結論──三菱重工は「国策銘柄」の王様である
三菱重工業(7011)。この名前を聞いて、多くの投資家がいま胸を高鳴らせているはずだ。
2026年3月19日時点の株価は4,848円。アナリスト15名のコンセンサスは「強気買い」、平均目標株価は5,322円。時価総額は5年間で約13倍に膨れ上がり、かつて「重厚長大のオワコン」と揶揄された巨象は、いまや東証プライムの主役級に躍り出た。
なぜか。答えは明快だ。「防衛」と「エネルギー」という、国が全力で金を注ぎ込む二大セクターの交差点に、三菱重工はどっしりと腰を据えているからである。
この記事では、三菱重工の株価がどこまで上がり得るのか、防衛費の増額ペース、ガスタービン事業の爆発的な受注、そしてリスク要因まで、ミリタリーと兵器に魂を捧げてきた筆者の視点から徹底的に試算していく。
なお、本記事は投資の推奨を行うものではない。投資判断は必ずご自身の責任で行っていただきたい。だが、三菱重工という企業が「なぜ買われているのか」、その構造を知ること自体に大きな価値がある。
三菱重工の防衛事業について深く知りたい方は、当サイトの三菱重工の防衛産業に関する徹底解説記事もあわせてご覧いただきたい。
三菱重工の現在地──直近業績が示す「異次元の成長」
まず、数字を見てほしい。三菱重工の業績がいかに凄まじいスピードで拡大しているかがわかる。
2025年3月期(実績)──売上高5兆円突破、過去最高益
2025年3月期の実績は、売上収益5兆271億円(前期比7.9%増)、事業利益3,831億円(同46.1%増)、純利益2,454億円(同10.6%増)。受注高は7兆712億円で、これも過去最高だ。
事業利益が46%も跳ね上がったという数字は、一般的な重工業メーカーの成長ペースとしては異常と言っていい。その原動力は、まさに防衛とエネルギーの両輪にある。
2026年3月期(進行期)──上方修正が止まらない
2026年3月期の当初予想は売上収益5兆4,000億円、純利益2,600億円だった。ところが、第3四半期(2025年4-12月)の段階で売上収益3兆3,269億円(前年同期比9.2%増)、事業利益3,012億円(同25.5%増)と大幅な増収増益で推移している。
さらに2026年2月の業績修正では、受注高予想を前回比6,000億円増の6兆7,000億円に引き上げた。そのうち4,000億円はGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)による上積みだ。受注残高は11兆4,983億円。この数字の意味を簡単に言えば、「数年先までの仕事がすでに確定している」ということである。
中期経営計画「24事計」──2026年度の目標
三菱重工が2024年に策定した3カ年中期経営計画「2024事業計画(24事計)」では、2026年度に以下の数値を掲げている。
売上高は5.7兆円以上(2023年度比20%以上の増加)、事業利益4,500億円(同60%増)、ROE12%。とくに「伸長事業」と位置づけるGTCC・原子力・防衛の3事業だけで売上高2.6兆円、つまり2023年度比で1兆円の上積みを狙っている。
この目標は、足元の業績推移を見れば十分に射程圏内だ。問題は「目標達成後、その先に何があるか」である。
成長の第一柱──防衛事業「年商1兆円」への道

ここからが本題だ。まずは防衛事業について掘り下げる。
防衛費9兆円時代の到来
2026年度の防衛関係予算は9兆353億円。12年連続で過去最大を更新した。5年間で43兆円という防衛力整備計画の4年目にあたり、2025年度には補正予算と合わせてGDP比2%を前倒しで達成している。
ここで重要なのは、「2%はゴールではなくスタート地点だった」という事実だ。高市早苗首相は防衛3文書の改定を2026年中に行う方針を示しており、新たなGDP比目標の設定が焦点となっている。米国のヘグセス国防長官は同盟国にGDP比5%水準の防衛支出を要求しており、日本式の算定方式に換算してもGDP比約3.5%に相当する。名目GDPが691兆円に達する見通しの中、仮にGDP比2.5%に引き上げるだけでも防衛関連予算は17兆円規模になる。
