福岡に、人工衛星を作るベンチャーがある。社名はQPS研究所。QPSは「Q-shu Pioneers of Space」の頭文字で、九州の宇宙開拓者という意味だ。
作っているのは、重さ100kg級の小型のSAR(合成開口レーダー)衛星。雲があっても、夜でも、地上を撮影できる衛星である。2026年2月、この会社は防衛省の大型衛星事業に参加し、約5年で697億円の売上を見込む契約を結んだ。地方の大学発ベンチャーが、日本の防衛の「目」の一部を担うことになったわけだ。
一方で、ニュースや株価の画面を見ると「QPSホールディングス」という名前も出てくる。QPS研究所とどう違うのか、と迷った人も多いと思う。
この記事では、QPS研究所がどんな会社で、SAR衛星で何ができるのか、防衛事業にどう関わっているのか、そしてQPSホールディングスとの関係までを整理する。
- QPS研究所は2005年に福岡で生まれた九州大学発の宇宙ベンチャー。小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発・運用している
- SAR衛星は電波で地上を撮るため、雲や夜に関係なく撮影できる。安全保障での価値が高い
- 2026年2月、防衛省の衛星コンステレーション事業の一部として、約5年で697億円を見込む画像データ提供の契約を結んだ
- 2025年12月に持株会社「QPSホールディングス」(証券コード464A)が上場し、QPS研究所はその100%子会社になった
QPS研究所とは|会社の基本情報

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 株式会社QPS研究所(iQPS) |
| 設立 | 2005年 |
| 本社 | 福岡市 |
| 代表 | 大西俊輔(代表取締役社長CEO) |
| 事業 | 小型SAR衛星の開発・製造・運用、SAR画像データの販売 |
| 親会社 | 株式会社QPSホールディングス(東証グロース・464A) |
QPS研究所は、九州大学で長く宇宙工学を研究してきた八坂哲雄名誉教授らが立ち上げた会社だ。九州大学には、小型衛星の研究の長い蓄積があった。その技術を、地元・北部九州の中小企業と一緒に形にしてきたのが特徴である。
衛星の部品の多くは、北部九州を中心とした地場の企業がパートナーとして作っている。大手の重工メーカーではなく、地方の町工場の技術を束ねて衛星を作る。この「九州の町工場から宇宙へ」というストーリーは、QPSを語るうえで欠かせない。
SAR衛星とは|雲も夜も関係なく「見える」衛星

光学衛星とSAR衛星の違い
人工衛星から地上を撮るやり方には、大きく分けて2種類ある。
一つは、カメラで撮る光学衛星。写真のように分かりやすい画像が撮れるが、雲があれば地上は見えないし、夜は撮れない。日本のように雲が多い国や、梅雨や台風の季節には、撮りたいときに撮れないことがよくある。
もう一つがSAR衛星だ。衛星から地上へ電波を出し、跳ね返ってきた電波から画像を作る。電波は雲を通り抜けるし、太陽の光もいらないので、天気にも昼夜にも関係なく撮影できる。
なぜ安全保障でSARが重要なのか
安全保障の世界では、「いつでも見られる」ことが何より大事だ。
たとえば、相手の艦艇が港を出たかどうか、ミサイルの発射台がどこに移動したか。こうした情報は、雲が晴れるのを待ってはくれない。夜のうちに動かれたら、光学衛星では追いかけられない。SAR衛星なら、天気や時間を選ばずに確認できる。
しかも、1機の衛星が同じ場所の上空を通るのは、限られたタイミングだけだ。だから、たくさんの衛星を軌道に並べて、短い間隔で何度も同じ場所を見られるようにする必要がある。これを衛星コンステレーション(衛星群)と呼ぶ。
QPS-SARの特徴|100kg級で高精細
QPS研究所の衛星「QPS-SAR」の特徴は、小さく軽いのに、細かいところまで見えることだ。
従来のSAR衛星は、大きなアンテナと大きな電力が必要で、重さが1トンを超えるものも珍しくなかった。QPS-SARは、打ち上げ時には小さく折りたたみ、宇宙で傘のように広げる大きなアンテナを使うことで、100kg級の小ささに抑えた。そのうえで、高精細なモードでは地上の数十cmの物を見分けられる画像を撮れるとしている。
小さく安く作れれば、たくさん打ち上げられる。QPSは最終的に36機の衛星を並べ、地上の同じ場所を平均10分ごとに観測できる体制を目指している。
衛星は何機ある?|打ち上げの現状
QPS-SARは、主にアメリカのロケットラボ社の小型ロケット「エレクトロン」で打ち上げられている。衛星には「ツクヨミ」「アマテル」「スサノオ」など、日本神話の神々の名前が付けられているのも面白いところだ。
2026年8月20日には、18号機「スサノオ-II」の打ち上げに成功し、これで通算16機の打ち上げとなった。運用中の衛星は9機で、直前に打ち上げた13号機と18号機が順調に運用に入れば11機体制になる。会社は2028年5月末までに24機体制にする計画を示している。
ちなみに衛星の番号は打ち上げ順ではなく、契約した順に付けられている。18号機が16号機や17号機より先に打ち上げられたのはそのためだ。
もちろん、すべてが順調だったわけではない。打ち上げの延期はたびたび起きているし、軌道上で不具合を起こした衛星もある。宇宙ビジネスは、ロケットの都合や機械のトラブルで計画が簡単にずれる世界だ。
SAR画像は何に使われる?|防衛だけではない

