『ペリリュー 楽園のゲルニカ』に感動したら観たい戦争アニメ映画7選|”可愛い絵柄×地獄の戦場”の系譜を辿る

2025年12月5日、終戦80年という節目の年に、一本のアニメ映画が公開された。

『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』だ。

1万人の日本兵が送り込まれ、生き残ったのはわずか34人。米軍も死傷率60%という壮絶な損害を出した「忘れられた戦い」を、親しみやすい三頭身のキャラクターで描いた原作漫画が、ついにスクリーンで動き出す。

俺はこの作品の公開を心待ちにしていた一人だ。そして同時に、ある確信がある。

この映画を観た後に、「戦争アニメ」というジャンルの名作たちに触れておくことで、『ペリリュー』の衝撃は何倍にも増幅されるはずだ、と。

本記事では、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』の感動が冷めないうちに、ぜひ観ておきたい戦争アニメ映画を7本厳選して紹介する。単なるおすすめリストではない。「可愛い絵柄×地獄の戦場」という『ペリリュー』の革新性がどのような系譜の上に成り立っているのか、その文脈を理解するためのガイドだ。

目次

なぜ今、戦争アニメを観るべきなのか

「戦争アニメ」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。

重苦しい。説教臭い。観るのが辛い。

そんなイメージを持つ人も多いだろう。確かに、戦争を題材にした作品は重いテーマを扱うことが多い。しかし、だからこそアニメというメディアが選ばれる意義がある。

実写では再現不可能な戦場の迫力。デフォルメによって際立つ人間ドラマ。そして、「絵」だからこそ直視できる残酷な現実。

『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は、まさにこのアニメの強みを最大限に活かした作品だ。武田一義氏による原作漫画は、可愛らしい三頭身のキャラクターを使いながら、戦争の狂気を圧倒的なリアリティで描き切り、日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した。

この「可愛い絵柄×地獄の戦場」という組み合わせは、実は日本のアニメ・漫画文化が長年かけて磨き上げてきた表現手法の一つだ。そしてその系譜を知ることで、『ペリリュー』がいかに特別な作品であるかが見えてくる。

では、時代を遡りながら、戦争アニメの名作たちを見ていこう。

1. 火垂るの墓(1988年)──すべての原点にして最高峰

「観ると辛くなるから二度と観られない」

そう語る人が後を絶たない。1988年公開、スタジオジブリの高畑勲監督による『火垂るの墓』は、戦争アニメの金字塔であり、同時にトラウマ製造機としても名高い作品だ。

物語の舞台は1945年、神戸。14歳の清太と4歳の妹・節子は、神戸大空襲で母を失い、親戚の家に身を寄せる。しかし戦時下の食糧難、そして周囲との軋轢の中で、二人は防空壕での自活を選ぶことになる。

この作品が恐ろしいのは、敵の姿がほとんど描かれないことだ。空襲シーンはあるが、アメリカ兵は出てこない。清太と節子を追い詰めるのは、飢えであり、病気であり、そして「普通の日本人」たちの冷たさだ。

野坂昭如の原作小説は、著者自身の戦争体験に基づいている。妹を栄養失調で亡くしたという実体験が、物語に圧倒的なリアリティを与えている。

『ペリリュー』との共通点

『火垂るの墓』と『ペリリュー』には、重要な共通点がある。それは「戦場の外側にいる人間」の視点だ。

『火垂るの墓』の清太は兵士ではない。戦場に立つことなく、しかし戦争によって確実に命を奪われていく。『ペリリュー』の主人公・田丸もまた、「功績係」という非戦闘員に近い立場から戦場を見つめる。

どちらも、銃を撃って敵を倒すヒーローの物語ではない。戦争の中で翻弄され、それでも生きようとする「普通の人間」の物語だ。

視聴可能なサービス Netflix

2024年から、長らく配信されていなかった本作がついにNetflixで配信開始となった。終戦80年の今年、観直すべき一本だ。

2. この世界の片隅に(2016年)──日常の中に溶け込んだ戦争

公開当初、わずか63館という小規模上映からスタートし、口コミで爆発的に広がった異例の大ヒット作。片渕須直監督による『この世界の片隅に』は、戦争映画の概念を覆した傑作だ。

主人公のすずは、広島から呉に嫁いだ18歳の少女。絵を描くことが好きで、少しぼんやりした性格の彼女は、戦時下の日常を淡々と生きていく。配給、空襲警報、そして物資の欠乏。それでも彼女は、工夫を凝らして家族の食事を作り、笑顔で過ごそうとする。

