
日本の防衛スタートアップは、展示会で技術を紹介する段階から、防衛省の契約、部隊での実証、衛星コンステレーションへの参加へと移りつつある。
かつて日本の防衛産業といえば、三菱重工業、川崎重工業、三菱電機、NECなどの大企業が中心だった。航空機、艦艇、ミサイル、レーダーのような大型装備には、長期間の研究開発、厳格な品質保証、巨大な製造設備が必要であり、新興企業が入り込める余地は小さかったためである。
- ドローン・AI・宇宙・ロボットで新規参入が進む
- 契約済み・実証中・提案段階を分けて評価する
- 民生で鍛えた技術を防衛へ展開するデュアルユース型が中心
- 技術力だけでなく量産・保守・秘密保全・輸出管理が課題
しかし、無人機、生成AI、衛星データ、サイバーセキュリティ、遠隔支援、3Dプリンター建築などが防衛力を左右する時代になると、状況は変わる。防衛装備庁は新規参入相談窓口、スタートアップ技術提案評価方式、迅速な調達につなげる枠組み、合同推進会などを整備している。2025年度から2026年度にかけては、インフォステラ、Oceanic Constellations、Waquaなどが実際の契約先として現れた。[出典1][出典2][出典3][出典4]
本記事では、公開情報で防衛・安全保障との接点を確認できる日本企業を分野別に整理する。ここでいう「防衛スタートアップ」は、防衛専業企業だけを意味しない。民生技術を防衛にも転用するデュアルユース企業、実証や提案段階の企業も含む。したがって、掲載されていること自体が自衛隊への制式採用や量産契約を意味するわけではない。
日本の防衛スタートアップ一覧
- 防衛専業だけでなくデュアルユース企業を含む
- 制式採用・量産契約を意味しない
- 契約・実証・提案の段階を区別
- 公開情報で接点を確認できる企業に限定
| 分野 | 企業 | 主な技術・事業 | 防衛分野との接点 |
|---|---|---|---|
| ドローン | ACSL | 国産小型空撮ドローン、セキュアな無人航空機 | 防衛省向け小型空撮ドローンを受注 |
| ドローン | Terra Drone | UAV、対ドローン、無人システム | 汎用UAV受注、迎撃ドローン試験に選定 |
| ドローン | Liberaware | 狭小空間点検ドローン | 陸自駐屯地で教育訓練、国産無人基盤を開発 |
| ドローン | PRODRONE | 物流・長距離・特殊用途ドローン | 空自訓練参加、防衛省へ複数機種を提示 |
| ドローン | TERRA LABO | 長距離無人航空機、災害情報収集 | 防衛省・経産省合同推進会で提案 |
| 海洋無人機 | Oceanic Constellations | 小型USV群、分散型海洋センシング | 防衛装備庁の研究契約を受注 |
| センサー | MetroWeather | 小型ドップラー・ライダー | 低空域監視、ドローン検知技術を提案 |
| AI | Preferred Networks | 国産生成AI、深層学習、計算基盤 | 防衛装備庁の情報分析AI研究を受託 |
| AI | Digital Recipe | 生成AI、物語・認知領域の分析 | 防衛装備庁のブレークスルー研究を受託 |
| 防衛IT | Skygate Technologies | 指揮統制、サイバー、防衛IT基盤 | 防衛テック事業を展開し政策対話に参加 |
| 遠隔支援 | QUANDO | 映像通話型の現場支援システム | 装備品整備・災害対応用途を合同推進会で提案 |
| 宇宙 | Infostellar | 衛星地上局ネットワーク、電波解析 | 宇宙領域把握向け電波解析を受注 |
| 宇宙 | QPS研究所 | 小型SAR衛星 | 防衛衛星コンステレーション事業へ参画 |
| 宇宙 | Synspective | 小型SAR衛星、衛星データ解析 | 防衛省向け画像データ取得事業へ参画 |
| 宇宙 | Axelspace | 小型光学衛星、地球観測画像 | 同事業で唯一の光学画像提供企業として参画 |
| ロボット | InnoFIS | 装着型アシストスーツ | 航空自衛隊へマッスルスーツを納入 |
| インフラ | Waqua | 小型浄水装置、分散型水インフラ | 硫黄島での水インフラ研究を受注 |
| 建設 | Serendix | 3Dプリンター住宅 | 迅速な施設構築技術を合同推進会で提案 |
