2017年、ひとりの24歳の青年が防衛企業を立ち上げた。パルマー・ラッキー。10代でVRゴーグル「オキュラス・リフト」を作り、その会社をフェイスブック(現メタ)に約20億ドルで売った人物だ。
その会社、アンドゥリル・インダストリーズは、9年後の2026年5月に評価額610億ドル(1ドル150円換算で約9兆円)をつけた。2025年の売上高は22億ドル。創業から10年足らずで、何十年も続く老舗の防衛企業と同じ土俵で戦闘機の随伴無人機を受注し、オハイオ州に巨大な兵器工場を建てた。
そして、この会社はいま日本に来ている。2025年12月に日本法人を設立し、2026年6月には、日産自動車の追浜工場を取得してドローンを作る話し合いをしていると報じられた。
この記事では、アンドゥリルがどんな会社で、何を作っていて、なぜここまで急成長したのかを整理する。後半では日本での事業、投資家目線での見方、そして見落とされがちな「つまずき」まで見ていく。
- アンドゥリルは2017年創業の米国の防衛テック企業。AIソフト「Lattice」を軸に、無人機・ミサイル・センサーまで自社で作る
- 2026年5月の資金調達で評価額は610億ドル。米空軍の無人僚機(CCA)の量産にも選ばれた
- 2025年12月に日本法人を設立し、海上自衛隊とはLatticeの実証を進めている。2026年6月には日産・追浜工場の取得協議が報じられた
- 一方で、試験での失敗やウクライナでの不調も報じられていて、「何でもうまくいっている会社」ではない
アンドゥリルとは|会社の基本情報

写真:EFF/Wikimedia Commons(CC BY 3.0)
まずは会社の概要から。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Anduril Industries(アンドゥリル・インダストリーズ) |
| 創業 | 2017年 |
| 創業者 | パルマー・ラッキー、トレイ・スティーブンスほか |
| 本社 | 米カリフォルニア州コスタメサ |
| 2025年売上高 | 22億ドル(前年の2倍超) |
| 評価額 | 610億ドル(2026年5月の資金調達時) |
| 上場 | 非上場(2026年10月時点) |
| 日本法人 | Anduril Industries Japan合同会社(2025年12月設立) |
社名の「アンドゥリル」は、『指輪物語』に出てくる剣の名前だ。折れた聖剣ナルシルを鍛え直したもので、「西方の炎」という意味を持つ。主人公の一人アラゴルンが、王として戻ってくるときに手にする剣である。
実は、同じく米国の防衛テックで有名なパランティアの社名も、『指輪物語』に出てくる「見通す石」から来ている。どちらもピーター・ティールの周辺から生まれた会社で、共同創業者のトレイ・スティーブンスはパランティア出身、出資者にはティールのファンド「ファウンダーズ・ファンド」がいる。シリコンバレーの防衛テックは、なぜかトールキンが好きなのだ。
パランティアについてはパランティア(PLTR)株の解説で詳しく書いている。
創業者パルマー・ラッキーとはどんな人物か
アンドゥリルを語るうえで、創業者のパルマー・ラッキーは外せない。
1992年生まれ。10代のころから自宅のガレージでVRゴーグルを作り続け、19歳でクラウドファンディングに出した「オキュラス・リフト」が大当たりした。2014年にフェイスブックが会社ごと買い取り、ラッキーは20代前半で巨万の富を手にする。
ところが2017年、ラッキーはフェイスブックを去る。前年の大統領選挙で、トランプ支持の政治団体に寄付していたことが報じられて大きな批判を浴び、それが退社につながったと見られている。本人はのちに、政治的な立場が理由で追い出されたという趣旨の発言をしていて、会社側はそれを否定している。
シリコンバレーの多くの技術者が軍事の仕事を嫌っていた時代に、ラッキーは「優秀な技術者こそ国の防衛に関わるべきだ」と公言して防衛企業を立ち上げた。アロハシャツにビーチサンダル、という見た目も含めて、とにかく型破りな人物である。好き嫌いは分かれるが、この人の存在そのものがアンドゥリルの最大の宣伝になっているのは間違いない。
何が新しいのか|「頼まれてから作る」のではなく「作ってから売る」

写真:Daniel Hernandez/Wikimedia Commons(Public domain)
