幼女戦記の国とモデル一覧|帝国・共和国・連邦は現実のどこ?地図に重ねたら、帝国は「同盟国がひとつもないドイツ」だった

幼女戦記の国とモデル一覧|帝国・共和国・連邦は現実のどこ?地図に重ねたら、帝国は「同盟国がひとつもないドイツ」だった

「で、イルドアって結局どこなんだ?」

『幼女戦記Ⅱ』の3話を見ていて、私はここで一度止まった。帝国は東部戦線で連邦と泥沼の戦いを続けている。北では連邦と連合王国が手を組む。そこへ、中立を名乗るイルドア王国が和平の仲介役として動き出す。国の名前が次々に出てくるのに、頭の中の地図がまったく追いつかない。

2期は2026年7月から9月まで全12話が放送され、11月5日からはNetflixでも配信が始まる。これから1期と劇場版も含めて一気に見る人は多いと思う。

幼女戦記の国は、どれも現実のヨーロッパのどこかを思わせる。帝国はドイツ、共和国はフランス、連邦はソ連。ここまでは見ていればなんとなく分かる。ところが、ちゃんと地図に重ねてみると、それだけでは済まない発見があった。いちばん驚いたのは、帝国が「史実のドイツより大きく、しかも味方がひとつもいない国」として作られていることだ。

この記事では、作中の国と現実のモデルを一覧表で整理し、国ごとに史実と比べ、最後に開戦から2期までの勢力関係を時系列でまとめる。ネタバレは2期の公式あらすじの範囲までにとどめ、原作の先に触れるところは前もって断る。

この記事のポイント
目次

幼女戦記の国とモデル一覧【早見表】

先に結論を表にしておく。位置は「帝国から見てどちらにあるか」で書いた。

表の「モデル」は、作中の位置、名前、人物、史実の出来事との似かたから読み取ったものだ。どこまでが公式でどこからが読み取りなのかは、後半の「『モデル』はどこまで公式なのか」でまとめて書いた。

そもそも幼女戦記はどんな世界の話か

幼女戦記は、カルロ・ゼンの小説(KADOKAWA)を原作にした戦記ものだ。合理主義のエリートサラリーマンが、「存在X」と名乗る超常の存在によって、魔法のある世界の孤児ターニャ・デグレチャフとして生まれ変わる。そして帝国軍の魔導師として戦場に立つ。テレビアニメの1期は2017年、劇場版は2019年に公開され、2026年に2期『幼女戦記Ⅱ』が放送された。

暦は「統一暦」。技術の水準は、塹壕と機関銃と複葉機の時代、つまり第一次世界大戦のころに近い。そこに、演算宝珠という道具を使って空を飛び、砲撃のような術式を放つ「魔導師」という兵科が加わる。魔導師は歩兵と航空機の中間のような存在で、史実の第一次大戦で生まれたばかりの空の戦力に近い役回りを担っている。実際の第一次大戦の空がどんな世界だったかは、第一次世界大戦のエースパイロットランキングを見るとイメージしやすい。

ただし、物語が進むと第二次世界大戦の香りも濃くなる。ロケットを使った敵司令部への突入、北アフリカ戦線を思わせる南方大陸での戦い、そして2期の東部戦線。作者のカルロ・ゼンは、歴史ゲームの実況動画で知られる人との対談で、二つの大戦が混ざったこの作品の戦争を「完璧な第一次世界大戦」と表現していた。

私はこの言葉がいちばんしっくりくる。国の配置は第一次大戦のヨーロッパで、戦い方はときどき第二次大戦。地図を読むときも、この二重写しを意識しておくと混乱しにくい。

地図で見る|帝国は四方を囲まれている

まず位置関係を言葉で描いてみる。

国と現実の位置関係。作中の国を、現実のヨーロッパの地形に重ねる
地理的な対応の目安。作中の国境や公式地図を再現したものではない。

大陸の真ん中に帝国がある。北には海を挟んで協商連合の半島があり、国境地帯のノルデン地方をめぐって両国は前から揉めていた。西には共和国があり、両国の間をライン川が流れる。この川沿いの前線が「ライン戦線」だ。帝国と共和国に挟まれた山の中には、中立の小国、森林三州誓約同盟がある。

