2017年、中国空軍に配備された1機のステルス戦闘機が、西側諸国の軍事専門家たちを震撼させた。その名は「殲-20(J-20)」——中国が独自開発した第5世代ステルス戦闘機だ。
「中国にステルス機なんて作れるのか?」という懐疑的な見方は、わずか数年で覆された。2025年現在、J-20の配備数は300機を突破し、米国のF-22ラプター(187機)を数で上回っている。年産100機という驚異的なペースで量産され、中国空軍の主力として君臨しているのだ。
でも、「数が多い=強い」というわけじゃない。J-20は一体どんな戦闘機なのか?本当にF-35に対抗できるのか?それとも、見かけ倒しなのか?
この記事では、J-20の開発経緯から性能、運用コンセプト、そしてF-35との決定的な違いまで、徹底的に解説していく。アニメや映画で戦闘機に興味を持った方でも理解できるよう、専門用語は噛み砕き、戦術的な意味合いまで踏み込んでお伝えしたい。
中国の空を支配する「威龍」の正体——一緒に見ていこう。
1. J-20とは?——「威龍」と呼ばれるステルス戦闘機の基本

正式名称と愛称
J-20(殲-20、Jian-20)は、中国が開発した第5世代ステルス戦闘機だ。「殲」は「せん滅する」という意味で、敵を撃破する戦闘機を指す。
愛称は「威龍(Mighty Dragon / 猛威を振るう龍)」。中国文化において龍は力と権威の象徴であり、この戦闘機に込められた期待の大きさが伝わってくる。
開発したのは、中国航空工業集団(AVIC)傘下の成都飛機工業公司(成都航空機工業/CAC)。中国を代表する軍用機メーカーだ。
第5世代戦闘機とは何か?
J-20は「第5世代戦闘機」に分類される。これは、以下の特徴を持つ最新鋭戦闘機を指す:
- ステルス性:レーダーに映りにくい
- 超音速巡航(スーパークルーズ):アフターバーナーなしでマッハ1超
- 高度な電子機器:AESA レーダー、統合アビオニクス
- ネットワーク統合:味方機と情報を共有
世界で第5世代戦闘機を実戦配備しているのは、米国(F-22、F-35)、中国(J-20、J-35)、ロシア(Su-57)のみ。つまり、J-20は世界のトップクラスに位置する戦闘機なんだ。
配備開始と現在の運用状況
J-20が初飛行したのは2011年1月11日。開発開始からわずか10年で実用化され、2017年3月に正式に中国空軍に配備された。
2025年9月時点で、配備数は300機を突破。これは驚異的な数字だ。比較すると、米国のF-22ラプターは187機で生産終了、F-35は全世界で1000機以上だが、ステルス制空戦闘機に限れば、J-20が世界最多となっている。
2. 開発の歴史——ロシア機のコピーから独自開発へ
冷戦後の中国空軍——技術的遅れとの戦い
1990年代、中国空軍の主力はJ-7(MiG-21のコピー)やJ-8といった旧式機だった。湾岸戦争で米軍の圧倒的な航空優勢を目の当たりにした中国は、危機感を募らせた。
「このままでは、米軍の第4世代戦闘機(F-15、F-16)にすら対抗できない」
中国は、ロシアからSu-27戦闘機を輸入し、ライセンス生産(J-11)を開始した。しかし、コピーだけでは追いつけない——独自開発への道を歩み始めた。
J-10の成功——国産戦闘機への自信
1998年、中国は初の国産第4世代戦闘機「J-10」の開発に成功した。これは、イスラエルの技術支援を受けたとされるが、中国にとって大きな自信となった。
「自分たちでも、現代的な戦闘機を作れる」
この成功が、J-20開発への土台となった。
2000年代——ステルス機開発プロジェクト始動
2000年代初頭、米国がF-22ラプターを配備したことで、中国はステルス戦闘機の必要性を痛感した。2009年頃から、「J-XX計画」としてステルス戦闘機の開発が本格化した。
当時、西側の軍事専門家の多くは懐疑的だった。
「中国にステルス技術なんてあるのか?」
しかし、1999年のコソボ紛争で撃墜された米軍のF-117ステルス攻撃機の残骸を中国が入手したという報道もあり、技術流出の可能性が指摘された。また、サイバー攻撃による米国の機密情報窃取も疑われた。
2011年1月11日——衝撃の初飛行
そして2011年1月11日、成都でJ-20の初飛行が行われた。これは、当時訪中していたロバート・ゲーツ米国防長官の滞在中というタイミングで、明らかな「デモンストレーション」だった。
「私たちも、あなた方に追いついた」
というメッセージだった。
2017年——実戦配備開始
2017年3月、J-20は正式に中国空軍に配備された。初飛行からわずか6年——この開発スピードは、米国のF-22(初飛行1997年、配備2005年)やF-35(初飛行2006年、配備2015年)と比べても遜色ない。
