自衛官のお金の話というと、どうしても退職金に目が行く。2,000万円を超える、という話もよく聞く。
でも、退職金だけで老後を考えると、大事なものを見落とす。年金だ。そして自衛官の場合、年金には一つ、ほかの仕事にはない大きな落とし穴がある。
定年が早すぎるのだ。
多くの自衛官は55歳か56歳で定年を迎える。ところが、公的年金がもらえるのは原則65歳から。そのあいだに、およそ10年の「空白」がある。この10年をどう埋めるかで、自衛官の老後は大きく変わる。
この記事は、自衛官の年金の仕組みを整理したうえで、若年定年、退職金、年金を全部足した「老後の手取り」を、ざっくり試算してみるものだ。退職金そのものの計算は自衛官の退職金の解説で書いているので、ここでは年金を軸に、全体の流れを見ていく。
※年金額は個人の加入期間や給与によって大きく変わる。この記事の試算は、制度の仕組みを理解するための単純化した目安だ。自分の正確な見込み額は、ねんきん定期便や、防衛省共済組合から届く通知、ねんきんネットで確認してほしい。
まず結論:自衛官の年金は「3階建て」

自衛官の年金は、民間の会社員とほぼ同じ「1階・2階」に、公務員ならではの「3階」が乗った3階建てになっている。
| 階 | 名前 | 中身 |
|---|---|---|
| 1階 | 老齢基礎年金(国民年金) | 全国民共通。満額で月7万608円(2026年度) |
| 2階 | 老齢厚生年金 | 在職中の給与に応じて決まる。会社員と同じ仕組み |
| 3階 | 年金払い退職給付(+経過的職域加算) | 公務員独自の上乗せ。半分は終身、半分は有期 |
共済年金は、もうない
一昔前まで、公務員の年金は「共済年金」と呼ばれていた。でも2015年10月、公務員の共済年金は会社員の厚生年金に一本化された。今の自衛官は、会社員と同じ厚生年金に入っている。
ただし、窓口は日本年金機構ではなく、防衛省共済組合などの共済組合になる。だから、自衛官の年金の手続きや通知は、共済組合から届くことが多い。
1階:老齢基礎年金
全国民共通の基礎年金だ。2026年度の満額は、月7万608円。年にすると約85万円になる。20歳から60歳までの40年間、保険料を納めていれば、この満額がもらえる。
2階:老齢厚生年金
給与に比例して決まる年金だ。会社員と同じで、在職中の給与とボーナスが多いほど、そして加入期間が長いほど、金額が増える。
3階:年金払い退職給付
ここが公務員ならではの部分だ。
共済年金にはもともと「職域加算」という3階部分があったが、2015年の一元化で廃止された。そのかわりにできたのが「年金払い退職給付」で、民間の企業年金にあたる。
仕組みはこうだ。在職中、毎月の給与とボーナスの1.5%にあたる額が、本人と国の折半で積み立てられていく。それに利息がついて、退職後に年金として受け取る。もらい方は、半分が一生もらえる終身年金、残りの半分が10年か20年に分けてもらう有期年金になる。有期年金の部分は、一時金でまとめて受け取ることもできる。受け取り始めるのは原則65歳からで、60歳まで早めたり、70歳まで遅らせたりもできる。
2015年9月以前に自衛官として働いていた期間がある人は、その期間について、旧制度の職域加算の名残である「経過的職域加算」も受け取れる。
自衛官の定年は何歳か
ここで、自衛官の定年をおさらいしておく。自衛官は、部隊の精強さを保つため、一般の公務員より早く退職する「若年定年制」をとっている。
定年は、2023年と2024年に対象階級を分けて、それぞれ1年引き上げられ、今はこうなっている。
| 階級 | 定年 |
|---|---|
| 将・将補 | 60歳 |
| 1佐 | 58歳 |
| 2佐・3佐 | 57歳 |
| 1尉〜3尉・准尉・曹長・1曹 | 56歳 |
| 2曹・3曹 | 55歳 |
退職日は、その年齢の誕生日だ。だから自衛官の定年退職者は、年度末に一斉に辞めるのではなく、一年を通じて出てくる。定年について詳しくは自衛隊の定年の解説を見てほしい。
最大の問題:定年から年金までの「空白の約10年」

