安保3文書改定で防衛株はまだ上がるのか|「GDP比3.5%」要求と次の5年計画を、投資家の目で読み解く

安保3文書改定で防衛株はまだ上がるのか|「GDP比3.5%」要求と次の5年計画を、投資家の目で読み解く

正直に書くと、私はこの春、少し浮かれていた。

年末に安保3文書が改定される。防衛費はGDP比2%から、さらに上に行く。米国は3.5%を求めている。こんな材料がそろっていて、防衛株が下がるわけがない。そう思っていた。

ところが、三菱重工の株価は3月2日に年初来高値の5,208円をつけたあと、6月11日には3,404円まで下がった。10月に入っても3,800円台でもみ合っていて、高値からはまだ3割近く安い。3文書改定という最大のイベントを目の前にして、防衛株の代表格がこの位置にいる。

これをどう読むか。この記事は、そのことだけを考える。

結論を先に言っておくと、3文書改定は防衛株にとって「確実な追い風」ではない。中身次第では、決定の日に売られる可能性も十分ある。なぜそう言えるのかを、数字の読み方、改定のスケジュール、お金の流れ先、そして戦前の日本が実際に経験した「国策相場の終わり方」まで含めて順番に書いていく。

なお、個別銘柄の事業や受益度のランキングは防衛予算GDP比2%時代の受益企業ランキングにまとめてある。この記事は「改定というイベントで株価がどう動くか」に絞る。

※この記事は投資判断の参考情報で、特定銘柄の売買を勧めるものではない。末尾の免責事項も読んでほしい。

目次

そもそも安保3文書とは何か(3分で)

計画、予算、契約、決算をつなげて確認する。
計画、予算、契約、決算をつなげて確認する。

安保3文書は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3つをまとめた呼び方だ。

要点

投資家にとって本当に大事なのは、3つ目の防衛力整備計画だ。株価を動かすのは理念ではなく金額と品目なので、ここにいくら書かれるかがすべてと言っていい。

今の3文書は2022年12月に決まった。中身をざっくり言うと、2023年度から2027年度の5年間で防衛力整備に43兆円程度を使う。そして2027年度に、防衛費と関連経費をあわせてGDP比2%にする。それまで防衛費はGDP比1%が目安だったので、一気に倍にするという話だった。

この43兆円は、それまでの中期防衛力整備計画(約27.5兆円)の1.5倍を超える。2023年以降の防衛株の大相場は、ほぼこの数字から始まったと私は見ている。

なぜ1年前倒しで改定するのか

本来なら、次の改定は今の計画が終わる2027年度に向けて行われるはずだった。それが1年早まったのは、政治の流れが変わったからだ。

2025年10月、自民党と日本維新の会は連立政権の合意書に、安保3文書を前倒しで改定する方針を明記した。GDP比2%を目標とする今の防衛費の水準を引き上げることを念頭に置いたもので、防衛装備品の輸出を5つの目的に絞る「5類型」の撤廃も掲げた。

同じ月に就任した高市首相は、所信表明演説で、GDP比2%を補正予算とあわせて2025年度中に前倒しで達成すると表明した。もともとの計画より2年早い。

つまり、2027年度の目標はもう達成してしまった。だから「次の目標」を早く決める必要が出てきた、というのが前倒し改定の素直な理由だ。

2026年改定のスケジュールと「いま、どこにいるのか」

ここまでの流れを時系列で並べておく。

時期 出来事
2025年10月 自民・維新が連立合意に3文書の前倒し改定を明記。高市首相がGDP比2%の前倒し達成を表明
2026年4月27日 政府の有識者会議が初会合。15人で、防衛政策、緊急事態のシナリオ、予算と財源を検討
2026年5〜6月 自民党が提言をまとめ、6月下旬に首相へ提出。維新も提言
2026年8月末 防衛省が2027年度の概算要求を公表。改定に左右される部分は金額を示さない「事項要求」に
2026年9月 首相が5年後のGDP比目標の明示に慎重になっていると報じられる
2026年秋 有識者会議が提言をまとめる見込み
2026年12月 新しい3文書を閣議決定する方針

この中で、投資家として一番引っかかるのは9月の動きだ。

日経新聞によると、高市首相は防衛費について、5年後のGDP比目標を明示することに慎重になってきた。5年間で米国が求める3.5%の水準まで高めるのは難しいとみているためで、政府内では「参考値」にする案や、10年以上先の長期目標にする案が出ているという。