3. J-20の外観と設計思想——なぜこの形なのか?

独特のシルエット——カナード+デルタ翼
J-20の外観は、一目で他の戦闘機と区別できる独特の形状をしている。
最大の特徴は、カナード(前翼)とデルタ翼の組み合わせだ。カナードは機首の後ろに小さな翼があり、機動性を高める役割を果たす。これは、ヨーロッパのユーロファイター・タイフーンやフランスのラファールと同じコンセプトだ。
一方、米国のF-22やF-35はカナードを持たない。これは設計思想の違いを反映している。
ステルス形状——レーダー反射を最小化
ステルス性を実現するため、J-20は以下の特徴を持つ:
- 機体表面の平面化:レーダー波を特定方向に反射させる
- 内部ウェポンベイ:ミサイルを機体内部に格納
- 鋸歯状のエッジ:レーダー波の乱反射を防ぐ
- レーダー吸収材(RAM):機体表面に特殊塗装
ただし、カナードはステルス性にとって不利とされる。なぜなら、追加の反射面を生むからだ。中国がそれでもカナードを採用したのは、「機動性を重視した」ためと考えられる。
双発エンジン——長距離飛行と高推力
J-20は双発エンジン(エンジンが2基)を採用している。これは、F-22と同じだ。一方、F-35は単発エンジン。
双発エンジンのメリットは:
- 推力が大きい:重い機体でも高速飛行可能
- 冗長性:1基が故障しても飛行継続可能
- 航続距離が長い:燃料を多く搭載できる
デメリットは:
- 機体が大きく重くなる
- 維持コストが高い
- ステルス性に不利(エンジン排気口が2つ)
中国がこの選択をしたのは、「広大な作戦空域」を重視したためだ。東シナ海、南シナ海、台湾海峡——これらをカバーするには、長距離飛行能力が不可欠なのだ。
全長20.3m——F-22より大きい
J-20の全長は約20.3m。これは、F-22(18.9m)やF-35(15.7m)より大きい。つまり、J-20は「大型ステルス戦闘機」なんだ。
大型化のメリットは:
- 燃料タンクが大きい→航続距離が長い
- ウェポンベイが広い→大型ミサイルを搭載可能
- レーダーアンテナが大きい→探知距離が長い
デメリットは:
- 重量が増える→機動性が低下
- レーダー反射断面積(RCS)が大きくなる→ステルス性が低下
- 生産コストが高い
4. 性能スペック徹底解説——速度・航続距離・武装

基本スペック一覧
J-20の公式スペックは、中国政府が詳細を公表していないため、推定値が多い。以下は、各種分析をまとめたものだ:
| 項目 | J-20(推定) |
|---|---|
| 全長 | 約20.3m |
| 全幅 | 約12.9m |
| 全高 | 約4.5m |
| 空虚重量 | 約17,000kg |
| 最大離陸重量 | 約36,000kg |
| 最高速度 | マッハ2.0以上 |
| 実用上昇限度 | 約20,000m |
| 航続距離 | 約2,000km(フェリー時5,500km) |
| エンジン | WS-15(推力18,000kgf×2) |
| 乗員 | 1名(単座型)/ 2名(複座型J-20S) |
最高速度マッハ2.0——でも重要なのは巡航速度
J-20の最高速度は、マッハ2.0以上とされる。ただし、これは「理論上の最高速度」であり、ステルス性を維持しながらの速度ではない。
現代のステルス戦闘機で重要なのは、「超音速巡航(スーパークルーズ)」能力だ。これは、アフターバーナーを使わずにマッハ1以上で巡航できる能力を指す。
F-22は、マッハ1.8で超音速巡航できる。一方、J-20は初期型のAL-31Fエンジンではスーパークルーズができなかったが、最新のWS-15エンジンを搭載した機体では、マッハ1.5〜1.8での超音速巡航が可能とされる。