この作品の革新性は、「戦争を描かない戦争映画」であることだ。

もちろん、空襲シーンや原爆投下は描かれる。しかし、物語の大部分は「普通の生活」の描写に費やされる。ご飯を炊く。洗濯をする。近所の人と世間話をする。その日常の中に、少しずつ戦争が入り込んでくる。

だからこそ、すずが右手を失うシーンは、観客の心を抉る。それまで丁寧に積み上げられた「日常」が、一瞬で崩壊する瞬間だからだ。

『ペリリュー』との共通点

こうの史代による原作漫画は、すずを丸っこい、可愛らしいタッチで描いている。この「可愛い絵柄×戦争の残酷さ」という組み合わせは、まさに『ペリリュー』の先駆けと言える。

両作品に共通するのは、「デフォルメされた絵柄だからこそ、残酷さが際立つ」という逆説だ。リアルな絵柄であれば、観客は「フィクションだ」と心理的に距離を取ることができる。しかし、親しみやすいキャラクターが傷つき、死んでいく姿は、その防御壁をすり抜けて直接心に突き刺さる。

終戦80年の2025年、本作のリバイバル上映も予定されている。『ペリリュー』と合わせて観ることで、「可愛い絵柄×地獄の戦場」という表現の到達点を体感できるだろう。

3. 風立ちぬ(2013年)──「美しいもの」への渇望と戦争の業

宮崎駿監督の「引退作」として公開された『風立ちぬ』は、戦争アニメとしては異色の作品だ。

主人公は堀越二郎。零戦の設計者として知られる実在の航空技術者をモデルに、架空の人生が描かれる。物語は二郎の少年時代から始まり、「美しい飛行機を作りたい」という純粋な夢が、いつしか「殺人兵器」の開発へと繋がっていく過程を追う。

この映画が問いかけるのは、「技術者の業」だ。

二郎は戦争を望んでいない。ただ、美しい飛行機を作りたかっただけだ。しかし、その才能は結果として、真珠湾攻撃やミッドウェー海戦に使われる零式艦上戦闘機を生み出す。

「美しいものを作りたい」という純粋な欲求と、それが戦争に利用されるという現実。宮崎駿は、その矛盾を断罪することなく、ただ静かに描き出す。

『ペリリュー』との対比

『風立ちぬ』と『ペリリュー』は、ある意味で対照的な作品だ。

前者は「兵器を作る側」の物語であり、後者は「兵器に殺される側」の物語だ。しかし、両者に共通するのは、「個人の意思とは無関係に進んでいく戦争の巨大さ」への視線だ。

二郎が作った零戦は、ペリリュー島にも飛んでいたかもしれない。田丸が見上げた空に、二郎の夢の結晶が飛んでいたかもしれない。そう考えると、この二つの作品は、表裏一体の関係にあることがわかる。

戦史ファンとして言わせてもらえば、零戦の設計思想や当時の航空技術についての描写は、かなり踏み込んだものになっている。詳しく知りたい方は、当ブログの零戦解説記事も参考にしてほしい。

関連記事:最強と謳われた零戦の真実——21型から52型へ、連合軍を恐怖させた日本の戦闘機の光と影

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4. ザ・コクピット(1993年)──松本零士が描いた「戦場の人間」

ここで少し趣を変えて、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)の名作を紹介しよう。

『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』で知られる松本零士が、ライフワークとして描き続けた「戦場まんがシリーズ」。その中から3つのエピソードをアニメ化したのが『ザ・コクピット』だ。

「成層圏気流」「音速雷撃隊」「鉄の竜騎兵」の3話で構成され、それぞれ異なるスタジオ・監督が手掛けている。

特に圧巻なのが「音速雷撃隊」だ。

特別攻撃機「桜花」を題材にしたこのエピソードは、人間爆弾として敵艦に突入する若い兵士たちの姿を、松本零士特有の美学で描き出す。彼らは死を恐れている。それでも、「桜花」に乗り込む。その心理の複雑さを、わずか25分の中で見事に表現している。

松本零士の父は、陸軍の戦闘機パイロットだった。その影響からか、彼の描く戦場には、常に「乗り物への愛」と「人間の尊厳」が同居している。飛行機は美しい。戦車は格好いい。しかし、それを操る人間は、常に死と隣り合わせだ。

