、日本の軍艦を自分たちの主力に選んだ。私はこの話が好きだ。
投資家目線のメモ
改もがみ型の輸出は、日本の防衛産業にとって久しぶりの大きな話である。主契約者は三菱重工で、レーダー、ソナー、通信、エンジンと、艦に載る装備を作る会社は数多い。
ただ、冷静に見ておきたい点もある。確定した契約は最初の3隻。4隻目以降はオーストラリア国内で造る方向で、日本側に落ちる仕事は設計の使用料や装備品、技術支援が中心になっていく。引き渡しは2029年からで、業績に効いてくるのは少し先だ。それでも、一度採用されれば、整備と改修の仕事が30年続く。軍艦の輸出の本当のうまみはそこにある。
関連する企業は造船重工株ランキングと防衛関連銘柄の投資ガイドで整理している。
(免責事項)本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や金融商品の売買を勧めるものではない。投資の判断は自分自身の責任で行ってほしい。
よくある質問
オーストラリア海軍の艦艇は何隻?
主力の水上戦闘艦は、ホバート級駆逐艦3隻とアンザック級フリゲート7隻の計10隻(2026年9月時点。アンザック級は年内に1隻が退役予定)。このほか潜水艦6隻、強襲揚陸艦2隻、補給艦2隻、哨戒艦艇などがある。
オーストラリア海軍に空母はある?
ない。かつては軽空母メルボルンを持っていたが、1982年に退役した。キャンベラ級強襲揚陸艦にはスキージャンプ台があるが、固定翼の戦闘機は運用していない。
改もがみ型は何隻、いつ入る?
計画は11隻。最初の3隻は日本で建造し、1番艦は2029年に引き渡される予定。2026年4月18日に最初の3隻の契約が結ばれた。
原子力潜水艦はいつ配備される?
計画では、2030年代前半から米国のバージニア級を取得し、2040年代前半から国内建造のSSN-AUKUSが加わる。それまではコリンズ級を延命して使う。
海上自衛隊と比べるとどのくらいの規模?
水上戦闘艦の数で見ると、海上自衛隊の約5分の1。ただし、オーストラリアは強襲揚陸艦を持ち、原子力潜水艦の取得を進め、トマホークの運用でも日本とほぼ同時に走っている。数は少ないが、やろうとしていることは大きい。海自の戦力は海上自衛隊の艦艇一覧で確認できる。
まとめ
オーストラリア海軍は、いまがいちばん苦しい時期にある。主力の水上戦闘艦は10隻で、これからさらに減る。新しい艦が揃うのは2030年代、艦隊が26隻になるのは2040年代だ。
その空白を埋めるのが、日本製の改もがみ型11隻と、AUKUSの原子力潜水艦、そしてゴーストシャークのような無人機である。広すぎる海を、少なすぎる人で守る。この国が出した答えは、省人化と無人化と、同盟国の造船所を借りることだった。どれも、日本にとって他人事ではない。
伊吹が船団を守り、特殊潜航艇が港を襲い、もがみが海を渡る。110年かけて一周した両国の海軍の関係は、いま、歴史上でいちばん近いところにある。
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出典・参考資料
- オーストラリア国防相 発表「Australia locks in delivery of our first three general purpose frigates」(2026年4月18日)
- オーストラリア国防省 発表「Royal Australian Navy commissions newest offshore patrol vessel HMAS Eyre」(2026年5月30日)、同「HMAS Arafura」就役に関する発表(2025年6月28日)
- オーストラリア海軍 公式サイト(各艦の紹介ページ)
- オーストラリア政府「Enhanced Lethality Surface Combatant Fleet」(水上戦闘艦隊の独立検討への政府回答、2024年2月)
- Naval News、Naval Today、Naval Technology、Asian Military Review、Australian Defence Magazine、PS Newsほか(2024年5月〜2026年6月の関連報道)
- Second Line of Defense「The Royal Australian Navy’s Hull Gap Decade」(2026年5月)







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