2026年現在、日本の株式市場で最も熱い板は間違いなく「防衛セクター」だ。
防衛費がGDP比2%へ向けて急拡大し、予算規模は年間8兆円超と過去最大を更新し続けている。そしてこの恩恵を最も直接的に受けるのが、三菱重工業(7011)・川崎重工業(7012)・IHI(7013)の、市場が「御三家」と呼ぶ重工業トリオだ。
俺はこのサイトで日本の防衛産業について何度も掘り下げてきた。日本の防衛ビジネス超入門でも書いたように、かつては「儲からない」と言われた国内防衛産業が、制度改革と予算拡大によって完全に様変わりしている。三菱重工の防衛事業解説でも詳しく触れたが、今や防衛省との契約は大手3社にとって経営の中核だ。川崎重工の防衛事業解説でも確認できるとおり、川重も同じ潮流に乗っている。
この記事では、御三家の中でも「王者・三菱重工」と「追走する川崎重工」の2社を徹底比較し、投資家として2026年にどちらを選ぶべきかを真剣に考えてみたい。
なお、この記事は投資助言ではない。最終的な投資判断はご自身で行ってほしい。
そもそも「防衛株御三家」とは何か
まず前提を整理しよう。
防衛株御三家とは、防衛省・防衛装備庁の装備品契約において国内トップ3に位置する重工メーカー、すなわち三菱重工業(7011)・川崎重工業(7012)・IHI(7013)を指す。
防衛省の外局である防衛装備庁によると、三菱重工業の2024年度の防衛装備品契約実績は1兆4,567億円で、川崎重工業は6,383億円と2番手の地位を占めている。
規模の差は歴然だが、それが即ち「三菱重工の方が買い」を意味するわけではない。株価投資においては規模より「これからの成長余地」と「現在の割安感」が物を言う。
そのあたりを丁寧に紐解いていく。
三菱重工(7011)──”王者の現在地”

事業概要と防衛ポジション
三菱重工は日本最大の総合重工メーカーだ。発電設備、航空宇宙、防衛、造船など幅広い事業を展開しており、防衛分野では戦闘機、水上艦艇、潜水艦、地対空誘導弾システム、空対艦誘導弾まで陸海空すべての装備品に深く関与している。
防衛省が来年度予算案で過去最大規模の8兆8,400億円超を要求し、スタンドオフ防衛能力や極超音速誘導弾の量産などが焦点となる中、ミサイル開発を主導する中核企業として際立っており、「12式地対艦誘導弾能力向上型」の開発・量産、新たな「新地対艦・地対地精密誘導弾」の開発など、防衛力強化の最前線で明確な存在感を示している。
日本のミサイル完全ガイドでも解説しているが、12式地対艦誘導弾はいま日本が最も力を入れている「反撃能力」の中核装備だ。その主契約者が三菱重工であり、ここには揺るぎない独占性がある。
さらに特筆すべきは艦艇輸出だ。防衛省の外局である防衛装備庁への契約額1位の三菱重工業が建造する護衛艦を、オーストラリア軍が採用する方向となり、日本にとって初の本格的な護衛艦輸出の可能性が現実化している。もしこれが正式契約となれば、三菱重工の海外防衛収益は文字通り新次元に突入する。
直近業績
2025年3月期は売上高5兆2717億円、営業利益3831億円、最終利益2454億円と過去最高水準を更新した。
2026年3月期第3四半期決算は、売上収益が3兆3,269億円(前年同期比9.2%増)、事業利益が3,012億円(同25.5%増)と大幅な増収増益となり、特に航空・防衛・宇宙セグメントの業績が好調で、全体の業績を牽引している。
通期予想も上方修正されており、増収増益路線は2026年度も継続見込みだ。
株価と評価
年初来高値は5,208円(2026年3月2日)を付けている。
株価は4922円とすべての移動平均線を上回って推移しており、中期的な上昇トレンドが続いている。2024年春の1200円台から大きく上昇し、2026年3月には5208円の高値を付けている。わずか2年で4倍超という怒涛の上昇だ。
現在PERは約63倍と高い水準にあるが、防衛セクターの成長期待を織り込んでのプレミアムという解釈が大勢を占めている。
率直に言って「割安」ではない。だが既に市場に広く知られたポジションであり、機関投資家や海外マネーが安定的に流入している点は安心感につながる。
三菱重工のリスク
リスクも正直に書く。
ひとつは既に先行きが相当程度織り込まれているという点だ。PER63倍は防衛株の中でも高い部類に入り、業績が少しでも想定を下回れば株価は大きく下げる可能性がある。
もうひとつはエネルギー事業との複合リスクだ。三菱重工はガスタービンなどエネルギーインフラ事業も巨大で、防衛以外のセグメントでの不振が全体の足を引っ張る構造がある。
川崎重工(7012)──”追走する挑戦者”