これは株式市場にとってかなり大きい話だと私は思っている。理由は次の章で書く。

もう一つ、自民党の提言そのものも、実は具体的な数値目標を入れていない。「5年以内に防衛力の変革を成し遂げる」ための予算確保を求めつつ、数字はGDP比3〜3.5%を目指すNATO諸国や韓国、3%を目指すオーストラリアなどを「例示」するにとどめた。

与党も政府も、数字ははっきり言っていない。ここがポイントだ。

「GDP比3.5%」という数字を正しく読む

港湾と物流の維持は、継続的な運用を支える。
港湾と物流の維持は、継続的な運用を支える。
要点

米国の要求は、さらに上を見ている。ヘグセス国防長官は2025年12月の演説で、日本も念頭に、数年以内に国防費をGDP比5%にするよう求めたと報じられた。日本政府が3.5%にすら慎重な中で、米国はその先を口にしている。この温度差が、12月の文書の書きぶりにどう影響するかも見どころの一つだ。

日本の名目GDPを600兆円強とすると、GDP比1%はざっくり6兆円になる。

野村総合研究所の木内登英氏の試算では、防衛費(関連経費を含む)をGDP比2%から3.5%に引き上げるには、年間で約9.2兆円、5%なら約18.3兆円を積み増す必要があるという。今の防衛費が関連経費込みで年11兆円前後なので、3.5%なら年20兆円規模になる計算だ。

では、次の5年計画の総額はどうなるのか。ここは私の単純な試算になるが、仮に5年かけて関連経費込みのGDP比を2%から3%へ段階的に上げるとすると、5年間の合計は70兆円前後になる。3.5%まで上げるならもっと膨らむ。43兆円の計画が終わった直後に、その1.5倍以上の計画が来るかもしれない、というのが「上がる派」のシナリオの根っこだ。

ただし、ここに落とし穴が2つある。

一つ目は、GDP比の数字には「関連経費」が入っているということだ。今のGDP比2%も、防衛省の予算だけでなく、海上保安庁の予算や、防衛に役立つ港や空港の整備、科学技術の研究開発などを合わせて計算している。日経新聞の集計では、2026年度予算の防衛関連費はインフラや海保も含めてGDP比1.9%だった。つまり、GDP比が1%上がっても、その全部が三菱重工や川崎重工の売上になるわけではない。

二つ目は、防衛力整備計画の「43兆円」とGDP比の数字は、そもそも別物だということだ。整備計画は5年間の歳出の合計、GDP比はある1年の水準。ニュースではこの2つがよく混ざって語られるので、見出しの数字に飛びつく前に、どっちの話をしているのかは必ず確認したほうがいい。

株価は「予算の数字」ではなく「期待との差」で動く

ここからが本題だ。

株価は、予算が増えたかどうかでは動かない。市場がすでに予想していた数字と、実際に決まった数字との「差」で動く。これは投資をやっている人には当たり前の話だが、防衛株になると急に忘れられがちだ。

三菱重工の2026年の値動きは、まさにその典型だった。

ある元アナリストの分析では、三菱重工は2026年3月期の純利益が前期比35%増と大きく伸び、翌期も増益を見込んでいた。それでも決算後に株価は売られた。好決算はすでに株価に織り込まれていて、むしろ受注高の見通しが減ったことが嫌気された、という見立てだ。株価は2024年から数倍に上がっていたので、市場は「最高益で当たり前」という前提で値段をつけていたことになる。

同じことが12月の3文書でも起きうる。

市場がいま織り込んでいるのは、おそらく「GDP比3%台のどこかで、数字が明記される」という期待だと私は見ている。そこに、首相が数字の明示に慎重だという報道が出た。もし12月の文書が「参考値」や「長期目標」という形になれば、内容としては増額でも、市場は失望で売るかもしれない。

逆に言えば、6月の安値から今の株価は、ある程度そのリスクを織り込んだ位置とも読める。これは誰にもわからない。わからないことを、わからないと認めたうえで準備するしかない。