南の山脈の向こうにはイルドア王国。南東にはダキア大公国。東には巨大な連邦が広がる。北西の海の向こうには島国の連合王国があり、さらに大洋を越えた別の大陸に合州国がある。共和国の南にはイスパニア共同体があり、内海(地中海にあたる海)の向こうには南方大陸が広がる。

史実のドイツ参謀本部が何より恐れたのは、西のフランスと東のロシアに挟まれる「二正面作戦」だった。幼女戦記の帝国は、それどころではない。北、西、南東、東、そして海。ほぼ全方位に、敵か、敵になりうる国がいる。

この配置を頭に入れたうえで、一国ずつ見ていく。

帝国|ドイツとオーストリアが「一つになってしまった」国

ターニャが属する国で、首都はベルン。作中ではほぼ「帝国」か、ドイツ語で帝国を意味する「ライヒ」としか呼ばれない。主人公の国なのに、固有の国名がないのだ。

モデルがドイツであることは、まず疑いがない。参謀本部が戦争を動かし、軍人の名前はドイツ風。ゼートゥーアやルーデルドルフといった将軍たちが作戦を練る姿は、第一次大戦のドイツ参謀本部そのものに見える。

おもしろいのは国土の広さだ。漫画版の地図を現実のヨーロッパに重ねると、帝国はドイツ帝国だけでなく、オーストリア=ハンガリー帝国の範囲まで含むとされる。帝国領ノルデンはデンマークのあたり、帝国領オストランドはポーランド東部からリトアニアのあたり、帝国領ダキアはハンガリーのあたりに当たる。

19世紀のドイツ統一のとき、オーストリアを含めた大きなドイツを作るか(大ドイツ主義)、プロイセンを中心にオーストリアを外すか(小ドイツ主義)という議論があった。現実に1871年に生まれたドイツ帝国は、オーストリアを外した小ドイツのほうだ。幼女戦記の帝国は、言ってみれば「大ドイツ主義が完全に実現してしまったドイツ」に近い。

これが何を意味するか。第一次世界大戦のドイツは、ひとりで戦ったわけではない。オーストリア=ハンガリー、オスマン帝国、ブルガリアと組んだ「中央同盟国」の一員だった。ところが幼女戦記では、その最大の相棒だったオーストリアが最初から帝国の国内に入っている。トルコやブルガリアにあたる国も見当たらない。唯一の友好国のイルドアは、中立を名乗って参戦しない。

つまり帝国は、史実のドイツより大きくて強い代わりに、同盟国がひとつもない。周りの国から見れば「大きすぎて怖い国」で、帝国から見れば「頼れる味方のいない国」だ。幼女戦記の帝国が、どれだけ戦場で勝っても戦争を終わらせられない理由の一つは、この地図の形そのものにあると私は思う。

細かいところでは、「オストランド」という地名も気になる。第一次大戦のドイツは、占領したリトアニアやクールラントを「オーバー・オスト」と呼ばれる軍政地域にした。第二次大戦のナチス・ドイツも、バルト三国などに「オストラント」という名の占領地域を置いている。一つの地名で、二つの大戦を同時に思い出させる名付けだ。

帝国のモデルが「第一次大戦のドイツ帝国」なのか「ナチス・ドイツ」なのかという問題は、話が長くなるので、この特集の次の記事で掘り下げる。

レガドニア協商連合|すべての始まりになった北の小国

帝国の北、海を挟んだ半島にある国だ。モデルはスカンジナビア半島のノルウェーとスウェーデンと見られている。国家元首を置かず、十人評議会が最高決定権を持つ民主政の国とされ、経済でも軍事でも、帝国から見れば小国だ。

この小国が、世界大戦の引き金を引く。原作では、統一暦1923年に協商連合がノルデン地方の領土問題から国境を越え、戦争が始まったと説明される。アニメ1期の2話でも、ノルデンに配属されたばかりのターニャが、越境してきた協商連合の魔導師と戦う場面が描かれた。

