もがみ型護衛艦、そうりゅう型潜水艦、いずも型護衛艦。これらの艦艇は、当たり前だが誰かが作っている。長崎の造船台で、神戸のドックで、岡山の工場で、日本の重工業が艦を組み上げている。防衛費が過去最大を更新し続ける今、その「作り手」である企業の株価にも、これまで以上に注目が集まるようになった。本記事では、この作り手を投資家の視点でランキング形式で整理する。
軍研ノートではこれまで、三菱重工・川崎重工・IHIといった各社の防衛事業を個別に、あるいは防衛株全体をテーマに扱ってきた。本記事の切り口はそれらと少し違う。焦点を「防衛費が増えるとどの企業が儲かるか」ではなく、「実際に艦艇の鋼板を切り、溶接し、進水させているのはどこか」という、造船という一点に絞り込む。防衛株全般の選び方を知りたい読者は防衛関連銘柄 完全投資ガイドを先に読んでほしい。本記事はそれとは異なる、「造船」という産業そのものの現在地を映すランキングだ。
なお、本記事はあくまで企業と産業構造の解説であり、特定銘柄の購入を推奨するものではない。株価は業績や政策動向、為替、地政学リスクなど様々な要因で変動し、上昇を保証するものは何もない。投資判断は自己責任で、最終的にはご自身で行ってほしい。
- 自衛隊の艦艇建造に関わる上場企業の全体像がわかる
- 三菱重工・川崎重工・IHI・JFE・三井E&S・名村造船所の違いを整理できる
- JMUや今治造船のような非上場勢をどう間接的に見るかがわかる
- 造船株を買う前に押さえるべきリスクと注意点を確認できる

ランキングの選定基準|「造船」でどこまで戦えるか
- 単純な建造実績だけでなく、上場有無と投資しやすさも評価する
- 防衛依存度が高い企業と、商船・鉄鋼・エンジンが主力の企業を分けて見る
- JMUのような非上場の実力企業は、IHI・JFEなどの間接エクスポージャーとして考える
本ランキングは、以下5つの観点から各社を評価している。
- 造船能力・艦艇建造実績:実際にどれだけの艦艇・船舶を建造してきたか
- 防衛依存度:売上・利益に占める防衛事業の比重
- 成長性:防衛費増額・輸出拡大の恩恵をどれだけ受けられるか
- 投資しやすさ:上場しているか、株式を直接売買できるか
- 事業の安定性:造船事業からの撤退・縮小のリスクがないか
ここで先に断っておきたいことがある。日本で最も多くの艦艇を建造している企業は、実は本ランキングの1位ではない。その理由は、記事の後半で詳しく説明する「投資できない最大手」という項目を読めば分かるはずだと思う。造船業界の構造は、単純な建造実績のランキングとは一致しないのだ。
なぜ今、造船重工株なのか|「高市トレード」という追い風

ランキングに入る前に、なぜこのタイミングで造船重工株が注目されているのかを整理しておきたい。2025年10月、高市早苗氏が自民党総裁に選出された直後の10月6日、三菱重工業の株価は前日比+11.17%という急騰を記録した。防衛・安全保障を重視する政権への期待から始まったこの現象は、市場で「高市トレード」と呼ばれるようになる。
高市政権は、防衛費をGDP比2%水準まで引き上げる目標時期の前倒しを掲げ、2026年度の防衛予算は過去最大となる約9兆353億円が計上された。国家安全保障戦略など安保3文書の改定により、2027年度までにGDP比2%、5年間で総額43兆円程度という防衛費の枠組みも既に打ち出されている。2026年1月には、三菱重工業・川崎重工業・IHIの「軍事銘柄御三家」が揃って上場来高値を更新する場面もあった。トランプ政権による大幅な国防予算増額要求や、地政学リスクの高まりも、この流れを後押ししている。
もっとも、こうした政策連動型のテーマ株には注意も必要だ。株価は政策の実現度合いや政治情勢の変化に敏感に反応するため、期待が先行しすぎれば反動も大きくなりやすい。この点は、本記事後半のリスクの項でも改めて触れる。
造船重工株ランキングTOP7
- 総合力では三菱重工業が最有力
- 潜水艦では川崎重工業が代替しにくい存在
- JMUに直接投資できないため、IHI・JFEは間接的な造船テーマとして読む
1位:三菱重工業(7011)|艦艇からミサイルまでの総合力
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード | 7011(東証プライム) |