前回の答え合わせ:2022年12月、株価は「すぐには」上がらなかった

生産設備と技術者の確保が、装備の供給力につながる。
生産設備と技術者の確保が、装備の供給力につながる。

12月の決定を前に、前回の2022年12月に何が起きたかを確認しておく価値はある。

あのとき、決定の直前に43兆円という規模が報じられた。それまでの中期防のおよそ1.5倍で、規模としては文句なしのサプライズだった。ところが株価の反応は思ったより鈍かった。ロイターは当時、国内の運用会社の声として「想定より規模が大きく、本来ならもう少し買われてもおかしくないが、反応は限定的」と伝えている。12月は機関投資家の買いが入りにくい時期で、好材料でも勢いが出にくい、という指摘も添えられていた。

決定当日の前後にも、三菱重工や川崎重工は2〜3%ほど上がる場面はあった。ただ、それは今振り返れば「さざ波」だった。

本当の大波が来たのは、そこから1年以上あとだ。三菱重工の2024年3月期の防衛・宇宙事業の受注高は1兆8,781億円で、前の期の3.4倍になった。受注という形で数字が見えてから、株価は本格的に上がり始めた。そして2026年3月期には、防衛・宇宙の売上が初めて1兆円を超えて1兆1,445億円、全社の純利益も3,321億円で過去最高になった。

つまり、2022年の3文書は「号砲」で、株価を本当に押し上げたのは、その後に決算書に積み上がっていった受注と利益だった。今回もたぶん同じ構図になると私は見ている。12月の決定日だけを見て一喜一憂すると、本当の勝負どころを見誤る。

見落とされがちな「もう一つのテコ」:利益率のルール

2022年の改定で、株価にとって金額と同じくらい効いた変化がある。防衛省が装備品を発注するときに企業側に見込む営業利益率を、最高15%まで引き上げたことだ。それまでの目安は8%程度で、実際にはそこにすら届かないケースも多かったと報じられている。物価の上昇などのコスト変動も、契約期間に応じて考慮されるようになった。

これは地味だが、ものすごく大きい。売上が同じでも、利益率が倍近くになれば、利益は倍近くになる。長く「儲からない仕事」と言われてきた防衛事業が、ここで初めて「儲かる事業」に変わった。防衛から撤退する企業が相次いでいた流れが止まったのも、この変化が大きかったと思う。

だから今回の改定でも、私は総額の数字と同じくらい、契約や利益率のルールに手が入るかどうかを見ている。たとえば「低コスト・量産」を重視する方向に契約の仕組みが変われば、1件あたりの利益率は下がるかもしれない。逆に、長期契約やまとめ買いがさらに広がれば、企業は設備投資をしやすくなる。見出しにはまず出てこない話だが、利益に直結するのはむしろこっちだ。

12月の閣議決定で考えられる3つのシナリオ

私は、12月に向けて次の3つのパターンを頭に置いている。どれが来るかを当てるつもりはない。どれが来ても慌てないための整理だ。

シナリオA:数値目標がはっきり書かれる

たとえば「5年後に関連経費込みでGDP比3%」のような目標が明記されるパターン。市場の期待どおり、あるいは期待以上なら、決定前後に防衛株が買われる可能性がある。

ただし、この場合でも上昇が長続きするかは別の話だ。2022年12月の3文書決定のときも、本格的な上昇はそこから受注が実際に積み上がって、決算の数字に表れてから続いた。文書はスタートの号砲であって、ゴールではない。

シナリオB:「参考値」や「長期目標」でぼかされる

いま一番ありそうだと報じられているのがこのパターンだ。増額の方向性は示すが、5年後の数字は約束しない。

この場合、内容が悪いわけではないのに「肩透かし」で売られる展開がありうる。いわゆる「噂で買って事実で売る」の典型になる。

ただ、長い目で見れば、数字がぼかされても防衛費の増額トレンドそのものが止まるわけではない。株価が短期的に売られた場面を、企業の受注や業績で冷静に評価し直す、という向き合い方はできる。

シナリオC:財源論で増額のペースが落ちる

3つ目は、財源をめぐる議論が難航して、増額のペースそのものが鈍るパターンだ。

今の計画の財源として、政府はすでに2026年4月に法人税とたばこ税を引き上げ、2027年1月からの所得税増税も決めている。ここからさらに年10兆円規模を上乗せするとなると、増税か国債か、という話が避けられない。日経新聞も、GDP比3%台を目指すには「市場の信認」が条件になると書いていた。長期金利が跳ねるような局面になれば、防衛費どころではなくなる。

