川崎重工(7012)vs 三菱重工(7011)──防衛株「御三家」対決、2026年に買うならどっち?

2026年、防衛費の拡大と豪州フリゲート契約を背景に、日本の防衛関連株への関心は高い。中でも「御三家」に数えられる三菱重工(7011)と川崎重工(7012)は、どちらも日本の防衛生産基盤に欠かせない。

しかし投資先として見ると、「王者・三菱重工」と「追走する川崎重工」は同じ顔をしていない。三菱重工の防衛事業川崎重工の防衛事業を踏まえ、安定性・成長余地・ガバナンス・現在の株価を同じ物差しで比べる。

先に結論を示すと、事業の厚みと長期の安定性を重視するなら三菱重工、より大きな成長余地と値動きを受け入れるなら川崎重工が基本線になる。ただし、これは売買推奨ではない。両社の2026年8月時点の決算とリスクを比べ、どの条件ならどちらが候補になるかを明確にする。

両社を比較する5項目

記事は投資助言や売買推奨ではありません。株価、時価総額、PER、業績予想は変動するため、参照日の公式IRと証券会社画面で最新値を確認してください。

目次

参考・公式IR

最新IRの確認先:三菱重工の2026年度第1四半期決算川崎重工の2026年度第1四半期決算資料。いずれも2026年4〜6月期の実績で比較する。

そもそも「防衛株御三家」とは何か

まず前提を整理しよう。

防衛株御三家とは、防衛省・防衛装備庁の装備品契約において国内トップ3に位置する重工メーカー、すなわち三菱重工業(7011)・川崎重工業(7012)・IHI(7013)を指す。

防衛省の外局である防衛装備庁によると、三菱重工業の2024年度の防衛装備品契約実績は1兆4,567億円で、川崎重工業は6,383億円と2番手の地位を占めている。

規模の差は歴然だが、それが即ち「三菱重工の方が買い」を意味するわけではない。株価投資においては規模より「これからの成長余地」と「現在の割安感」が物を言う。

そのあたりを丁寧に紐解いていく。


三菱重工(7011)──“王者の現在地”

三菱重工の防衛事業を受注・受注残・利益率で分析する
大型受注は売上や利益の即時増加ではなく、工期と原価の管理が重要になる。
三菱重工の防衛・宇宙・艦艇事業
三菱重工は艦艇、航空機、誘導武器、宇宙を幅広く担い、受注残と原価管理が重要になる。

事業概要と防衛ポジション

三菱重工は日本最大の総合重工メーカーだ。発電設備、航空宇宙、防衛、造船など幅広い事業を展開しており、防衛分野では戦闘機、水上艦艇、潜水艦、地対空誘導弾システム、空対艦誘導弾まで陸海空すべての装備品に深く関与している。

令和8年度(2026年度)の防衛力整備計画対象経費は、最終予算の歳出ベースで8兆8,093億円となった。スタンド・オフ防衛能力の整備が続くなか、三菱重工は12式地対艦誘導弾能力向上型などを担う中核企業である。ただし、予算総額を同社の受注額とみなさず、契約公示と決算資料で実際の受注を確認する。

日本のミサイル完全ガイドでも解説しているが、12式地対艦誘導弾はいま日本が最も力を入れている「反撃能力」の中核装備だ。その主契約者が三菱重工であり、ここには揺るぎない独占性がある。

さらに特筆すべきは艦艇輸出だ。豪州の次期汎用フリゲート計画では能力向上型もがみ型が選定され、2026年4月には日本で建造する初期3隻の契約が成立した。全11隻の計画と契約済みの3隻は分けて見る必要があるが、三菱重工にとって海外防衛事業を育てる具体的な足場になった。

直近業績

三菱重工の2025年度通期は、受注高7兆6,536億円、売上収益4兆9,741億円、事業利益4,322億円、親会社の所有者に帰属する利益3,321億円だった。2026年度会社予想は売上収益5兆4,000億円、事業利益5,400億円である。