| 主な造船拠点 | 長崎造船所、三菱重工マリタイムシステムズ(岡山・玉野) |
| 主な建造艦艇 | もがみ型護衛艦、そうりゅう型潜水艦(共同)、いずも型護衛艦の改修 |
| 防衛装備品契約実績 | 約1兆4,567億円(2024年度、防衛装備庁調べ) |
総合力で頂点に立つのは、やはり三菱重工業だ。長崎造船所という歴史ある拠点に加え、2021年には三井E&Sホールディングスから艦艇・官公庁船事業を譲り受け、新会社「三菱重工マリタイムシステムズ」として岡山県玉野市の工場を引き継いだ。護衛艦に強い三菱と、音響測定艦などの特殊船に強かった旧三井造船の技術が一つの会社に集約されたことで、艦艇建造の生産能力そのものが底上げされている。
防衛装備庁がまとめた2024年度の契約実績では、三菱重工業は約1兆4,567億円と、2位の川崎重工業の2倍以上を計上した。造船だけでなく、ミサイル、戦闘機、宇宙分野まで幅広く手掛ける総合力が、この数字に表れている。2026年3月期通期の業績予想では売上収益4兆8,000億円(前期比+10.1%)、防衛・宇宙事業の売上高は前期比30%増を見込むと発表しており、成長の勢いはまだ続いている。
もがみ型護衛艦のオーストラリア輸出という、戦後初の艦艇輸出案件を三菱重工が主導したことも大きい。この輸出案件の詳細はもがみ型護衛艦の豪州輸出を完全解説で扱っている。同社の防衛事業全体を知りたければ三菱重工の防衛事業とは、株価の成長余地を数字で試算した記事なら三菱重工(7011)株価はどこまで上がる?を参照してほしい。
2位:川崎重工業(7012)|潜水艦の雄

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード | 7012(東証プライム) |
| 主な造船拠点 | 神戸工場 |
| 主な建造艦艇 | そうりゅう型・たいげい型潜水艦(三菱重工との2社体制) |
| 特徴 | 潜水艦、哨戒機P-1、輸送機C-2を一手に担う |
川崎重工業は、造船という枠だけでは語りきれない企業だ。海上自衛隊の潜水艦は、三菱重工と川崎重工の「2社体制」で交互に建造されるという、世界でも珍しい仕組みで作られている。1社に発注を絞らないことで、潜水艦建造という高度な技術を国内に2系統維持する狙いがあるとされる。
川崎重工の強みは船体だけに留まらない。哨戒機P-1、輸送機C-2という国産の主要航空機も同社の製品であり、造船と航空機という2つの重工業を同時に押さえている点が独自の強みだ。三菱重工業と並んで「軍事銘柄御三家」と称されることが多く、防衛費増額の恩恵を受けやすい銘柄として市場で位置づけられている。同社の防衛事業全体は川崎重工の防衛事業とはで詳しく解説している。三菱重工との直接比較に関心があれば、前述の川崎重工vs三菱重工の徹底比較を読んでほしい。
3位:IHI(7013)|エンジンと造船の遺伝子
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード | 7013(東証プライム) |
| 主な事業 | 航空機エンジン、艦艇用機関、宇宙、資源エネルギー |
| 造船との関わり | ジャパンマリンユナイテッド(JMU)に約20%出資(2025年6月時点) |
| 特徴 | 次期戦闘機用エンジンXF9-1などを開発 |
IHIは、かつて石川島播磨重工業として自ら艦艇を建造していた歴史を持つ企業だ。現在は直接の造船からは退いているが、その技術と拠点は、2013年に発足したジャパンマリンユナイテッド(JMU)へと引き継がれている。IHIはJMUの株式を保有する主要株主の一社であり、艦艇建造という産業への関わりを、出資という形で今も維持している。
もっとも、この出資比率は近年縮小している。2025年6月、国内造船最大手の今治造船がJMU株を追加取得し、出資比率を60%まで引き上げて筆頭株主となったことで、IHIとJFEホールディングスの出資比率はそれぞれ35%から20%へと低下した。造船という不安定な事業へのエクスポージャーを意図的に抑えつつ、航空機エンジンや宇宙分野に経営資源を集中させる同社の戦略が、この数字の変化から読み取れる。防衛事業全体を知りたければIHIの防衛事業を徹底解説を参照してほしい。