このパターンは防衛株にとって一番厳しい。私は可能性は低めだと思っているが、ゼロではない。

お金はどこに流れるのか――改定の「中身」で銘柄の明暗が分かれる

造船施設に入った潜水艦の船体
潜水艦の建造を支える造船施設と船体整備。

金額と同じくらい大事なのが、何にお金を使うかだ。

防衛省が8月末に出した2027年度の概算要求を見ると、方向性はかなりはっきりしている。テレビ朝日の報道によれば、要求の柱は3つ。無人機やAIを使った「新しい戦い方」への対応、長期戦を見据えた「持続的な対応能力」、そして生産基盤や自衛隊員の処遇改善などの「防衛力の基盤」だ。

この3つを、投資家の目で分解するとこうなる。

新しい戦い方:無人機・AI・宇宙

一番伸びしろがあるのはここだと思う。無人機、AIによる指揮統制、宇宙での監視や通信。概算要求にも、宇宙での脅威を把握する衛星や、極超音速兵器を宇宙から探知・追尾する技術の実証といった項目が並んでいる。

ここは三菱電機やNECのような電機系、宇宙関連、そしてドローンの新興企業が関わる分野だ。宇宙については日本の防衛宇宙企業一覧、ドローンはテラドローンとACSLの比較で詳しく書いた。概算要求の全体像は令和9年度概算要求の解説を見てほしい。

ただ、無人機には落とし穴もある。無人機の本質は「安く、たくさん」だ。米国防総省も、低コストの巡航ミサイルを2027年から3年間で1万発以上調達する計画を打ち出していて、大手の伝統的な防衛企業以外にも門戸を広げようとしている。日本でも低コスト量産型の装備の話が出てきている。これは新興企業にとってはチャンスだが、高い装備を少数売ってきた大手にとっては、利益率の面で必ずしもいい話ばかりではない。

持続的な対応能力:弾薬と継戦能力

ウクライナや中東の戦争で、弾薬は想像以上の速さで消えていくことがはっきりした。ミサイルや砲弾の備蓄、そして生産ラインの増強は、改定後も重点になるはずだ。

ここは三菱重工のミサイル事業、日本製鋼所のような火砲系、火薬の専業メーカーなどが関わる。たとえば12式地対艦誘導弾の能力向上型は、まさにこの文脈の主役だ。

防衛力の基盤:人と工場

ここは注意が要る。自衛隊員の処遇改善は、改定でも大きなテーマになる。自民党の有志議員が自衛官の人材確保や処遇改善を後押しする議員連盟をつくり、年末の3文書に反映させようとしているという報道もある。

これ自体は本当に大事なことで、私は自衛隊ファンとして大賛成だ。ただ、投資家の目で見ると、隊員の給与や手当に回るお金は、防衛企業の売上にはならない。防衛費の総額が増えても、その増えた分のどれだけが「装備」に行くのかは、きちんと見ておく必要がある。

米国製装備に流れる分は、日本株には来ない

もう一つ、見落とされがちなことがある。防衛費のかなりの部分は、米国から装備を買う「対外有償軍事援助(FMS)」に使われる。F-35やトマホークがその代表だ。

FMSで払ったお金は、基本的にロッキード・マーチンやRTXのような米国企業に流れる。日本の防衛費が増えるほど、実は米国の防衛株にも追い風になる、という構図がある。日本株だけを見ていると、ここを取りこぼす。米国株に興味があるならロッキード・マーチン株の解説も合わせて読んでほしい。

この「お金の流れ先」の考え方をもっと深く知りたい人には、この本をすすめている。防衛産業を国際政治の側から見る、という視点が身につく。

タイプ別に見る:シナリオごとの「効き方」の違い

沿岸試験場で複数種類の無人航空機を準備する技術者
小型空撮・固定翼・物流用など用途別の無人機を短い周期で試験する

同じ「防衛関連株」でも、3文書の中身によって効き方はかなり違う。私の頭の中の整理を表にしておく。あくまで方向感のイメージで、個別の業績を評価したものではない。

タイプ 例 Aが来たら Bが来たら 見るべきポイント
大手重工 三菱重工・川崎重工・IHI 素直に追い風 期待が大きい分、失望売りも出やすい 受注残、防衛部門の利益率
電機・通信 三菱電機・NEC・富士通 宇宙・指揮統制の比重次第 影響は比較的小さめ 防衛の売上比率が低い分、本業の影響が大きい
中小型の防衛専業 火薬・光学・特殊車両など 値動きが一番大きくなりやすい 下げもきつくなりやすい 売上の防衛依存度、流動性
ドローン・新興 テラドローン・ACSLなど 「新しい戦い方」の書きぶり次第 期待先行の分、振れ幅が大きい 実際の受注額、赤字かどうか
米国防衛株 ロッキード・RTXなど FMS経由で間接的に追い風 日本の文書の影響は限定的 米国の国防予算、為替