アンドゥリルがここまで注目される理由は、製品そのものより、ビジネスのやり方にある。
従来の大手防衛企業、いわゆる「プライム」は、国防総省が欲しい兵器の仕様を決め、開発費を出してもらい、何年もかけて作るのが基本だった。開発費が膨らめば、そのぶん国が払う「コスト・プラス」型の契約も多い。F-35のように、開発に20年近くかかり、値段も当初の見込みから大きく上がる例は珍しくない。
アンドゥリルは逆をやる。自分のお金で先に作り、完成品を持って売り込みに行く。値段は最初に決めて、それ以上は請求しない。ソフトウェアで機能を足していけるように作り、部品は民生品を多用して安く大量に作る。
ラッキーは、旧来の防衛産業は新しい技術を生み出すことより、契約を取ることに長けた業界になってしまった、という趣旨の批判を繰り返してきた。若い創業者の挑発的な言葉は好き嫌いが分かれるが、ウクライナの戦場で安いドローンが高価な兵器を次々に壊すのを見た国防総省は、この考え方を無視できなくなった。
たとえば、イランが中東でばらまいたシャヘド型の自爆ドローンは、1機数百万円程度とされる。それを1発数億円の艦対空ミサイルで撃ち落としていては、守る側の財布が先に尽きる。アンドゥリルの迎撃機Roadrunnerは、目標に当たらなければ戻ってきて再使用できる。「安い脅威には、安く何度も使える迎撃手段で」という発想だ。この割に合わない構図はシャヘド型自爆ドローン完全解説で詳しく書いた。日本企業の迎撃ドローンがウクライナで使われている話は迎撃ドローンTerra A1/A2の記事にある。
主な製品|ソフトから戦闘無人機まで

アンドゥリルの製品は幅広い。主なものをまとめるとこうなる。
| 製品名 | 種類 | ひとこと解説 |
|---|---|---|
| Lattice | AIソフトウェア | センサーや無人機、兵器のデータを束ねて指揮統制を助ける中核製品 |
| Fury(YFQ-44A) | 無人戦闘機(CCA) | 有人戦闘機と一緒に飛ぶ無人僚機。米空軍が2026年6月に量産へ選定 |
| Roadrunner | 再使用型の迎撃機 | 垂直に離着陸し、ドローンなどを迎え撃つ。外れれば戻ってこられる |
| Altius | 小型無人機・徘徊型弾薬 | 筒から発射して偵察や攻撃に使う。台湾にも納入 |
| Ghost Shark | 大型の無人潜水機 | オーストラリア海軍と共同開発。2025年に豪海軍が採用 |
| Barracuda | 低コスト巡航ミサイル | 大量生産を前提にした巡航ミサイルのシリーズ |
| Sentry | 監視タワー | 国境監視などに使うAI付きのセンサー塔。創業期の主力 |
| EagleEye | 兵士用ヘルメット表示 | 暗視や脅威情報を視界に重ねるAI付きヘルメット |
この中で一番大事なのは、ハードウェアではなくLatticeだ。Latticeは、レーダーやカメラ、無人機、迎撃ミサイルなど、メーカーも種類もばらばらな装備をつないで、1つの画面で状況をつかみ、AIが判断を手助けする「頭脳」の役をする。アンドゥリルのハードウェアは、言ってみればLatticeにつなぐための手足だ。
Fury|老舗を押しのけて取った無人僚機
象徴的なのが無人戦闘機のFuryだ。米空軍のCCA(協同戦闘機)計画では、2024年の試作機の選定でボーイングやロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンといった名門をおさえて残り、2026年6月にはジェネラル・アトミクスのYFQ-42Aとともに、最初の量産段階の機体に選ばれた。
CCAは、F-35や次世代戦闘機と一緒に飛び、偵察やミサイル攻撃、おとり役をこなす無人機だ。米空軍は最初の段階で100〜150機、将来は1,000機規模を視野に入れているとされる。有人機と無人機を組み合わせる考え方については、MQ-28ゴーストバットやGCAPの随伴無人機の記事も参考になる。CCAと一緒に飛ぶ側の次世代戦闘機についてはF-47の解説で書いた。
Arsenal-1|「兵器を自動車のように作る」巨大工場

アンドゥリルのもう一つの武器が工場だ。オハイオ州コロンバス近郊に建てた「Arsenal-1」は、投資額10億ドル、延べ床面積約46万㎡、将来の雇用4,000人という巨大な兵器工場である。