『ペリリュー』との共通点

『ザ・コクピット』と『ペリリュー』には、「兵士の視点」という共通点がある。

どちらも、将軍や政治家ではなく、現場の一兵卒の目線で戦争を描く。彼らには大局が見えない。自分がなぜ戦っているのか、この戦争に意味があるのか、わからないまま死んでいく。

その「わからなさ」こそが、戦争の本質なのかもしれない。

『ザ・コクピット』は現在、Amazon Prime Videoで配信中だ。全3話で約75分と、手軽に観られる長さなのも嬉しい。

関連記事:米国を恐怖させたロケット推進特攻機、桜花(MXY-7)の全貌|開発・構造・沖縄戦の実像と教訓

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5. はだしのゲン(1983年・1986年)──原爆の地獄を描いた衝撃作

日本の戦争アニメを語る上で、この作品を外すことはできない。

中沢啓治の自伝的漫画を原作とした『はだしのゲン』は、広島への原爆投下とその後の混乱を、被爆者の視点から描いた作品だ。1983年に第1部、1986年に第2部がアニメ映画として公開された。

この作品の特徴は、その「容赦のなさ」にある。

原爆投下の瞬間、人々の皮膚が溶け落ち、目玉が飛び出し、黒焦げの死体が街を埋め尽くす。そのすべてが、アニメーションで描かれる。実写では到底表現できない、いや、実写で表現したら正気を保てないような地獄絵図が、スクリーンに展開される。

「子供向けではない」という批判も多い。確かに、トラウマになる可能性は高い。しかし、中沢啓治自身が被爆体験者であり、この描写こそが「原爆の現実」だと主張している。

『ペリリュー』との比較

『はだしのゲン』と『ペリリュー』は、「残酷さの描き方」において異なるアプローチを取っている。

前者は、地獄絵図をそのまま描くことで衝撃を与える。後者は、可愛いキャラクターが少しずつ追い詰められていく過程を丁寧に描くことで、じわじわと絶望を染み込ませる。

どちらが正解というわけではない。ただ、『ペリリュー』の手法は、より多くの観客に「戦争の実態」を届けられる可能性を持っている。グロテスクな描写に耐えられない人でも、『ペリリュー』なら最後まで観られるかもしれない。そして、その「最後まで観られる」ことが、メッセージを伝える上では重要なのだ。

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6. 紺碧の艦隊(1993年~)──「もし」を描いた架空戦記

ここまで「史実に基づいた」作品を紹介してきたが、一つ趣向を変えてみよう。

『紺碧の艦隊』は、荒巻義雄の小説を原作とするOVAシリーズだ。太平洋戦争を戦った日本海軍の将校たちが、記憶を持ったまま昭和初期に転生し、「負けない日本」を作るために奮闘するという架空戦記である。

潜水空母「伊400」をベースにした潜水艦や、実在しなかった超兵器が登場し、日本軍がアメリカ軍を撃退していく。いわゆる「日本TUEEE」系の作品であり、史実とは大きく異なる展開が続く。

「歴史を改変する」という設定に批判的な意見もある。しかし、この作品が人気を博したのには理由がある。それは、「史実の日本軍が、もっとうまくやっていたら」という、多くの日本人が抱く複雑な感情に応えたからだ。

『ペリリュー』との対比

『紺碧の艦隊』と『ペリリュー』は、ある意味で正反対の作品だ。

前者は「勝利する日本」を描き、後者は「敗北していく日本兵」を描く。前者は娯楽として楽しめる架空戦記であり、後者は史実の悲惨さを正面から突きつける。

しかし、両者を観ることで、「戦争の多面性」を理解できるようになる。日本軍は強かったのか、弱かったのか。勇敢だったのか、愚かだったのか。その答えは一つではない。

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7. 映像の世紀(ドキュメンタリー)──「事実」の重み

最後に紹介するのは、厳密にはアニメではない。しかし、『ペリリュー』を観る前にぜひ触れておいてほしい作品だ。

NHKが制作した『映像の世紀』シリーズは、20世紀の出来事を当時の記録映像で振り返るドキュメンタリーだ。第二次世界大戦を扱った回では、太平洋戦争の実際の映像が多数使用されている。

なぜこの作品を紹介するのか。

それは、「フィクション」と「事実」の距離を確認してほしいからだ。

『ペリリュー』は素晴らしい作品だが、あくまでフィクションだ。デフォルメされた絵柄、整理されたストーリー、感情を揺さぶる演出。それらは、物語として成立させるための「嘘」でもある。