4位:JFEホールディングス(5411)|鉄鋼から見る造船の裏側
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード | 5411(東証プライム) |
| 主な事業 | 鉄鋼、エンジニアリング |
| 造船との関わり | JMUに約20%出資(2025年6月時点) |
| 特徴 | 造船の主力顧客であり出資者でもある、鉄鋼最大手 |
JFEホールディングスは、造船会社そのものではない。日本を代表する鉄鋼メーカーだ。それでもこのランキングに入れたのは、IHIと並んでJMUの主要株主だからだ。前身のユニバーサル造船(JFE傘下)がJMU発足の一翼を担った経緯があり、造船という産業と鉄鋼という産業を両側から見られる立ち位置にある。
鉄鋼メーカーにとって造船会社は、鋼板を大量に買ってくれる重要な顧客でもある。艦艇建造が増えれば厚板需要が増え、それは鉄鋼事業にもプラスに働く。防衛費増額のニュースが、意外な形でJFEホールディングスの業績にも波及しうるという構造を、投資家として押さえておく価値はある。
5位:三井E&Sホールディングス(7003)|名門が学んだ撤退の教訓
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード | 7003(東証プライム) |
| かつての事業 | 護衛艦・官公庁船の建造(玉野艦船工場) |
| 現在 | 艦艇事業を三菱重工に譲渡。海洋・エンジニアリング事業へ軸足 |
三井E&Sホールディングスの前身は、100年以上の歴史を持つ三井造船だ。護衛艦や音響測定艦など、艦艇建造で確かな技術を持っていた企業だった。しかし中国・韓国勢との価格競争の激化で商船事業が慢性的な赤字に陥り、2020年に船舶建造からの撤退を決断する。2021年10月、防衛省向けの艦艇・官公庁船事業は三菱重工業に譲渡され、玉野艦船工場は「三菱重工マリタイムシステムズ」として再出発した。
この決断の裏には、造船の街として100年を歩んできた岡山県玉野市の重い現実があった。工場と共に成長してきた地域経済、下請け企業への影響、従業員約700人のうち約400人が新会社へ移籍するという再編。地元の人々が「造船が無くなるのは寂しい」と語った声を、筆者は資料を読みながら重く受け止めた。技術と誇りをどう次の世代に引き継ぐか、企業の経営判断の裏には、いつもこうした人々の暮らしがある。
現在の三井E&Sホールディングスは、造船から海洋・エンジニアリング事業へと軸足を移している。かつての主力事業を失った企業を5位に置いたのは、「造船株」というテーマを考えるうえで、この撤退という事実そのものが重要な教訓だからだ。艦艇事業の詳しい経緯は三井E&Sの防衛事業とはで扱っている。
6位:名村造船所(7014)|防衛色は薄いが、純粋な「造船株」
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード | 7014(東証スタンダード) |
| 主な事業 | バルクキャリアなど商船の建造 |
| 特徴 | 防衛依存度は低いが、数少ない純粋な上場造船会社 |
ここまでの5社は、いずれも重工業コングロマリットの一部門として艦艇を建造する企業だった。名村造船所は毛色が異なる。バルクキャリア(ばら積み貨物船)を中心に手掛ける、純粋な商船建造の上場企業だ。防衛需要への依存度は低いが、「造船株」というテーマそのものにストレートに投資できる、数少ない選択肢の一つと言える。
2025年から2026年にかけて、日本の造船業界には新造船価格の上昇や受注環境の改善を背景にした復調の動きが見られ、一部メディアはこれを「造船ルネサンス」と呼んでいる。中国・韓国との価格競争は依然として厳しいが、円安や海運市況の変化によって、日本の造船所の受注環境が好転する局面も出てきている。防衛色の強い重工コングロマリットとは異なる値動きをする可能性がある銘柄として、ポートフォリオの分散という観点でも押さえておきたい。
番外編:投資できない最大手、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)