ここが、この記事で一番伝えたいところだ。
たとえば1曹で56歳で定年を迎えた人の場合、年金がもらえる65歳まで、9年ある。2曹で55歳なら10年だ。
普通の会社員は、60歳か65歳まで働いて、そのまま年金生活に入る。でも自衛官は、50代半ばで給料がいったん止まる。しかも、子どもの学費がまだかかっていたり、住宅ローンが残っていたりする年代だ。
この空白を埋めるために、自衛官には3つの支えがある。
支え1:退職金
まず、退職金だ。定年まで勤めた自衛官の退職金は、階級や勤続年数によって違うが、2,000万円前後になることも珍しくない。ただし、これを空白の10年の生活費に全部使ってしまうと、65歳からの老後資金がなくなってしまう。退職金は「空白を埋めるお金」ではなく、「老後全体を支えるお金」として考えたほうがいい。自分の退職金の目安は自衛隊の退職金シミュレーターで計算できる。
支え2:若年定年退職者給付金
次に、自衛官ならではの給付金がある。若年定年退職者給付金だ。
これは、一般の公務員より早く定年を迎えることで生じる収入の差を補うための給付金で、定年退職の時期と、その後の数年に分けて支給される。退職後に再就職して収入があると、その額に応じて減らされる仕組みになっている点には注意がいる。詳しい計算方法は若年定年退職者給付金の解説にまとめた。
支え3:再就職
そして、一番大きいのが再就職だ。
自衛隊には、退職する自衛官の再就職を支援する仕組みがあり、地方協力本部などが企業とのあいだを取り持っている。2026年度には、定年退職者だけで年間約5,800人の再就職が見込まれている。防災や警備、施設の管理、運転、整備など、自衛隊で身につけた技術や資格を生かせる仕事が多い。
再就職して会社員になれば、給料が入るだけでなく、厚生年金にも引き続き加入できる。つまり、再就職している期間の分だけ、65歳からの年金も増えていく。空白の10年を「働いて埋める」ことは、老後の年金を増やすことにもつながるのだ。再就職の実態は元自衛官のリアル転職の記事や、元自衛官の資格転職の記事で書いている。
見落としがちな落とし穴:60歳までの国民年金
一つ、見落としやすい点を書いておく。
基礎年金を満額もらうには、20歳から60歳までの40年間、保険料を納めている必要がある。56歳で定年退職して、そのあと再就職せずにいると、60歳までの4年間は、会社員としての厚生年金に入っていない状態になる。この場合、自分で国民年金の保険料を納めないと、その期間が「未納」になり、基礎年金が減ってしまう。
再就職するなら厚生年金に入るので心配はいらないが、しばらく働かずに休むつもりの人は、国民年金の手続きを忘れないようにしてほしい。
ざっくり試算:65歳からの年金はいくらになるのか

では、実際にどれくらいの年金がもらえるのか。ここでは、わかりやすくするために、かなり単純化したモデルで計算してみる。
試算の前提
- 18歳で入隊し、1曹として56歳で定年退職(自衛官としての厚生年金の加入期間は38年=456か月)
- 自衛官時代の平均の給与(ボーナスを含めた月額)は45万円
- 56歳から65歳まで9年間、月30万円(ボーナスを含めた月額)で再就職して厚生年金に加入
- 20歳から60歳まで、基礎年金の保険料はすべて納付済み
計算
2階の老齢厚生年金は、ざっくり言うと「平均の給与 × 5.481/1000 × 加入した月数」で計算できる。
自衛官時代の分は、45万円 × 5.481/1000 × 456か月で、年およそ112万円になる。
再就職した9年間の分は、30万円 × 5.481/1000 × 108か月で、年およそ18万円。
1階の基礎年金は、満額で年およそ85万円。
3階の年金払い退職給付は、本人の積立額や利率、受け取り方によって大きく変わるので、一概には言えない。ただ、2015年以降の制度で38年間積み立てた場合、私の粗い試算では、受け取り始めの段階で年15万〜20万円程度になる計算だった。これはあくまで目安として見てほしい。
合計
| 内訳 | 年額(目安) |
|---|---|
| 老齢厚生年金(自衛官時代) | 約112万円 |
| 老齢厚生年金(再就職の9年間) | 約18万円 |
| 老齢基礎年金 | 約85万円 |
| 年金払い退職給付 | 約15〜20万円 |
| 合計 | 約230万円前後(月19万円ほど) |
単身で、配偶者の年金を含めない場合の数字だ。配偶者がいれば、配偶者自身の年金が加わる。配偶者が年下の場合などには、加給年金という上乗せがつくこともある。
月19万円ほどというのは、悪くない水準だと思う。ただし、ここから税金や社会保険料が引かれるので、実際の手取りはもう少し減る。
再就職しなかった場合
もし、56歳で退職したあと再就職せず、国民年金の保険料だけを自分で納めた場合は、再就職の9年間の分(約18万円)がなくなる。合計は年210万円ほど、月17万5,000円ほどになる。
再就職の9年間で、65歳からの年金が年18万円変わる。90歳まで受け取るとすると、25年間で450万円の差だ。再就職は、目先の生活費のためだけでなく、老後の年金のためにも大きな意味を持っている。
老後の手取りを「まるごと」で考える
ここまでを、56歳で定年を迎えた1曹の一生のお金の流れとして、ざっくりまとめるとこうなる。
| 期間 | 主な収入 |
|---|---|
| 56歳(定年) | 退職金(2,000万円前後が目安) |
| 56〜65歳 | 再就職の給与+若年定年退職者給付金(収入に応じて調整) |
| 65歳〜 | 公的年金(試算では年230万円前後) |
こうして並べると、自衛官の老後は、決して心細いものではない。退職金がしっかりあり、再就職の支援があり、年金も3階建てだ。
ただ、それは「退職金を空白の10年で使い切らない」「再就職して厚生年金に入り続ける」という前提があってのことだ。この二つを外すと、65歳以降の生活が一気に苦しくなる可能性がある。
大日本帝国ファンとして:消えた「軍人恩給」
ここで少し、昔の話を書いておく。
戦前の日本の軍人には、「恩給」という制度があった。一定の年数を勤めた軍人には、退職後、国から生涯にわたって恩給が支払われた。軍人が早く退役しても、老後の生活がある程度保障されていたのだ。
この軍人恩給は、敗戦後、占領軍の方針で停止された。のちに日本が独立を回復してから復活し、戦前に勤めた元軍人やその遺族には今も支払われているが、戦後にできた自衛隊の自衛官には、軍人恩給のような特別な年金制度はない。自衛官の年金は、あくまで普通の公務員や会社員と同じ厚生年金の枠組みの中にある。
それなのに、定年は普通の公務員よりずっと早い。この「早く辞めるのに、年金は普通」というアンバランスを補うために、若年定年退職者給付金や再就職の支援がある、と考えるとわかりやすいと思う。
自衛官にできる、老後への備え

