射程1,000kmのミサイルを持っても、1,000km先が見えなければ撃てない。
当たり前すぎる話だが、日本の防衛はここ数年、この当たり前に正面から向き合うことになった。長射程のスタンド・オフ・ミサイルを大量に買うと決めた。では、その目標を誰がどうやって見つけるのか。水平線の向こうは、地上のレーダーからは見えない。答えは宇宙しかない。
2026年2月、防衛省は総額約2,831億円の衛星コンステレーション事業の契約を結んだ。受注したのは、三菱電機のような大企業と、創業10年そこそこのスタートアップが混ざった7社のチームである。防衛と宇宙のスタートアップ。数年前なら考えられなかった組み合わせだ。
この記事では、日本の防衛宇宙に関わる企業を、分野ごとに整理する。社名は、防衛省や各社の発表で確認できたものに絞った。
一覧|防衛宇宙に関わる主な日本企業
以下、分野ごとに見ていく。
衛星コンステレーション|2,831億円の7社連合

何をする事業か
正式な名前は「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」。地球の低い軌道に小型の衛星をたくさん並べ、入れ替わり立ち替わり同じ場所の上を通過させることで、狙った地点を高い頻度で撮影できるようにする。
防衛省の説明では、目的はスタンド・オフ防衛能力の実効性を確保するために必要な画像情報を安定的に手に入れること。冒頭に書いた「1,000km先を見る目」そのものである。
2025年12月24日に落札者が決まり、2026年2月19日に事業契約が結ばれた。防衛省が公表した契約総額は約2,831億円。事業期間は2031年3月までの約5年間だ。
仕組みはPFI
面白いのは、防衛省が衛星を買うのではない、という点だ。民間企業が自分たちの資金で衛星網を整備・運用し、防衛省はそのサービスにお金を払う。PFIと呼ばれる方式である。
三井物産の説明が分かりやすい。いまの商用衛星の画像サービスでは、防衛省が欲しいタイミングで画像が撮れるとは限らない。そこで今回は、防衛省が撮影の優先権を持つ構成の衛星網を作る。要するに、普段は民間の衛星として働きつつ、防衛省が「いまここを撮れ」と言えば最優先で撮る、という契約だ。
受け皿になる特別目的会社が、株式会社トライサット・コンステレーション。2026年1月に設立され、三菱電機とスカパーJSATがそれぞれ45%、残りを三井物産が出資している。
7社の顔ぶれ
| 企業 | 立場 | 持ち味 |
|---|---|---|
| 三菱電機 | 代表企業、トライサットに出資 | 日本の政府衛星を長年作ってきた衛星メーカー |
| スカパーJSAT | トライサットに出資 | 30基以上の静止衛星を運用してきた国内最大の衛星通信事業者 |
| 三井物産 | トライサットに出資 | 事業の組成と資金 |
| QPS研究所 | 参画 | 福岡発。小型SAR衛星。36機体制を目指す |
| Synspective | 参画 | 東京発。小型SAR衛星。30機体制を目指す |
| アクセルスペース | 参画 | 小型光学衛星 |
| 三井物産エアロスペース | 参画 | 航空宇宙・防衛の専門商社 |
SARというのは合成開口レーダーのことで、電波を地表に当ててその反射で画像を作る。カメラと違って、夜でも、雲があっても撮れる。日本周辺は雲が多く、光学衛星だけでは撮れない日が多い。だからSARが主役になる。一方、写真のように直感的に分かる画像は光学衛星の得意分野で、両方を組み合わせるところに意味がある。
衛星が全部で何機になるのかは、防衛省は「所要の機数」としか言っていない。数は、それ自体が機密だということだろう。
長射程ミサイルの側の話は日本のスタンド・オフミサイル比較で書いた。矛と目は、セットで見ないと意味が分からない。
防衛通信衛星|「きらめき」を支える4社

宇宙のもう1つの柱が通信だ。艦艇も航空機も離島の部隊も、水平線の向こうとは衛星を経由しなければ話ができない。
自衛隊が部隊の指揮統制に使っているのが、Xバンド防衛通信衛星「きらめき」である。2024年11月、H3ロケット4号機で3号機が打ち上げられ、予定していた3機体制が整った。
これもPFI事業で、受け皿はスカパーJSATの子会社であるディー・エス・エヌ。公表されている役割分担はこうなっている。
- スカパーJSAT:衛星の調達・運用、全体の管理