2026年度第1四半期(4〜6月)は、受注高2兆224億円、売上収益1兆1,942億円、事業利益1,596億円、親会社の所有者に帰属する利益1,346億円。通期予想は据え置かれた。防衛だけの数字ではないため、全社の好調をそのまま防衛事業の利益とみなさないことが重要だ。

株価と評価

株価、PER、PBR、配当利回りは日々変わる。過去の特定日の株価を『現在値』として残さず、決算発表後の株価と会社予想EPSを同じ日時で取得して判断したい。

三菱重工は防衛だけでなく、エナジー、原子力、物流・機械を抱える総合重工である。評価の中心は、受注残が売上と利益へ転換する速度、大型案件の原価管理、キャッシュフロー、そして成長期待が株価へどこまで織り込まれているかだ。

三菱重工のリスク

リスクも正直に書く。

ひとつは既に先行きが相当程度織り込まれているという点だ。PER63倍は防衛株の中でも高い部類に入り、業績が少しでも想定を下回れば株価は大きく下げる可能性がある。

もうひとつはエネルギー事業との複合リスクだ。三菱重工はガスタービンなどエネルギーインフラ事業も巨大で、防衛以外のセグメントでの不振が全体の足を引っ張る構造がある。


川崎重工(7012)──“追走する挑戦者”

川崎重工の航空宇宙・潜水艦・二輪・エネルギー事業
川崎重工の業績は防衛だけでなく、二輪、エネルギー、車両、ロボットの採算にも左右される。
川崎重工が建造に参画するたいげい型潜水艦
川崎重工の防衛事業は潜水艦とP-1・C-2などの航空機が主要項目である。

事業概要と防衛ポジション

川崎重工は三菱重工に次ぐ防衛装備品の国内第2位サプライヤーだ。バイクや鉄道車両でも有名だが、防衛分野では陸海空に幅広い製品を供給している。

代表的な製品としては、陸上自衛隊の偵察オートやCH-47ヘリコプター、海上自衛隊のP-1哨戒機や「たいげい」型潜水艦、航空自衛隊のC-2輸送機やT-4中等練習機など。内訳は哨戒機や輸送機の航空宇宙事業が65%と大半を占めており、潜水艦の船舶海洋事業が17%、舶用推進事業が14%、航空エンジン事業が5%と続いている。

川崎重工の防衛事業解説でも詳しく書いたが、川重の強みは「潜水艦を作れる2社のうちの1社」という独占性だ。たいげい型潜水艦の詳細でも触れているとおり、リチウムイオン電池搭載の最新型潜水艦を建造できる企業は世界でも数えるほどしかない。

さらに魅力的な話がある。川崎重工の最高経営責任者(CEO)は、防衛関連部門の年間売上高が2023年の約2400億円から2031年3月までに5000億〜7000億円に急増すると予測している。最大で約3倍の成長という宣言だ。

2024年度の防衛装備品契約実績は6,383億円で、対前年比64.2%増という驚異的な伸び率を記録している。

スタンドオフ防衛能力の構築において、川崎重工は長射程巡航ミサイル用ジェットエンジンの開発でも重要な役割を担っており、日本のミサイル完全ガイドで詳しく解説した12式の後継ミサイルとの関わりも今後深まっていく可能性がある。

直近業績

川崎重工の2026年度第1四半期(4〜6月)は、受注高5,257億円、売上収益5,435億円、事業利益357億円、親会社の所有者に帰属する利益156億円だった。会社は2026年度の事業利益予想を1,800億円へ引き上げた。

ただし、四半期実績には防衛以外のパワースポーツ、エネルギー、車両、精密機械・ロボットも含まれる。防衛の成長性を見るときは、航空宇宙システムと船舶海洋の受注・採算を全社数値から分けて確認する。