SAR衛星の画像は、防衛以外にもいろいろな場面で使われている。
一番分かりやすいのが災害だ。大雨や地震のあと、被災地の上空が厚い雲に覆われていても、SAR衛星なら地上の様子を撮れる。浸水した範囲や、崩れた道路、土砂崩れの場所を、晴れるのを待たずに確かめられる。
ほかにも、地盤のわずかな沈み込みの監視、橋やダムといったインフラの点検、港に出入りする船の把握、農作物の生育状況の確認など、使い道は広い。同じ場所を何度も撮り比べることで、「昨日と今日で何が変わったか」を見つけられるのがSARの強みだ。
防衛で使う技術と、災害やインフラで使う技術がほぼ同じ。こういう「どちらにも使える」技術は、デュアルユースと呼ばれる。QPSのような宇宙ベンチャーにとっては、民間と防衛の両方に売り先があることが、事業を安定させるうえで大きい。
ライバルとの違い|SynspectiveとQPS
日本で小型SAR衛星を手がけるベンチャーには、QPS研究所のほかに東京のSynspective(シンスペクティブ)がある。どちらも100kg級の小型SAR衛星を、ロケットラボのエレクトロンで打ち上げている点は共通している。
| 項目 | QPS研究所 | Synspective |
|---|---|---|
| 本拠地 | 福岡 | 東京 |
| 創業 | 2005年(九州大学発) | 2018年 |
| 衛星 | QPS-SAR | StriX |
| 強み | 高精細な画像、九州の地場企業との製造網 | 広い範囲の観測とデータ解析サービス |
| 防衛省事業での見込み額 | 約697億円(税抜) | 約1,056億円(税込) |
防衛省の衛星コンステレーション事業では、両社がそろってSAR衛星の担い手に選ばれた。ライバルでありながら、日本の「目」を一緒に支える仲間でもあるわけだ。海外ではフィンランド発のICEYEなどが先行していて、日本の2社がどこまで世界の市場で戦えるかも注目点になる。
QPS研究所の防衛事業|防衛省の「目」の一部に

