旧陸軍には、こんな言い回しがあった。
貧乏少尉、やりくり中尉、やっとこ大尉。
将校といえば聞こえはいいが、若いうちは本当に金がなかった。軍服も軍刀も自分で買わなければならず、体面を保つための付き合いにも金がかかる。少尉の月給では足りず、実家から仕送りをもらっていた将校も珍しくなかったという。
では、現代の「少尉」はどうか。一般大学を出て自衛隊の幹部候補生になった人の初任給は、2026年現在、月28万8,300円である。制服は国から支給される。幹部候補生学校にいる間は、住むところも食事もついてくる。少なくとも、貧乏少尉ではない。
この記事では、幹部候補生の給料を、初任給から手取り、任官後の昇給、そしてよく聞かれる防大卒との違いまで整理する。
結論|幹部候補生の給料の早見表
金額は令和8年(2026年)1月現在で、自衛隊地方協力本部の資料などによる。地域手当などは含まない。学歴や職歴によって変わることがあり、法改正で改定される場合もある。
ボーナス(期末・勤勉手当)は年2回、年間4.65か月分。これは階級に関係なく共通だ。
幹部候補生とは|採用と同時に「曹長」になる

給料の話の前に、身分を確認しておく。
一般幹部候補生は、大学や大学院を出た人が、幹部自衛官(旧軍でいう将校)になるための入口である。採用されると同時に、陸・海・空の曹長に任命される。曹長は、下士官のいちばん上の階級だ。現場で20年以上勤め上げたベテランがようやくたどり着く階級に、22歳の新人がいきなり就く。初任給が高いのは、この階級の俸給表が適用されるからである。
そこから陸は福岡県久留米市、海は広島県江田島市、空は奈良市にある幹部候補生学校に入り、教育を受ける。一般幹部候補生は採用からおよそ1年で3尉に昇任し、幹部自衛官になる。院卒者試験の合格者は2尉に昇任する。
試験の難しさは幹部候補生試験の難易度の記事に書いた。ここではお金の話に絞る。
手取りはいくらになるか