航続距離2,000km——東シナ海をカバー
J-20の戦闘行動半径は約2,000kmと推定される。これは、中国本土から尖閣諸島(約1,000km)や台湾(約700km)、さらには沖縄(約700km)まで余裕でカバーできる距離だ。
比較すると:
- F-22:約760km
- F-35A:約1,100km
- Su-35:約1,600km
つまり、J-20は「長距離制空戦闘機」として設計されているのだ。
武装——内部に6発、外部に4発
J-20は、ステルス性を維持するため、ミサイルを機体内部のウェポンベイに格納する。
内部ウェポンベイの構成:
- メインベイ(胴体下部):PL-15中距離空対空ミサイル×4発
- サイドベイ(両側面):PL-10短距離空対空ミサイル×2発
合計6発のミサイルを内部搭載できる。
また、ステルス性を犠牲にすれば、主翼下に4つのハードポイントがあり、追加の燃料タンクやミサイルを搭載できる。
PL-15ミサイル——射程200km超の脅威
J-20が搭載するPL-15ミサイルは、射程200km以上とされ、米国のAIM-120 AMRAAM(射程約100km)を大きく上回る。
これは何を意味するのか?
「先に見つけ、先に撃つ(First Look, First Shot)」——現代の空中戦は、レーダーで先に敵を発見し、射程の長いミサイルで先制攻撃した方が勝つ。J-20とPL-15の組み合わせは、この原則を体現している。
5. WS-15国産エンジン——「心臓部」の進化が意味するもの

初期型の弱点——ロシア製エンジンへの依存
J-20の最大の弱点は、長い間「エンジン」だった。
初期型のJ-20は、ロシア製のAL-31F(Su-27/J-11に使用)またはAL-31FM2を使用していた。これは、推力約13,000〜14,000kgfで、機体が重いJ-20には不十分だった。
結果として:
- 超音速巡航ができない
- 機動性が限定的
- ロシアへの依存が残る
これは、中国にとって大きな屈辱だった。
WS-10エンジン——国産化への第一歩
2010年代後半、中国は国産のWS-10エンジン(推力約13,200〜14,500kgf)の搭載を開始した。これは、AL-31Fと同程度の性能だが、「国産」という意義があった。
しかし、これでも不十分だった。
WS-15エンジン——ついに完成した「心臓部」
2020年代初頭、ついに中国は次世代エンジン「WS-15(渦扇-15)」の開発に成功した。
WS-15のスペック:
- 推力:約18,000kgf(アフターバーナー使用時)
- 推力重量比:10以上
- 超音速巡航能力:可能
これは、米国のF119(F-22用)やF135(F-35用)に匹敵する性能だ。
WS-15を搭載したJ-20は、以下が可能になった:
- マッハ1.5〜1.8での超音速巡航
- 高度な機動性(推力偏向ノズルも搭載可能)
- 航続距離の延長
これにより、J-20は「真の第5世代戦闘機」になったと言える。
推力偏向ノズル——機動性の革命
WS-15エンジンの一部には、推力偏向ノズル(Thrust Vectoring Nozzle / TVC)が搭載されている。これは、エンジンの噴射方向を変えることで、機体を急激に旋回させる技術だ。
これにより、ドッグファイト(近接空中戦)での優位性が飛躍的に向上する。Su-35やF-22も同様の技術を持つが、中国がこれを実用化したことは大きな進歩だ。
6. 運用コンセプト——J-20は「何をするための戦闘機」なのか?