| ウェアラブル | ミツフジ | 生体情報ウェア、電磁波対策素材 | 防衛・安全保障用途を展示・提案 |
この一覧は網羅的な政府登録簿ではない。防衛スタートアップには統一された法的定義も名簿もないため、契約公表、企業発表、防衛省との実証、合同推進会への参加を基準に選定した。
2026年に日本の防衛スタートアップが増えた理由
- 防衛装備庁が相談と評価の入口を整備
- ソフトウェアと無人機の比重が上昇
- 民間技術の更新速度を取り込みたい
- 従来企業だけでは供給できない分野が拡大
防衛装備庁が新規参入の入口を作った
防衛産業では、技術が優れているだけでは契約に届かない。秘密保全、品質管理、原価管理、長期補給、サプライチェーン管理など、防衛特有の要求を理解する必要がある。従来は、この参入手続き自体が新興企業にとって高い壁だった。
防衛装備庁は、新規参入相談窓口やスタートアップ・中小企業向け展示会を設け、防衛省のニーズと民間技術を結び付けている。さらに、提案企業の技術を評価して契約候補を選ぶスタートアップ技術提案評価方式や、短期間の試験から取得判断へ進む枠組みも導入した。[出典1]
私は、日本の防衛テックにとって最も重要な変化は、予算額の増加そのものではなく、「誰に相談すればよいか」が見えるようになったことだと考える。優れた技術があっても、調達側の課題と接続できなければ装備にはならない。窓口、提案、試験、契約という経路が細くても一本につながった意味は大きい。
大型装備からソフトウェアと無人機へ重点が広がった
戦車や戦闘機を一社のスタートアップが製造するのは現実的ではない。一方、画像認識AI、衛星データ解析、小型ドローン、地上局サービス、遠隔整備支援、浄水装置なら、既存製品を改修して短期間に試せる。
防衛装備庁が公表したAI活用の調査資料でも、指揮統制支援や無人アセットへのAI適用が論点となっている。同資料は政府方針そのものではないが、日本の課題は単純な技術不足だけでなく、無人機を量産し、試験結果を反映し、短い周期で改良する体制にあると整理している。[出典5]
かつて防衛産業の入口は、重工メーカーの巨大な工場門だった。2026年、その入口の一部は、API、地上局クラウド、SAR画像、直径数十センチのドローンへと縮んでいる。

ドローン・無人機分野の防衛スタートアップ
- 小型空撮と物流用UAV
- 対ドローン・迎撃技術
- 狭小空間と長距離飛行
- USV群と海洋監視
ACSL|国産小型ドローンを政府調達へつなげる
ACSLは、国産の産業用ドローンを開発する上場企業である。政府や重要インフラで求められるセキュリティを意識した機体を展開しており、防衛用途では小型空撮ドローンの受注が目立つ。
同社は2026年3月に防衛省から約10億円、4月には追加で約3億5,000万円と約7,000万円の受注を発表した。合計は約14億2,000万円となる。[出典6][出典7] これは試作品の紹介にとどまらず、納入期限を伴う調達案件である点が重要だ。
ACSLの強みは、華々しい攻撃型無人機ではなく、調達しやすい小型機、国内サポート、セキュリティ対応にある。自衛隊が大量に必要とするのは高価な特殊機だけではない。偵察、警戒、施設確認、教育訓練に使える標準的な機体を安定供給できる企業は、無人化の裾野を支える。
Terra Drone|測量企業から総合無人システム企業へ
Terra Droneは測量・点検用ドローンで成長した企業だが、2026年には防衛装備事業への本格参入を表明した。UAVだけでなく、USV、UUV、対ドローンを含む無人システム全体を事業対象とし、米国でTerra Defenseを設立する計画も公表している。[出典8]
同社は防衛装備庁からモジュール型汎用UAV300機を約1億1,500万円で受注したと発表した。また、2026年7月に公表された小型無人機対処器材の試験では、迎撃用のTerraB1が対象機種の一つに選ばれた。[出典9][出典10]
ここで注意したいのは、試験選定と量産採用は別だという点である。防衛装備庁の枠組みは、複数機種を取得して部隊で検証し、その結果を将来の大量取得へつなげる仕組みだ。選定は入口として重要だが、最終的な数量や継続受注は未確定である。
Liberaware|人が入れない場所を飛ぶ小型ドローン