初任給28万8,300円から、実際に振り込まれるのはいくらか。ここからは私の概算だ。
| 大卒(28万8,300円) | 院卒者試験(30万4,800円) | |
|---|---|---|
| 共済掛金など | 約4万2,000円 | 約4万4,000円 |
| 所得税 | 約7,000円 | 約8,000円 |
| 手取りの目安 | 約24万円前後 | 約25万円前後 |
2年目の6月からは住民税が引かれはじめるので、そこで月に1万数千円減る。
幹部候補生学校にいる間は、学校の中で生活する。宿舎費はかからず、食事も支給される。外出できる日も限られるので、正直なところ、金を使う暇がない。1年で100万円以上貯まった、という話はよく聞く。
1年目の年収の目安
4月に入隊した大卒の場合、私の概算ではこうなる。
- 俸給:28万8,300円×12か月=約346万円
- ボーナス:6月(在職期間が短く約3割)+12月(満額)=約85万円
- 1年目の年収の目安:約430万円
民間の大卒1年目と比べても、見劣りしない。しかも住居費と食費がほとんどかからない。ボーナスの計算方法は自衛官のボーナスの記事で説明している。
なお、営内で暮らす若い隊員に年20万円が出る指定場所生活調整金は、一般曹候補生と任期制の隊員が対象で、幹部候補生は含まれていない。一般曹候補生の給料は別の記事にまとめた。
任官後の昇給|3尉から先
3尉に任官すると、俸給は月31万1,000円になる。ここからが幹部としての本番だ。
幹部の階級は、3尉、2尉、1尉、3佐、2佐、1佐、将補、将と上がっていく。年収のおおまかな目安はこうなる。
| 階級 | 年齢の目安 | 年収の目安 |
|---|---|---|
| 3尉 | 23〜25歳 | 500万円前後 |
| 2尉 | 25〜28歳 | 550万円前後 |
| 1尉 | 28〜35歳 | 600万〜750万円 |
| 3佐 | 35〜40歳 | 800万円前後 |
| 2佐 | 40代 | 900万〜1,000万円 |
| 1佐 | 40代後半〜 | 1,100万円〜 |
あくまで目安で、扶養手当、地域手当、勤務地、職種によって大きく変わる。艦艇に乗れば乗組手当、航空機に乗れば航空手当がつく。パイロットの幹部は、同じ階級でも年収がひとまわり違う。手当の種類は手当一覧に、年収1,000万円に届く条件は年収1000万円の記事に、階級別のモデルは自衛官の年収モデルにまとめてある。
1尉までは、よほどのことがない限り、ほぼ横並びで上がっていく。差がつきはじめるのは3佐からだ。指揮幕僚課程などの選抜教育に進めるかどうか、どんな配置を経験したかで、その先の昇任の速さが変わってくる。年齢と階級の関係は階級と年齢の目安の記事を見てほしい。
防大卒との違い|差がつくのは「入る前」
ここがこの記事でいちばん伝えたいところである。
一般大学から幹部候補生になる人が必ず気にするのが、防衛大学校の出身者との差だ。給料が違うのではないか。出世で不利なのではないか。
入ってからの給料は同じ
まず、俸給表は同じである。防大を出ても一般大学を出ても、幹部候補生学校に入れば同じ曹長で、同じ大卒の初任給が適用され、およそ1年後に同じ3尉になる。出身校で給料に差をつける仕組みはない。
違うのは、その前の4年間
差があるのは、入隊する前だ。
防衛大学校の学生は、身分が特別職の国家公務員で、学生でありながら給料が出る。2026年現在、学生手当は月16万1,000円、ボーナスにあたる期末手当が年3.5か月分。年にすると約250万円、4年間で約1,000万円になる。学費はかからず、寮費も食費もかからない。
一方、一般大学に通えば、国立でも4年間で250万円ほどの学費がかかり、私立ならその倍以上になる。一人暮らしなら生活費もいる。
つまり、22歳で同じ幹部候補生学校の門をくぐる時点で、防大卒と一般大卒のあいだには、ざっと1,200万〜1,500万円以上のお金の差がついている計算になる。入ってからの給料は同じでも、スタート地点の貯金と借金が違う。奨学金を背負って入る一般大卒と、貯金を持って入る防大卒。この差は、20代の暮らしにじわじわ効いてくる。
その代わり、防大の4年間は、一般の大学生活とはまるで別物だ。全寮制で、朝6時に起こされ、外出は制限され、夏には遠泳があり、訓練と点検に追われる。自由と引き換えの1,000万円である。どちらが得かは、人による。このあたりは防衛大学校と一般国立大学の比較と防衛大学校の総合ガイドで詳しく書いた。卒業後の進路は防大卒業後の進路、任官しなかった場合の扱いは任官拒否の記事にある。
出世に差はあるのか
制度の上では、差はない。昇任は勤務成績と選抜試験で決まり、出身校の欄で決まるわけではない。一般大学の出身で将官になった人は何人もいる。
ただ、現実として、将官に占める防大卒の割合が高いのは事実だ。これにはいくつか理由がある。そもそも幹部の中で防大卒の人数が多いこと。18歳から自衛隊の空気の中で育ち、同期や先輩後輩の人脈が厚いこと。入隊した時点で、すでに4年分の基礎ができていること。
私はこれを、不公平というより、旧軍の陸軍士官学校や海軍兵学校と同じ構図だと見ている。どこの国の軍隊でも、士官学校の出身者が中核を占めるのは同じだ。そのうえで言えば、一般大学の出身者には、外の世界を4年間見てきたという強みがある。法律、語学、理工系の専門。防大では身につかないものを持って入ってくる人を、組織は必要としている。
幹部になるほかの入口と、初任給の違い
幹部への入口は、一般幹部候補生だけではない。お金の面から並べてみる。
| 入口 | 最初の身分 | 初任給など | 幹部になるまで |
|---|---|---|---|
| 一般幹部候補生 | 曹長 | 月28万8,300円(大卒) | 約1年で3尉 |
| 幹部候補曹 | 曹 | 月26万7,500円(大卒) | 数年間、部隊で曹として勤務してから幹部候補生学校へ |
| 防衛大学校 | 学生 | 学生手当 月16万1,000円 | 4年間の在学後、幹部候補生学校を経て3尉 |
| 一般曹候補生から部内選抜 | 2士 | 月23万9,500円(高卒) | 3曹に昇任して4年後から、部内の幹部候補生選抜試験を受験できる |
幹部候補曹は最近できた制度で、防衛省の説明によれば、各職種の部隊で曹として数年勤務し、知識と技能を磨いてから幹部候補生学校に入る。いきなり小隊長になるのではなく、まず現場を知ってから幹部になる道だ。初任給は一般幹部候補生より2万円ほど低いが、現場経験を積んでから部下を持ちたい人には合っている。
どの入口から入っても、幹部になってしまえば同じ俸給表の上を歩くことになる。違うのは、そこにたどり着くまでの時間と、途中で見る景色だ。
給料に出てこないもの