史実の第一次大戦も、オーストリアとセルビアという一地方の争いが、同盟の連鎖で世界中に広がった戦争だった。大国ではない国の小さな衝突から全面戦争になる流れは、幼女戦記でも変わらない。

協商連合との戦いは、1期7話の「フィヨルドの攻防」で山場を迎え、統一暦1925年には帝国がほぼ全土を占領する。入り組んだフィヨルドの海岸で上陸と防御がぶつかる戦いは、第一次大戦というより、1940年にドイツがノルウェーへ侵攻した戦いに近い。ここでも二つの大戦が混ざっている。

ノルデン地方の領土問題そのものは、デンマークとドイツが19世紀に争ったシュレースヴィヒ=ホルシュタイン問題を連想させる。漫画版の地図で帝国領ノルデンがデンマークのあたりに置かれていることを考えると、これは私の読みだが、北の国境問題をひとまとめにした設定なのだろう。

協商連合の名前は2期にも出てくる。2期3話のあらすじでは、連邦と連合王国が「旧協商連合領」で共同作戦を始める。協商連合の魔導師アンソン・スーの娘、メアリー・スーが義勇兵として戦場に戻ってくるのも、この国の敗北が出発点だ。

フランソワ共和国|ライン戦線で崩れ、南の大陸へ逃れた国

帝国の西にある歴史ある大国で、モデルはフランスだ。首都はパリースィイ。パリの名前の由来になったガリアの部族「パリシイ」を思わせる響きになっている。

協商連合と帝国が戦い始めると、共和国は帝国に攻め込む。ここから始まるライン戦線は、塹壕と砲撃と機関銃が支配する消耗戦で、まさに第一次大戦の西部戦線そのものだ。なぜ西部戦線があれほど動かなかったのかは塹壕戦はなぜ終わらなかったのかに、どれほど過酷な戦場だったのかは第一次世界大戦の激戦地ランキングに詳しく書いた。

1期の終盤、帝国は「回転ドア」と呼ばれる作戦でこの膠着を破る。わざと右翼を下げて共和国軍を引き込み、敵の司令部を叩いたうえで包囲する作戦だ。この名前を聞いたとき、私は思わずにやりとした。イギリスの軍事評論家リデル・ハートは、第一次大戦前にドイツが立てたシュリーフェン・プランを「回転ドア」にたとえている。フランス軍が片側を押し込めば押し込むほど、反対側の扉が回ってきて背中を打つ、という意味だ。

史実のシュリーフェン・プランは1914年のマルヌの戦いでつまずき、西部戦線は4年続く塹壕戦になった。幼女戦記の回転ドアは成功し、共和国は首都を失う。「シュリーフェン・プランがうまくいっていたら」というもしもの世界を、作品は一度見せてくれるわけだ。

ところが、共和国はそこで終わらない。海軍と一部の部隊は、内海の向こうの南方大陸、つまり植民地へ逃れる。そこでド・ルーゴという軍人が「自由フランソワ共和国」を立ち上げ、抗戦を続ける。名前も筋書きも、1940年にフランスが降伏したあと、ロンドンやアフリカの植民地を拠点に戦い続けたド・ゴールの「自由フランス」とそっくりだ。

帝国はこれを追って、南方大陸に派遣軍団を送る。率いるのはロメール将軍。北アフリカで「砂漠の狐」と呼ばれたロンメルが元ネタなのは、名前を見れば分かる。史実のロンメルについてはエルヴィン・ロンメル将軍とは何者かで書いた。2期8話のあらすじでは、帝国がこの南方大陸からの撤退を決め、連合王国の海軍が待ち構える内海を突破することになる。

整理すると、共和国の前半は「1914年のフランス」、後半は「1940年のフランス」だ。一つの国の中で、二つの大戦がつながっている。

もう一つ付け加えると、1期8話の舞台になったアレーヌ市は、ライン戦線の後方にある帝国側の町なのに、共和国軍と呼応して住民が立ち上がる町として描かれる。国境地帯で住民の帰属が揺れるこの町は、普仏戦争のあとドイツ領になり、第一次大戦後にフランスへ戻ったアルザス=ロレーヌを思わせる。