- NEC:衛星の製造、地上施設の整備
- NTTコミュニケーションズ:地上施設の維持管理
- 前田建設工業:局舎の整備と維持管理
きらめき以前、自衛隊はスカパーJSATの民間衛星を借りていた。つまりスカパーJSATは、防衛宇宙という言葉ができるずっと前から、この分野の中心にいた会社である。有料放送の会社だと思っている人が多いが、防衛の目で見ると、まるで違う顔が見えてくる。
令和9年度の概算要求には、きらめきの後継機に向けた費用や、妨害に強い衛星通信の関連経費が盛り込まれた。通信衛星は一度上げたら終わりではなく、十数年ごとに必ず代替わりが来る。息の長い仕事だ。NECについてはNECの防衛事業の記事で詳しく書いている。
宇宙領域把握(SDA)|宇宙で宇宙を見張る

SSAとSDAの違い
似た言葉が2つある。宇宙状況把握(SSA)は、衛星や宇宙ごみがどこを飛んでいるかを把握すること。宇宙領域把握(SDA)は、それに加えて、相手の衛星が何をしていて、何をするつもりで、何ができるのかまで把握することを指す。
なぜそんなことが必要なのか。他国の衛星にそっと近づいて、のぞき見たり、妨害したり、場合によっては捕まえたりできる衛星が、すでに現実のものになっているからだ。自分の衛星の隣に正体不明の衛星が寄ってきたとき、気づけないのでは話にならない。
防衛省は2023年3月に、宇宙物体の情報を集めて処理する運用システムの本格運用を始めた。2025年7月には「宇宙領域防衛指針」を策定している。宇宙作戦を担う部隊と、空自の名前が変わる話は航空宇宙自衛隊の記事にまとめた。
受注している企業
この分野は、防衛省が契約を公表しているので、顔ぶれがはっきり分かる。
| 企業 | 事業 | 契約額など |
|---|---|---|
| アストロスケール | 機動対応宇宙システム実証機の試作(静止軌道でのSDAに向けた小型実証衛星) | 約72.7億円(税込)、2025年3月〜2028年3月 |
| アストロスケール | 軌道上での自国衛星の監視・防御技術に関する研究(把持) | 約11.0億円、2025年12月契約 |
| Orbital Lasers | 同(測距) | 約20.5億円、2025年11月契約 |
| 三菱電機 | 同(周辺監視装置) | 約2.8億円、2026年2月契約 |
| キヤノン電子 | 多軌道観測実証衛星の製造・試験 | 低軌道から静止軌道までの衛星の動きを検知する実証 |
アストロスケールは、宇宙ごみの除去で世界的に知られる会社だ。ごみに近づいて捕まえる技術は、裏返せば、他の衛星に近づいて観察する技術でもある。同社自身、防衛省からの受注を安全保障分野への参入の契機と位置づけている。掃除屋の技術が、見張りの技術になる。宇宙とはそういう世界である。
Orbital LasersはスカパーJSATから生まれた新しい会社で、レーザーを使った技術を手がける。キヤノン電子はカメラで培った光学技術を積んだ超小型衛星を自前で打ち上げている。どこも、もとは防衛と縁のなかった会社ばかりだ。こうした新顔については防衛スタートアップ一覧でも紹介している。
令和9年度の概算要求では、SDA衛星の2号機や、極超音速滑空兵器を宇宙から探知する赤外線センサーの研究、防衛装備庁への衛星開発室(仮称)の新設が盛り込まれた。極超音速兵器がなぜ地上のレーダーで見つけにくいのかは中国の極超音速兵器の記事を読んでほしい。予算全体は令和9年度概算要求の解説で整理した。
衛星を作る会社、上げる会社

衛星メーカー|三菱電機とNEC
日本で大型の衛星をまとめ上げられる会社は、事実上、三菱電機とNECの2社である。
三菱電機は鎌倉に衛星の工場を持ち、政府の衛星を数多く手がけてきた。今回のコンステレーション事業で代表企業になったのも、その蓄積があるからだ。測位衛星「みちびき」の衛星も同社が作っている。NECはきらめきのほか、小型のレーダー衛星や、みちびきの地上システムを担ってきた。2社の違いは電機4社の防衛事業比較と三菱電機の防衛事業の記事で書いている。
測位も忘れてはいけない。ミサイルも無人機も、自分の位置が分からなければ飛べない。米国のGPSだけに頼らない、という意味で、みちびきは立派な安全保障のインフラである。
打上げ|三菱重工とIHIエアロスペース
衛星を自分の国のロケットで、自分の都合で上げられる。これは宇宙で活動する国の最低条件だ。