最後に、現役の自衛官や、これから自衛官を目指す人ができる備えを書いておく。
早いうちから「空白の10年」を意識する
一番大事なのは、50代半ばで給料がいったん止まる、という事実を、若いうちから知っておくことだ。住宅ローンの返済が定年のあとまで残るような組み方をしていないか。子どもの教育費のピークが定年と重ならないか。このあたりを、30代、40代のうちから考えておくだけで、定年のときの余裕がまるで違ってくる。
資格を取っておく
再就職で有利になるのは、やはり資格だ。自衛隊の中で取れる資格や、在職中に勉強して取れる資格は多い。大型の運転免許、危険物取扱者、電気工事士、ボイラー技士など、民間でそのまま使える資格を持っていると、再就職先の選択肢が広がる。
予備自衛官という選択肢
定年退職したあとも、予備自衛官として自衛隊とつながり続ける道もある。年に何日かの訓練に参加することで手当が出る。大きな収入ではないが、再就職と組み合わせることもできる。詳しくは予備自衛官の解説へ。
NISAで、自分の「4階」をつくる
そして、公的年金の3階建てに、自分で「4階」を足すという考え方もある。新NISAだ。
NISAの口座で投資した分の利益には税金がかからない。若いうちから少しずつ積み立てておけば、空白の10年のつなぎにも、65歳からの年金の上乗せにもなる。自衛官は公務員なので、iDeCo(個人型確定拠出年金)にも加入できる。iDeCoの掛金の上限は、年金払い退職給付との関係で決まり、制度の見直しも続いているので、加入する前に最新の上限を確認してほしい。
新NISAの仕組みは、この入門書が一番わかりやすかった。
NISAを始めるには、証券口座が要る。私は、日本株も米国株もNISAも一つのアプリで扱える口座を使っている。
※この章は、制度と考え方を紹介するもので、特定の金融商品の購入を勧めるものではない。投資には元本割れのリスクがある。投資の判断は、必ずご自身で行ってほしい。
まとめ
自衛官の年金は、会社員と同じ基礎年金と厚生年金に、公務員独自の年金払い退職給付が乗った3階建てだ。単純化した試算では、65歳から年230万円前後、月19万円ほどの年金が見込める。
ただし、自衛官には、55〜56歳の定年から65歳の年金開始まで、約10年の空白がある。退職金、若年定年退職者給付金、そして再就職の3つで、この空白をどう埋めるか。そして、空白の期間に退職金を使い切らず、厚生年金に入り続けられるか。それが、自衛官の老後の手取りを決める。
自衛官の給料そのものについては、自衛官の年収・給料モデルで詳しく書いている。現役のうちの給料と、定年後のお金の流れの両方を知っておくと、自分の一生の設計図が見えてくると思う。
免責事項:本記事は2026年10月6日時点の公開情報をもとに、制度の概要を一般的に説明したものであり、個別の年金相談や投資助言ではない。試算は大幅に単純化した目安であり、実際の年金額は加入期間・給与・受給方法・制度改正などによって異なる。正確な見込み額は日本年金機構・防衛省共済組合などの公式な通知や窓口で確認し、投資の判断はご自身の責任で行ってほしい。







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