LiberawareのIBISシリーズは、屋内、暗所、狭小空間の点検を得意とする。2025年には陸上自衛隊今津駐屯地でIBIS2を用いた教育訓練を実施した。[出典11] 建物内部、地下施設、被災構造物、艦内のようなGNSSが使いにくい環境で、小型機を運用する知見は防衛と災害対応の双方に価値がある。
同社は2026年、国産無人プラットフォームの開発も公表した。[出典12] 現段階では、ACSLのような大型受注より、狭所飛行とデータ取得という専門性が評価軸になる企業である。
PRODRONEとTERRA LABO|物流・長距離飛行を担う候補
PRODRONEは、2026年の航空自衛隊による物資輸送訓練に参加し、最大15キログラムを運べる機体を使用した。また、防衛大臣の視察では、長距離機、AIエージェントを備えた地上管制システム、妨害環境を意識した試作機などを提示している。[出典13][出典14]
TERRA LABOは、長距離無人航空機による災害情報収集を手掛け、防衛省・経済産業省の合同推進会で技術を提案した。[出典15] 両社は、現時点で大規模な量産契約を確認できる企業というより、物流、広域監視、災害対応から防衛需要へ接続する候補と見るべきである。
Oceanic Constellations|海上無人機を群れとして使う
Oceanic Constellationsは、小型USVを複数運用し、海洋観測や水中音響情報を分散して取得する構想を持つ。防衛装備庁は2026年3月、同社と「小型USVを活用したマルチスタティック・ソーナーの革新的運用構想」に関する約4億9,888万円の契約を締結した。[出典3]
一隻の大型艦に高価なセンサーを集中するのではなく、多数の小型無人艇へ機能を分散する考え方は、現代の海洋戦に合う。契約名に「運用構想」とあるため、完成装備の大量購入ではない。それでも、日本の新興企業が水中音響とUSV群の研究契約を直接受けた事実は、参入分野が空だけでなく海へ広がった証拠である。
MetroWeather|風を測る技術が監視センサーになる
MetroWeatherは、小型ドップラー・ライダーで風況を計測する京都大学発の企業である。低空域の風を高精度に把握する技術は、ドローン運航だけでなく、飛来物や小型無人機の検知にも応用できる。同社は合同推進会に参加し、安全保障用途を提案している。[出典15][出典16]
無人機運用には、機体だけでなく気象、通信、測位、電波監視、管制ソフトが必要である。私は、周辺センサー企業が安定した継続収入を得る例も出ると予想する。

AI・防衛IT分野のスタートアップ
- 情報整理と状況認識の支援
- 認知領域とナラティブ分析
- 指揮統制システムの連接
- 熟練者の遠隔支援
Preferred Networks|国産生成AIを指揮統制支援へ
Preferred Networksは、日本を代表するAI企業の一つである。2026年7月29日、防衛装備庁の次世代装備研究所から、生成AIを活用した作戦環境情報分析の研究を受託したと発表した。国産基盤モデルPLaMo 3.0 Primeを用い、指揮統制における情報収集、整理、分析、意思決定支援への適用を検討する。[出典17]
重要なのは、生成AIが文章作成の道具としてではなく、膨大な情報から状況認識を助けるC2支援技術として扱われている点である。ただし、AIが攻撃判断を自動化すると決まったわけではない。研究段階では、人間の意思決定をどう支援し、誤情報、幻覚、機密情報漏えいをどう抑えるかが中心課題になる。
Digital Recipe|認知領域とナラティブを分析する
Digital Recipeは、生成AIを使った情報分析やコンテンツ生成を手掛ける企業である。防衛装備庁のブレークスルー研究で、認知領域におけるナラティブ分析に関する契約を公表している。[出典18]
現代の安全保障では、偽情報、世論誘導、SNS上の語りの拡散が作戦環境に影響する。どの主張が、どの集団へ、どの経路で浸透しているかを分析する技術は、従来のレーダーや火器とは異なる防衛装備になり得る。一方で、国内世論の監視や表現の自由との境界には慎重な制度設計が必要であり、技術的に可能だから導入すべきだとは限らない。
Skygate Technologies|日本版JADC2を目指す防衛IT
Skygate Technologiesは、指揮統制、サイバーセキュリティ、防衛向け情報基盤を掲げる企業である。複数のセンサー、部隊、通信網から得た情報を統合するJADC2型の構想や、防衛産業の新規参入を支援する取り組みを公表している。[出典19]