2026年2月:防衛省の衛星コンステレーション事業に参加
QPS研究所の防衛事業で一番大きいのが、防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」だ。2026年2月に防衛省が契約内容を公表した。
この事業は、スタンド・オフ防衛能力、つまり相手の射程の外から反撃できるミサイルを実際に使えるものにするため、目標の画像情報を高い頻度で、優先的に手に入れる仕組みを作るものだ。事業全体の規模は約2,831億円、期間は2031年3月までの約5年間。
防衛省と直接契約するのは、三菱電機、スカパーJSAT、三井物産が設立した特別目的会社「トライサット・コンステレーション」だ。その下で、QPS研究所とSynspective(シンスペクティブ)がSAR衛星を、アクセルスペースが光学衛星を担う。QPS研究所が見込む売上は約697億円(税抜)とされる。
2026年4月から段階的な運用が始まり、2028年3月末からは本格運用に入る予定だ。
この事業の大事なポイントは、国産の衛星を使うことにある。外国の衛星の画像に頼ると、いざというときに相手国の判断で画像の提供を止められるおそれがある。いわゆる「シャッター・コントロール」だ。自分の国の衛星で、自分の国の判断で見られるようにする。これは、ミサイルの射程を伸ばすのと同じくらい大事な話だと思う。
日本のスタンド・オフミサイルについては日本のスタンド・オフミサイル比較や12式地対艦誘導弾の解説で書いている。
防衛省向けの衛星開発も
QPS研究所は、画像を売るだけでなく、防衛省向けの衛星そのものの開発も請け負っている。2024年には、宇宙の活用に必要な技術を先に実証するための衛星の開発・製造と打ち上げ対応を受注し、関連の受注額は合計で72億円あまりになった。2026年5月期の決算では、防衛省向け2機の試作・開発が売上に貢献し、2028年5月期まで続く見通しとされている。
持株会社化の理由にも「安全保障」
もう一つ、防衛と関わりの深い話がある。2025年に持株会社体制へ移った理由の一つに、電波法の外資規制への対応が挙げられているのだ。
衛星は電波を使うので、無線局の免許が必要になる。電波法では、外国人などの議決権が一定以上の会社は、無線局の免許を受けられない場合がある。上場企業は誰でも株を買えるので、外国の投資家の比率が上がると、将来の免許取得に支障が出るおそれがある。そこで、上場するのは持株会社にして、免許は持株会社の100%子会社であるQPS研究所で取る形にした、という説明だ。
安全保障に関わる衛星を、日本の会社が日本の免許で持ち続けるための仕組みづくりと言える。
QPSホールディングスとQPS研究所の関係
ここで、名前の整理をしておく。
- QPS研究所(旧証券コード5595):2023年12月に東証グロースに上場。2025年11月に上場廃止
- QPSホールディングス(証券コード464A):2025年12月1日に設立と同時に東証グロースに上場
- いまのQPS研究所は、QPSホールディングスの100%子会社
QPS研究所が自分だけで「株式移転」という手続きを行い、親会社となるQPSホールディングスを作った。株主が持っていたQPS研究所の株は、そのままQPSホールディングスの株に置き換わっている。だから、事業の中身は変わっておらず、株を買えるのはいまはQPSホールディングス(464A)のほうだけ、ということになる。
持株会社化の目的として、会社は外資規制への対応のほか、グループ全体の戦略を親会社でまとめて決めること、将来のM&Aをしやすくすることを挙げている。
投資家目線|売上は急拡大、まだ「これから」の会社
QPSホールディングスの2026年5月期の売上高は約38億円で、前の期から4割ほど増えた。営業損益は約8億円の赤字だったが、経常利益と最終利益は黒字になっている。
注目は2027年5月期の会社予想だ。売上高100億円、営業利益3億円、経常利益20億円という強気の数字を出している。防衛省の衛星コンステレーション事業が本格的に売上に乗ってくるからだ。中期的には、2031年5月期に売上高300億円という目標も掲げている。
ただ、宇宙ベンチャーの株は値動きが荒い。打ち上げの延期や衛星の不具合ひとつで、計画が大きくずれることもある。防衛省の大型契約で収益の土台はできつつあるが、36機体制という目標に向けて、計画どおりに衛星を打ち上げ続けられるかが、これからの最大の焦点だろう。
日本の宇宙防衛に関わる企業は日本の防衛宇宙企業一覧、防衛スタートアップ全体は日本の防衛スタートアップ一覧、SPCに加わる三菱電機は三菱電機の防衛事業で解説している。防衛関連株の全体像は防衛関連銘柄 完全投資ガイド、日本の防衛産業の全体像は日本の防衛産業・軍需企業一覧にまとめた。
宇宙・防衛関連の株を自分でチェックしてみたい人は、証券口座を一つ持っておくと話が早い。
NISAの枠で長く持つことを考えるなら、制度の基本を一冊で押さえておくと安心だ。
旧軍ファンとして思うこと|「見えない」ことの怖さ
最後に、少しだけ旧軍の話をさせてほしい。
太平洋戦争で日本が苦しんだ理由の一つは、「相手が見えなかった」ことだ。ミッドウェー海戦では、索敵機の発進の遅れと報告の混乱が、空母4隻を失う結果につながった。マリアナ沖海戦では、アメリカ側がレーダーで日本の攻撃隊を遠くから見つけ、待ち構えていた。
80年たって、日本はようやく、自分の国の衛星で、天気にも昼夜にも関係なく、海の向こうを見られるようになりつつある。それを担うのが、九州の大学発ベンチャーと地元の町工場だというのは、なかなか胸が熱くなる話だと思う。ミッドウェーの話はミッドウェー海戦の解説に書いた。
よくある質問
QPS研究所の読み方と社名の意味は?
「キューピーエスけんきゅうじょ」と読む。QPSは「Q-shu Pioneers of Space(九州の宇宙開拓者)」の頭文字だ。
QPS研究所の株は買える?
いまはQPS研究所の株そのものは上場していない。上場しているのは親会社のQPSホールディングス(証券コード464A)で、こちらの株を買うことになる。
SAR衛星と普通の衛星の違いは?
普通の光学衛星はカメラで撮るので、雲や夜には弱い。SAR衛星は電波を使って撮るので、天気や昼夜に関係なく撮影できる。
QPS研究所と防衛省の関係は?
2026年2月、防衛省の衛星コンステレーション事業の一部として、約5年で697億円を見込む画像データ提供の契約を結んだ。防衛省向けの衛星の開発も請け負っている。
QPS-SARは何機ある?
2026年8月時点で通算16機を打ち上げ、運用中は9機。新しく打ち上げた2機が加われば11機体制になる。最終的には36機体制を目指している。
まとめ|九州発の「雲を見通す目」が、日本の防衛の一部になった
QPS研究所は、九州大学の研究と北部九州の町工場の技術から生まれた、小型SAR衛星の会社だ。雲も夜も見通せるSAR衛星をたくさん並べて、地上を短い間隔で見張り続ける。その技術が、2026年から防衛省のスタンド・オフ防衛を支える衛星コンステレーションの一部として使われ始めた。
上場しているのは親会社のQPSホールディングス(464A)で、外資規制への対応という安全保障ならではの理由も、持株会社化の背景にある。売上は急拡大しているが、衛星を計画どおり打ち上げ続けられるかがこれからの勝負だ。日本の宇宙防衛を語るうえで、これから何度も名前が出てくる会社になるのは間違いない。
宇宙を使った自衛隊の構想は航空宇宙自衛隊構想とは、来年度の予算での位置づけは令和9年度防衛省概算要求の解説もあわせてどうぞ。
最後まで読んでくれてありがとう。決算資料と打ち上げ中継を見比べながら、これを飲んでいる。







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