事業概要と防衛ポジション
川崎重工は三菱重工に次ぐ防衛装備品の国内第2位サプライヤーだ。バイクや鉄道車両でも有名だが、防衛分野では陸海空に幅広い製品を供給している。
代表的な製品としては、陸上自衛隊の偵察オートやCH-47ヘリコプター、海上自衛隊のP-1哨戒機や「たいげい」型潜水艦、航空自衛隊のC-2輸送機やT-4中等練習機など。内訳は哨戒機や輸送機の航空宇宙事業が65%と大半を占めており、潜水艦の船舶海洋事業が17%、舶用推進事業が14%、航空エンジン事業が5%と続いている。
川崎重工の防衛事業解説でも詳しく書いたが、川重の強みは「潜水艦を作れる2社のうちの1社」という独占性だ。たいげい型潜水艦の詳細でも触れているとおり、リチウムイオン電池搭載の最新型潜水艦を建造できる企業は世界でも数えるほどしかない。
さらに魅力的な話がある。川崎重工の最高経営責任者(CEO)は、防衛関連部門の年間売上高が2023年の約2400億円から2031年3月までに5000億〜7000億円に急増すると予測している。最大で約3倍の成長という宣言だ。
2024年度の防衛装備品契約実績は6,383億円で、対前年比64.2%増という驚異的な伸び率を記録している。
スタンドオフ防衛能力の構築において、川崎重工は長射程巡航ミサイル用ジェットエンジンの開発でも重要な役割を担っており、日本のミサイル完全ガイドで詳しく解説した12式の後継ミサイルとの関わりも今後深まっていく可能性がある。
直近業績
川崎重工業の2026年3月期第3四半期連結業績は、売上収益が1兆5,614億円(前年同期比10.9%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益が658億円(同49.1%増)と大幅に改善した。
通期の同利益を従来予想の820億円から900億円に9.8%上方修正し、2期連続で過去最高益を更新する見通しとなった。
さらに業績好調に伴い、今期の年間配当を従来計画の150円から166円に増額修正した。
株価と評価
川崎重工業の株価は16,500円前後(2026年3月時点)で、配当利回りは1.01%、年間配当は166円となっている。
三菱重工に比べると配当利回りは低い水準だが、成長期待で買われている銘柄の性質上、キャピタルゲイン狙いが主体になる。
みんかぶのAI株価診断では「割安」判定が出ており、アナリストも強気買いを推奨している点は注目に値する。
川崎重工のリスク──「不祥事問題」は深刻に受け止めるべき
ここは正直に、川重への投資を検討する上で絶対に無視できないリスクを書かねばならない。
防衛省は2025年12月26日、川崎重工業を2.5ヶ月間の指名停止にすると発表した。川重が潜水艦向けの発電用ディーゼルエンジンの検査で長期にわたり不正を行っていたことを確認したためだ。防衛省は川重によるエンジン性能の書き換えを「艦艇エンジン部門の設計部署を中心とした組織的な検査不正だ」と判断した。
川重の防衛事業はガバナンス不全といえる事態が相次いでいる。潜水艦の修理にあたる下請け企業との間で架空取引をして資金をため、海自の乗組員らの物品購入代や飲食代を負担していた問題も起こしている。
指名停止は2026年3月11日までで既に解除されているが、このガバナンス問題は川重の信頼性に傷をつけており、短期的な株価のノイズとなった。
ただし見方を変えると、この不祥事が一種の「株価の押し下げ要因」として機能しており、割安感を演出している可能性もある。問題が膿み出た後の企業が改革によって生まれ変わるパターンは株式市場で何度も繰り返されてきた。
もうひとつのリスクが事業の多角化だ。川崎重工はバイク(モーターサイクル)やロボット事業も重要セグメントであり、防衛以外の業績変動が株価に与える影響が三菱重工より大きい。特にパワースポーツ事業の変調は注意が必要だ。
2026年に「買うならどっち」──徹底比較
いよいよ核心部分に入ろう。以下の観点で両社を整理する。
1. 防衛事業の規模と独占性
三菱重工は防衛契約1兆4,567億円 vs 川崎重工は6,383億円で、規模では三菱の圧勝だ。戦闘機(F-2後継)、護衛艦、潜水艦、ミサイルすべてを手がける三菱重工の守備範囲は他の追随を許さない。
川崎重工も潜水艦・哨戒機・輸送機・ヘリという国産装備の独占領域を持つ。
判定:三菱重工 ○
2. 成長余地とカタリスト
ここが面白い。三菱重工はすでに防衛契約トップを走っており、規模の絶対量は大きいが、伸び率という意味では「伸びしろ」は川重に分がある。