防衛費の拡大は、三菱重工にとってまさに「打ち出の小槌」だ。
この防衛費増額の背景には中国の急速な軍拡がある。中国人民解放軍の軍事力がどれほどのものか気になる方は、中国人民解放軍の軍事力に関する解説記事で詳しく取り上げている。
三菱重工は「防衛省のメインコントラクター」
三菱重工は防衛装備庁への納入額で国内トップシェアを維持している。手がける装備は驚くほど幅広い。
航空分野では、F-35A/Bの国内最終組立(FACO)を三菱重工が担う。F-15Jの近代化改修(能力向上改修)も三菱重工の仕事だ。さらに英国・イタリアと共同開発する次期戦闘機GCAPの日本側主契約者でもあり、2026年度予算では1,602億円が計上されている。航空自衛隊の戦闘機について詳しく知りたい方は航空自衛隊の戦闘機一覧をご確認いただきたい。
海上分野では、イージス護衛艦「まや型」「あたご型」や最新鋭の「もがみ型」護衛艦を建造する。とくに「もがみ型」は2025年8月にオーストラリア海軍の次期フリゲート艦として選定されるという快挙を達成した。これは三菱重工の防衛装備品輸出における歴史的な転換点である。海上自衛隊の全艦艇については海上自衛隊の艦艇完全ガイドで網羅的に解説している。
ミサイル分野はさらに熱い。政府が「反撃能力」の中核に位置づける12式地対艦誘導弾能力向上型(スタンドオフミサイル)の開発主体が三菱重工だ。2026年度予算では地発型の取得に1,770億円が計上され、音速の5倍以上で飛ぶ極超音速誘導弾にも301億円が充てられた。日本のミサイル戦力の全体像は日本が保有するミサイル全種類の完全解説を参照してほしい。
陸上分野では、10式戦車、16式機動戦闘車といった主要装備を製造する。陸上自衛隊の戦車一覧にも詳しいが、三菱重工なくして日本の陸上防衛は成り立たない。
防衛セグメントの数字と将来見通し
2023年度の防衛・宇宙セグメント受注高は1兆8,781億円。わずか2年前の約6,651億円から約3倍に急増した。売上収益ベースでは6,064億円(前年度比28%増)、営業利益率は9.2%まで向上している。
三菱重工は2024~2026年度の中計期間中に防衛事業の年商1兆円規模への拡大を見込んでおり、2026年3月期の航空・防衛・宇宙セグメントの売上高予想は1兆3,500億円(前期比31.0%増)だ。さらに2027~2029年度には年1兆円超の売上計上を計画している。
防衛セグメント長の江口雅之執行役員は利益率について「10%くらいは狙っていきたい」と語っている。仮に年商1兆円・利益率10%が実現すれば、防衛事業だけで営業利益1,000億円、EPS換算で約20円の押し上げ要因となる。
日本の防衛ビジネス超入門では、三菱重工を含む防衛産業の構造をより広い視点から解説しているので、投資判断の参考にしてほしい。
成長の第二柱──エネルギー事業「GTCC世界制覇」の衝撃

三菱重工のもう一つの成長エンジン、それがGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント)を中核とするエネルギー事業だ。正直に言えば、この事業の破壊力は防衛以上かもしれない。
なぜGTCCがここまで売れるのか
三菱重工のGTCCは世界最高水準の発電効率64%以上を誇り、2022年以降、世界市場シェアトップを走り続けている。全世界50カ国以上に1,700台超のガスタービンを納入した実績は、他の追随を許さない。
では、なぜいまGTCCの需要が爆発しているのか。理由は大きく3つある。
第一に、AIデータセンター需要の爆発だ。ChatGPTに代表されるAIの急速な普及により、世界中でデータセンターの建設ラッシュが起きている。データセンターは膨大な電力を消費するが、電力網が追いつかない。そこで、即応性の高い天然ガスタービンによるオンサイト電源の需要が急増しているのだ。
