チャフとフレアの違い|戦闘機がまく「銀色の雲」と「光る玉」は何をだましているのか──レーダーと赤外線、ジャマーとの違い、今も効くのかまで

チャフとフレアの解説記事

ニュース映像で、低く飛ぶヘリコプターが左右に光の玉をばらまきながら飛んでいくのを見たことがあると思う。輸送機の後ろに、天使の羽のような光の弧が描かれた写真を見た人もいるはずだ。あれがフレアだ。

一方のチャフは、映像で見かけることがほとんどない。それもそのはずで、チャフは髪の毛より細い繊維の雲で、肉眼ではうっすら銀色に光る煙くらいにしか見えないからだ。

この二つは、よく「チャフ・フレア」とひとまとめに呼ばれる。エースコンバット8でも、僚機に援護を指示すると、チャフやフレアでミサイルの脅威を減らしてくれることがある。でも、二つがだましている相手はまったく違う。チャフはミサイルの「電波の目」を、フレアはミサイルの「熱の目」をだます。

この記事では、チャフとフレアの違いを図で整理し、電波を出して妨害するジャマーとの違い、そして最新のミサイル相手に今も効くのかまで、実在の装備に沿って見ていく。

この記事のポイント
目次

結論|チャフは「電波」、フレアは「熱」をだます

まず、違いを表にまとめる。

ひとことで言えば、チャフはレーダーに「本物より大きな偽物」を見せ、フレアは赤外線の目に「本物より熱い偽物」を見せる。だます感覚がまるで違うのだ。

図解|2つのおとりを並べて見る

チャフの電波反射とフレアの赤外線放射を二つの図で示す
チャフはレーダーの電波に反射を返し、フレアは赤外線センサーに別の熱源を見せる。 図を拡大する

左がチャフだ。AIM-120のようなレーダー誘導のミサイルは、自分で電波を出し、跳ね返ってきた電波で目標を追う。そこへ戦闘機が繊維の雲をまくと、雲が電波を強く跳ね返し、レーダーの画面に大きな偽の目標が現れる。

右がフレアだ。赤外線で誘導するミサイルは、エンジンの排気の熱を追っている。そこへ戦闘機が燃える玉を放つと、ミサイルの目にはエンジンより明るい熱の点が飛び込んでくる。ミサイルがそちらに気を取られたすきに、戦闘機は逃げる。

どちらも「おとり」という点は同じだ。違うのは、だます感覚が電波か熱か、それだけだと言っていい。

チャフとは

髪の毛より細い「小さなアンテナ」

いまのチャフは、太さ0.025mmほどのガラス繊維の表面に、アルミニウムなどを塗ったものが主流だ。これを1つの筒に何百万本も詰めておき、空中にばらまく。

一本一本の繊維は、小さなアンテナのように働く。長さを、狙うレーダーの電波の波長の半分にそろえておくと、その電波を特によく跳ね返す。何百万本もの繊維がいっせいに電波を跳ね返せば、レーダーには戦闘機よりずっと大きな反射が映る。ミサイルのレーダーはその大きな反射に引っ張られ、本物を見失う。

繊維は軽いので、ゆっくりと落ちながら空中を漂う。気象観測のレーダーに、チャフの雲が映り込むことさえある。

弱点は「止まって見える」こと

チャフには大きな弱点がある。まかれた繊維は、空気の抵抗ですぐに速さを失い、ほぼその場に浮かんだ状態になる。ところが戦闘機は、時速何百kmで飛び続けている。

いまのレーダーの多くは、跳ね返ってきた電波のわずかな周波数のずれから、目標がどれくらいの速さで近づいたり遠ざかったりしているかを読み取れる。止まった雲と、飛んでいる戦闘機は、この速さの違いで見分けられてしまうのだ。

だからチャフは、まけば終わりという道具ではない。レーダーから見て真横に飛ぶような機動と組み合わせ、戦闘機の速さが「止まっているように見える」一瞬をつくって、ようやく効き目が出る。ただ、最新のレーダーが相手だと、その効果も長くは続かないとされる。チャフは、パイロットの機動とセットで初めて意味を持つ道具なのだ。

フレアとは

1,000℃を超えて燃える「熱いおとり」

フレアは、マグネシウムなどを主成分にした火工品だ。機体から放たれると同時に火がつき、1,000℃を超える温度で強い赤外線を出しながら燃える。燃えているのは数秒だけで、その間にミサイルを引きつける。