2026年7月には、防衛大臣や防衛装備庁長官との意見交換も発表した。[出典20] ただし、公表資料から大規模な装備品契約を確認できる段階ではない。本記事では「契約済み企業」ではなく、防衛ITを事業の中心に据える新興企業として掲載する。
QUANDO|熟練者の目を遠隔地へ送る
QUANDOのSynQ Remoteは、現場作業者の映像を遠隔の専門家と共有し、作業支援を行うサービスである。同社は合同推進会で、装備品の整備、災害対応、警備分野への活用を提案した。[出典21]
防衛装備は、取得した瞬間より、故障を直し、部品を交換し、稼働率を維持する期間の方が長い。遠隔支援は兵器らしく見えないが、少人数で多数の装備を維持する自衛隊には現実的な価値がある。

宇宙分野の防衛スタートアップ
- 衛星地上局の柔軟な運用
- SAR・光学画像の高頻度取得
- 民間衛星コンステレーション
- 画像データの解析と配信
Infostellar|衛星地上局と電波解析を防衛へ
Infostellarは、世界各地の衛星地上局をネットワーク化し、衛星運用者へ提供する企業である。2025年3月、防衛装備庁と宇宙領域把握に用いる衛星電波解析について約2億9,930万円の契約を締結した。[出典2]
同社によれば、これはスタートアップ技術提案評価方式による全庁初の契約である。[出典22] 宇宙領域把握では、人工衛星や宇宙物体の位置だけでなく、電波の特徴や挙動を分析する必要がある。地上局運用の民間サービスが、そのまま防衛の宇宙状況把握へ接続した事例だ。
QPS研究所・Synspective・Axelspace|防衛衛星コンステレーションへ
2026年2月、防衛省は民間衛星を活用する「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」を契約した。事業全体の契約額は約2,831億円、期間は2031年3月までである。[出典23]
QPS研究所とSynspectiveは、夜間や悪天候でも地表を観測できる小型SAR衛星を運用する。Axelspaceは光学衛星画像を提供し、協力企業の中で唯一の光学画像提供者として参加する。各社は大企業のコンソーシアムに組み込まれる形だが、新興宇宙企業の衛星画像が日本のスタンド・オフ防衛能力を支える長期事業に入った意味は重い。[出典24][出典25][出典26]
Synspectiveは約1,056億円、Axelspaceは約480億6,900万円の画像データ取得業務契約を公表している。[出典25][出典26] 金額が大きいため、売上計上時期、衛星の製造・打ち上げ費用、外部パートナーへの支払いを見ずに「契約額がそのまま利益になる」と考えてはいけない。
QPS研究所は、防衛装備庁との別案件として、衛星上でのデータ処理や光衛星間通信の実証に約8億2,639万円の契約実績も確認できる。[出典27] 宇宙スタートアップは、画像を売るだけでなく、衛星、通信、地上局、解析を一体化する方向へ進んでいる。

ロボット・後方支援・インフラ分野
- 重量物作業の負担軽減
- 遠隔点検と技能伝承
- 離島・災害時の水インフラ
- 施設建設と隊員状態の把握
InnoFIS|重量物作業を支えるマッスルスーツ
InnoFISは、腰の負担を軽減する装着型アシストスーツを開発する。合同推進会をきっかけに、2024年には航空自衛隊百里基地へマッスルスーツ14台を納入した。[出典28]
弾薬、整備工具、補給物資を扱う現場では、負傷防止と省人化が部隊の継戦能力へ直結する。ロボットという言葉から人型兵器を想像しがちだが、現実の導入は、隊員の腰を守る装具から始まっている。
Waqua|水インフラを分散する
Waquaは、小型浄水装置を開発する企業である。防衛装備庁は2026年3月、硫黄島で分散型水インフラの有効性を検証する研究について、同社と約1億8,205万円の契約を締結した。[出典4]
離島では水の輸送と貯蔵が作戦持続性を左右する。大型施設へ依存せず、小型装置を分散配置できれば、災害や攻撃で一部が停止しても全体を維持しやすい。これは攻撃装備ではないが、継戦能力を底上げする防衛技術である。
Serendixとミツフジ|施設と隊員を支えるデュアルユース