アルビオン連合王国|島国から大陸を見張る国

帝国の北西、海を挟んだ島国で、モデルはイギリスだ。アルビオンは、古くからのグレートブリテン島の呼び名。首都のロンディニウムは、古代ローマ時代のロンドンの名前そのままだ。

船と岸壁を結ぶ荷役設備。海からの輸送も、戦争を支える経路になる。
船と岸壁を結ぶ荷役設備。海からの輸送も、戦争を支える経路になる。

連合王国は、最初は中立を保ちながら、裏で共和国や協商連合を支えていた。1期7話では、帝国軍の大隊が連合王国の監視拠点まで叩いている。正式に参戦するのは、ライン戦線の終盤、共和国が崩れかけたときだ。

ここは史実と少し違う。現実のイギリスは、1914年8月、ドイツがベルギーの中立を破った時点で参戦した。幼女戦記の連合王国は、帝国が強くなりすぎたところで、ようやく本格的に動く。ただ、理由はよく分かる。イギリスは長いあいだ、大陸に飛び抜けて強い国が生まれるのを嫌い、弱い側を支えて釣り合いを取る外交を続けてきた。共和国が倒れて帝国が大陸の覇者になりそうになった瞬間に動くのは、むしろイギリスらしい。

連合王国の強みは、海軍と情報戦だ。2期では連邦と組んで旧協商連合領で作戦を始め、内海では帝国軍の撤退を海軍が待ち構える。劇場版から登場する連合王国の魔導士官ドレイクも、2期では多国籍義勇軍の一員として存在感を見せる。

ダキア大公国|大軍で攻め込み、空から崩された国

帝国の南東にある国で、モデルはルーマニアだ。ダキアは、古代ローマ時代に今のルーマニアのあたりを指した地名である。

1期5〜6話で、ダキアは大軍を動員して帝国に攻め込む。ところが、その軍隊は装備も考え方も古く、空からの攻撃への備えがほとんどなかった。結成されたばかりのターニャの第二〇三航空魔導大隊に一方的に崩され、首都まで押さえられて敗れる。

この流れは、史実の1916年のルーマニアによく似ている。ルーマニアは連合国側で参戦し、オーストリア=ハンガリー領のトランシルヴァニアへ攻め込んだ。しかし、ドイツ軍を中心とした同盟国側の反撃を受け、その年の12月には首都ブカレストを落とされている。

ここで思い出してほしいのが、漫画版の地図で「帝国領ダキア」がハンガリーのあたりに置かれていることだ。トランシルヴァニアは当時、ハンガリー王国の一部だった。つまりダキア大公国が攻め込んだ帝国領は、史実でルーマニアが攻め込んだ場所とほぼ重なる。帝国がオーストリア=ハンガリーを含んでいるという設定が、ここでもきちんと効いている。

イルドア王国|「中立」を武器にする南の王国

帝国の南、山脈の向こうにある王国で、モデルはイタリアだ。帝国とは関係がよく、南方大陸へ向かう帝国軍の補給も認めている。それでいて、自分は参戦しない。

イタリアがモデルだと分かる決定的な手がかりが、「未回収のイルドア」という言葉だ。史実のイタリアには、オーストリアの支配下に残ったトレンティーノやトリエステを「未回収のイタリア」と呼び、取り戻そうとする運動があった。

第一次大戦のイタリアは、ドイツ・オーストリアと三国同盟を結んでいたのに、1914年の開戦時には中立を宣言した。そして翌1915年、「未回収のイタリア」を約束してくれた連合国側に付いて参戦している。同盟を結んでいても、損得で動く国だった。2期のイルドアが中立を名乗りながら和平の仲介役になり、南方大陸からの撤退では帝国の頼みを断り、帝国の「表敬訪問」で中立を試される流れは、この史実のイタリアを知っているとぐっと面白くなる。

ここから先は原作のネタバレになるので詳しく書かないが、帝国とイルドアの関係は、原作でこの先大きく動く。二つの大戦でイタリアがどう動いたかを知っている人は、ある程度想像がつくかもしれない。