制空戦闘機——「空の支配」が主任務
J-20は、「制空戦闘機(Air Superiority Fighter)」として設計されている。つまり、敵の戦闘機を撃墜し、空域を支配することが主任務だ。
これは、F-22と同じコンセプトだ。一方、F-35は「多用途戦闘機(Multi-Role Fighter)」であり、空対空戦闘だけでなく、地上攻撃、電子戦、偵察など多様な任務をこなす。
なぜ中国は「制空戦闘機」を選んだのか?
答えは、「米軍の介入を阻止する」ためだ。台湾有事の際、米軍がF-35やF-18を派遣してきたら、J-20がこれを迎撃し、制空権を確保する——これが中国の戦略だ。
長距離迎撃——「第一列島線」の防衛
中国の軍事戦略には、「第一列島線」という概念がある。これは、日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶラインで、中国はこの内側を「自分たちの海」と考えている。
J-20の長距離飛行能力は、この第一列島線を防衛するために設計されている。例えば:
- 沖縄の嘉手納基地から発進した米軍機を、東シナ海上空で迎撃
- 台湾海峡上空で台湾空軍のF-16を圧倒
- 南シナ海のパトロールで、フィリピンやベトナムの航空機を威嚇
「先制攻撃」よりも「拒否」——A2/AD戦略の一部
J-20は、「接近阻止・領域拒否(A2/AD / Anti-Access/Area Denial)」戦略の一部として位置づけられている。
これは、米軍が西太平洋に接近することを物理的・心理的に阻止する戦略だ。DF-26対艦弾道ミサイルが空母を脅かし、潜水艦が海峡を封鎖し、J-20が制空権を争う——こうした多層的な「拒否」により、米軍の介入コストを引き上げるのだ。
早期警戒機キラー——AEW&Cへの脅威
J-20の隠れた役割として、「早期警戒機キラー」がある。
早期警戒機(E-3セントリー、E-2Dホークアイなど)は、広範囲の空域を監視し、味方戦闘機を誘導する「空の司令塔」だ。これを撃墜されると、空中戦の指揮系統が崩壊する。
J-20のステルス性と長射程ミサイル(PL-15)は、早期警戒機に接近し、撃墜することを可能にする。これは、米軍にとって悪夢のシナリオだ。
7. F-35との決定的な違い——制空戦闘機vs多用途戦闘機

設計思想の違い——「専門家」vs「万能選手」
J-20とF-35は、しばしば比較されるが、実は根本的に設計思想が異なる。
J-20は「制空戦闘機」——空中戦に特化した専門家だ。
F-35は「多用途戦闘機」——空中戦、地上攻撃、偵察、電子戦をこなす万能選手だ。
例えるなら、J-20は「剣道の達人」、F-35は「総合格闘家」だ。一対一の剣道対決ならJ-20が有利かもしれないが、総合格闘技ならF-35が勝つ——そんなイメージだ。
サイズと機動性——大型vs小型
J-20は大型(全長20.3m、重量36トン)で、F-35は中型(全長15.7m、重量32トン)だ。
J-20の利点:
- 航続距離が長い
- 大型ミサイルを搭載可能
- レーダーアンテナが大きい→探知距離が長い
F-35の利点:
- 小型で軽量→機動性が高い
- 生産コストが低い
- 空母運用型(F-35C)や垂直離着陸型(F-35B)もある
ネットワーク統合——F-35の圧倒的優位
F-35の最大の強みは、「ネットワーク統合能力」だ。F-35は「空飛ぶセンサー」として、自分が見た情報を瞬時に味方全体に共有する。
例えば:
- F-35Aが敵機を発見→イージス艦にデータ送信→艦対空ミサイルで撃墜
- F-35Bが地上目標を発見→F-16が精密爆弾で攻撃
つまり、F-35は「1機では弱くても、システム全体では最強」なんだ。
一方、J-20もデータリンクを持つが、F-35ほど高度ではないとされる。これは、実戦経験の差が大きい。
ステルス性——どちらが上か?