この表で一番言いたいのは、中小型や新興ほど「期待で上がり、失望で下がる」幅が大きいということだ。値動きが軽い銘柄は、イベント前に買われやすく、イベント後に売られやすい。大手は動きが重いぶん、受注や決算といった実績で評価が戻りやすい。どちらが正しいという話ではなく、自分がどの値動きに耐えられるかで選ぶ話だと思う。

輸出解禁は「もう終わったイベント」

航空機部品にも使われる精密加工の現場
航空機部品にも使われる精密加工の現場。

3文書改定とセットでよく語られる「武器輸出の解禁」についても触れておく。

実はこれは、もう済んでいる。政府は2026年4月21日、防衛装備移転三原則と運用指針を改定して、完成品の輸出を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限っていた制約を撤廃した。殺傷能力のある装備の輸出が原則として認められ、護衛艦やミサイルのような「武器」は、秘密保護の協定などを結んでいる国(現時点で米英など17か国)に限って輸出できる仕組みになった。

その前から、具体的な案件も動いていた。2025年8月には、オーストラリアの次期フリゲートに、日本の「もがみ」型の能力向上型が選ばれている。

投資家として大事なのは、輸出は3文書とは別の「もう一つのエンジン」だということだ。日本の防衛費は日本の財政事情に縛られるが、輸出は相手国の予算で回る。国内の防衛費の伸びが鈍っても、輸出が伸びれば企業の売上は増える。逆に言うと、12月の3文書で数字がぼかされても、それだけで防衛企業の成長が止まるわけではない。造船や艦艇の輸出に関わる企業は造船重工株ランキングにまとめた。

投資家として12月までにチェックしておきたいこと

ここまでを踏まえて、私が12月までに見ておくつもりのポイントを並べておく。

一つ目は、各社の中間決算に出てくる受注高と受注残だ。防衛は受注から売上になるまでに何年もかかる。株価が先取りして動くのは、売上ではなく受注のほう。11月に出そろう中間決算で、防衛部門の受注がどうなっているかは、3文書以上に大事な材料になると思う。

二つ目は、有識者会議の提言の書きぶりだ。秋に出る提言に数字が入るかどうかで、12月の文書の方向がかなり見える。ここで数字がぼかされていたら、シナリオBを強めに意識する。

三つ目は、「契約ベース」と「歳出ベース」の区別だ。防衛予算には、その年に支払う「歳出ベース」と、その年に結ぶ契約の総額である「契約ベース」がある。企業の受注に直結するのは契約ベースのほうだ。新しい計画で契約ベースの総額がいくらになるかは、必ず確認したい。

四つ目は、為替と金利。輸入装備が多いので、円安は同じ予算で買える量を減らす。そして長期金利の急上昇は、財源論を一気に厳しくする。為替と防衛株の関係は為替と防衛株の解説で書いた。

五つ目は、思わぬ方向からの材料だ。たとえば9月には、三菱UFJ銀行が防衛関連企業に融資するための基準を設けると報じられて、防衛関連株が軒並み買われた。銀行がこれまで慎重だった防衛産業への融資に前向きになるという話で、こういう「お金の出し手」の変化は、3文書と同じくらい効いてくることがある。

12月までのカレンダー

予算編成と企業の決算日程を分けて整理する。
予算編成と企業の決算日程を分けて整理する。

ざっくりした日程感も置いておく。細かい日付は決まり次第確認してほしい。

10月から11月にかけては、有識者会議の提言が出るかどうかが最初の山になる。提言に数字が入るか、どんな言葉で増額を書くかで、12月の方向がかなり見える。

11月上旬から中旬は、防衛関連各社の中間決算が出そろう時期だ。受注高と受注残、そして通期見通しの修正があるかどうか。私はここを3文書と同じくらい重く見ている。

12月は、新しい3文書の閣議決定と、2027年度予算案の編成が重なる。概算要求で金額を示さなかった「事項要求」の部分に、いくら付くのかもこのタイミングで見えてくる。3文書の数字と予算案の数字の両方を見て、ようやく全体像がつかめるはずだ。