ルーシー連邦|魔導師を迫害した東の大国

帝国の東に広がる巨大な国で、モデルはソビエト連邦だ。ルーシーという名前は、ロシアやウクライナ、ベラルーシの起源にあたる中世の国「ルーシ」から来ていると見られる。首都はモスコー。

雪の積もった鉄道輸送拠点と物資の集積。
雪の積もった鉄道輸送拠点と物資の集積。

共産主義の革命で生まれた新しい国家で、頂点に立つのは書記長だ。秘密警察を握る内務人民委員ロリヤの名前は、スターリンの側近だったベリヤを思わせる。

おもしろいのは国境だ。漫画版の地図では、連邦の領土にフィンランドのあたりまで含まれるとされる。史実では、ロシア革命と第一次大戦の混乱の中で、フィンランドやバルト三国が独立していった。幼女戦記の連邦は、帝政ロシアの大きな国土を保ったまま革命を終えた国に見える。体制はソ連、国土は帝政ロシア。ここにも二つの時代の重ね合わせがある。

連邦は劇場版(統一暦1926年)で帝国との戦争に加わり、ターニャの大隊は首都モスコーへ殴り込む。2期はそのあとの東部戦線が舞台で、早すぎる冬、補給線を襲うゲリラ、連邦の資源地帯を狙う大攻勢と、史実の独ソ戦を思わせる要素が次々に出てくる。史実の独ソ戦の全体像は独ソ戦を徹底解説にまとめた。

連邦のもう一つの特徴が、魔導師の迫害だ。2期の新キャラクター、ミケルは、公式サイトの紹介で「連邦にて魔導師は迫害の対象であったが、帝国との戦争でその必要性が認識されたことでラーゲリから現役へと復帰」した魔導師とされている。もう一人の新キャラクター、リリーヤは、党から多国籍義勇軍へ派遣された政治将校だ。どちらも史実のソ連軍を知っていると背景が深く見える人物で、この特集では二人を入口にした記事を別に書く予定だ。

合州国|「中立」のまま、お金と人を戦争に流す国

大洋を越えた別の大陸にある国で、モデルはアメリカだ。伝統的に中立を守る国とされ、旧大陸の戦争には正式には加わらない。

ただし、中立といっても何もしないわけではない。交戦国の戦時国債を買い、連合王国を経由して物資を流し、敗れた国から逃れてきた人々を義勇兵として連邦に送り込む。メアリー・スーが加わった多国籍義勇軍が、まさにその受け皿だ。

これも史実のアメリカの姿に近い。第一次大戦のアメリカは、1917年に参戦するまで中立だったが、イギリスやフランスには巨額の資金を貸していた。参戦の前から、フランス軍に加わって戦ったアメリカ人の志願パイロット部隊「ラファイエット戦闘機隊」もあった。第二次大戦でも、参戦する前にイギリスへ大量の兵器を送る武器貸与法を作っている。

ちなみに、現実のアメリカは日本語で「合衆国」と書くが、幼女戦記は「合州国」だ。この「合州国」という表記は、ジャーナリストの本多勝一が1970年の著書『アメリカ合州国』で使ったことでも知られる。作者がどこまで意識したかは分からないが、一文字の違いで「現実そのものではない」ことを示す、うまい名付けだと思う。

戦争に加わらない国々|秋津島皇国・イスパニア共同体・森林三州誓約同盟

大陸の戦争に直接は加わらないが、設定として存在する国もある。

秋津島皇国は極東の島国で、モデルは日本だ。秋津島(あきつしま)は、日本を指す古い呼び名である。連邦とは領海をめぐって小競り合いをしているが、大陸の戦争には関わらないとされる。史実の日本も、1930年代にソ連と国境で何度もぶつかっていた。その代表例がノモンハン事件だ。

イスパニア共同体は共和国の南に国土を持つ国で、モデルはスペイン。南方大陸に植民地を持ち、国内の政治闘争が激しく、戦争には中立を保っている。第一次大戦で中立を守り、第二次大戦でも正式には参戦せず、その間に内戦を経験した史実のスペインらしい設定だ。