フレアを放ちながら飛ぶスイス空軍のF-5E。
フレアを放ちながら飛ぶスイス空軍のF-5E。
写真・素材:Julian Herzog ( Website )/Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

フレアが出すのは赤外線だけではない。目に見える光も、紫外線も出す。ニュース映像で白く輝いて見えるのはそのためだ。

1発では足りない

フレアは、1発まいて終わりということはまずない。燃えるのは数秒なので、ミサイルが迫るあいだ、何発も続けて放つ。大型の輸送機やヘリコプターは、左右に大量のフレアをまき、その光の軌跡が天使の羽のような形に見えることから「エンジェルフレア」と呼ばれることもある。

いまの機体の多くは、ミサイルが発射されたときの噴煙を紫外線などで見つけるミサイル警報装置を積んでいる。警報装置が発射を見つけると、パイロットが操作するより早く、自動でフレアを放つ仕組みの機体も多い。人の反応では間に合わないほど、ミサイルは速いのだ。

ミサイルとフレアの「いたちごっこ」

フレアの歴史は、赤外線誘導ミサイルとの化かし合いの歴史でもある。

初期の赤外線ミサイルは、視野の中のいちばん熱い点を追うだけだった。だから、もっと熱い点を作れば簡単にだませた。そこでミサイル側は、フレアが出す紫外線などに目をつけ、本物の機体とフレアを見分ける工夫を始める。1990年代ごろから、こうした見破る仕組みが主流になっていった。

フレアの側も負けてはいない。紫外線を減らし、本物の機体に近い赤外線の出し方をまねるように改良されてきた。

そして今、主流になりつつあるのが、赤外線の「画像」で目標を見るミサイルだ。米軍のAIM-9Xのように、熱い点ではなく、熱の「形」で機体を見分ける。こうなると、点のように燃えるフレアは、ずっと見破られやすくなる。最新のミサイルに対しては、フレアは気休めに近いとまで言う論者もいる。

それでもフレアがなくならないのは、世界にはまだ古い仕組みの赤外線ミサイルがたくさんあるからだ。特に、兵士が肩に担いで撃つ携帯式の地対空ミサイルは、低く飛ぶヘリや輸送機にとって大きな脅威で、フレアは今も大事な守りになっている。

ジャマーとの違い|「おとり」と「妨害電波」

チャフとフレアは、よくジャマーと混同される。でも、仕組みは違う。

チャフとフレアは、相手のセンサーをだます「おとり」だ。チャフは電波を跳ね返し、フレアは燃えて赤外線を放つ。一方のジャマーは、自分から電波を出して、相手のレーダーを妨害する装置だ。大きな雑音でレーダーの目をくらませる方法と、偽の反射波を作ってレーダーをだます方法がある。ただ、相手のレーダーに近づきすぎると、跳ね返る電波が強くなり、妨害を破られてしまうこともある。電子戦機の顔ぶれは世界の電子戦機一覧にまとめている。

最近は、その境目があいまいになってきた。レオナルド社のイギリス部門が作るブライトクラウドは、フレアと同じ発射口から放てる、缶飲料ほどの大きさの使い捨てジャマーだ。機体から離れたあとで電波を受け取り、偽の目標を作り出す。チャフのように「機体から離れたおとり」でありながら、ジャマーのように「電波を出して」だますわけだ。

赤外線の側にも、フレアの先がある。指向性赤外線妨害装置、略してDIRCMと呼ばれる装置だ。ミサイル警報装置が発射を見つけると、回転する砲塔からレーザーをミサイルの目に向けて照射し、追尾を狂わせる。いわば赤外線版のジャマーで、使い捨てのフレアと違って弾切れがない。

装備 だます相手 自分から発信するか 使い捨てか
チャフ レーダー しない(跳ね返すだけ) 使い捨て
フレア 赤外線 する(燃えて赤外線を放つ) 使い捨て
ジャマー レーダー する(電波を出す) 繰り返し使える
使い捨てジャマー(ブライトクラウドなど) レーダー する 使い捨て
DIRCM 赤外線 する(レーザーを当てる) 繰り返し使える
チャフ、フレア、ジャマーの働き方を三列で比較
チャフ・フレア・ジャマーは、相手のセンサーへの働きかけ方が異なる。 図を拡大する