ステルス性については、諸説ある。
F-35は、全方位ステルス(前後左右上下からレーダーで見えにくい)を追求している。
J-20は、前方ステルス(正面からは見えにくいが、側面・後方は比較的見えやすい)を重視しているとされる。
また、J-20のカナードは、ステルス性にとって不利だ。一方、F-35はより洗練されたステルス設計を持つ。
ただし、レーダー反射断面積(RCS)の実測値は極秘であり、実際の比較は困難だ。
価格——J-20は安い?
F-35Aの単価は、約8000万ドル(約120億円、量産効果で低下中)。
J-20の単価は公表されていないが、推定1億〜1.1億ドル(約150〜165億円)とされる。
つまり、J-20の方が高価だ。これは、生産規模がF-35(1000機以上)に比べて小さいためだ。
実戦経験——F-35の決定的優位
F-35は、既にイスラエル空軍が実戦で使用し、シリア上空でロシア製防空システムを無力化した実績がある。
一方、J-20は実戦経験ゼロだ。演習と実戦は全く違う。この差は、簡単には埋まらない。
8. 実戦配備の状況——300機突破の衝撃
配備数の推移——爆発的な増加
J-20の配備数は、以下のように推移している:
- 2017年:配備開始(約10機)
- 2022年:約50機
- 2023年:約140機(90機増)
- 2024年:約200機(60機増)
- 2025年9月:300機突破
年間生産数は、2023年以降、約100機ペースに達している。これは驚異的だ。
比較すると:
- 米国F-22:187機で生産終了(2011年)
- 米国F-35:年間約150機(全世界向け)
- ロシアSu-57:約20機(2025年時点)
つまり、J-20は「世界で最も多く生産されているステルス制空戦闘機」なんだ。
配備部隊——どこに配置されているのか?
J-20は、中国空軍の以下の部隊に配備されている:
- 東部戦区(南京):台湾有事に備える最前線
- 南部戦区(広州):南シナ海を管轄
- 北部戦区(瀋陽):朝鮮半島・ロシア方面
- 中部戦区(北京):首都防衛
特に、東部戦区への配備が最も多く、台湾海峡での有事に備えている。
J-20A改良型とJ-20S複座型
2020年代に入り、J-20には改良型が登場している。
J-20A:WS-15エンジン搭載の最新型。超音速巡航が可能。
J-20S:複座型(2人乗り)。後席には武器システム士官(WSO)が搭乗し、無人機(ドローン)の指揮統制を行う「ロイヤル・ウィングマン」構想の一部とされる。
J-20Sは、AI無人機を従えて戦う「未来の空中戦」を視野に入れた機体だ。
9. J-20の強み——中国が誇るポイント
J-20の強みをまとめると、こうなる:
第一に、圧倒的な配備数だ。300機というステルス戦闘機は、米国のF-22を上回る。物量は、それ自体が戦略的優位となる。
第二に、長距離飛行能力だ。航続距離2,000kmは、東シナ海全域をカバーできる。これは、F-22やF-35にない利点だ。
第三に、長射程ミサイルPL-15だ。射程200km超は、米国のAIM-120を大きく上回る。「先に撃つ」優位性を持つ。
第四に、国産エンジンWS-15の成功だ。これにより、ロシアへの依存から脱却し、技術的自立を達成した。
第五に、低コスト量産体制だ。年産100機というペースは、中国の工業力を示している。
10. J-20の弱点——見過ごせない課題
しかし、J-20には弱点もある。
第一に、実戦経験ゼロだ。演習でいくら強くても、実戦で証明されていない。パイロットの練度、システムの信頼性、実戦での運用——全てが未知数だ。
第二に、ネットワーク統合能力の不足だ。F-35のような高度なデータリンクは持たず、単機での戦闘能力に依存している。
第三に、エンジンの信頼性だ。WS-15は開発されたばかりで、長期的な信頼性は未検証だ。ロシアや米国のエンジンと比べ、寿命や整備性で劣る可能性がある。
第四に、ステルス性の疑問だ。カナードの存在、機体の大きさ、レーダー吸収材の品質——これらが、実際の戦闘でどれほど有効かは不明だ。
第五に、パイロットの質だ。中国空軍のパイロットは、米軍ほどの飛行時間(年間約200時間)を持たないとされる。また、実戦経験がないため、「予期せぬ事態」への対応力が劣る可能性がある。
第六に、電子戦能力だ。現代の空中戦は、電子戦(ECM / 電子妨害、ESM / 電子支援)が勝敗を分ける。この分野で、中国が米国に追いついているかは疑問だ。
11. 日本の空への影響——航空自衛隊はどう対応するのか?