森林三州誓約同盟は帝国と共和国に挟まれた小国で、モデルはスイス。この名前は、スイスの成り立ちをそのまま漢字にしたものだ。スイスは13世紀の終わり、アルプスの森の中にあるウーリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデンの三つの地域が、互いに助け合う誓いを立てたことから始まったとされる。今もスイスのドイツ語の正式な国名には、「誓いで結ばれた仲間」を意味する言葉が使われている。

国名を並べてみると、古い呼び名ばかりだった

ここまで見てきて、気づいたことがある。国名や地名の多くが、今の国名ではなく、古代や中世の呼び名から取られているのだ。

  • アルビオン:古くからのグレートブリテン島の呼び名
  • ロンディニウム:古代ローマ時代のロンドン
  • ダキア:古代ローマ時代のルーマニア一帯
  • イスパニア:古代ローマ時代のイベリア半島
  • ルーシー:中世の東スラヴの国ルーシ
  • パリースィイ:パリの名の由来になった部族パリシイ
  • 秋津島:日本の古い呼び名
  • 森林三州誓約同盟:スイスの始まりになった同盟

フランソワも、実は古いフランス語で「フランスの」を意味した綴りと同じだ。今は「フランセ」と読み書きする言葉を、昔はこう綴っていた。

これは私の推測だが、今の国名を避けて古い名前を選んだことで、「現実のヨーロッパそのものではないが、どこのことかはすぐ分かる」という、ちょうどいい距離が生まれているのだと思う。そして、ほかの主要国がそれぞれ固有の名前を持つ中で、主人公の帝国には「帝国」「ライヒ」という呼び方しかない。読者は国名ではなく、この国が何をしたかで帝国を覚えることになる。

開戦から2期までの勢力関係を時系列で整理

最後に、戦争が広がっていった順番をまとめる。年がはっきりしないところは、アニメの話数で書いた。

時期 主な出来事 帝国と戦っている国
統一暦1923年 協商連合がノルデンへ越境し、開戦 協商連合
その直後 共和国が帝国へ攻め込み、ライン戦線が始まる 協商連合、共和国
統一暦1924年(1期4話) 北と西の二正面で戦う 協商連合、共和国
1期5〜6話 ダキア大公国が攻め込み、短期間で敗れる ダキアが加わり、すぐ脱落
統一暦1925年(1期8〜12話) 協商連合をほぼ占領。回転ドアで共和国軍を包囲し、首都を落とす。連合王国が参戦 共和国(植民地で抗戦)、連合王国
1期のあと 南方大陸で自由共和国と戦う 自由共和国、連合王国
統一暦1926年(劇場版) 連邦が参戦。合州国の義勇兵も戦場に現れる 連邦が加わる
統一暦1926年秋〜(2期) 東部戦線。旧協商連合領で連邦と連合王国が共同作戦。イルドアが和平の仲介に動く。帝国は南方大陸から撤退 連邦、連合王国、自由共和国。合州国は中立のまま支援
帝国を取り巻く国々。戦争に加わる方法も、それぞれ違う
本土での勝利だけでは、戦争相手も戦線も減らない。

こうして並べると、はっきりした傾向が見える。帝国は勝つたびに、新しい敵を呼び込んでいる。協商連合を押し返すと共和国が攻めてくる。共和国を倒すと連合王国が本気になる。大陸の西を固めると、東の連邦が動く。2期の公式イントロダクションには、どの国も「すべてを終わらせるための圧倒的勝利。」を求めているのに、本当は何を望み、それが何を意味するのかを誰も分かっていない、という趣旨の一文がある。

なぜ戦場で勝ち続けても戦争に勝てないのか。これは幼女戦記という作品のいちばん大事なテーマなので、この特集の看板コラムとして別に書く。

「モデル」はどこまで公式なのか

ここで正直に書いておく。私が調べた範囲では、作者や公式サイトが「帝国のモデルはドイツ、共和国のモデルはフランス」と、国ごとのモデルを一覧で明言した資料は見つからなかった。

