F-35を作る日本企業一覧|最終組立・エンジン・部品・整備の供給網を整理

F-35を作る日本企業一覧|最終組立・エンジン・部品・整備の供給網を整理
要点

半分は合っている。だが、会計検査院が2017年に出した報告書を読むと、ちょっと拍子抜けする一文に出くわす。三菱重工による機体の部品の製造への参画は、行われていなかった、というのだ。

つまり、日本で組み立ててはいるが、機体の部品は日本で作っていない。胴体も主翼も海の向こうから届き、日本はそれを組み上げて検査する。F-15Jのころのライセンス生産とは、まるで違う世界である。

では、日本企業はF-35のどこに、どこまで関わっているのか。この記事では、防衛白書や会計検査院の報告、各社の発表といった公的な資料で確認できる範囲に絞って、企業ごとに整理する。ネットには「F-35関連銘柄」として根拠のあやしい社名も出回っているが、裏の取れないものは載せない。

目次

一覧|F-35に関わる日本企業

まず全体像から。

2011年12月、防衛省はF-35の製造に参画する国内企業として、機体は三菱重工、エンジンはIHI、電子機器は三菱電機の3社を選んだ。いまに至るまで、公的な資料で名前が確認できる中核はこの3社だけである。

日本側のF-35の相手になる海外企業も書いておく。

それぞれの会社についてはロッキード・マーチン株、ノースロップ・グラマン株、BAEシステムズ株、RTX株の記事で個別に書いている。

三菱重工業|小牧南工場のFACO

北日本の飛行場に展開するF-35A相当のステルス戦闘機
F-35Aの特徴である単発のステルス機体。

米国外で2か所しかない最終組立ライン

三菱重工の小牧南工場には、F-35の最終組立・検査を行う施設がある。FACO(Final Assembly and Check Out)と呼ばれるもので、2015年12月に稼働した。米国の外にF-35のFACOがあるのは、日本とイタリアの2か国だけだ。

ここで行われるのは、ロッキード・マーチンの前部胴体と主翼、ノースロップ・グラマンの中央胴体、BAEシステムズの後部胴体、IHIが組み上げたエンジンを結合し、配線や機器を取り付け、ステルス性能を含む検査をして送り出す作業である。

プラモデルで言えば、箱を開けてパーツを組む工程にあたる。パーツそのものは作らない。冒頭に書いたとおり、会計検査院の報告によれば、2016年度までの時点で三菱重工による機体部品の製造参画は行われていなかった。

一度は「やめる」と決まった国内組立

このFACO、実は一度やめることが決まっている。

2018年末、政府はF-35を105機追加して合計147機(A型105機、B型42機)を取得する方針を決めた。このとき同時に、国内での組立をやめて完成機の輸入に切り替える方針が打ち出された。理由は単純で、国内で組んだほうが高かったからだ。

ところが1年後の2019年12月、方針はひっくり返る。報道によれば、組立の工程を見直した結果、国内で組んでも1機あたり93.7億円に収まる見通しとなり、完成機を輸入する場合の94.2億円を下回ったという。それで国内組立の継続が決まった。

現場が工程を詰めて、輸入より安くしてみせた。数字だけ見れば地味な話だが、私はこういう話が好きだ。戦闘機の生産ラインというのは、一度止めると人が散り、二度と戻らない。小牧南のラインは、後で書く整備拠点の仕事の土台にもなっている。

なお、短距離離陸・垂直着陸型のF-35Bについては、私が確認できた範囲では、米国で製造された機体が引き渡されている。三菱重工の防衛事業全体は三菱重工の防衛事業の記事にまとめた。

IHI|F135エンジンの組立と部品

製造現場では部品の精度や品質を確認する工程が欠かせない。
製造現場では部品の精度や品質を確認する工程が欠かせない。

瑞穂工場でエンジンを組む

IHI

IHIは東京都瑞穂町の瑞穂工場に専用の施設を設け、2017年からこのエンジンの最終組立と試運転を行っている。国内のFACOで組まれるF-35Aに載るエンジンは、ここを通って小牧南へ運ばれる。

エンジン部品は19品目

IHIは組立だけでなく、部品の製造にも参画している。会計検査院の報告によると、2013年度にエンジン部品17品目、2015年度にさらに2品目、合わせて19品目が対象になった。防衛白書などでは、ファンやタービンまわりの部品と説明されている。

IHIはF-15JのF100、F-2のF110と、自衛隊の戦闘機エンジンを長年ライセンス生産してきた会社だ。その蓄積がなければ、F135の組立認定は取れなかっただろう。日本の戦闘機エンジンの系譜は日本の軍用航空エンジンメーカーの記事で、IHIの全体像はIHIの防衛事業の記事で書いている。

三菱電機|レーダーと赤外線センサーの部品

電子機器の製造を支える検査工程。
電子機器の製造を支える検査工程。

三菱電機の担当は、F-35の目にあたる部分の部品である。会計検査院の報告によれば、対象は次のとおり。

  • レーダー(AN/APG-81)に関わる部品:7品目
  • 赤外線探知装置(EODAS)に関わる部品:3品目

EODASは機体の周囲に付けた赤外線カメラの映像をつなぎ合わせ、パイロットが機体を透かして全周を見られるようにする装置だ。どちらも元請けはノースロップ・グラマンで、三菱電機はその下請けとして部品を作り、米国へ納める形になる。