こうして並べると、チャフとフレアは「安くて単純で、たくさん持てる」という立ち位置にあることがよく分かる。最新の妨害装置が増えても、これが全部の機体から消えない理由はそこにある。

船もチャフとフレアを使う

チャフとフレアは、戦闘機だけの道具ではない。軍艦も、対艦ミサイルから身を守るために使っている。

駆逐艦バリーのMk 36発射装置から射出されるチャフ弾(2016年)。
駆逐艦バリーのMk 36発射装置から射出されるチャフ弾(2016年)。
写真:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Kevin V. Cunningham/Released/出典(Public domain)

西側の軍艦が広く使ってきたのが、Mk 36 SRBOCという発射機だ。甲板に固定した筒からチャフやフレアの弾を撃ち上げ、艦の周りに偽の目標を作る。筒の向きが固定されているのは、撃ち上げたチャフの雲どうしが重ならないようにするためだ。

1982年のフォークランド紛争では、イギリスの軍艦がアルゼンチンの対艦ミサイルを相手に、チャフを盛んに使った。艦上戦闘機シーハリアーにはチャフの発射装置がなかったため、整備員がエアブレーキの収納部にチャフの包みを押し込むという、即席の改造まで生まれている。紛争全体の流れはフォークランド紛争の解説で書いた。

日本の企業も、この分野に挑んでいる。IHIエアロスペースは、電波を跳ね返す物体を空中に浮かべるデコイ「トレロ」を、2019年の防衛装備の展示会で公開した。チャフより大きな偽の目標をレーダーに見せられ、護衛艦が持つ既存のチャフ発射機から撃てるとされる。

歴史で見る|1943年の「ウインドウ」と、日本海軍の「欺瞞紙」

チャフの歴史は、第二次世界大戦にさかのぼる。

イギリスは、レーダーをだますためにアルミ箔をまくアイデアを早くから持っていた。ところが、すぐには使わなかった。まねされて、自分たちのレーダーが同じ手でだまされるのを恐れたからだ。ようやく使われたのは1943年7月24日に始まったハンブルク空襲だ。妨害の方式を連想させないように付けられた秘匿名から、「ウインドウ」と呼ばれた。ドイツも独自に同じものを開発していて、こちらは「デュッペル」と呼ばれ、同じ年の10月から使い始めている。

実は、日本海軍も同じ発想にたどり着いていた。日本では「欺瞞紙(ぎまんし)」と呼ばれ、1943年にはソロモン方面で使われている。同じ年の11月のブーゲンビル島沖の航空戦では、敵の艦隊の片側に欺瞞紙をまいてレーダーの注意をそちらへ引きつけ、反対側から魚雷で攻撃するという使い方も記録されている。

ただ、日本にはアルミニウムが足りなかった。航空機を作るためのアルミも足りない国で、レーダーをだますための箔をたっぷりまく余裕はなかったのだ。このころ同じ海域では、レーダーを持つ米艦隊が夜戦で日本艦隊を苦しめていた。ブーゲンビル島沖海戦は、その典型だ。電波の目を持つ相手に、電波の目をだます紙で立ち向かう。発想は負けていなかったのに、物量で押し切られた。旧海軍のこういう話を読むたびに、私は何とも言えない気持ちになる。

フレアが本格的に使われるようになったのは、赤外線誘導ミサイルが広まった1960年代以降だ。チャフより20年ほど若い道具ということになる。

日本とフレア|2016年の「妨害弾」騒動

日本にとってフレアが急に身近な話題になったのが、2016年12月のことだ。

中国の国防省は、宮古海峡の上空を通過した中国軍機に対し、緊急発進した空自のF-15が接近して「妨害弾」を撃ち、安全を脅かしたと発表した。中国の言う妨害弾とは、フレアのことだ。翌日、防衛省は、国際法と自衛隊法に沿って監視していただけで、中国機と乗員の安全を脅かすような行為は一切ないと否定した。

フレアは、燃えるのが数秒だけのおとりで、離れた相手の機体を傷つけるような道具ではない。同じ年の中国の航空ショーでは、中国側の機体が観客の上空でたくさんのフレアを放っていた、という指摘もあった。フレアが何のための装備かを知っていれば、「フレアで脅された」という主張がどれだけ苦しいかは分かる。こういう場面でも、装備の仕組みを知っておくことは無駄にならない。