三菱重工はH-IIA、H3と、日本の大型ロケットの製造と打上げを担ってきた。きらめき3号を運んだのもH3である。IHIエアロスペースは固体燃料ロケットの会社で、H3の補助ブースターやイプシロンロケットを手がける。固体ロケットの技術はミサイルのロケットモーターと地続きで、同社は防衛でも欠かせない存在だ。それぞれ三菱重工とIHIの記事で触れている。
小型衛星をたくさん並べる時代になると、壊された衛星の代わりをすぐ上げ直す力が問われる。民間では、キヤノン電子やIHIエアロスペースなどが出資するスペースワンが小型ロケット「カイロス」に取り組んでいる。
部品と商社
衛星は部品の塊だ。電池、太陽電池パネル、姿勢を制御する装置、アンテナ、耐放射線の半導体。たとえばGSユアサのグループは、衛星やロケット向けの電池を作っている。
商社の役割も大きい。今回のチームに三井物産と三井物産エアロスペースが入っているように、宇宙の事業は、技術だけでなく、資金と契約の組み立てができる人がいないと動かない。海外の衛星画像やサービスの調達でも商社が窓口になる。このあたりは防衛関連商社一覧を参照してほしい。
防衛産業が技術とお金と政治のあいだでどう動いているのかを、もう一段深く知りたい人にはこの本をすすめておく。
ミッドウェーの索敵と、宇宙の目
歴史好きの余談を1つだけ。
1942年6月のミッドウェー海戦で、日本の機動部隊は、米空母がどこにいるのかを最後までつかみきれなかった。索敵に出す飛行機の数を惜しみ、しかも重巡利根の水上偵察機は発進が遅れた。その遅れた1機が、よりによって米空母のいる方角の担当だった。空母4隻を失ったあの敗北の原因はいくつもあるが、根っこにあるのは、攻撃にばかり力を注いで「見る」ことを軽く見た体質だと、私は思っている。
零戦も九七艦攻も一流だった。だが、敵が見えなければ、一流の槍も振るいようがない。
いま日本は、長射程のミサイルという新しい槍を手に入れつつある。そして今度は、槍と同時に目を整えようとしている。2,831億円は安くないが、目のない槍に何千億円もかけるよりは、ずっとましな金の使い方だと思う。
投資家目線のメモ
上場している関連企業を整理しておく。
| 企業 | 証券コード | 特徴 |
|---|---|---|
| 三菱電機 | 6503 | 衛星メーカー。防衛・宇宙は会社全体の一部 |
| NEC | 6701 | 通信衛星、地上システム |
| スカパーJSAT HD | 9412 | 衛星通信。宇宙事業が利益の柱 |
| 三菱重工業 | 7011 | ロケット |
| IHI | 7013 | 子会社のIHIエアロスペースが固体ロケット |
| 三井物産 | 8031 | トライサットに出資 |
| QPSホールディングス | 464A | QPS研究所を傘下に持つ小型SAR衛星関連企業 |
| Synspective | 290A | 小型SAR衛星の専業 |
| アクセルスペースHD | 402A | 小型光学衛星 |
| アストロスケールHD | 186A | 軌道上サービス |
注意点を3つ書いておく。
1つ目。2,831億円は5年間の総額で、トライサットという箱を通して流れる金だ。7社それぞれにいくら入るのかは公表されていない。見出しの数字を、1社の売上と取り違えないこと。
2つ目。大企業にとって、防衛宇宙は事業のごく一部である。一方、SARやSDAの専業スタートアップにとっては、防衛省の案件が業績を大きく左右する。その代わり、衛星の打上げ失敗や故障が1回あるだけで計画が狂う。まだ赤字の会社も多く、株価の振れ幅は防衛大手とは比べものにならない。
3つ目。この分野のお客は、ほぼ国だ。予算が付けば伸びるが、国の方針が変われば止まる。民間の需要だけで自立できるかどうかが、長い目で見たときの分かれ目になる。
防衛関連株の全体像は防衛関連銘柄の投資ガイド、個別株を選びたくない人向けには防衛ETFの比較がある。受注の積み上がりは受注残ランキングで確認できる。
(免責事項)本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や金融商品の売買を勧めるものではない。企業名や契約額は公開情報にもとづくが、将来の受注や業績、株価を保証するものではない。投資の判断は自分自身の責任で行ってほしい。
よくある質問
防衛省の衛星コンステレーション事業はどこが受注した?