株価と評価

川崎重工も、特定日の株価・PER・配当利回りを固定して『割安』と断定しない。決算発表後の株価、会社予想、株式数の変化を同じ時点で確認する必要がある。

とくに2026年7月に公表された海外募集増資と転換社債型新株予約権付社債は、成長投資の原資になる一方、株式価値の希薄化や財務負担を検討すべき材料でもある。防衛事業の伸びだけでなく、ガバナンス、増産投資、キャッシュフローまで含めて評価する。

川崎重工のリスク──「不祥事問題」は深刻に受け止めるべき

ここは正直に、川重への投資を検討する上で絶対に無視できないリスクを書かねばならない。

防衛省は2025年12月26日、川崎重工業を2.5ヶ月間の指名停止にすると発表した。川重が潜水艦向けの発電用ディーゼルエンジンの検査で長期にわたり不正を行っていたことを確認したためだ。防衛省は川重によるエンジン性能の書き換えを「艦艇エンジン部門の設計部署を中心とした組織的な検査不正だ」と判断した。

川重の防衛事業はガバナンス不全といえる事態が相次いでいる。潜水艦の修理にあたる下請け企業との間で架空取引をして資金をため、海自の乗組員らの物品購入代や飲食代を負担していた問題も起こしている。

指名停止は2026年3月11日までで既に解除されているが、このガバナンス問題は川重の信頼性に傷をつけており、短期的な株価のノイズとなった。

ただし見方を変えると、この不祥事が一種の「株価の押し下げ要因」として機能しており、割安感を演出している可能性もある。問題が膿み出た後の企業が改革によって生まれ変わるパターンは株式市場で何度も繰り返されてきた。

もうひとつのリスクが事業の多角化だ。川崎重工はバイク(モーターサイクル)やロボット事業も重要セグメントであり、防衛以外の業績変動が株価に与える影響が三菱重工より大きい。特にパワースポーツ事業の変調は注意が必要だ。


2026年に「買うならどっち」──徹底比較

三菱重工と川崎重工の業績・株価指標を比較する
比較時は同じ決算期と株価時点にそろえ、受注と利益、株価と価値を分ける。

いよいよ核心部分に入ろう。以下の観点で両社を整理する。

1. 防衛事業の規模と独占性

三菱重工は防衛契約1兆4,567億円 vs 川崎重工は6,383億円で、規模では三菱の圧勝だ。戦闘機(F-2後継)、護衛艦、潜水艦、ミサイルすべてを手がける三菱重工の守備範囲は他の追随を許さない。

川崎重工も潜水艦・哨戒機・輸送機・ヘリという国産装備の独占領域を持つ。

判定:三菱重工 ○

2. 成長余地とカタリスト

ここが面白い。三菱重工はすでに防衛契約トップを走っており、規模の絶対量は大きいが、伸び率という意味では「伸びしろ」は川重に分がある。

川崎重工の2024年度防衛装備品契約の対前年比64.2%増という成長率は驚異的だ。2023年の防衛売上2,400億円を基準にすると、2030年度の目標5,000億〜7,000億円は最大で約3倍の伸びを意味する。

また川崎重工の防衛比率は全体の売上に対してまだ低い。つまり防衛比率が上がるほど、全体の収益構造が改善していくという「質的転換」の余地が残っている。

判定:川崎重工 ○

3. バリュエーション(割安感)

割安感は、古いPERや第三者サイトの自動判定では決めない。両社の最新株価、会社予想EPS、PBR、配当、受注残、フリーキャッシュフローを同じ日時で並べる。

三菱重工は事業の厚みと利益成長への期待が評価へ反映されやすい。川崎重工は成長余地が大きい一方、ガバナンスと資金調達のリスクも価格へ織り込む必要がある。この項目は株価取得日の条件次第で判定が変わる

4. 安定性・業績の確実性

三菱重工はエネルギー・航空・防衛・宇宙の複合ポートフォリオで業績が安定しており、過去最高益更新を続けている。ROEはおおむね8〜10%水準を維持しており、収益性は安定している。