一方、『映像の世紀』が見せるのは、何の演出もない「事実」だ。実際に撮影された戦場の映像。実際に死んでいった兵士たちの姿。その映像には、物語のような起承転結はない。ただ、淡々と事実が記録されているだけだ。

『ペリリュー』を観た後、あるいは観る前に、『映像の世紀』に触れることをお勧めする。フィクションの力と、事実の重み。その両方を知ることで、戦争への理解はより深まるはずだ。

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戦争アニメが描く「人間」の姿

ここまで7本の作品を紹介してきた。最後に、これらの作品に共通する「戦争アニメの本質」について考えてみたい。

ときに戦争映画や戦争アニメに対して、「反戦プロパガンダだ」「戦争を美化している」という両極端な批判がされる。しかし、本当に優れた戦争作品は、そのどちらでもない。

優れた戦争作品が描くのは、「戦争の中にいる人間」の姿だ。

『火垂るの墓』の清太は、愚かな決断をする。親戚の家を飛び出し、結果として妹を死なせてしまう。しかし、それを「清太が悪い」と断罪するのは簡単だが、本質を見失っている。清太は14歳の少年だ。戦争がなければ、そんな決断を迫られることはなかった。

『この世界の片隅に』のすずは、戦争を肯定も否定もしない。ただ、与えられた状況の中で、できる限りの幸せを見つけようとする。それは「強さ」なのか「諦め」なのか。答えは観客それぞれに委ねられる。

『ペリリュー』の田丸もまた、そうした「人間」の一人だ。彼は英雄ではない。戦争を止める力も、仲間を救う力もない。ただ、「功績係」として、死んでいく仲間の最期を記録する。時には嘘を交えて美談に仕立てながら。

その姿に、私たちは何を見るのだろうか。

それが、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を観る前に、自分自身に問いかけてほしいことだ。

映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』に向けて

2025年12月5日。

終戦80年という節目に、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は公開される。

主人公・田丸均の声を担当するのは板垣李光人。彼は撮影前に実際にペリリュー島を訪れ、今も残る戦跡を歩いたという。「80年前も、2025年の今も、そしてこれからも。命の尊さは平等であり、その尊厳は普遍的である」。彼のコメントからは、この作品への真摯な向き合い方が伝わってくる。

相棒の吉敷佳助を演じるのは中村倫也。シンエイ動画と冨嶽がタッグを組んでアニメーション制作を担当し、原作者の武田一義氏自身が脚本に参加している。

本記事で紹介した戦争アニメの歴史を知り、「可愛い絵柄×地獄の戦場」という表現の系譜を辿ることで、『ペリリュー』の革新性がより鮮明に見えてくるはずだ。

終戦から80年。当時を知る人々は、少なくなっている。

だからこそ、アニメという形で、戦争の記憶を継承していくことに意味がある。

『ペリリュー 楽園のゲルニカ』が、その最新の到達点となることを期待している。

まとめ:観ておきたい戦争アニメ7選

最後に、本記事で紹介した作品をまとめておこう。

作品名公開年主な視聴サービスおすすめポイント
火垂るの墓1988年Netflix戦争アニメの原点にして最高峰
この世界の片隅に2016年Amazon Prime Video, U-NEXT日常の中に溶け込んだ戦争を描く
風立ちぬ2013年U-NEXT, Netflix兵器を作る側の苦悩
ザ・コクピット1993年Amazon Prime Video松本零士が描く戦場の人間ドラマ
はだしのゲン1983年U-NEXT(レンタル)原爆の地獄を容赦なく描く
紺碧の艦隊1993年~Amazon Prime Video架空戦記の代表作
映像の世紀1995年~NHKオンデマンドフィクションとの距離を確認

これらの作品を観た上で『ペリリュー 楽園のゲルニカ』に臨めば、きっと何倍もの感動と衝撃を得られるはずだ。

終戦80年の今年、「戦争アニメ」というジャンルの名作たちに、ぜひ触れてみてほしい。

関連記事

『ペリリュー 楽園のゲルニカ』についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

ペリリュー島の戦いについての詳細な解説は、こちらの記事をどうぞ。

太平洋戦争の他の激戦地についても知りたい方は、こちらをご覧ください。


終戦80年の今年、戦争と向き合う時間を持つことに意味があると、ぼくは信じている。

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