川崎重工の2024年度防衛装備品契約の対前年比64.2%増という成長率は驚異的だ。2023年の防衛売上2,400億円を基準にすると、2030年度の目標5,000億〜7,000億円は最大で約3倍の伸びを意味する。
また川崎重工の防衛比率は全体の売上に対してまだ低い。つまり防衛比率が上がるほど、全体の収益構造が改善していくという「質的転換」の余地が残っている。
判定:川崎重工 ○
3. バリュエーション(割安感)
三菱重工の現在PERは約63倍と高い水準にあり、成長期待を相当程度先取りしている。
川崎重工は三菱重工と比べるとPERは低く、みんかぶAI診断では「割安」判定も出ている。アナリストの目標株価との乖離も川重の方が大きく残っている。
判定:川崎重工 ○
4. 安定性・業績の確実性
三菱重工はエネルギー・航空・防衛・宇宙の複合ポートフォリオで業績が安定しており、過去最高益更新を続けている。ROEはおおむね8〜10%水準を維持しており、収益性は安定している。
川崎重工はバイク・ロボット・防衛という多角構造で、防衛以外の変動が業績にノイズを加える。加えて不祥事によるガバナンスリスクが払拭されていない。
判定:三菱重工 ○
5. 輸出・海外展開ポテンシャル
これが2026年以降の最大のカタリストだ。
三菱重工はオーストラリア向け護衛艦輸出が現実化しつつあり、日本初の本格的艦艇輸出が成立すれば、海外防衛収益という「新しい柱」が生まれる。インパクトは計り知れない。
川崎重工もP-1哨戒機の海外展開に意欲を示しているが、今回の指名停止処分で「海外政府からの信頼を損なう可能性がある」と防衛装備庁幹部自身が懸念を示したように、不祥事が海外展開の障壁になりうる。
判定:三菱重工 ○
結論──どちらを買うべきか
正直に書く。
“王道”を選ぶなら三菱重工(7011)だ。防衛装備の独占ラインナップ、輸出拡大の現実的な進展、安定した業績基盤、機関投資家の支持。PERの高さは認めるが、これほど安定的に過去最高益を更新し続けている企業をPERだけで「割高」と切り捨てるのは難しい。長期保有で積み上げていくスタイルの投資家には三菱重工が適している。
“リターンの非対称性”を狙うなら川崎重工(7012)だ。不祥事による株価の押し下げ、防衛比率の上昇余地、64%超という受注の伸び率、2030年度に向けた防衛売上3倍計画。リスクを取って成長の果実を早めに刈り取りたい投資家には川崎重工が面白い局面だ。ただし不祥事問題とガバナンスへの目線は決して緩めてはいけない。
もちろん、両社を分散保有するという選択肢も現実的だ。御三家3社をまとめて持ち、防衛セクター全体の成長を取りに行く方針も多くの投資家が採用している。IHIの防衛事業解説でも解説しているが、IHI(7013)も航空機エンジンとロケットで独占性の高いポジションを持っており、3社分散は理にかなっている。
最後にもう一度言う。日本の防衛費はGDP比2%への移行途上にあり、まだ「拡大の途中」だ。中国人民解放軍の軍事力解説でも書いたとおり、中国の軍拡は止まっておらず、日本の防衛投資の必然性はむしろ高まっている。防衛株という大きなテーマ自体はまだ終わっていない。問題は「どの銘柄で、いつ乗るか」だ。
まとめ
| 比較項目 | 三菱重工(7011) | 川崎重工(7012) |
|---|---|---|
| 防衛契約規模 | 1兆4,567億円(1位) | 6,383億円(2位) |
| 防衛成長率(2024年度) | 安定大規模 | 前年比64.2%増 |
| 現在のPER | 約63倍(割高) | 相対的に低い |
| バリュエーション | やや高め | 割安感あり |
| 輸出展開 | 護衛艦輸出現実化 | 不祥事が障壁 |
| 不祥事・ガバナンスリスク | 比較的低い | 指名停止歴あり |
| 配当 | 安定増配傾向 | 166円・利回り約1% |
| 向いている投資スタイル | 安定長期 | 成長・反転狙い |
両社ともに日本の安全保障を根底から支える、唯一無二の企業群だ。プラモデルで三菱のF-2や川重のC-2を組みながら、その企業を株主として応援する。そんな楽しみ方もあっていい。
日本の防衛産業の未来と、あなたのポートフォリオの未来が、ともに強くあることを願っている。
※この記事は投資助言を目的としたものではありません。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。株価・業績数値は2026年3月時点の情報をもとにしていますが、最新情報は各社IRをご確認ください。

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