具体的にどの部品なのかは公表されていない。三菱電機の防衛事業は三菱電機の防衛事業の記事、レーダー分野の各社は日本のレーダー・電子戦企業一覧を見てほしい。

国が払った初期費用と、会計検査院の指摘

ここまでの話には、もう少し苦い続きがある。

日本企業がF-35の製造に入るためには、専用の施設や工具をそろえ、米国企業から技術の指導を受け、部品の供給元としての認定を取らなければならない。その費用は国が負担した。会計検査院の報告では、2013〜2016年度に結ばれた契約の額は次のとおりだ。

企業初期費用の契約額(2013〜2016年度)
三菱重工業約1,022億円
IHI約494億円
三菱電機約199億円
合計約1,716億円

そのうえで、会計検査院はこう指摘した。2016年度末の時点で、IHIと三菱電機は米国の元請け企業と部品製造の契約を結べておらず、部品を作っていなかった。最初に国内で組まれた2機は、国産の部品が載らないまま組み上がった、と。

原因として挙げられたのは、米国側の発注の遅れ、認定に必要な素材の提供の遅れ、情報保全の要求水準の引き上げなどである。日本側の努力だけではどうにもならない事情が多い。F-35の供給網は米国政府と米国企業が一元的に管理していて、日本はその中の一参加者にすぎない。報告書を読むと、その立場の弱さがよく分かる。

これは2017年時点の報告で、その後IHIは2017年からエンジンの納入を始めたと発表している。部品ごとの現在の状況までは、公表資料では追い切れなかった。

整備拠点|本当の価値はこちらにある

強襲揚陸艦ワスプで垂直着艦試験を行うF-35B(2013年)。
強襲揚陸艦ワスプで垂直着艦試験を行うF-35B(2013年)。
写真:U.S. Marine Corps / Sgt. Tyler L. Main/出典(Public Domain・縮小圧縮)

製造の話だけ読むと、なんだか割に合わない事業に見えるかもしれない。だが、F-35で日本企業が得たいちばん大きなものは、作る仕事ではなく直す仕事のほうだと私は思っている。

F-35には、運用国が世界規模で部品や整備を融通し合う仕組みがあり、地域ごとに重整備を担う拠点(リージョナル・デポ)が置かれている。アジア太平洋では次のようになった。

対象企業・拠点状況
機体三菱重工・小牧南工場2020年に運用開始
エンジンIHI・瑞穂工場2023年6月30日に運用開始
アビオニクス部品の一部三菱電機2019年に米国政府が日本への設置を決定。対象は4品目と報じられた

IHIの瑞穂工場は、F135の整備拠点としては共同開発国以外で初めてのものだ。エンジンの整備拠点は世界に5か所で、アジア太平洋は日本とオーストラリアが分担する。ここには航空自衛隊の機体のエンジンだけでなく、米国政府が管理するエンジンが運び込まれる。つまり、在日米軍や周辺国のF-35を日本企業が支える構図になる。

戦闘機は30年使う。作るのは一度だが、直すのは30年続く。最終組立のラインを維持したことが、この整備の仕事につながっている。詳しくはF-35国内整備拠点の記事で書いたので、あわせて読んでほしい。

周辺で関わる企業

直接F-35を作るわけではないが、受け入れる側で関わる企業もある。

周辺で関わる企業

一方で、F-35には商社の出番がほとんどない。機体は米国政府を相手にしたFMS(対外有償軍事援助)で買うためだ。輸入装備といえば商社、という従来の構図は防衛関連商社一覧で解説したが、F-35はその例外にあたる。

素材や電子部品のレベルまで下りていけば、日本メーカーの製品が使われている可能性はある。ただ、2次、3次の下請けは公表されておらず、F-35の部品は運用国のあいだで区別なく流通する仕組みなので、どの部品がどこの国製かを外から確かめる手段がない。この記事に社名を書かなかったのはそのためだ。

なぜライセンス生産できなかったのか

ここからは歴史好きの寄り道である。

日本の戦闘機生産は、ずっとライセンス生産で技術を蓄えてきた。F-86、F-104、F-4、F-15。設計図を買い、最初は部品を輸入して組み、少しずつ国産部品に置き換えていく。値段は輸入より高くつくが、技術と人が国内に残る。仕組みは兵器のライセンス生産の記事で説明した。

さらにさかのぼれば、戦前の日本の航空産業も同じ道を歩いている。中島も三菱も川崎も、最初は英国やフランスやドイツのエンジンと機体のライセンス生産から始め、20年かけて零戦にたどり着いた。ドイツから買ったDB601エンジンは、設計図があっても同じ品質で作れずに苦しんだ。図面をもらうことと、作れることは別だ、という教訓である。

F-35では、その図面すら来ない。ステルスの要になる技術やソフトウェアは開示されず、部品を作るにも米国企業の認定が要り、作った部品は米国政府の管理下に入る。日本は共同開発に加わらなかった国なので、席順は後ろのほうだ。