正直に書いておきたい。日本で最も多くの護衛艦・巡視船を建造している企業は、実はこのランキングのどこにも入っていない。ジャパンマリンユナイテッド(JMU)だ。
JMUは2013年、ユニバーサル造船(JFE系)とIHIマリンユナイテッド(IHI系)が経営統合して誕生した、国内屈指の造船会社である。呉事業所は旧日本海軍の呉海軍工廠、舞鶴事業所は舞鶴海軍工廠を継承しており、日本の艦艇建造の歴史そのものを背負う拠点だ。護衛艦や巡視船の建造実績は豊富で、次世代燃料船の開発でも世界をリードしている。
しかし、JMUは証券取引所に上場していない。株式を直接買うことができない企業なのだ。2025年6月には国内造船最大手の今治造船(こちらも非上場)が出資比率を60%まで引き上げて筆頭株主となり、IHIとJFEホールディングスの持分はそれぞれ20%まで低下した。つまり、実力では日本最大級の艦艇建造企業でありながら、投資家がその成長を直接享受する手段は存在しない。前述の3位IHI、4位JFEホールディングスへの投資が、その最も近い間接的な手段ということになる。この点は、投資テーマとしての「造船株」を考えるうえで、必ず押さえておくべき事実だ。
この出資比率の変化は、単なる資本異動にとどまらない意味を持つ。今治造船という商船建造の民間最大手が、艦艇建造でも実績を持つJMUの経営権を握ったことで、日本の造船業は「今治造船グループ」を軸により強く再編される流れが強まっている。IHIとJFEにとっては、造船という業績変動の大きい事業への関与を薄め、それぞれ本業のエンジン・鉄鋼事業に経営資源を集中させる狙いがあると見る向きもある。もし将来、今治造船やJMUが新規株式公開(IPO)に踏み切るようなことがあれば、それは日本の造船株マップを大きく塗り替える出来事になるだろう。現時点ではあくまで仮定の話だが、この業界を継続的にウォッチする価値はそこにもある。
なお、今治造船をはじめ、大島造船所や常石造船といった日本有数の造船所の多くも非上場だ。日本の造船業は、上場企業だけを見ていては全体像がつかめない産業構造になっている。
なぜ日本の造船業は再編を続けてきたのか

ここまで読んで、ある共通点に気づいた読者もいるだろう。三井E&Sは艦艇事業を手放し、JMUの出資比率は今治造船へと集約され、上場企業の顔ぶれは限られている。日本の造船業は、この20年余りで大きな再編を繰り返してきた産業なのだ。
背景にあるのは、中国・韓国との激しい価格競争だ。かつて世界一の建造量を誇った日本の造船業は、両国の台頭によって世界シェアを大きく落とし、技術力の面でも猛追を受けてきた。艦艇の受注がない時期は商船建造で工場の稼働を維持するというのが各社の伝統的な経営モデルだったが、その商船事業自体が採算割れに苦しむようになり、艦艇だけを残して事業を切り出す、あるいは他社に譲渡するという再編が各地で進んだ。三井E&Sの艦艇事業譲渡も、住友重機械工業の新造船事業からの撤退も、この大きな流れの一部だ。
一方で、2025年前後からは潮目の変化も見え始めている。防衛費の急拡大に加え、トランプ政権下のアメリカが同盟国の造船能力に関心を寄せているとも報じられ、日本の造船株が「造船ルネサンス」という言葉とともに見直される場面も出てきた。縮小と再編を経験した産業だからこそ、今の追い風がどこまで本物かを見極める視点が必要になる。
経済安全保障という、もう一つの視点

造船業を語るうえで、近年見過ごせなくなっているのが経済安全保障の観点だ。港湾に設置されるガントリークレーンをはじめとする港湾インフラは、有事の際に物資輸送の生命線となる重要施設であり、その製造・保守を特定の外国企業に依存するリスクが、国内外で議論の対象になっている。三井E&Sホールディングスが港湾クレーン事業を主力事業の一つとして維持し続けている背景にも、こうした経済安全保障上の重要性が関係している。
造船・重工業は、単に「艦艇を作れるかどうか」という軍事的な文脈だけでなく、「有事にサプライチェーンを国内で維持できるかどうか」という経済安全保障の文脈でも評価される時代に入っている。この視点を持つと、防衛予算という数字だけでは測れない、各企業の存在意義の重みが見えてくるはずだ。
造船重工株に投資する前に知っておきたいリスク