よくある勘違いを4つだけ

最後に、防衛株の話をしていてよく聞く勘違いを4つ挙げておく。

一つ目は「GDP比が2%から3.5%になれば、防衛企業の売上も1.75倍になる」というもの。これは違う。さっき書いたように、GDP比には海保やインフラ、研究開発などの関連経費が入っているし、防衛省の予算の中でも人件費や糧食費、米国からの装備購入に回る分がある。増えた分のうち、日本の防衛企業の売上になるのは一部だ。しかも受注から売上になるまでには何年もかかる。

二つ目は「防衛増税は防衛株にとってマイナス」というもの。これも単純ではない。増税は景気や株式市場全体には逆風になりうるが、防衛費の財源が安定することは、防衛企業にとってはむしろ受注の見通しが立ちやすくなる面がある。どちらの効果が大きいかは、そのときの相場次第だ。増税そのものの中身は別の記事で詳しく書くつもりでいる。

三つ目は「国策だから下がらない」というもの。2026年の三菱重工の値動きを見れば、これが幻想だということはわかる。国策は需要を約束してくれても、株価を約束してはくれない。株価は常に、期待と現実の差で動く。

四つ目は「12月に決まれば、来年からその金額がそのまま企業に流れる」というもの。3文書、とくに防衛力整備計画は、あくまで5年分の計画だ。実際のお金は、毎年の予算案が国会で通って初めて動く。しかも大きな装備は、契約した年に全額を払うのではなく、何年にも分けて払う「後年度負担」という形をとることが多い。計画の総額が決まっても、企業の売上は、契約後、工事の進み具合や装備の引き渡しに応じて計上され、代金が入る時期とは必ずしも一致しない。12月の数字は「これから数年かけて流れてくる水の量」の見込みであって、来年の売上ではない。

戦前の日本が教えてくれる「国策相場の終わり方」

船体を囲む足場と造船所の作業員
艦艇の建造には、鋼材・設備・熟練工という共通の資源が必要だった。

ここで少し、昔の話をさせてほしい。大日本帝国の歴史が好きな人間として、どうしても書いておきたいことがある。

1920年、日本は「八八艦隊」の建造に本格的に乗り出した。戦艦8隻と巡洋戦艦8隻を中核にする巨大な艦隊計画で、海軍の予算は国家予算の3分の1近くまで膨らんだ。三菱の長崎造船所、川崎の神戸の造船所といった民間の造船所も、主力艦の建造を引き受けて、まさに国策の中心にいた。今の言葉で言えば、空前の「防衛株ブーム」だったわけだ。

それが、1922年のワシントン海軍軍縮条約で一気にひっくり返る。

主力艦の保有に上限がかかり、建造中だった艦の多くは工事を止められた。三菱長崎で造っていた戦艦「土佐」は進水まで済んでいたのに未完成のまま標的艦として沈められ、川崎で造っていた戦艦「加賀」は空母に造り替えられた。造船所には仕事の穴が空き、大量の人員整理が起きた。

川崎造船所はその後も苦しみ続け、1927年の昭和金融恐慌で、主な取引銀行だった十五銀行が休業すると、経営危機に追い込まれた。国策に乗って膨らんだ会社が、国策の転換で一番大きな傷を負った、という話だ。

もう一つ、戦前の話で投資家として忘れたくないのが、高橋是清だ。

昭和の初め、世界恐慌で沈んだ日本経済を、大胆な財政出動と金融緩和で立て直したのが大蔵大臣の高橋是清だった。軍事費もこの「高橋財政」の中で増えていき、軍需に関わる企業は息を吹き返した。ところが景気が持ち直すと、高橋は今度は財政の引き締めに動き、膨らみ続ける軍の予算要求に歯止めをかけようとした。国債の信用が崩れれば、国そのものが立ち行かなくなると考えたからだ。