会計検査院の報告書ににじむ不自由さは、結局ここから来ている。そしてこの経験が、次の戦闘機は自分たちで設計する、という判断につながった。英国・イタリアと共同開発する次期戦闘機GCAPでは、三菱重工、IHI、三菱電機という同じ3社が、今度は下請けではなく当事者として参加している。顔ぶれはGCAP関連企業一覧にまとめた。

F-35で最新鋭機の現物に触り、整備で中身を知り、GCAPで自分の設計に戻る。遠回りに見えるが、戦前の20年と同じで、これも必要な順番なのだと思う。

投資家目線のメモ

「F-35関連銘柄」という言葉に引かれて来た人に、正直なところを書いておく。

三菱重工、IHI、三菱電機のどの会社にとっても、F-35の仕事は防衛事業の一部であり、会社全体の売上から見ればさらに小さい。F-35の追加取得が決まったから3社の業績が大きく跳ねる、という単純な関係にはない。機体の代金の大半は、FMSを通じて米国側に流れる。

むしろ見るべきは、整備拠点としての仕事が30年単位で続くこと、そしてF-35で得た経験がGCAPという次の大きな案件につながっていることだろう。短期の材料というより、各社の防衛・航空部門の足腰の話である。

もう1つは為替だ。会計検査院の報告では、ドル建ての機体価格が下がっていた時期にも、円安のせいで円建ての価格は上がり続けていた。FMSで買う装備は円安がそのまま負担増になる。この関係は為替と防衛株の記事で整理している。

3社それぞれの見方は三菱重工(7011)の分析記事などの個別記事に譲る。防衛関連の銘柄を自分で調べてみたい人は、まず口座を用意するところから。

(免責事項)本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や金融商品の売買を勧めるものではない。企業名は公開情報にもとづく整理であり、将来の受注や業績、株価を保証するものではない。投資の判断は自分自身の責任で行ってほしい。

よくある質問

航空自衛隊のF-35は日本製なのか?

F-35Aの多くは三菱重工の小牧南工場で最終組立・検査が行われている。ただし、胴体や主翼などの主要部位は米英の企業が製造したもので、日本で設計や機体部品の製造をしているわけではない。初期の4機は米国で製造された完成機だった。

日本で作っている部品は?

公的資料で確認できるのは、IHIのエンジン部品19品目、三菱電機のレーダー部品7品目と赤外線探知装置の部品3品目(いずれも参画が決まった品目数)。具体的な部品名は公表されていない。

FACOとは?

Final Assembly and Check Outの略で、最終組立・検査のこと。米国外では日本とイタリアにだけ置かれている。

なぜF-15のようにライセンス生産しないのか?

F-35は米国を中心とする国際共同開発の機体で、技術の開示が厳しく制限されている。日本は共同開発国ではなく、参画できる範囲が最終組立と一部の部品に限られた。

日本で他国のF-35も整備するのか?

アジア太平洋地域の整備拠点として、機体は三菱重工、エンジンはIHIが指定されている。エンジンの拠点には米国政府が管理するエンジンが搬入される。

日本はF-35を何機買うのか?

計画はA型105機、B型42機の合計147機。世界の導入状況はF-35保有国・保有数ランキングで比較している。

まとめ

まとめ

それでもラインを残した意味はあった。小牧南と瑞穂はアジア太平洋の整備拠点になり、同じ3社がいまGCAPの開発に当事者として加わっている。

図面をもらえない悔しさが、次は自分で描くという決意になる。日本の航空産業は、昔からそうやって前に進んできた。

機体そのものの性能や部隊配備はF-35A/Bの解説記事を、日本の戦闘機全体は日本の戦闘機一覧を読んでほしい。

手を動かして形を覚えたい人には、B型のキットもある。リフトファンまわりの構造は、組んでみると一発で分かる。

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あわせて読みたい

出典・参考資料

  • 会計検査院「次期戦闘機(F-35A)の調達等の実施状況について」(2017年9月、国会及び内閣に対する随時報告)
  • 防衛省「平成25年版 防衛白書」「平成26年版 防衛白書」(F-35A生産への国内企業参画)
  • IHI「F-35戦闘機搭載エンジンの整備事業を開始」(2023年6月29日)
  • 防衛省および関係自治体の公表資料(F-35エンジン整備拠点の運用開始、2023年6月)
  • 防衛省「防衛力の変革に向けた予算-令和9年度概算要求の概要-」(2026年8月31日)
  • 日本経済新聞、航空新聞社、Aviation Wire、乗りものニュースほか(2011年12月〜2023年7月の関連報道)
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この記事を書いた人

軍研ノート編集部のアバター 軍研ノート編集部 自衛隊・兵器 / 戦史 / サバゲー

自衛隊で6年間勤務した編集長を中心に、自衛隊時代の仲間やサバゲーを通じた知人と記事を制作。経験と公開資料をもとに、装備の仕組みや歴史、その背景にある人々の工夫を掘り下げています。「かっこいい」から、その先の理解へ。編集長のプロフィール → 運営・編集方針

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