2026年3月に生産を始め、7月27日には量産型のYFQ-44Aの1号機がラインから出てきた。ラインの能力は年150機とされる。
発想は、自動車工場に近い。1種類の兵器を少量ずつ手作りするのではなく、いろいろな製品を同じ工場で、ラインを組み替えながら大量に作る。戦争が長引いたときに「弾も無人機も足りない」という事態を避けるためには、何を作るかと同じくらい、どれだけ速く大量に作れるかが大事になる。ウクライナ戦争が西側に突きつけた教訓を、そのまま形にしたような工場だ。
この「自動車工場のように兵器を作る」という発想が、のちに日本の日産の工場の話につながっていく。
「何でもうまくいく会社」ではない|報じられたつまずき
ここまで読むと、飛ぶ鳥を落とす勢いの会社に見える。ただ、つまずきも少なくない。
2025年11月、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、アンドゥリルの兵器が試験や実戦でいくつも問題を起こしていたと報じた。米海軍の演習で十数隻の無人ボートが動かなくなったこと、Furyが地上試験中にエンジンを損傷したこと、対ドローン装置Anvilの試験で約9万㎡の山火事を起こしたこと。そして、ウクライナに送られた徘徊型ドローンAltiusが墜落したり目標に当たらなかったりして、現地の部隊が2024年に使うのをやめたこと、などだ。
アンドゥリル側は、これらは「兵器開発にはつきものの問題」だとし、技術そのものの欠陥ではないと反論している。実際、新しい兵器の開発で失敗が出るのは当たり前で、老舗のプライムも数え切れないほど失敗してきた。
ただ、「安く速く作る」という売り文句と、「実戦で確実に動く」ことの間には、どうしても緊張関係がある。ウクライナのように電波妨害が激しい戦場では、試験場でうまくいった無人機がまったく役に立たないこともある。アンドゥリルの評価が本当に固まるのは、これからだと思う。
アンドゥリルと日本|日本法人と海自のLattice実証
ここからは日本との関わりを見ていく。
2023〜2024年:商社と組んで日本へ
アンドゥリルの日本での動きは、2023年に住商エアロシステムなどの日本企業と協力の覚書を結んだところから始まった。2024年7月31日には、その住商エアロシステムと契約を結び、海上自衛隊がLatticeを使って外部の装備やデータを統合し、状況認識を高められるかを実証することになった。同社によれば、これが日本での最初の契約だ。
2025年12月:日本法人を設立
2025年12月3日、アンドゥリルは東京に日本法人「Anduril Industries Japan合同会社」を設立すると発表した。代表は、米海軍に30年勤め、レイセオンや米ミサイル防衛局の顧問も務めたパトリック・ホーレン氏。若い頃に日米交流の研修制度で防衛省や国会などに勤めた経験を持つ、日本をよく知る人物だ。
発表では、日本で力を入れる分野として次の4つが挙げられた。
- 統合防空ミサイル防衛の指揮統制
- 低コストで大量生産できる攻撃用の無人システム
- 海の上と海の中の自律型無人システム
- 人と自律システムが協働する航空作戦
来日したラッキーは「日本企業とともに、日本自身のための防衛装備を作る」と語った。日本製の部品だけで組んだドローン「絆(Kizuna)」の試作機を飛行試験中だとも紹介されている。
2026年6月:日産・追浜工場の取得協議を報道
2026年6月25日、ロイターや国内メディアが、アンドゥリルが日産自動車の追浜工場(神奈川県横須賀市)を取得し、日本で軍事用ドローンを生産する方向で協議していると報じた。追浜工場は2028年に車両の生産を終える予定になっている。日産はほかの買い手候補とも話をしていると伝えられ、2026年10月時点で正式な決定の発表は確認できない。
これが実現すれば、日本の自動車工場が海外の防衛テック企業の兵器工場に生まれ変わる、かなり象徴的な出来事になる。旧軍好きとしては、戦時中に日本の自動車メーカーが軍用トラックを作っていた時代のことを思い出さずにはいられない。80年以上たって、今度は外国企業の手で、日本の自動車工場が再び防衛生産に向かうかもしれないのだ。