投資家目線|チャフを「まく前」が日本企業の出番

チャフとフレアそのものは、使い捨ての消耗品だ。訓練でも実戦でも、まけばなくなる。地味だが、平時から一定の需要が続く商品でもある。

ただ、チャフをまくタイミングを決めるのは、その前段の装置だ。敵のレーダーに狙われていることを知らせるレーダー警戒装置や、ミサイルの発射を見つける警報装置がなければ、おとりをまくべき瞬間も分からない。空自機のレーダー警戒装置を手がける企業については東京計器の防衛事業で、電子戦全体のプレーヤーは日本のレーダー・電子戦企業一覧で整理している。

艦艇向けのデコイでは、先ほどのIHIエアロスペースのように、海外企業と組んで新しいおとりを売り込む動きもある。おとりは安く、たくさん必要になる。高価なミサイルで撃ち落とすより、安いおとりで外させるほうが割に合う場面は多い。その発想が広がるほど、地味な消耗品と、それを使いこなす電子機器の両方に目が向くはずだ。

※この記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではない。株価や業績は変動し、元本割れの可能性もある。投資判断は自己責任で。

本と模型で「見えない戦い」をもっと知る

ハンブルク空襲のウインドウから始まる夜の空の電子戦を、もっと深く知りたい人には、この本をすすめたい。レーダーと、それをだます側の攻防が、勝敗を分けたことがよく分かる。

チャフでだまされる側、つまりレーダーの仕組みから押さえたいなら、こちらが入りやすい。

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電波を出して妨害する側の主役を手元に置くなら、この電子戦機がいい。主翼の下に吊るした妨害装置のポッドを見ると、チャフやフレアとは発想がまるで違うことが分かる。機体そのものの話はEA-18Gグラウラーの解説で書いた。

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よくある質問

チャフとフレアは同時に使うの?

使うことがある。ミサイルがレーダーで誘導されているのか、赤外線で誘導されているのか、とっさには分からない場面もあるからだ。多くの戦闘機は、チャフとフレアを同じ発射装置に詰め分けて積んでいる。

フレアが地上に落ちて火事にならないの?

フレアは数秒で燃え尽きるように作られていて、燃えながら地上まで落ちてくることを前提にした道具ではない。ただ、訓練は決められた空域で行われるのが基本だ。

ステルス機もフレアを積んでいる?

積んでいる。米空軍のF-22やF-35がフレアを放つ写真も公開されている。ステルス機の顔ぶれはステルス機一覧で確認できる。レーダーに映りにくい機体でも、まったく映らないわけではないし、赤外線で狙われることもある。最後の守りとして、おとりは今も必要とされている。

エースコンバットの「フレア」と実物は同じ?

考え方は同じだ。エースコンバット8では、僚機に援護を指示すると、チャフやフレアでミサイルの脅威を減らしてくれることがある。ただし実物のフレアは、ミサイルの種類によっては効きにくいし、まけば必ず外れるという道具でもない。僚機の指示の使い方はエースコンバット8の僚機指示で書いている。

戦車もフレアを使う?

戦車は、フレアよりも煙幕を使うのが一般的だ。発煙弾で煙の壁を作り、赤外線や目による照準を妨げる。地上の車両は空を飛ぶ機体のようにおとりから離れられないので、身を隠す方向の守りが中心になる。

まとめ|「何で見ているか」を考えると全部つながる

チャフは、電波を跳ね返す細い繊維の雲で、レーダーで誘導するミサイルをだます。フレアは、強い熱を出して燃える火工品で、赤外線で誘導するミサイルをだます。どちらも使い捨てのおとりで、電波を出して妨害するジャマーとは別物だ。

ただ、ミサイルの側も進化している。速さの違いでチャフを見破るレーダー、熱の形でフレアを見破る画像赤外線のミサイル。おとりだけで逃げ切れる時代は終わりつつあり、使い捨てのジャマーやレーザーの妨害装置が、その穴を埋めようとしている。

ニュースでヘリが光の玉をまいているのを見たら、「あのミサイルは何で目標を見ているのか」を考えてみてほしい。それが分かると、チャフとフレアの違いも、その先の電子戦の話も、一本の線でつながって見えてくる。ミサイルそのものの違いは空対空ミサイルランキングで比べている。

最後まで読んでくれてありがとう。長い記事を書くときのお供は、だいたいこれだ。

出典・参考資料

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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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