造船・重工株は、防衛費増額という強い追い風を受けている一方で、他のテーマ株にはない固有のリスクも抱えている。投資判断の前に、必ず押さえておきたい。
まず、造船業は本質的に受注型のビジネスであり、業績の波が大きい。艦艇であれ商船であれ、大型契約の有無で決算が大きく振れることは珍しくない。受注してから引き渡しまで数年単位の期間を要するため、契約時と建造時で資材価格や為替が大きく変動すれば、採算が事後的に悪化するリスクもある。
次に、中国・韓国との国際競争は今も続いており、価格競争力の面で日本勢が劣勢に立たされる局面は今後もありうる。かつて世界一だった日本の建造量シェアは、この二国の台頭によって大きく低下した過去がある。鋼材価格や為替の変動、人手不足による建造遅延といった、造船業特有のコスト構造リスクも見逃せない。近年は溶接工をはじめとする熟練技能者の確保も各社共通の課題になっている。
そして、政治的なテーマ性の強さそのものがリスクにもなる。防衛費増額や政権の方針転換によって短期間で株価が大きく動く銘柄群であり、その分、期待が剥落したときの値動きも大きくなりやすい。「国策相場」という言葉が示すとおり、政策動向次第で急騰も急落もありうるテーマだということは、投資する前に理解しておくべきだ。政局が不安定化し、防衛費増額の枠組みそのものが見直される事態になれば、これまでの上昇分が調整局面に転じる可能性もゼロではない。
繰り返しになるが、株価の上昇を保証するものは何もない。造船に詳しいことと、その企業の株で利益が出ることは別の話だ。まずは各社の決算資料や有価証券報告書に目を通し、自分の頭で判断する材料を増やすところから始めるのが賢明だと思う。
個別銘柄の分析に時間をかけられない読者には、専門家が絞り込んだ注目テーマ株の情報を参考にするという選択肢もある。ただし、そうした情報も最終判断の材料の一つに過ぎないという前提は忘れないでほしい。
艦艇の歴史から、今の造船株を見る

本ランキングで取り上げた企業の多くは、実は戦前から続く艦艇建造の系譜の上にある。三菱重工の長崎造船所は戦艦武蔵を生んだ場所であり、JMUの呉・舞鶴の各事業所は、旧海軍工廠をそのまま前身に持つ。今日の護衛艦もまた、この長い歴史の延長線上で建造されている。
不沈艦と呼ばれた駆逐艦「雪風」の物語は駆逐艦「雪風」とはで、もがみ型護衛艦がその名を受け継いだ最上型重巡洋艦の悲劇は最上型重巡洋艦とはで詳しく解説している。造船という産業を「企業の決算」としてだけでなく、「艦にかけられた人々の技術と誇りの継承」として見ると、投資というテーマにもまた違った重みが加わるはずだ。
戦史や産業史をまとまった形で学ぶには、良書との出会いが近道になる。通勤中でも耳から聴けるオーディオブックは、忙しい投資家にとっても知識を効率よく広げる手段になる。
艦艇そのものの姿を手元で楽しみたいなら、プラモデルという選択肢もある。もがみ型護衛艦や潜水艦のスケールモデルを組み立てながら、その艦を作った企業の株価を眺めるというのも、この趣味ならではの楽しみ方だと思う。
よくある質問(FAQ)
日本で一番多くの艦艇を作っている会社はどこですか?
実績ベースで見ると、三菱重工業とジャパンマリンユナイテッド(JMU)が国内艦艇建造の中心的な存在だ。ただしJMUは非上場のため、株式を直接購入することはできない。投資対象として考える場合、上場企業では三菱重工業が最も総合力の高い選択肢になる。
ジャパンマリンユナイテッド(JMU)の株は買えますか?
直接買うことはできない。JMUは非上場企業で、2025年6月時点で今治造船(60%)、IHI(20%)、JFEホールディングス(20%)が出資している。JMUの業績や成長に関心がある場合、上場しているIHIやJFEホールディングスの株式を通じて間接的にエクスポージャーを持つことになる。
三井E&Sはもう艦艇を作っていないのですか?
三井E&Sホールディングス自身は、艦艇建造事業から撤退している。2021年10月、玉野艦船工場を含む艦艇・官公庁船事業を三菱重工業に譲渡し、現在は三菱重工マリタイムシステムズとして事業が継続されている。三井E&Sホールディングス自体は、造船から海洋・エンジニアリング事業へと軸足を移している。
造船株と経済安全保障はどう関係していますか?