Serendixは3Dプリンターで建物を短時間に造る技術を持ち、防衛省・経産省の合同推進会で提案した。[出典15] 前線や離島での宿営施設、倉庫、災害時の仮設拠点へ応用できる可能性はあるが、公開情報上では防衛省による量産導入を確認できない。
ミツフジは、生体情報を取得するウェアラブルと電磁波シールド素材を展開する。防衛展示会で安全保障用途を紹介している。[出典29] 暑熱環境での隊員管理、疲労兆候の把握、電磁波対策などに接点があるものの、具体的な装備化状況は公表資料の範囲で慎重に見る必要がある。
投資家は防衛スタートアップをどう見るべきか
- 技術の将来性と企業収益性
- 受注発表と継続的な量産契約
- 防衛売上と全社売上の比率
- 未上場企業と上場銘柄
日本株として直接売買できる代表例には、ACSL、Terra Drone、Liberaware、Synspective、QPSホールディングス、アクセルスペースホールディングスがある。一方、Preferred Networks、Infostellar、Oceanic Constellations、Waquaなどは未上場であり、一般投資家が直接株式を買えるとは限らない。
投資家目線で私が重視するのは、派手な実証動画より次の三点である。
1. 試験契約から量産・継続運用へ移れるか 2. 防衛以外の民間売上があり、単年度予算に依存しすぎていないか 3. 製造、打ち上げ、保守に必要な資金を確保できるか
防衛案件は契約額が大きく見える反面、検収、先行投資、部材調達、秘密保全の負担が重い。衛星や無人機では受注拡大と同時に運転資金も増えるため、受注残だけで企業価値を判断するのは危険だ。
また、防衛専業化が常に最適とは限らない。ACSLのインフラ点検、Liberawareのプラント点検、Synspectiveの災害観測、Waquaの浄水は、民生と防衛の両方で使える。私は、日本企業の勝ち筋は米国の防衛専業ユニコーンをそのまま再現することではなく、民生市場で鍛えた製品を安全保障向けに改修するデュアルユース型にあると見る。
日本の防衛スタートアップが抱える課題
- 少量調達では量産投資を回収しにくい
- 短い試験・改良周期が必要
- 秘密保全と投資家説明の両立
- 倫理・輸出管理・人的統制
少量調達では量産能力が育たない
試作品一機と、同じ品質の機体を数百機供給する能力は別物である。少数を数年おきに購入するだけでは、企業は製造設備、検査、人材、修理部品への投資を回収しにくい。
実戦的な試験と改良周期が必要である
無人機やAIは、完成仕様を決めてから数年後に納入する従来方式と相性が悪い。電子妨害、通信断、悪天候、敵側の対策を想定し、短い周期でソフトウェアと機体を更新する必要がある。試験で失敗した企業を排除するのではなく、失敗から改良できる契約設計が重要になる。
秘密保全と情報開示の両立が難しい
防衛企業には秘密保全が求められる。一方、スタートアップは投資家や金融機関へ事業進捗を説明しなければ資金を集められない。何を公表でき、何を伏せるべきかの基準が曖昧だと、上場企業ほど説明に苦しむ。
倫理と輸出管理を避けて通れない
AIによる意思決定支援、認知領域分析、監視技術、無人機は、使い方によって人権や国際人道法と衝突する。技術開発企業は「顧客が決めること」と距離を置くだけでなく、輸出先、用途、人的統制、ログ保存、停止機能を設計段階から考える必要がある。
軍事技術ファンとして私は、新技術を「国産だから優秀」「AIだから革命的」と持ち上げる記事にはしたくない。防衛装備の価値は、展示会の未来感ではなく、妨害下で動き、必要数を納め、壊れた後に直せるかで決まる。
よくある質問
日本に防衛専業のスタートアップはある?
存在するが、多くは民生事業を併せ持つ。Skygate Technologiesのように防衛ITを前面へ出す企業もあれば、ACSL、Synspective、Waquaのように民生技術を防衛へ展開する企業もある。日本では後者のデュアルユース型が主流である。
防衛省と契約している企業はどこ?
公開資料で直接契約を確認しやすい例は、ACSL、Terra Drone、Preferred Networks、Digital Recipe、Infostellar、Oceanic Constellations、Waqua、QPS研究所などである。SynspectiveとAxelspaceは、防衛省の衛星コンステレーション事業で事業会社や大企業との委託契約を通じて参画している。
防衛スタートアップと防衛関連銘柄は同じ?