第二に、再生可能エネルギーの調整電源としての役割だ。太陽光や風力は天候に左右される。その出力変動を補完するために、起動停止が素早いGTCCが不可欠となっている。
第三に、老朽化した発電設備のリプレース需要だ。数十年前に設置された多くのタービンが寿命を迎えており、高効率な最新型への更新が世界中で進んでいる。
生産能力を2倍に──CEOの危機感
伊藤栄作社長はBloombergのインタビューで、ガスタービンの生産能力を2年で2倍にする方針を明かした。当初は30%増の計画だったが、それでは需要に追いつかないと判断した。「注文への対応が最優先事項」という発言は、需要の凄まじさを物語っている。
タービン供給不足は業界全体の課題であり、メーカーの納期が2030年代まで延びるケースも報告されている。三菱重工、GE Vernova、シーメンスの3社で世界の天然ガスタービンの大半を製造しているが、いずれも生産が需要に追いつかない状態だ。
エナジーセグメントの数字
2026年3月期のエナジーセグメントは、受注高を当初予想から1兆円増の3兆2,000億円、売上高を1,500億円増の2兆円に上方修正している。北米を中心としたGTCCの大型案件が相次いでいるためだ。
さらに、GTCCをベースにLNG(液化天然ガス)から水素やアンモニアに燃料転換して脱炭素を実現する需要も本格化しつつある。三菱重工は世界初となる最新鋭大型ガスタービンでの水素混焼30%にも挑戦しており、「燃やす燃料が変わってもタービンは三菱重工」という未来が見えてきている。
株価試算──三菱重工はどこまで上がるのか
ここからは、具体的な数字を使って株価の上値余地を試算する。あくまで筆者の試算であり、投資判断は自己責任でお願いしたい。
アナリストの見方
2026年3月18日時点で、三菱重工に対するアナリストコンセンサスは「強気買い」。内訳は強気買い11人、買い1人、中立3人で、売りは0人だ。平均目標株価は5,322円。
証券会社別に見ると、米系証券は5,400円、日系大手は4,900円を目標に据えている。最も強気なアナリストで6,000円程度という数字も出ている。
EPS成長からの逆算
2025年3月期の実績EPSは約73円。2026年3月期は会社予想ベースで純利益2,600億円を見込んでおり、EPSは約77円となる。アナリストコンセンサスはこれを上回る93円前後だ。
仮にEPSが93円に達した場合、現在の株価4,848円でPERは約52倍。「割高だ」と感じるかもしれないが、防衛費増額とGTCC需要という構造的な追い風を考えれば、成長プレミアムが乗っていると解釈すべきだろう。
2027年3月期にEPS100円超が定着し、PER50倍が維持されれば株価5,000円以上は正当化できる。PER55倍なら5,500円、40倍に切り下がっても4,000円は確保される計算だ。
シナリオ別の株価レンジ
強気シナリオでは、防衛費がGDP比2.5%以上に拡大し、GTCC受注が計画を上回り続ける場合、2027年度のEPSは110円台に到達する可能性がある。PER50倍で株価5,500円~6,000円が射程に入る。
中立シナリオでは、現行計画どおりの業績推移で、EPS100円前後。PER45倍で4,500円~5,000円のレンジを想定する。
弱気シナリオでは、為替の急激な円高やトランプ関税の影響で利益が下振れし、EPSが80円台にとどまる場合。PER40倍で3,200円~3,600円まで調整する可能性がある。
見逃せないリスク要因──「国策銘柄」にも死角はある

ここまで成長ストーリーを語ってきたが、投資家として冷静にリスクも見ておく必要がある。
PERの高さ