その高橋は1936年の二・二六事件で命を落とす。そこから先、軍事費に歯止めをかける声は弱まり、予算は膨らみ続け、日本は戦時経済へと進んでいった。

この話を持ち出したのは、今の日本が同じ道をたどると言いたいからではない。言いたいのは、防衛費の議論には必ず「財政の信認」という相手がいる、ということだ。日経新聞が、GDP比3%台の条件として市場の信認を挙げていたのは、まさにこの点だと思う。財政への信頼が揺らげば、金利が上がり、円が売られ、結果として同じ予算で買える装備は減る。防衛費の増額を一番確実に止めるのは、反対派の声よりも、債券市場の反乱かもしれない。

もちろん、今と当時は違う。今の日本は軍縮条約の只中にいるわけではないし、防衛費の増額はむしろ世界的な流れだ。それでも、この歴史から学べることは一つある。

国策銘柄の一番大きなリスクは、国策そのものが変わることだ。

防衛費が増え続けるという前提は、政権、財政、国際情勢のどれか一つが変われば崩れる可能性がある。「国が買ってくれるから安全」という考え方は、100年前の造船所の株主も持っていたはずだ。私は防衛株を持っているし、これからも見続けるつもりだが、この話だけは忘れないようにしている。

個人投資家としての現実的な向き合い方

最後に、私自身がどう向き合っているかを書いておく。これは推奨ではなく、一人の個人投資家のやり方として読んでほしい。

まず、イベントに全力で賭けない。12月の閣議決定の日に、一点張りで買うようなことはしない。シナリオAが来ても、Bが来ても、Cが来ても、生活が揺らがない金額にとどめる。

次に、時間を分散する。防衛費の増額は、来年の話ではなく5年、10年の話だ。一度にまとめて買うより、何回かに分けたほうが、さっき書いた「期待との差」で振り回されにくい。

それから、買う前に「どうなったら手放すか」を決めておく。たとえば、受注残が2四半期続けて減ったら考え直す、といった具合だ。防衛株は話題になりやすいぶん、ニュースを見るたびに気持ちが揺れる。揺れたときに判断の拠り所になるのは、ニュースではなく、自分で先に決めておいたルールだけだと思う。

そして、個別株にこだわりすぎない。防衛関連をまとめて持てるETFもある。日本株に絞るなら513A 防衛テック日本株ETF、世界の防衛株をまとめて見たいなら防衛ETF・投資信託の比較が参考になると思う。

長く持つつもりなら、新NISAの枠を使えるかどうかは確認しておいて損はない。制度の基本は、この入門書が一番わかりやすかった。

個別の銘柄をもっと深く見たい人は、三菱重工(7011)の分析、川崎重工(7012)の株価分析、IHIの防衛事業、三菱電機の防衛事業、そして大手以外を見るなら防衛関連の中小型株10社へ。全体の地図は防衛関連銘柄の完全投資ガイドにまとめてある。

株式投資を始めるには、まず証券口座が要る。私はスマホアプリで日本株も米国株もNISAも一つで扱える口座を使っている。米国の防衛株まで見るなら、両方触れる口座のほうが楽だ。

まとめ:12月は「答え合わせ」ではなく「スタート地点」

安保3文書の改定は、防衛株にとって確かに大きなイベントだ。ただ、それは「決まったら上がる」という単純な話ではない。

いまの市場は、数字がはっきり書かれることをある程度期待している。そこに、首相が数字の明示に慎重だという報道が出ている。決定の内容が期待を下回れば、増額の方向でも売られることはありうる。逆に、売られた場面は、受注と業績で冷静に見直すきっかけにもなる。

そして、防衛費がどれだけ増えても、そのお金がどこに流れるかで勝ち負けは分かれる。無人機やAI、宇宙に流れるのか、弾薬に流れるのか、隊員の給与に流れるのか、米国製の装備に流れるのか。

12月の文書は、答え合わせではなくスタート地点だと私は思っている。本当の勝負は、その後の5年間、決算書に受注の数字として表れてからだ。そこまで含めて、この記事は年末にもう一度書き直すつもりでいる。


免責事項:本記事は2026年10月6日時点の公開情報と報道をもとに、筆者の個人的な見解を述べたものであり、特定の銘柄や金融商品の売買を勧誘・推奨するものではない。記載した株価、予算額、試算は執筆時点のもので、今後変わる可能性がある。株式投資には元本割れのリスクがあり、将来の値動きや利益を保証するものではない。投資の最終判断は、必ずご自身の責任で行ってほしい。

出典・参考資料

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軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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