三菱電機を代表とし、スカパーJSAT、三井物産、Synspective、QPS研究所、アクセルスペース、三井物産エアロスペースを合わせた7社のグループ。三菱電機・スカパーJSAT・三井物産の3社が出資する特別目的会社トライサット・コンステレーションが、2026年2月19日に防衛省と契約した。
契約額はいくら?
防衛省の公表によれば総額約2,831億円。事業期間は2031年3月まで。
SAR衛星とは?
電波を地表に当て、反射を処理して画像にするレーダー衛星。夜間や悪天候でも撮影できる。日本ではQPS研究所とSynspectiveが小型SAR衛星を手がけている。
SSAとSDAの違いは?
SSA(宇宙状況把握)は宇宙物体の位置や軌道の把握。SDA(宇宙領域把握)は、それに加えて衛星の運用状況や意図、能力まで把握することを指す。
自衛隊は自前の衛星を持っているのか?
防衛省はXバンド防衛通信衛星「きらめき」を3機保有している。画像については、政府の情報収集衛星(内閣の組織が運用)とは別に、民間の衛星網からサービスとして取得する形を広げている。
防衛宇宙でいちばん重要な会社は?
分野による。衛星の製造なら三菱電機とNEC、運用と通信ならスカパーJSAT、打上げなら三菱重工。1社で完結する分野ではなく、チームで動くのが宇宙の特徴だ。
まとめ
日本の防衛宇宙は、3つの層でできている。衛星を作る三菱電機とNEC、運用するスカパーJSAT、打ち上げる三菱重工とIHIエアロスペースという古参の層。QPS研究所、Synspective、アクセルスペース、アストロスケールといった新興の層。そして、資金と契約をまとめる商社の層だ。
2026年2月に契約された約2,831億円の衛星コンステレーション事業は、この3つの層が初めて1つのチームになった案件である。長射程ミサイルの「目」を、国が買うのではなく、民間が持って国に使わせる。やり方としても新しい。
見ることを軽んじて負けた国が、見ることに金をかけはじめた。地味だが、私はここ数年の防衛政策の中でいちばんまともな変化だと思っている。
あわせて読みたい
出典・参考資料
- 防衛省「衛星コンステレーションの整備・運営等事業 民間事業者の選定について」(2025年12月24日)、同事業契約の内容の公表(2026年2月20日)
- 三菱電機、スカパーJSAT、三井物産、Synspectiveの各プレスリリース(2025年12月25〜26日、2026年2月20日)
- NEC、NTTコミュニケーションズ「Xバンド衛星通信中継機能等の整備・運営事業」に関するプレスリリース(2013年1月15日)
- 三菱重工業・JAXA 打上げ結果の発表(Xバンド防衛通信衛星2号機、2017年1月)、各社報道(きらめき3号、2024年11月)
- 防衛省「軌道上での自国衛星の監視・防御技術に関する研究」の契約に関するお知らせ(2026年3月)
- アストロスケール プレスリリース(2025年3月、2026年1月)
- 宙畑(キヤノン電子の多軌道観測実証衛星に関する記事)
- 防衛省「防衛力の変革に向けた予算-令和9年度概算要求の概要-」(2026年8月31日)







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