幹部の給料は、一般曹候補生より高い。だが、それは楽をして高いのではない。
まず、転勤が多い。幹部はおおむね2〜3年ごとに全国を異動する。家を買っても住めず、子どもは転校を繰り返し、単身赴任になる人も多い。次に、責任が重い。3尉に任官して小隊長になれば、20代前半で、自分の父親ほどの年齢のベテランを含む数十人の部下を預かることになる。そして、自衛官には残業代という考え方がない。演習で何日も寝ずに働いても、俸給は変わらない。
こうした現実は幹部自衛官は勝ち組かの記事で検証した。現場で技術を磨きたい、地元で長く勤めたいという理由で、大卒であえて一般曹候補生を選ぶ人もいる。その選び方は高卒と大卒の違いの記事に書いた。
定年は階級によって違い、退職金は2,000万円を超える規模になる。定年の記事と退職金の記事を参照してほしい。
幹部を目指すなら、英語だけはやっておけ

最後に、先輩風を吹かせて1つだけ。
幹部候補生の試験には英語がある。入ってからも、留学、共同訓練、海外派遣、装備の導入と、英語ができる幹部には面白い仕事が回ってくる。指揮幕僚課程の選抜でも英語は問われる。できる人とできない人で、キャリアの幅がはっきり変わる。勉強法は自衛官と英語の記事に書いた。
学生のうちに、話す練習だけでも始めておくといい。
それから、幹部になる人は、入る前に安全保障の基礎を1冊読んでおくことをすすめる。面接でも、入ってからの座学でも、土台があるとないとでは吸収の速さが違う。
よくある質問
幹部候補生の初任給はいくら?
2026年1月現在、一般幹部候補生の大卒程度試験合格者で月額28万8,300円、院卒者試験合格者で30万4,800円(地域手当などを除く)。
手取りは?
私の概算では、大卒で月24万円前後。幹部候補生学校にいる間は宿舎費と食費がかからない。
1年目の年収は?
大卒で4月入隊の場合、約430万円が目安。1年目の6月のボーナスは在職期間が短いため少ない。
防大卒と給料は違う?
入隊後は同じ俸給表が適用され、差はない。違うのは入隊前で、防大生は在学中に月16万1,000円の学生手当と年3.5か月分の期末手当を受け取る。
いつ3尉になれる?
一般幹部候補生は、採用からおよそ1年で3尉に昇任する。院卒者試験の合格者は2尉に昇任する。
パイロットになると給料は上がる?
上がる。航空手当がつくため、同じ階級でも年収は大きく違う。なり方は航空自衛隊パイロットになる3ルートを見てほしい。
まとめ
幹部候補生の初任給は、大卒で月28万8,300円、院卒者試験で30万4,800円。手取りは24万円前後で、1年目の年収は約430万円が目安になる。およそ1年で3尉に任官すると月31万1,000円。そこから1尉で600万〜750万円、3佐で800万円前後、2佐で1,000万円が見えてくる。
防大卒との給料の差は、入ってからはない。差がつくのは入る前の4年間で、防大生は学費ゼロのうえに約1,000万円を受け取っている。ただし、その4年間の中身はまったく違う。
貧乏少尉の時代は終わった。いまの3尉は、金の心配をせずに、部下と任務のことだけを考えられる。それだけでも、この国の軍事組織は80年前より少しまともになったと、私は思っている。
あわせて読みたい
出典・参考資料
- 防衛省 自衛官募集サイト「自衛隊幹部候補生」
- 防衛省「令和8年度 一般幹部候補生 採用要項」
- 自衛隊新潟地方協力本部「令和7年人事院勧告の自衛官等給与等の改正」(2026年1月15日現在)、「令和8年度採用時の基本給等一覧」(2026年2月27日作成)
- 防衛省「防衛省の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案の概要」(2025年12月)
- 内閣官房 関係閣僚会議 参考資料(指定場所生活調整金の対象)
※手取りと年収は、公表されている俸給月額と支給月数をもとにした筆者の概算で、地域手当や各種手当、扶養の有無などによって変わる。階級別の年収は目安であり、個人の号俸や勤務地、職種によって異なる。正確な金額は最寄りの自衛隊地方協力本部で確認してほしい。







コメント