三菱重工のPERは約52~62倍と、重工業セクターとしては異例の水準だ。市場は将来の成長を大幅に織り込んでいるが、業績が期待を下回った場合の反動リスクは大きい。実際、2025年9月に業績予想の一部下方修正があった際には株価が調整した実績がある。
為替リスク
三菱重工は海外売上比率が高く、円高は業績の逆風となる。2026年3月期の業績予想にはトランプ関税の影響を織り込んでいないとの発表もあり、貿易政策の不確実性は無視できない。
生産能力のボトルネック
GTCC、防衛ともに受注は好調だが、それを実際に「作って納品する」能力が追いついていない。受注残11兆円超という数字は期待の裏返しでもあり、納期遅延やコスト増のリスクがつきまとう。
防衛費は「政治」で決まる
防衛費の増額は国策だが、国策は政治で変わる。選挙結果、連立の枠組み、財政再建論の台頭など、防衛費の伸びが鈍化するシナリオもゼロではない。もっとも、中国の軍拡ペースを考えれば、日本が防衛費を削る選択はほぼあり得ないと筆者は見ている。中国ロケット軍の弾道ミサイル戦力がどれほどの脅威か、中国ロケット軍の全貌に関する解説記事を読めば、日本が防衛投資を止められない理由が理解できるはずだ。
「第三の柱」として浮上する新領域
防衛とGTCCが二大エンジンだが、三菱重工はさらなる成長領域も仕込んでいる。
原子力の再評価
世界的なエネルギー安全保障の見直しにより、原子力発電への評価が再び高まっている。三菱重工は加圧水型原子炉(PWR)の国内唯一のメーカーであり、原発の再稼働・新増設の恩恵を最も直接的に受ける立場にある。
水素・アンモニア
日本政府は2030年までに水素を年間300万トン供給する目標を掲げており、三菱重工は水素製造装置からタービンまでサプライチェーン全体をカバーする。GTCCの水素・アンモニア転換は「既存設備の脱炭素化」という巨大市場を開く。
データセンター電源
2023年7月に買収した米Concentric社を北米拠点として、データセンター向けの電源・冷却・制御のワンストップサービスを展開中だ。AI需要が続く限り、この事業の成長は止まらない。
三菱重工が「日本を守るインフラ」である理由
筆者は普段、自衛隊の装備や日本の防衛力について記事を書いている。三菱重工という企業を見つめるとき、いつも思うことがある。この会社は単なる「銘柄」ではない、ということだ。
10式戦車を造り、イージス護衛艦を建造し、F-35を組み立て、12式ミサイルを開発する。日本の空と海と大地を守る装備の大半に、三菱重工の技術が入っている。同時に、世界最高効率のガスタービンで電力インフラを支え、水素社会への橋渡しを担う。
防衛とエネルギー。この二つは国家の根幹であり、どちらも「需要が消える」ことがあり得ない分野だ。三菱重工への投資は、ある意味で「日本という国の未来」への投資でもある。
株価がどこまで上がるかは、誰にも正確には予測できない。だが、受注残11兆円、防衛費9兆円時代の到来、GTCC生産能力の倍増計画という事実は、少なくとも向こう数年間の成長ストーリーが絵空事ではないことを証明している。
三菱重工を支える防衛産業の全体像については日本の防衛産業・軍事企業一覧で、三菱重工と並ぶ重要企業である川崎重工については川崎重工の防衛事業を徹底解説で、IHIについてはIHIの防衛事業を徹底解説で、それぞれ詳しく解説している。
繰り返しになるが、投資は自己責任だ。だが、三菱重工という企業の「構造的な強さ」を理解することは、投資するしないに関わらず、日本の安全保障とエネルギーの未来を考える上で極めて有意義だと筆者は確信している。
(本記事の情報は2026年3月23日時点のものである。株価、業績予想、アナリスト目標株価などは日々変動するため、最新の情報は各証券会社の提供するデータをご確認いただきたい。本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではない。)

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