一方で、2026年10月時点で、自衛隊や防衛装備庁がアンドゥリルの製品を正式に調達したという発表は確認できない。日本の防衛省は、無人機を多層的に使って沿岸を守る構想を進めていて、令和9年度の概算要求でもAIや無人機に大きな予算を求めている。アンドゥリルにとって、日本は大きな市場になりうるが、それが実際の受注につながるかはこれからだ。
日本の無人機による防衛構想はSHIELDの解説、予算の中身は令和9年度防衛省概算要求の解説で詳しく書いた。日本側のプレイヤーについては日本の防衛スタートアップ一覧と日本の防衛ドローン企業一覧にまとめている。
投資家目線|アンドゥリル株は買えるのか
先に答えを書くと、2026年10月時点でアンドゥリルは上場していないので、普通の個人投資家が株を買うことはできない。
評価額の伸び方は異常と言っていいほどだ。2025年6月の資金調達で305億ドル、2026年5月には50億ドルを調達して610億ドル。7月には、評価額を約1,000億ドルまで引き上げる新たな資金調達の協議をしているとも報じられた(アンドゥリルは「何も決まっていない」とコメントしている)。
一方で、2025年の売上高は22億ドル。評価額610億ドルで割ると、売上高の約28倍という値段がついていることになる。成長率を考えれば強気になる投資家がいるのも分かるが、ロッキード・マーチンのような老舗の防衛大手と比べると、桁違いの期待が乗っている。上場すれば話題になるのは間違いないが、期待が先に走っている銘柄ほど、値動きは荒くなりやすい。
上場しているところで似た立ち位置にあるのは、AIソフトのパランティアだ。日本株では、アンドゥリルの取引先や提携先として名前が挙がる企業や、国内の防衛ドローン関連企業が話題になりやすい。ただ、「アンドゥリル関連」として一時的に注目されても、実際の受注や業績にどこまで結びつくかは別の話である。
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よくある質問
アンドゥリルの読み方と意味は?
英語ではAnduril、日本語では「アンドゥリル」と書かれることが多い。『指輪物語』に登場する剣の名前で、「西方の炎」という意味がある。
アンドゥリルは上場している?
2026年10月時点では非上場だ。株を買えるのは、資金調達に参加できる機関投資家などに限られる。
アンドゥリルは日本で何をしている?
2025年12月に東京に日本法人を設立し、海上自衛隊とAIソフト「Lattice」の実証を進めている。2026年6月には、日産・追浜工場を取得してドローンを生産する協議が報じられたが、10月時点で正式な決定は発表されていない。
パランティアとの関係は?
別の会社だが、どちらもピーター・ティール周辺から生まれた米国の防衛テック企業で、社名も『指輪物語』から取っている。アンドゥリルの共同創業者にはパランティア出身者がいる。事業としては、ソフトウェア中心のパランティアに対し、アンドゥリルはソフトとハードウェアの両方を作る点が違う。
自衛隊はアンドゥリルの製品を使っている?
海上自衛隊がLatticeの実証を行っているが、2026年10月時点で、正式な装備として調達したという発表は確認できない。
まとめ|アンドゥリルは「防衛産業のテスラ」になれるか
アンドゥリルは、ソフトウェアを中心に据え、自分のお金で先に作り、自動車のように大量生産するという、従来の防衛企業とは正反対のやり方で急成長してきた。米空軍の無人僚機を勝ち取り、巨大工場を動かし始め、評価額は9兆円規模に達した。
一方で、試験や実戦でのつまずきも報じられていて、「安く速く」と「確実に動く」を両立できるかはまだ答えが出ていない。日本では、日本法人の設立と海自との実証が進み、日産の工場をめぐる報道まで出てきた。日本の防衛産業にとって、黒船になるのか、良きパートナーになるのか。少なくとも、無視できる存在ではなくなったのは確かだ。
日本の防衛産業の全体像は日本の防衛産業・軍需企業一覧で整理しているので、あわせて読んでみてほしい。
最後まで読んでくれてありがとう。決算資料と英語のニュースを読み込む夜のお供はこれだ。
出典・参考資料
表紙の写真素材:
写真:Daniel Hernandez/Wikimedia Commons(Public domain)。背景・レイアウト・文字を編集。







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