東シナ海でのスクランブル——J-20との遭遇
航空自衛隊は、中国軍機の接近に対し、年間約1000回のスクランブル(緊急発進)を行っている。その中に、J-20が含まれる日も増えている。
2023年頃から、東シナ海上空でJ-20が確認されるようになった。これは、中国が「実戦的な訓練」を強化している証拠だ。
航空自衛隊の対抗策——F-35Aとネットワーク防空
航空自衛隊の対抗策は、以下の通りだ:
第一に、F-35Aの配備拡大。現在約50機、最終的に147機を配備予定。
第二に、F-15Jの近代化改修。レーダーとミサイルを最新化し、F-35Aと連携できるようにする。
第三に、E-2D早期警戒機の導入。「空の司令塔」を強化し、J-20の接近を早期に探知する。
第四に、地対空ミサイルシステム(PAC-3、03式中距離地対空誘導弾)の配備。沖縄や南西諸島の防空を強化する。
第五に、日米共同訓練の強化。米軍のF-22やF-35と連携し、実戦的な訓練を積む。
数的劣勢をどう克服するか?
J-20が300機、航空自衛隊の戦闘機は約290機——数的には互角だが、J-20だけでなく、J-10やJ-11も加えれば、中国空軍は2,566機を持つ。
日本が数的劣勢を克服するには、「質」と「システム」で勝つしかない。
パイロットの練度、整備の質、早期警戒管制、地対空ミサイルとの連携——これらを総合した「防空システム」で、中国の物量に対抗するのだ。
そして何より、日米同盟が不可欠だ。米軍のF-22、F-35、空母打撃群が参戦すれば、パワーバランスは一変する。
12. まとめ:J-20が示す中国空軍の未来

J-20は、中国が「航空大国」としての地位を確立したことを象徴する戦闘機だ。
かつて、中国空軍はソ連やロシアのコピー機に依存していた。しかし、J-20の登場により、「独自開発」「技術的自立」を達成した。年産100機というペースは、中国の工業力と国家の意志を示している。
しかし、J-20が「最強」というわけではない。実戦経験の欠如、ネットワーク統合能力の不足、パイロットの質——これらの弱点は、数字では測れない重要な要素だ。
戦争は「カタログスペック」では決まらない。補給、整備、士気、指揮統制、そして同盟国との連携——これらが勝敗を分ける。
J-20の脅威は現実だ。しかし、恐れすぎる必要もない。日本には、世界最高レベルの防空システムがある。そして、米国という同盟国がいる。
大切なのは、「敵を知り、己を知る」こと。J-20の実力を正しく理解し、冷静に備えること——それが、私たちにできることではないだろうか。
中国の「威龍」は、確かに空を飛んでいる。しかし、それに怯むのではなく、しっかりと見据え、対抗策を練る——それが、この時代を生きる私たちの責務だ。
関連記事
J-20についてさらに深掘りしたい方、関連する話題に興味がある方は、以下の記事もおすすめだ:
- 中国人民解放軍の軍事力とは?陸海空の主力装備と戦力をわかりやすく解説【2025年版】 ——中国軍全体の解説記事
- 【2025年最新版】日本の戦闘機一覧|航空自衛隊が誇る空の守護者たち ——J-20に対抗する日本の戦闘機
- 世界最強戦闘機ランキングTOP10【2025年版】 ——J-20は世界で何位?
- 最強と謳われた零戦の真実——21型から52型へ ——日本の航空技術の原点
- F-14トムキャットとは?トップガンで伝説となった戦闘機 ——米国の名機
これらの記事も読めば、現代の空中戦がさらに深く理解できるはずだ。













コメント