川崎重工はバイク・ロボット・防衛という多角構造で、防衛以外の変動が業績にノイズを加える。加えて不祥事によるガバナンスリスクが払拭されていない。

判定:三菱重工 ○

5. 輸出・海外展開ポテンシャル

これが2026年以降の最大のカタリストだ。

三菱重工は、豪州向け能力向上型もがみ型の初期3隻契約が成立し、海外防衛収益という新しい柱を育てる段階に入った。全11隻の計画すべてが同時に契約されたわけではないため、確定分と将来分を分けて評価する。

川崎重工もP-1哨戒機の海外展開に意欲を示しているが、今回の指名停止処分で「海外政府からの信頼を損なう可能性がある」と防衛装備庁幹部自身が懸念を示したように、不祥事が海外展開の障壁になりうる。

判定:三菱重工 ○


結論──どちらを買うべきか

結論は、投資家が何を優先するかで分かれる。

中核銘柄として事業の厚み・利益基盤・長期の安定性を重視するなら、三菱重工が第一候補になる。防衛・宇宙だけでなく、エナジーや原子力を含む収益源の広さがあり、豪州向け艦艇契約も具体化した。ただし、成長期待が株価へ大きく織り込まれている局面では、買値の規律が欠かせない。

より高い成長余地と値動きを受け入れられるなら、川崎重工が候補になる。航空機・潜水艦という希少な供給基盤を持ち、防衛事業の拡大余地も大きい。一方で、検査不正などのガバナンス問題、資金調達、他事業の変動は三菱重工以上に重く見るべきだ。

したがって、この記事の比較軸での基本判断は安定重視なら三菱重工、成長余地重視なら川崎重工である。どちらを選ぶ場合も、最新株価と決算資料を確認し、損失許容額を先に決める。IHIの防衛事業も含めて分散し、防衛セクター全体を持つ考え方もある。

よくある質問

三菱重工と川崎重工はどちらが買いですか?

一律に決められません。期待収益、保有期間、リスク許容度、最新価格で判断が変わります。

防衛受注が増えれば利益もすぐ増えますか?

保証されません。売上計上までの時間、原価、設備投資、開発費で利益は変わります。

三菱重工の特徴は?

防衛・宇宙の規模に加え、エナジー、原子力、物流・機械などを持つ総合事業体です。

川崎重工の特徴は?

P-1・C-2などの航空機と潜水艦に加え、二輪、エネルギー、車両、ロボットを持ちます。

株価比較で最初に何をそろえますか?

決算期、株価取得日、株式分割反映、一過性損益、予想と実績の区分をそろえます。

最新数値はどこで確認しますか?

各社の決算短信、決算説明資料、有価証券報告書、適時開示と証券会社画面で確認します。

まとめ

比較項目三菱重工(7011)川崎重工(7012)
2026年度Q1受注高2兆224億円5,257億円
2026年度Q1売上収益1兆1,942億円5,435億円
2026年度Q1事業利益1,596億円357億円
防衛の強み艦艇・航空機・誘導武器・宇宙の厚み潜水艦・哨戒機・輸送機の希少性
海外展開豪州向け初期3隻が契約済み航空機などに余地、実現性を要確認
主な注意点期待の織り込み、大型案件の原価ガバナンス、資金調達、他事業変動
基本的な選び分け安定性・事業の厚み成長余地・高いリスク許容度

両社ともに日本の安全保障を根底から支える、唯一無二の企業群だ。プラモデルで三菱のF-2や川重のC-2を組みながら、その企業を株主として応援する。そんな楽しみ方もあっていい。

日本の防衛産業の未来と、あなたのポートフォリオの未来が、ともに強くあることを願っている。


※この記事は投資助言を目的としたものではありません。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。業績数値は2026年8月公表の第1四半期資料まで反映しています。株価・評価指標は変動するため、最新情報は各社IRと証券会社画面をご確認ください。

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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