港湾クレーンなどの港湾インフラは、有事の際に物資輸送を支える重要施設であり、その製造・保守を特定の外国企業に依存するリスクが経済安全保障上の課題として意識されるようになっている。造船・重工業は、軍事的な文脈だけでなく、有事にサプライチェーンを国内で維持できるかという経済安全保障の文脈でも評価される時代に入っており、三井E&Sホールディングスの港湾クレーン事業のように、艦艇建造以外の形で重要インフラを支える企業の役割も見逃せない。
造船株と防衛株はどう違うのですか?
防衛株は、防衛装備品の開発・製造・調達に関わる企業全般を指す広い括りで、ミサイルやレーダー、電子機器メーカーなども含まれる。造船株はそのなかでも、実際に艦艇や船舶の「船体」を建造する能力を持つ企業に絞った、より狭いテーマだ。防衛株全般の選び方は防衛関連銘柄の投資ガイドで、造船に特化した企業の比較は本記事で扱っている。
造船株に投資するリスクは何ですか?
主なリスクは3つある。第一に、受注型ビジネス特有の業績の波の大きさ。第二に、中国・韓国との国際競争による価格競争力の圧迫。第三に、防衛費や政権方針といった政策動向に業績・株価が左右されやすい「テーマ株」としての値動きの荒さだ。投資する際は、これらのリスクを理解したうえで、自己責任で判断してほしい。
造船重工株ランキングTOP7 まとめ表
| 順位 | 企業名 | コード | 市場 | 造船との関わり | 防衛依存度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | 三菱重工業 | 7011 | 東証プライム | 長崎・玉野で艦艇建造 | 高(総合力トップ) |
| 2位 | 川崎重工業 | 7012 | 東証プライム | 神戸で潜水艦建造(2社体制) | 高 |
| 3位 | IHI | 7013 | 東証プライム | JMUに約20%出資 | 中(航空機エンジンが主力) |
| 4位 | JFEホールディングス | 5411 | 東証プライム | JMUに約20%出資 | 低(鉄鋼が主力) |
| 5位 | 三井E&Sホールディングス | 7003 | 東証プライム | 艦艇事業は三菱重工へ譲渡済み | 低(縮小傾向) |
| 6位 | 名村造船所 | 7014 | 東証スタンダード | 商船建造が主力 | 低(純粋造船株) |
| 番外 | ジャパンマリンユナイテッド | 非上場 | ─ | 艦艇建造で国内最大級 | 高(投資不可) |
総合力の三菱重工、潜水艦の川崎重工、間接エクスポージャーのIHI・JFE、撤退の教訓を映す三井E&S、そして防衛色の薄い純粋造船株の名村造船所。同じ「造船株」というテーマの中にも、これだけ異なる性格を持つ企業が並んでいる。自分がどの切り口でこのテーマに投資したいのかを整理してから、個別銘柄の分析に進むことをおすすめしたい。
まとめ|「誰が艦を作るか」という視点
造船重工株ランキングを通じて見えてくるのは、単純な「防衛費が増えれば株価も上がる」という話では片付かない、日本の造船業が歩んできた再編の歴史だ。三菱重工業が艦艇建造の総合力で頂点に立つ一方、三井E&Sのように主力事業を手放した名門もあり、実力最大手のJMUには投資家として直接手が届かないという現実もある。
それでも、これらの企業が作る一隻一隻の艦艇には、長崎や玉野、神戸の造船所で働く人々の技術と、旧海軍工廠から続く長い歴史が流れ込んでいる。防衛費という数字の向こうに、艦を作る人と場所があるということを、投資家として知っておく価値は大きいと思う。数字だけを追うのではなく、その数字の背後にある産業の物語まで理解しておくことが、長くこのテーマと付き合ううえでの一番の武器になるはずだ。
防衛産業全体の構造をさらに知りたい読者は日本の防衛産業・軍需企業一覧へ、防衛費GDP2%時代の受益企業を幅広く見渡したいなら防衛費GDP比2%時代の儲かる受益企業ランキングへ、世界の軍需企業との比較なら世界の軍事・防衛産業企業ランキングTOP30へと読み進めてほしい。一隻の艦艇から、技術・歴史・産業・投資へと、視界はどこまでも広がっていく。造船という古くて新しいテーマを、これからも定期的に追いかけていきたいと思う。
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