同じではない。三菱重工業や三菱電機は防衛関連銘柄だが、通常はスタートアップと呼ばれない。逆に、未上場のInfostellarやPreferred Networksは防衛スタートアップとして注目されても、一般投資家が市場で株を買うことはできない。
今後伸びやすい分野は?
私は、短期では小型ドローン、対ドローン、衛星画像、生成AIによる情報整理が伸びやすいと見る。中期では海洋無人機、分散型センサー、補給・整備の省人化が重要になる。ただし、技術の将来性と企業の収益性は同じではない。
まとめ|日本の防衛産業は「重工だけ」ではなくなった
- 妨害下でも動作できるか
- 必要数を期限内に納められるか
- 故障後の修理と更新を続けられるか
- 防衛省の実運用課題へ接続できるか
2026年の日本では、防衛スタートアップが単なる展示会参加者ではなくなりつつある。ACSLは小型ドローンを受注し、Terra Droneは汎用UAVと迎撃ドローン試験へ進み、Preferred Networksは作戦環境情報を扱う生成AI研究を受託した。Infostellarは宇宙領域把握、Oceanic Constellationsは小型USV群、Waquaは離島の水インフラで防衛装備庁と契約している。
さらに、QPS研究所、Synspective、Axelspaceの衛星データは、2031年まで続く防衛衛星コンステレーション事業へ組み込まれた。ロボットや遠隔支援の分野でも、InnoFISやQUANDOの技術が隊員の作業と装備維持を支え始めている。
日本の防衛スタートアップを評価するとき、最も見るべきなのは「兵器らしい見た目」ではない。防衛省の課題へ接続し、試験を通過し、必要数を供給し、運用後も更新と保守を続けられるかである。日本の防衛産業は重工メーカー中心の構造を残しながら、その周囲に無人機、AI、宇宙、ロボットの新しい層を形成し始めた。この記事を貫く結論は、そこにある。
参照資料
1. 防衛装備庁「防衛産業への参入促進について」 2. 防衛装備庁「随意契約結果及び契約の内容(Infostellar)」 3. 防衛装備庁「随意契約結果及び契約の内容(Oceanic Constellations)」 4. 防衛装備庁「随意契約結果及び契約の内容(Waqua)」 5. 防衛装備庁委託調査「AI等の防衛装備品への適用に関する調査」 6. ACSL「防衛省からの大型受注に関する発表」2026年3月23日 7. ACSL「防衛省からの追加受注に関する発表」2026年4月7日 8. Terra Drone「防衛装備事業への本格参入」2026年3月23日 9. Terra Drone「防衛装備庁向けモジュール型汎用UAV受注」 10. 防衛装備庁「小型無人機対処器材に係る試験対象機種」2026年7月15日 11. Liberaware「陸上自衛隊今津駐屯地におけるIBIS2教育訓練」 12. Liberaware「国産無人プラットフォームの開発」2026年6月 13. PRODRONE「航空自衛隊の物資輸送訓練へ参加」2026年2月 14. PRODRONE「防衛大臣視察」2026年5月 15. 防衛省・経済産業省「スタートアップ活用に向けた合同推進会」 16. MetroWeather「防衛・低空域監視関連技術」 17. Preferred Networks「防衛装備庁から生成AI活用研究を受託」2026年7月29日 18. Digital Recipe「防衛装備庁ブレークスルー研究の受託」 19. Skygate Technologies「Defense & National Security事業」 20. Skygate Technologies「防衛大臣・防衛装備庁長官との意見交換」2026年7月 21. QUANDO「防衛省・経済産業省合同推進会への参加」 22. Infostellar「スタートアップ技術提案評価方式による契約」 23. 防衛省「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」 24. QPS研究所「防衛省向け画像データ取得業務委託契約」2026年2月20日 25. Synspective「衛星コンステレーション事業への参画」2026年2月 26. Axelspace「防衛省の衛星コンステレーション事業を受注」2026年2月20日 27. 防衛装備庁「QPS研究所との研究契約」2026年3月27日 28. InnoFIS「航空自衛隊百里基地へマッスルスーツ納入」2024年4月 29. ミツフジ「防衛・安全保障展示会への出展」
参考資料・主な出典
防衛装備庁|防衛産業への新規参入促進|資料を確認
ACSL|ニュースリリース|資料を確認
Terra Drone|ニュース|資料を確認
Axelspace|ニュース|資料を確認
Infostellar|News|資料を確認
防衛省|防衛生産・技術基盤|資料を確認
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