この記事の早見表は、次のような手がかりを組み合わせた「有力な見方」だ。

  • 漫画版の地図を現実のヨーロッパに重ねたときの位置
  • 国名や地名の響き(アルビオン、ロンディニウム、ダキアなど)
  • 人物の名前(ド・ルーゴ、ロメール、ロリヤなど)
  • 史実の出来事との似かた(回転ドア、ダキアの侵攻、イルドアの中立など)

帝国がドイツ、共和国がフランス、連邦がソ連という読み方は、ここまで手がかりがそろえば、まず外れないと思う。ただ、「帝国=ナチス・ドイツ」のように一つの時代に決めつけてしまうと、作品の面白さを取りこぼす。幼女戦記の国は、一つの国の中に第一次大戦の顔と第二次大戦の顔が同居している。どちらの顔が出ているかは、場面ごとに違う。

幼女戦記をもう一度見る・読むなら

2期は、ABEMAとdアニメストアで地上波より先に最速配信されていた。ABEMAでは2025年11月に1期の無料一挙配信もあった。配信の状況は時期によって変わるので、見る前に各サービスで確かめてほしい。地図を頭に入れてから見直すと、1期の何気ない会話の中にも、のちの戦争の伏線があちこちに見つかる。

国の位置関係をじっくり確かめたいなら、東條チカによる漫画版もいい。この記事で帝国の範囲を確かめる手がかりにしたのも、漫画版の地図だ。アニメでは駆け足だった戦況の流れも、コマで追うとつかみやすい。

史実の側から作品を味わいたい人には、2冊を挙げておく。ライン戦線の塹壕の空気を知るなら、第一次大戦の西部戦線を一人の兵士の目で描いた『西部戦線異状なし』。

2期の東部戦線の背景を知るなら、独ソ戦の全体像を一冊で追える『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』。

よくある質問

幼女戦記の帝国のモデルはナチス・ドイツ?

基本は第一次世界大戦のころのドイツ帝国だ。ただし、2期の東部戦線のように、第二次大戦のナチス・ドイツを思わせる要素も多い。どちらか一方と言い切るより、両方の大戦が混ざっていると考えるほうが作品に合っている。

連邦のモデルはソ連?ロシア?

体制はソ連そのものだ。書記長が国を率い、秘密警察があり、魔導師が迫害されている。ただし、漫画版の地図ではフィンランドのあたりまで連邦に含まれ、国土の形は革命前の帝政ロシアに近い。

イルドア王国はどこの国?

イタリアだ。「未回収のイルドア」という言葉が、史実の「未回収のイタリア」とそのまま重なる。

合州国はアメリカ?

そう読める。中立を名乗りながら資金や物資を流し、義勇兵を送る姿は、参戦前のアメリカに近い。漢字が「衆」ではなく「州」なのも特徴だ。

秋津島皇国は日本?

そう読める。秋津島は日本の古い呼び名だ。ただし、大陸の戦争には関わらない国として設定されている。

幼女戦記の地図はどこで見られる?

漫画版に地図が描かれている。このブログの対応図は、公式の地図を写したものではなく、現実のヨーロッパに作中の国名を当てはめて作った概念図だ。

まとめ|地図を広げると、帝国の孤独が見えてくる

幼女戦記の国は、帝国がドイツ、協商連合がスカンジナビア、共和国がフランス、連合王国がイギリス、ダキアがルーマニア、イルドアがイタリア、連邦がソ連、合州国がアメリカと読める。秋津島、イスパニア、森林三州誓約同盟という、戦争に加わらない国々もある。

ただ、地図に重ねていちばん印象に残ったのは、一つひとつの国の正体より、帝国の置かれた形だった。オーストリアまで飲み込んだ大きな帝国は、史実のドイツより強い。その代わり、隣に並んで戦ってくれる国がいない。北の小国の越境から始まった戦争は、帝国が勝つたびに相手を増やし、2期では東の大国との泥沼にまで広がった。

ターニャがどれだけ戦場で結果を出しても、地図の形は変わらない。そう思って2期を見直すと、参謀本部の将軍たちの焦りが少し違って見えてくるはずだ。

この特集では次に、帝国のモデルがドイツ帝国なのかナチス・ドイツなのかを、政治体制・軍制・戦争の状況から掘り下げる。

最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。

出典・参考資料

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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